大好きな友達 sideルカ
学舎へ来て一週間も経つと、僕らもすっかり慣れてきた。送り迎えもいらないよってアロイス先生へ伝え、帰りは三人で待ち合わせて帰るようになったよ。
イザークとルッツにはレティとクレアをちゃんと紹介した。僕らが住んでいる(ことになっている)中央の街では、白縹がとても少ないから兄妹同然で育ってるんだっていう紹介をすると、イザークはレティとクレアに「何かあったら言えよ、ルカの妹なら俺たちも妹だと思って何でも助けるぞ」と言っていた。ルッツも「俺も同じく!腕っぷしが必要ならイザークだけど、すばしっこさなら俺でも大丈夫だからね~」と言って握手していた。
ほんとこの二人、男前な性格してるんだよなあ。僕はこういう人にかなり弱いと思う。だってレティとクレアに「ね?この二人すごくいい奴でしょ?すごいでしょ?僕の友達!」みたいに大興奮で言っちゃって、レティに「ルカ、落ち着いてえ?」と窘められたほどだったんだ。
照れたイザークとルッツに頭をハタかれたけど、僕はとにかく彼らと仲良くなれて有頂天だった。
モノクルに関してはやっぱり同期の注目の的になり、授業開始した初日にみんなから質問攻めにあったよ。だからレアユニのことも言ったし実演もした。自分で消した物がわからないから、魔法部の人が作ってくれたモノクルが必要なんだと言うと、みんな感心しながらも納得。
今はマナ・グラスが定着してるから眼鏡自体は珍しくないけど、常に眼鏡をかけてる白縹なんて僕くらいだからね~。
それに魔法部の人が作ってくれたっていうところに食いつく人もけっこう存在した。魔法威力の強い宝玉や、フィーネ先生やアルみたいな才能に憧れてる子もけっこういたんだよ。だから「魔法部の誰!?」みたいに言われてフィーネ先生の名前だけは出しました。すっごい反響だったよ、なんだこれ。
「やっぱ中央で暮らしてるとヴァイスと接点多くなるんだな、羨ましい」
「ねえ、やっぱりお父さんがヴァイスの偉い人だとルカも軍部予定者ってことになるの…?」
こんな風な質問が出るだろうことはクレアから「予想質疑」ということでレクチャー済みですよ~。
「まさかあ!軍部行きは完全実力主義じゃん。親がヴァイスだからって、修練サボってたら簡単に瞳の透明度とか落ちるんじゃないの?僕はレアユニが発現したけど、制御しきれてないからこんな眼鏡かけてるんだし~…ここの学舎できっちりやってる君らの方が透明度高そうで焦っちゃうよ」
そう言うとみんなはハッとした顔で「ごめん…そっか、親がすごい人だからルカはルカで苦労してるんだな。一緒に頑張ろうぜ、ルカならきっと軍部にだっていけるよ!」と励ましてくれた。
ごめん…ごめんねみんな。
まさかグラオ総出で英才教育受けてますなんて言えないから…!
ほんと、この学舎へ来て「普通の白縹」を体感できてよかったと思った。そういう経験をせずにヴァイスへ入隊してはっちゃけてたら、反感買うわ秘匿どころじゃないわで酷い事になってたと思うもん。
なので、すーっごく不安ではあるけどスザクたちもいつかは学舎へ留学した方がいいんじゃないかな、とは思った。やらかしそうで不安だけど。絶対なにかやらかすだろうから、本当に不安だけど。大事なことだから三回繰り返してみたよ。
*****
しばらくすると、ルッツは人工子宮生まれでイザークは村に両親がいることを教えてもらった。だからイザークは初等学舎から宿舎住まいになっていて、週末は両親の家へ帰省するから外泊届を出すんだそうだ。
そうするとルッツにいわゆる「両親」という存在がないことにどういう反応をしていいのかわからず、ぎこちない態度を取るよりはと思って二人にぶっちゃけてみた。
「あのさ、僕の周りって今まで全員両親から生まれた子ばっかりだったんだ。もしかしてルッツは僕が父ちゃんのこととか話すの、イヤだったりした?その…何がイヤでどこまでならいいとか、僕も想像力がないからわからないんだよ、ごめん」
そう言うとルッツはきょとんとした後、いつもの面白い笑い方をした。
「ぷすー!やだなルカ~、人工子宮生まれでも普通で平気!えっとね、エルマーさんに聞くとわかりやすいかも。俺たちって大抵初等学舎から生活を共にするわけだけど、もし両親持ちが『人工子宮生まれのくせに』なんて言うとナニーがすっごく怒ってその子に最低でも一時間はお説教だねー」
「うわ…そりゃそうだ。そんな言われ方したらイヤな気分でしょ。当然だね」
「ぷすす、その怒り方がここのナニーの凄いとこだと思うよ。大抵エルマーさんが説教担当なんだけど『両親持ちの何が偉い?同じ白縹の兄弟をそんな風に貶める両親持ちなんて、その両親の育て方が悪いって思われるだけだろ?いま君は人工子宮生まれをけなしたんじゃなくて、自分の両親をけなしたことになるんだぞ』っていうのが常套句。だから結局はみんな同じ白縹の兄弟っていう意識がついていくんだよ」
ルッツがそう言って笑うと、イザークも「そういうこったな。だから遠慮せずにコンラートさんやヴァイスのことを俺たちに暴露しろよ!」なんてニヤリと笑った。ホッとした僕は「いいよー、何聞きたい?ヴァイスの筋肉自慢に逆さ吊りにされた話でもしようか?」と言って二人を笑わせた。
週末になって、僕はイザークの家へ誘われて遊びに行くことになった。もちろんルッツも一緒で、初等学舎からイザークと仲良しだった彼は何度も遊びに行ってるらしい。
初めての「友達の家」への招待に僕は浮かれまくり、ママへお願いして「さくさくサブレ」を詰め込んだバスケットを用意してもらった。もちろんイザークの両親の分と、僕らのおやつとしてたーっぷりね!
村の住宅エリアのかなり外縁寄りにあるイザークの家は、なんとブナの森を挟んで猫の庭に一番近い区画にありました。といっても猫の庭は本当の意味での外縁だから、相当距離はあるけどね。それにしても僕らが実はご近所で生活してたってことに驚いちゃうな。猫の庭の秘匿性の高さに改めてびっくりだ。
イザークのお父さんは村の境界警備隊で仕事をしていて、馬車で三十分くらいの所にある境界砦に行きやすいからここに家があるらしい。イザークが元気に「ただいまー!ルッツと新しい友達のルカを連れてきたぞー!」と言うと、奥から元気なお母さんが出てきた。
「あらまー!いらっしゃい二人とも。ルッツ、ちょっと痩せたんじゃないの!?訓練しすぎてない?ごはんたっぷり食べてる!? こっちはルカね、イザークと仲良くしてくれて嬉しいわ~、私はアデリナよ!あらルカもちょっと細っこいわね、ごはん食べていきなさい!わかったわね? え?手土産?ルカのお母さんの手作りサブレ?あらやだー、おいしそうだわありがと!さあさあ、手を洗って!早速このお菓子いただきましょうね、いい匂いだわぁ~!」
――えっと、えっと。口を挟むスキがほぼありません。ルッツは慣れてるみたいで、イザークと一緒に適当な返事をしながらあしらっていた。アデリナさんのこの勢いは、興奮状態で警報の出たフィーネ先生と張れる。そして僕にはけっこう荷が重い。ねえ二人とも待って、僕を置いていかないで…!
「かーさん、それくらいにしてやってー。とーさんは?」
「グンターならそろそろ帰って来るはずよ!あらやだいけない!グンターのコーヒー淹れる準備しておかなくっちゃ!」
「…ぷすす、アデリナさんってグンターさんのこと大好きだからさあ~。帰って来る時間が近くなるとソワソワしちゃうんだよ」
「へぇ~、なんか元気でかわいいお母さんだねイザーク」
「とーさんも俺が戻る週末になるべく合わせて帰ってきてくれるんだ。だからほぼ毎週こんな感じ。とーさんは逆にあんまししゃべらないから安心しろ、ルカ」
「ぶ…わかった」
アデリナさんがソワソワし始めるのを横目に見ながら、僕らはイザークが持ってるボードゲームをして楽しく遊んだ。かなり白熱したよ、僕は慣れてなくってビリッケツだったけどさ。
かなり夢中になって三人で遊んでいたらドヤドヤと数人の足音が聞こえた。すると玄関でアデリナさんが「グンター!?」と叫ぶのが聞こえ、驚いた僕らはイザークの部屋を飛び出して見にいった。
そこには境界警備隊の人に付き添われながら松葉杖をついた、イザークそっくりでガッシリした筋肉のおじさんがいた。




