宝珠の力 sideルカ
港ではまず、フィーネ先生がヘルゲ先生へ接続して広範囲索敵をした。もう猫の庭でも一度やっているけど、念のためにね。
そしてここ最近の筋肉マツリではお馴染みの手順で僕らは「繋がって」いく。レイノが精神混合を行使すると、フィーネ先生を含めた全員が繋がるんだ。ニコル先生だけは逆に繋がず、「外からの目」で周囲の警戒と僕らのメンタルチェックをしてくれることになっている。
「…良好ですね。では開始します、捕獲ミッション、スタート」
「ヤー」
僕らはクレアを頭脳とした手足として、一斉に動いた。散開し、僕とレティとスザクは灯台へ。他のみんなはそれぞれ海へ向かってスタンバイだ。
アオイがぶわりと大きなマナを錬成し、その緑の瞳を輝かせながら精霊へ願う。
「みんな、アオイに教えて?海の中にすごーくイヤなものがいるでしょ。アオイも嫌いだから、どこにいるか知りたいの。お願い、教えて?」
ドッと精霊が海へ向かって殺到し、そのマナの光は視認できる限りの海原を撫でるようにして海中へ溶けて行った。するとざわりと何かが揺らめき、銀色の巨大な生き物が動き出す。
――それは、この海の全ての種類の魚たちが群れて形造った「集団の魚影」だった。
「すごい……ルカ、あれ!」
灯台の上から見ていた僕とレティは、その魚影が二カ所でぐるぐると円を描いていることに気付いた。その円の中にある、黒い影。一つの円に七つほどの鈍重な動きしかしないものを確認し、僕は即座にマナを練った。
「――出番だぞ、お前ら。深度は海底まで、あの円からこっちを丸裸にしてこいよ。…行け、掻き消せ!」
滑空して二カ所へ向かって襲い掛かった青紫のマナは、着弾と同時にずぼっと海水だけを掻き消していく。それはどんどん陸地へ向かって範囲を広げ、みんながスタンバイしている港の一点へ向かって視界を確保した。
いま、クレアたちに見えているのは空中を泳ぐ銀色の巨大な魚影が二つ。海の入道雲のように悠然と空中を泳ぐ魚たちと、空へ向かってゆらめく海草と、砂地を這いつつ目標の座標を知らせようとするカニやヒトデたち。それらがポイントでワサワサしているのが見えるんだ。
アオイが「ありがとー!あとは危ないからみんな避難して~!」と叫ぶと、彼らは蜘蛛の子を散らすようにこの海域から逃げていった。後に残ったやつらとその周囲を見て、僕らは少し怒りに飲み込まれそうになった。
…海底で、ぐずぐずに腐ってしまったような大きな死体が見えたんだ。それは形からしてイルカに見える。僕らはいま繋がっているので、アオイの感じた痛みまで共有した。頭の良いイルカは、この危険すぎるやつらを排除しようとして攻撃し、その毒をくらって数頭が死んだのだった。
「…皆さん、冷静に。レティ、お願いします」
「…ヤー」
レティはその死体を丁寧にハイカーボン鋼の棺へ包むと、マナで引き寄せ始めた。海岸に着いた瞬間、ニーナが棺の中へ向けてキュアを放つ。毒物が拡散するかわからないので、かわいそうだけどあいつらを始末するまでは棺へ入れたままだ。…ごめんね。
数頭の死体をそうやって処理した後、フィーネ先生は「…では始めよう」と言ってドガッとマナを錬成した。たぶんヘルゲ先生に接続して、反射増幅シークエンスを使ってるんだ。そのマナで、二カ所の群れへ向かって精度の高い結界を放った。
呪術のマナを結界によって阻害されたゾンビどもは、動きを一層鈍らせた。そしてそのマナを「味わった」フィーネ先生はうええ、と言いながら結果を共有してきた。
この群れ一つにつき、呪術師一人。二つの群れはそれぞれ違うマナが操っているので、捕獲は「一つの群れにつき一匹」となる。全員が理解すると、クレアが静かに言った。
「オープンコンバット」
「ヤー!」
レビが精度の高い結界で「砲身」をゾンビどもの数だけ作っていく。そこへニーナは次々とアンチ・ファンガスの清核をセットし、ライノとレイノが砲身の仰角を精密に修正した。
続けてレビはまた同数の砲身をノーラの前に設置し、海へ向けている。ノーラは昏く見える瞳で「…ファンガス。あいつらを動けなく、する」と呟き、特大の毒核を作って全てにセットした。こちらの照準もライノとレイノが調整し、こくんと頷いた。
するとウゲツがマナの錬成を始める。ここでウゲツが出てくるのは、彼が「拡散させるよりも特定対象へ超特濃の精霊集団を叩きつけることに秀でてる」からだ。
ウゲツは精霊たちへ「…頼むよ、あいつら許せないだろ?」と呟き、クレアの合図を待った。
「いきます。――毒核用意……シュート!」
ドドドドドドド!!
ウゲツの精霊は恐ろしい勢いでノーラの毒核を撃ち出し、見えないだけでちゃんと存在している海水の中を驀進させていった。
「…全弾命中!進軍停止!」
「清核用意…シュート!」
ドドドドドドド!!
「全弾命中!…マナに毒物のマズい味はなくなったよ!」
レビが「悪食」をしながらマナで確認すると、僕の隣で「んふん、私の出番ね?」とレティが金色の瞳を煌めかせる。
「ライシャ、ちょっと手伝ってね……ジェイル!」
精緻なマナを錬成したレティは群れから一体ずつをチョイスし、そいつらを硬度重視の合金の箱へバガン!と閉じ込めた。それも海岸へ持ってくると、レティは「こんな感じかしらぁ?」とマリー先生そっくりの笑顔で笑った。
――残るは、すっかり腑抜けになった十二体。
大トリで出番を待っていたスザクは、ニヤーッと笑って「やるぜー?」と言った。
…僕らは、普段彼の本気を見ることがない。だって、彼の本気を見る時は「何かが消滅」するほどの威力の魔法を撃つ時だ。ヘルゲ先生とバンバン魔法を撃ちに行って以来、辛抱強くアロイス効果の練習をしていたスザク。
彼はいま、思う存分ブチかましていい喜びで、ヘルゲ先生そっくりの獰猛な顔になっていた。
ドッバァァァ!
僕と、レティは、腰を抜かすかと思った。
今のはスザクがマナを錬成した音だ。
宝玉であるレティより、誰より、大量のマナ。
この年齢でスザクは、紅玉であるヘルゲ先生に迫ろうかという大量のマナの錬成をしていた。
そして彼が収束をする。
ギュッゴッ
――直視、できない。だって、目の前に太陽があるみたいで。
いけない、インビジブルの制御がおろそかになってしまいそうだ。
僕が太陽から目を逸らすと、スザクは「わりぃ、すぐ終わらせっから」と軽く言いながら、キュドッ!というありえない音をさせてマナの弾丸を発射した。
マナの弾丸は二つに分かれ、ノーラの毒核によって動けないでいるやつらの中心点へと着弾した。
ドッ
ガアァァァァァァ!!
やつらのいる範囲、だけ。熱量は全て、その範囲内に。範囲外の海水温度は何も変化させずに、スザクの放った極地型の炎獄は二カ所で数十メートルの火柱を上げた。
海水を不可視にしている僕にはわかる。スザクが「範囲設定」した場所の海水とゾンビ魚だけが、瞬時に蒸発して消え失せたんだ。今あの範囲内で僕が不可視にしているのは、一瞬で膨張して爆発した後の「熱い空気」だけ。
このミッションは、僕らが「宝珠」の力の片鱗を見た、最初のケースとなった。
*****
「ええと…何かとんでもないものを見たが、みんなよくやったね。レティ、イルカの亡骸はニーナが無毒化したし、海へ還してやろうではないか。ぼくはその間に捕獲分を草原へ放り込んでおくよ」
フィーネ先生が言った通りに僕らは動き、港での処理が終わるとライノの経験会議で全員の視点をきっちりと共有する。そうして次々同じ工程を繰り返しては作戦の精度を上げつつ、僕らは海沿いを移動していった。
学舎の沖に一つ、岬の沖に三つ、そしてなんと猫の庭の沖に五つの群れがあったと報告を受けたアロイス先生とヘルゲ先生は、かなりブチ切れていた。
全てのゾンビ魚捕獲が終わるのとほぼ同時にあっさりとマナ固有紋の追跡方陣で全員捕縛され、グラオ式のイターイお仕置きを受けた黒幕のタンラン人テロリストたちは茫然としてたね。
どうも村への侵入ルートを見た場合、岬はガケだから難しい。港と学舎は人がいつもたくさんいる。でも猫の庭はぽつんと二階建てのリストランテがあるようにしか見えないから、そこのやつらをサクッとキルして入っちゃえ、ちょうどいいからその建物占拠してアジトにしちまおうぜって感じだったらしい。
それを聞いて全員が呆れたように呟いた。
「バッカだねぇぇ、一番選んじゃいけないルートじゃああん…」
何事も情報戦闘力っていうのは大事だねっていう、反面教師みたいなテロだったのでした。




