平均値って難しい sideルカ
レティとクレアはすんなりと「その年齢っぽい話し方と仕草」を周囲の子から吸収し、なんとか普通の白縹の子を演じているらしい。一か月しかいないってことで珍しがられるからたくさん話しかけてきてくれて、ほとんどの子とは穏やかに仲よくできるって言ってたからほんとに安心した。
何でそんなに安心したかと言うと、初日のランチで少し騒ぎがあったからなんだよ。食堂が一緒だったから僕も見ていたんだけど、聞かん坊っぽい男子がレティのデザートを取り上げてアッカンベーしながら逃げ出したんだよね。
僕が「あ!」と叫んで思わず顔色を悪くしたのは、もちろん「レティの遺伝的ドSが炸裂する!逃げろ、そこの男子!」と思ってしまったからだ。
ちなみにクレアもあからさまに「あの男子、死亡確定ですね」という顔をしていた。
でもレティは呆気にとられた後、しょぼんと俯いて席も立たなかった。一緒のテーブルで食事していた女の子が激怒して「ひどいっ 何するのよかわいそうでしょ!」と大騒ぎにしてくれたおかげで、レティはナニーから新しいデザートを貰い、その男子は当然ナニーによるお仕置きタイムになった。
レティは感動した!という顔で「みんな、ありがとう…!」と言い、あまつさえ「きっと悪気はなかったと思うんです。ちょっといたずらしようとしただけなのに、私が何も言えなかったから大騒ぎになっちゃって…あの、仲直りしてくれる?」とナニーへ進言した後でその男子を自然に謝罪させる高等テクニックを見せた。
うん、レティの新技を見させてもらった。女の子ってすごいね。
クレアは「ち、運のいい男子です」という顔を一瞬見せていたけどね。
二人とも、何だかこわいよ? ていうかあの男子、レティがかわいいから気を引きたかったんと違うの? 次に僕の目の前でやったら脊髄反射で漢の証を不可視にしちゃうよ、気を付けてね?
*****
そんな初日が終わって、僕ら三人は今日あった出来事や仲良くなった同期の話で盛り上がりながら猫の庭へ帰還したんだけどさ。
「それにしても今日のデザート強奪事件、レティは素晴らしい忍耐力でしたね」
「んふふ~、あれはちょっとコツがいるのよ?」
「え、我慢しただけじゃなくて?」
「やあねルカ、我慢なんてしたらストレス溜まっちゃうじゃない。ああいう時は『なんて低能なのかしら、可哀相な子』って心の中で蔑みながら話すのがコツなのよ?そしてそれを表に出さない演技力がないと、立派な剣舞なんてできないの」
「おうっふ…セリナさんから何を習ってるの、レティ…」
僕は背筋を木枯しが吹き抜けたような気がしてぷるるっと震えてしまいましたよ。
ちゃんとドS発動してたんだね、レティ。
「でもクレアも結構な目に遭ってたわね?」
「ああ、アレですか。あの程度どうということもありませんよ?」
何のことかと思ったら、ランチの後の女子宿舎ではクレアに挑んできた同期の女の子がいたそうだ。どうもクレアと本の話で盛り上がった数人がいて、その中にいた一人の男子はモテ男くんだったらしい。
そしてその男子のファンがクレアに「彼と気安くしゃべらないでよ」と詰め寄った。その子たちにクレアはキョトンとした顔で「彼ってだあれ?」と言い、「よくわかんないけど、クレアはお友達作っちゃいけないのね?」と言い、「わかった…さみしいけど、来ちゃダメなのね…先生に今日でさようならですってあいさつしてくるね」と言った。
慌てた女の子は言葉を濁しながら「そんなこと言ってないじゃない!いいわよもう、一か月しかいないならみのがしてあげるわ!」なんて捨て台詞を吐いたとかなんとか。
こわい。女子こわい。
「大丈夫ですよルカ、いま私の『書架』には同期全員の減点方式順位表を用意してあるんです。ワースト三位までの子には、最終日に置き土産を用意して学舎を去る予定ですから」
こわい。クレアこわい。
*****
そんな感じで初日は終わり、翌日から僕らは学舎の授業へ出ることになった。そこで驚いたのは、学科の授業だった。
アロイス先生からの様々な制約は普通に「魔法能力を隠す」という当然な要求だったけど、僕らの学科は進捗がずば抜けてるってことに改めて気づいたんだよ。ちゃんと言っておいてほしかったなリア先生…
クレアは最初から「学舎における平均学科進捗度」を調査の上で行ったから、絶妙な具合に「さすがリア先生の娘ねー」と思ってもらえる程度にしていたそうだ。
レティは理科の授業で「地質学」の単語が出た瞬間に我を忘れ、構造地質学やプレートテクトニクスについて先生へ質問して驚かせてしまった。
そして僕はと言えば、数学の問題が出た時に習っていないはずの公式(高等学舎で習うやつ)を使って問題を解き、テストを提出してしまったわけで。
猫の庭でリア先生に僕とレティだけ「二人ともバッカねぇ~!」とか呆れられた。
迎えに来たアロイス先生に理科の先生と数学の先生が掴みかかるように「この子すごいじゃないか!」とか言われてしどろもどろになってました。ごめんなさい。




