宝珠の真実 sideウゲツ
パパのお仕置きを四人でたっぷり味わった後、ぐったりしながら僕らは覇気の無い口ゲンカをしていた。
「スザクが悪いんだよ、建物の中であんな収束するなんてぇ~…」
「ちゃんと霧散させたろー?」
「そういう問題じゃないってば…」
「でもよー、なんか声聞こえてるぜ?やっぱここでドカッと錬成したのが良かったんだ」
僕とレビはそれを聞き、「えっ」と叫んでスザクを見た。するとアオイも一緒にポヤーンとした顔になっていて「…誰の声?」と戸惑ってる。そして二人して急に押し黙ってから、中空の一点を見つめて微動だにしなくなった。
レビと顔を見合わせたまま「深淵の意志と話してるのかもしれない。静かにしてようか」と言ってしばらく待った。すると目の焦点が合ってきたスザクは静かに口を開いた。
「――ああ、悪い。いま話が終わったけど…情報が山盛りでどっから話せばいいんかなー!」
「ど、どんな話だったの?深淵の意志ってどんな人だった?」
「えっとぉ~…アオイとスザクで一人と半分ずつ?」
「「 は? 」」
「アオイ、俺が説明した方がマシっぽいからバトンタッチな。えーとな、俺たちってある魔法に関してはニコイチなんだとよ。俺の本来の魔法能力は紅い結晶で作られてる。んで、透明な結晶で増幅されるって言ったじゃん?俺は確かにこのまま修練が順調なら『紅玉』になるし、アオイも『緑玉』になるんだけどよ、透明な結晶はいわゆる『金剛石』…ダイヤなんだ。だから反射率も何もかもとんでもないことになる」
「ダイヤ…白縹でそんな結晶を持ってる人、聞いたことないよ」
「だろうな。ダイヤだけの瞳を持つ白縹ってのはありえないらしいぜ?だって瞳の色は個人の性格だの資質だのが反映されてる。ダイヤ単体の瞳を持ってて尚且つそれを修練で維持し続けるってことは、そいつの精神が『何の特色もなくて空っぽ』ってこった。そんな木偶の坊みたいなやつにどんな高反射率の結晶があったって、何の魔法も満足に撃てるはずがねえんだ」
「――じゃあ、何のために二人にはダイヤがあるのかってことだね。それが『ある魔法』に関することなの?」
レビの質問を受けて、スザクはうーんと唸った。どう説明したもんかなという感じで少し考えてから、深淵の意志が長々と話したらしい内容を簡潔にまとめようと四苦八苦していた。
「えっとな、俺らみたいなのは昔『紅珠』だの『緑珠』だのって呼ばれてたらしい。んでその『宝珠』どもが何人も集まってだな、何を作ったかってーと」
ごくり、と僕とレビは唾を飲み込んでスザクの言葉を待った。なんかとんでもないことが語られてる気がして仕方なかったからさあ。
「霧雨台地と水晶台地を作ったんだとよ。宝珠が『繋がって』出す魔法は天変地異クラスの力だ。中規模魔法しか撃てない部族が数人で息を合せて大規模魔法を撃つみたいに、宝珠は一体の深淵の意志を中心にリンクして極大魔法を行使したらしい」
「うそ、だろー…?あのバカでかい台地って人造のものだったの…?」
「まあ自然にできた台地を見て、同じような暮らしやすい台地を模写して作ったんじゃねえの?だってよ、水晶台地なんてほぼ全部湖じゃん?んで至る所に水晶があってマナが蓄積されててよー。あんなうってつけのモンが自然にできるか?」
「す…すっごい。じゃあスザクとアオイもあんなの作れちゃうように、なるんだ…?」
「あの規模は無理だろうよ、俺たちは二人しかいねえもん。霧雨台地を作った時は十数人の宝珠が繋がったらしいぜ。まあそんなわけでよ、本来の宝珠の使い道は『極大魔法』の行使。当然攻撃魔法として行使すりゃあ、俺ら二人ならアルカンシエルの三分の一は一発で消滅できる威力になるだろうな。だからンな力は使う気ねえけど、生産系の何かに特化させりゃ小さ目の台地だの島だのが作れるんじゃね?」
僕とレビは呆気にとられた。アオイは宝珠の接続役である深淵の意志が話した長ったらしい内容に飽きてしまって、半分しか聞いてなかったみたい。でも接続役は「ママの守護みたいにいろんな人が集まってできてた」と言い、スザクとアオイに護衛として付く予定の深淵の意志は個人の人格を持っていたと教えてくれた。
スザクには【東雲】という名だった人物で、豪快な初老の男性。
アオイには【木賊】という名だった人物で、面倒見のよさそうな若い男性。
初老だの若いだのっていうのは声だけで判断したらしいけど、まあ気持ちはわかるよ。僕の深淵の意志もなんとなく三十歳前後の男の人だなっていう確かな感覚があるし。
まあ宝珠の本来の力が「極大魔法」にあるのはわかった。でもそんな力は滅多に使わないし、普段は宝珠が錬成したマナの増幅に特化した、ただのダイヤの結晶っていう認識でいいみたいだ。
――軽く言うけど、それだってとんでもない話だよね。だけどスザクはすっごくキラキラした目をしながら「これで俺にも学舎への留学の道が見えた気がするぞ!要するにダイヤの反射増幅機能がオンオフ自在になれればいいってこっちゃねえの?」と浮かれていた。
「え、スザクにとっての重要情報ってその部分なの?」
「当たり前だろーがレビ!俺は全国に友達千人作るんだ!」
熱い決意を語るスザクはもう放っておこうってレビと目くばせし、おとなしいアオイに向き直ったけどぽやーんとしたままだった。
「ねえ、アオイもダイヤのオンとオフの練習するの?」
「えー?だってアオイはもともと攻撃魔法苦手だもん。錬成量に気を付ければいいだけだし、スザクほど危機感ないかなあ~」
「あ、そう…」
すっかりこの長ったらしい話で集中力を無くしていたアオイは「猫さんと遊んでこよーっと」と言いながら外へ出て行った。そしてスザクは「俺はここでダイヤスイッチを探すぜ!」と言い出したので、パパに許可をもらってからにしてと僕らは懇願した。
ため息をついた僕へ、レビは縋るような目を向けている……
「ねえ、この一連の話、俺だけじゃ大変すぎるっ!ウゲツも一緒にアロイス先生のとこに来てよ~!」
「そ、そうだね。なんで当の本人たちが全然慌ててないんだろう。すっごく歴史的にも大変な情報が入ったのに…」
レビは珍しく憤慨しながら大きな声で叫んだ。
「そんなの!あの二人が無自覚・無頓着のメンタルフリーダム兄妹だからに決まってるじゃんっ!こ、こんな大事件!また月白の謎が一つ解明されたっていうのに、なんなのあの二人ぃぃ!」
「わかった。わかったよレビ。クレアたちがいないからレビに負荷がかかってたんだな、僕も気付かなくて悪かったよ…」
僕はぶふー!と鼻息の荒くなったレビの背中をぽんぽんと叩いて、一緒にパパへ報告しに行った。




