クールに行きたいのに sideウゲツ
初等の七年生になると、リア先生の課題や授業に妙なものが出現し始めた。それは僕らがクレアの知識をルームで吸収しているからわかることだったんだけど、主要教科に中等二年生くらいの問題が混ざってることがあるんだ。
とりあえず答えることはできるけど、課題の量もちょっと尋常じゃない。リア先生はそういうことでうっかりミスなんてしないのになんで?と思ってお昼ごはんを食べた後で質問してみた。
「ここの子たちはね、みーんなライノのルームでアホみたいに潜在的な知識が詰め込まれてるのよ!たまにこうしてチェックしないと、個々の得意教科が見えなくなっちゃう。学舎平均の課題なんて出して全部満点取られてごらんなさいよ、せっかく伸びるものがあるのに見逃して、もったいないことになるからね」
「でもリアせんせーい、兄ちゃんも姉ちゃんもそのおかげで学舎での秘匿に苦労してんじゃーん」
「だまらっしゃいレビ!猫の庭の子供はね、魔法も体術もみーんなドS方式の英才教育されてんのよ?なんで学科だけ自重しなけりゃいけないの!どうせ突き抜けてるんだから、どこまでも行けばいいの!暴走教育ペガサスは止まらないわよっ!」
「リアせんせーい、アオイはないしょにするのがうまくないんだ~。どうすればいい?」
「アオイ、あなたのお父さんはドSの変態魔法使いだから何とかしてくれるわよ!」
「ねえリアせんせーい、僕は隠し事うまい方だとは思うけどさ、レティでさえ理科で一度失敗しちゃってるんだよ?」
「ウゲツ、何言ってるの。あなたのお父さんはドSを越えたドドSでしょうに。お父さんを見習って秘匿だの偽装だのまやかしだの口八丁手八丁だのを習えば問題ないわ」
「リアせんせーい、後ろに気を付けて…」
「何言ってるのよレビいいいたああああああっ!」
ここが教室じゃなくて一階だっていうのを忘れてないかなリア先生。ヘルゲ先生が両手でアイアンクローと顎砕き、パパは氷の芸術品みたいな「バトルアックスが脳天をカチ割ってるように見える帽子」をリア先生に被せている。しかもあの冷気の流れ方からして、相当な低温で作ってあると思う。
やっぱりパパのお仕置きはクールだ、かっこいい。
僕もあれくらいできるようになりたいけど、残念ながら四属性の攻撃魔法はそこそこの威力しかないんだよね。ほら、僕の精霊って我が強いって言ったでしょ?個別対象へ心理魔法を出したり、精霊集団を叩きつけるときはすっごく嬉々としてるのに、四属性の魔法を広範囲に出してよって言うと途端に「やる気ねぇ~」って感じになっちゃうんだ。
まあ仕方ないかなとは思うけどね。いま僕の魔法制御力の大半はレア・ユニークに割り振られてる。だから更に精霊魔法へ制御力を割り振る余力がないんだよ。大人になればもう少しマシになるかなって期待してるんだけどさ。
リア先生の自爆も見られたし満足だと思って、レビとアオイに「修練ルームへ行ってるねー」と声をかけて移動した。でも僕は修練をしに行ってるわけじゃないんだよ。あの水晶の部屋へ行くとかなり集中できるし、「影」を出しやすいんだ。
いま僕は最大三体の影を出せる。
もっと増やしたいとこだけど、あまりに精密な魔法なのでいまのとこ三体が精いっぱい。まあ自分が合計四人になっても同じセリフをしゃべる四重奏になるだけだからさ、今日は特別な一体を出す練習をします。
これ、数回しか成功してないんだよね。
単純に僕のマナ錬成量が足りないからなんだけど、この特別な一体は「影武者」って呼んでる。元々僕の影はかなり太いマナのラインで繋がってるんだけど、例えばフィーネ先生やアルみたいなマナに敏感な人にはマナのラインがばっちり見えちゃう弱みがある。
つまりそういう人には偽物ですって宣伝してるようなものなんだよね。だからさ、一度マナのラインで僕自身の情報をかなり濃密に精霊魔法で叩き込んで固定するわけ。そうするとラインを切っても僕そっくりの影武者は動くことができる。
操作可能範囲は僕を中心に百メートルほど。これはママの影と同じくらいの距離だね。それを超えるとマナを形作る制御が効かなくなって、体がほどけちゃう。
とまあ、簡単に言えばこんな感じなんだけど。なんつってもレアユニ発動させてる時に精霊魔法も同時発動させるってのがなかなか難しいんだよねー!
まあやりがいのある「進化」だからさ、ルカに胸を張れる自分になろうと思って練習してるんだ。恥ずかしいから「水晶の部屋が好きなんだー」って言って、必死に訓練してることを隠してるけど。
今日は結構いい感じで精霊魔法の同時発動が出来る気がする。なんとなくそう思って「影武者」に取り組み始めた時だった。
『そーんな力んでたら効率悪いよねー』
――出た。たまーに少しイラッとする感じのコメントを残して去っていく、深淵の意志。
「…じゃあどうしたらいいか教えてくれてもいいじゃないか」
声に出して愚痴ってみると、驚いたことに今日は返事が返ってきた。
『精霊魔法の演算領域は君の海の中。レア・ユニーク魔法の演算領域は空の上。君は海と空を総べる、青の支配者さ。ほーら、やってごらん』
「ほーらって…意味わかんないよそれ…」
『またまた~、君はどこかで理解してるはずだよ?だって今現在二つの特殊すぎる魔法特性を保持する恐ろしい才能があるんだからさ。カンタン、カンタン』
「軽く言ってくれちゃって…えーと、海の中と空の上の演算領域?青の支配者ってルカみたいだな…うーん」
『今日のヒントはここまで!じゃあね~』
ううわ、出たよ…ほんと気まぐれだな。
『おっと、連絡すんの忘れてた!ここでなら少しは話せるよ、スザクとアオイにも教えてあげるといい。じゃあほんとにバイバーイ』
――僕、ライシャみたいな人が良かった。全然クールじゃないよ、どーしてあんなにちゃらんぽらんな感じなんだ?
『ちゃらんぽらんなんて失礼だなー!フレンドリィと言ってくれる?』
「しつこいなあ!帰るならさっさと帰れ!」
何がほんとにバイバイだよ、僕の目指すクールさとは対極のやつが来ちゃったじゃんか…!
僕はドッと疲れを感じ、こんなんじゃ制御が成功するわけもないなと思って修練ルームを出た。まあ言われたことは真剣に考えるし、スザクとアオイにも教えるよ?でもさあ、あいつと話すとどうしてこんなに精神的ダメージ来るんだろうな…




