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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
自然の体現者
58/103

真菌と反・真菌 sideルカ

  




通信機からクレアののんびりした声が聞こえる。


『あら…ルカってばトイレに行きたくて焦るとあんな風に走り出すんですよね…』


『え、それマジ?さっきもトイレ行ってた…あ、あれはレティたちに連絡してたんだっけか。もうその辺でしちゃえばいいのに』


『イザーク兄さぁん、私たちはそんな場面に遭遇したくないわぁ…』


『あ、こりゃ悪い。女の子がいるんだもんな。えーと、ニーナか?お前ももしかして我慢してねえか?』


『違うもぉ~ん!それは冤罪よぉイザーク兄!私はかけっこの後は急に止まらないで足踏みしなさいって言われたことを守っただけだもん!』


『ぷすすー!ルカもニーナもおもしろいなー!ぷすー!』


『…ルッツ兄、その笑い方大切にして。他にはない個性…貴重』


『ぷすすす!そんな言われ方したの初めてだよ、ノーラもおもしろいねー!』


…くっそ、楽しそうにしちゃってさあ!クレアも酷いよ、僕が漏らしそうで焦ってるなんて設定にしなくても…!


僕はもう目の前に見えているイザークの家へ駆け寄り、ドアをコンコン!とノックしてから返事を待たずに入った。そしてすーっごく不本意だけど足踏みでジタバタしながらアデリナさんに「トイレ貸してくださぁ~い!」と叫んだ。


――アロイス先生は笑いを押さえもせずにブフーッ!と吹き出し、右手を上げて「ルカ、漏らしそうになるまで我慢しちゃダメじゃないか…」と言うのでイラッとしましたね。


アデリナさんも笑いながら「はいはい、いってらっしゃい」なんて言うので作り笑いをしつつ、僕は自分に出せる最大パワーでアロイス先生の右手へバチコーン!と清核を叩きつけた。そして清核の「不可視」を維持しつつトイレへ駈け込んで通信機へ神経を集中させましたよ、ふん!


『は~、ルカはしょうがないな、すみません具合悪いのに騒いでしまって。ところでグンター伍長、この毒物なんですが中央で見たことがありますよ。ヴァイスの治癒師にもらった解毒の魔石で効果がありそうなので、ちょっと試してみていいですか?』


『え!それはありがたいですが…いつもそんな魔石を持ち歩いてるんですか、統括長』


『あはは、僕はエレオノーラさんの忠告でそういう備えを常にするよう言われてるだけです。じゃあ失礼して…』


『お?おお?…色が…うわ、すごい、あっという間に痛みが引いてきた』


『よかった、やっぱり効いたみたいですね!あとはこの傷を治癒院で治してもらえば、すぐに復帰できるんじゃないですか』


『ありがとうございますっ』


『アロイス、本当にありがとう!よかったわねグンター…!』


『あ、グンター伍長。すみませんがこの方陣、ちょっと訳ありで秘匿レベル5なんですよ。僕が使ったっていうの、内緒にしてもらえませんか?えっと、寝てたら治ったとか適当に…』


『そ、そうですね。わかりました、一過性の毒物で奇跡的に自然回復したとでも言っておきますよ』


やった…!さっすがニーナ、アロイス先生が精霊で分析した毒の成分を知らされてからすぐに清核を作ってくれたんだ!嬉しくなって、小声で「ニーナ、ノーラ、ほんとにありがと!君たち最高!」と通信した。


すると全員の通信機から『コココン!』という小気味いい音が響いた。意味は「ミッションクリア!グッジョブ!」ってこと。でもアロイス先生の分まで音がしたのには笑っちゃったよ。


さーて、僕はもう一回恥ずかしいお芝居かな~…


「は~、間に合った~!すっきりした!」


「ぶふっ ル、ルカ…僕はそろそろ帰るからね、レティとクレアを頼んだよ」


「はーい!じゃあイザークたちのとこに戻るね~」


「ルカ、今度からレティちゃんもクレアちゃんも、仲間外れにしないで連れてらっしゃいよ?だめじゃないの、お兄さんなのにあんなしょんぼりさせて!」


「はぁ~い、わかりましたぁ…」


「ははは、男の子同士で遊びたい時もあるよなあ?アデリナは女の子が来ると嬉しいんだろ」


「そうよ!あんな可愛い娘さんで羨ましいわアロイス。私が一緒に遊ぶから連れて来て!わかったわねルカ!」


「はぁ~い…」


僕はすっかり「妹を置き去りにして遊び呆けた上にトイレを限界まで我慢するおばかさん」というイメージを引っ提げてイザークの家を出た。一緒に出てきたアロイス先生はブフー、ブフー、と何回も笑いながら僕の頭をぐりんと撫でた。


「ルカ、いい演技だった。みんなのおかげでグンターさんの足は治るよ、いい仕事したね」


『コココン!』


「じゃあ僕、みんなのとこに行く。それと…秘匿の件、ごめんなさい」


「いいよ、あの二人ならってルカが信じたんだろう?僕はレアユニの件でルカが傷つかないなら、それでいいんだ」


そんな風にアロイス先生が優しい顔で僕を見るから、ちょっとその…涙目になりそうだった。我慢したけどさ。




アロイス先生と別れてから、走ってみんなのいるブナの森の端っこへ着いた。すると最初に気付いたルッツがぷすぷすと笑いながら僕に手を振った。


「ルカ~、トイレ間に合ったの?」


「なんで知ってるんだよ~」


「クレアが教えてくれたっての。お前、授業中にトイレ行きたくならないように休み時間にちゃんと行けよ?」


「わかってるよ!もー、イザークまで…」


もうニーナとノーラも一緒になって笑っていて、ちょっと恥ずかしいじゃん。クレアは「すみませんルカ。何も言わずに走り出すからつい言っちゃいました」とおすまし顔で言ってますよ。いーよもう、そのキャラで行けばいいんでしょお~。


僕は最後の仕事とばかりにすっとぼけた演技をして「あ、そうだ。グンターさんのケガ、治りそうだよ?」とイザークへ告げた。


「えぇ!? な、なんでだよ?あの毒は?」


「えっとさ、これ…マジで知らないフリしてくんないと困るんだけどさ。アロイスさんが秘匿レベル5の、特殊な解毒方陣を持ってきてくれたんだ。だから毒物は除去されて、あとは抉れたところを治癒師に治してもらえばいいだけになってるよ」


「マジで…?」


笑ってこくんと頷くと、イザークとルッツはがばーっと僕へ見事なタックルをかけてきた。ちなみに機敏なルッツ、筋肉質なイザークの順だったので、ルッツと僕は同時に「ぐええええ」と言って潰されかけた。


「ありがとなルカ!お前が気付いてくんなきゃ…!とーさん、片足失くしてたかも。いや、下手すりゃ死んでたかもしんねえ!統括長を呼んでくれて、ありがとな…!」


「イザークおじさん、俺のことも息子だって言ってくれるくらい可愛がってくれてるんだ。だから俺も嬉しい。ありがとルカ~」


「えへへ、いいって。それよりどいてよイザーク、重いぃ…」


「悪ぃ!」なんて言いながらどいた後、レティとクレアにもお礼を言った二人はほんとに嬉しそうだった。


それから僕らは全員で鬼ごっこしたりして、ブナの森の側を駆け回って遊び倒した。ルッツはそのままイザークの家へ泊まるから、僕らはグンターさんとアデリナさんにもさようならと挨拶してから歩き出す。


行き先は村の中心部にある「ヴァイスの倉庫」だ。ずっと前はアロイス先生とヘルゲ先生が住んでた家なんだけどね。そこへの道すがら、僕らはこそこそと「毒を持った妙な魚」のことを話していた。


「ノーラ、あの毒物って自然界のものだったの?」


「…んーん、違う。人が作為を持ってあの生き物に毒性を持たせた」


「うわ、じゃあ血清作るの大変だった?」


「そんなことないよぉ、腐敗アミンで生成された病原性微生物が呪詛で変容してタチが悪いのになってるってノーラが言うからぁ~。ノーラが同じ効果の『真菌ファンガス』を作って、私が『反・真菌アンチファンガス』の清核を作っただけぇ~」


「…ごめん、意味が全然わからないけど、でも簡単だったんだ?とにかくありがとうね…」


頭悪くてすみません。僕にはちんぷんかんぷんだけど、二人にとっては楽勝ってことなんだなとだけ理解しました。そしてたぶん僕の情けない様子を見かねたクレアが、話の方向を変えてくれた。


「ルカ、その攻撃してきた海洋生物を送り込んできた黒幕に関しては、グラオの裏マツリになるのが確実でしょう。ですが問題はその海洋生物です。村の港は一時封鎖、学舎でも海側の緩斜面から先へは立ち入り禁止の結界が張られるでしょうね」


「父ちゃんたちでなんとかするから封鎖なんだよね?」


「…それがぁ、今までこんな攻撃を仕掛けられたことないって言って、海の中を自在に泳ぐ危険生物なんてどうやって探そうかって悩んでるみたいよぉ?」


「えー…グラオで対処できないなんてこと、あるぅ?」


「それがですね、その魚は『死体』を呪術で操ってる確率が高いんだそうです。そうすると自動マッピングも反応せず、広い海の中を目視で探すことになってしまいます。索敵魔法も基本が『何らかの作為を持つ者のマナを探す』ですからね」


「うあー、めんどい相手だな…」


グラオが手こずるなんて、よほど今回の敵は狡猾な手を使ってるんだろうな。でもきっとアルがいい魔法を作ってくれたり、ヘルゲ先生あたりがいい手を思いついてくれると思うんだけど。楽観的すぎるかなあ?


僕がちょっと他人事みたいに考えていると、クレアとレティがニヤーッと笑って僕の両脇へ陣取った。ななな、なんでしょうか…?


「ルカ、私にいい考えがあるのでそれをアロイス先生へ奏上するつもりなんです」


「そうよぉ~、大人たちができないことも、私たちにはできるかもしれないのよぉ?腕が鳴るわぁ」


「…はい?僕らでやるってこと?そのゾンビ魚を、僕らでなんとかするの?」


「そうですよルカ。あの筋肉デビルは倒せなくても、魚くらいどうとでもなります。リアルなマツリへのデビュー戦ですよ、胸が高鳴ります」


「え、ちょっとクレア…お仕置きする時の顔になってませんか?レティもそんな最上級なS顔しなくってもいいんじゃない?二人とも落ち着いてよ…」


「何言ってるのよルカぁ、クレアの作戦聞いたら絶対ルカだって『支配者モード』になるに決まってるわぁ」


あ…ダメだこれ。二人がここまで本気になったら絶対やるに決まってますよね。


「了解…とりあえず作戦聞くまで僕は沈黙しておきます…」


二人は僕が陥落したと知って、非常にかわいらしい笑顔に、なった。

とほほ…




  

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