【閑話】 生贄の受難 sideヘルゲ
今回白縹へ直接攻撃を仕掛けてきたバカどもは、スペシャルコースの仕置きを受けた。手を下したのはヨアキムとアロイスとハイデマリーとカミルとコンラート。
本当に愚かな奴らだ、グラオの中でも拷問コースの専門家全員に火をつけるとはな。
それにしてもクレアの捕獲作戦は見事だった。猫の庭の子供たちは、生まれた当初に俺たちが予測していた能力を数倍は越えている。現時点でその原因と目されているファクターは複数存在するんだが、それらを最大限に引き上げている一番の要因はルカのラック・チェインだ。
元々、レティとウゲツという二人の「宝玉」が近くにいることで影響が出るのはわかっていた。そしてスザクとアオイという「宝珠」がさらに大きな影響を及ぼしている。更にライノとレイノの白縹専用みたいなあの能力はその恩恵を全員へ万遍なく送り届け、クレアの能力が大人顔負けの判断力をもたらす。
これらのファクターをうまく噛み合せているのが、ルカだということだ。全員の能力を足すのではなく、見事な乗算アルゴリズムにしている。
まったく、この俺の予測を毎回見事に塗り替えてくれるものだ。
こいつらを見ているのは楽しくて仕方ない。
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この捕獲作戦の際に、クレアから「スザクの魔法威力をどの程度まで解放していいでしょうか」という質問を受けた。その時のアロイスは「あー…どうだろうね、確かに強力な火球なんだろうけど、数が多かったら何回か撃たなきゃいけなくならないか?」と少し迷っていた。
だが俺は「力任せにやらせれば撃ち漏らすことはないだろう。かなり制御力は上がっているし、周囲の海水温度を上げてプランクトンを死滅させるようなヘマもしないと思うぞ。全力ならあの生物の残滓を残して海中に毒物を拡散させる心配はないだろう」と進言した。
そしてアロイスは納得し、クレアへ「わかった。じゃあスザクは全力出してもらっていいよ」と頷いたわけだが。
「……どうしてこうなった」
俺はいま、学舎の教導室でハンナに青筋を立てられながら説教を受けている。アロイスがハンナから通信で散々追求を受け、「ヘルゲが全力でいいって言ったんだから学舎へ行ってきてくれよー」と丸投げしたんだ。「行ってくれないと、学舎へ新装版こうぎょくのだいぼうけんをたくさん寄贈しちゃうよ」と言われて仕方なくやってきた。
くそ、覚えてろよアロイス…!
「ヘルゲ~…!いくらあなたたちが珍獣でもね!子供まで特化型珍獣にすることないでしょ!なんなのあの子たちの魔法能力は!預かった三人ともとんでもない瞳の透明度だわ、魔法制御は飛びぬけてるわ…っ!どれだけ私が他の教導師をごまかしてると思ってるのよ!ルカたちも必死に他の子を気遣って応用修練で威力を抑えて撃ってるし!それが健気だから協力してるけど、未成年を作戦に駆り出すなんて何考えてるの!」
「俺たちで出来ないことをあいつらがやれるんだ。村への被害を未然に防げる最良の手段を取っただけだ」
「こンの壊れ紅玉!自重しないのは顔面だけにしなさいよ!」
ひとしきり遮音方陣の中でギャンギャン怒鳴り散らしたハンナは、肩で息をしながら次のターゲットへ向き直った。コンラートへは「“猛獣使い”が聞いて呆れるわ!全く手綱を握れていないじゃないの、“珍獣仲間”に格下げよ!」と宣言し、オスカーへは半泣きになりながら「真面目で良心の塊だったあの頃の自分を思い出しなさい…っ」と諭す。
うんざりした俺はハンナへ向かって「子供たちを危険にさらすような作戦立案はしていないぞ。それにあいつら自然にああいう風になったんだ。伸び伸び育てただけだぞ」とため息をついて言った。
どうもそれはハンナの火に油を注いだらしい。「やかましいわ、この美顔ゴーレム!」とまた怒鳴られた。
俺はまだ対人コミュニケーション能力が不足しているようだ。
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食堂へ連行された俺たちはハンナから強制的に生徒たちへの特別講義をやらされることになった。コンラートは初等学舎と中等学舎で、オスカーは高等学舎で体術指導。俺は全学年の前で威力を抑えた炎獄と山津波の実演を何回もやらされた。更に初等から高等までの訓練場を渡り歩いて、コンラートとオスカーの乱取り実演の相手だ。
そして全部終わった後で俺だけ残されて、高等学舎の軍部予定者からの質問攻めに受け答えもした。
ハンナは鬼か。
よろよろと猫の庭へ戻ったのはもう晩メシの時間だった。一階のソファで天井を見上げて放心していると、疲れ切ったオスカーが隣へ来て「ヘルゲ兄、お疲れ…。でもハンナ先生にあの回答は悪手だったな…」とソファでダラけた。
そして向かいのソファへコンラートがどべっと寝転がり「ヘルゲ、お前どこまで煽り上手なんだっつの」と文句を言う。
お前らも、鬼か。




