学舎 sideルカ
僕らは週末にさっそく学舎へ挨拶に行った。もう根回しは済んでたみたいで、教導師のハンナ先生という人が複雑そうな顔で父ちゃんたちを見た。
「うーふーふー…アロイス、三人もいっぺんに入舎とはね。何考えてるのかしら」
「やだなーハンナ先生。僕たち忙しかったけどようやく長期で村へ帰省できたんですよ?子供たちにも白縹の素晴らしさを体感してほしいだけですってば」
「まったく…軍属になってから隠し事もうまくなったわね!さて、ルカとクレア。よろしくね、ぜひいい思い出とお友達を作っていってちょうだい。それと…レティ!久しぶりね、ハイデマリーにどんどん似てきちゃって。三人とも、何か困ったら私に言いなさいね」
「はーい!よろしくお願いします!」
ハンナ先生はそれからまた父ちゃんたちに向き直って、「ヒマなら高等学舎の軍部セクト予定者をしごいてやってよ。コンラートとオスカーはいっそのこと学舎の運動教師になったらどうなの?」などとガンガン言い募り、あの三人を圧倒していた。
すっごいな、マリー先生の友人でアロイス先生の先輩教導師って言ってたけど…ハンナ先生にだけは逆らっちゃダメだと初っ端から理解したよ。
レティは小さい頃からちょいちょいマリー先生に連れられてハンナ先生には会っている。その度に「ハイデマリーにそっくりだわ!」と言われては可愛がられているので慣れているんだよね。
僕だけ中等学舎なのでレティとクレアとはここでお別れ。二人に手を振って、父ちゃんに連れられて歩き出した。途中でエプロンをした初老の男性に会った父ちゃんは、喜色満面の笑顔でがしっと彼の手を握った。
「ういっすエルマー!息子のルカだ、一か月頼むぜ!」
「よー、コナー!話はナディヤから通信で聞いてたよ。よろしくなルカ、俺はナニーのエルマーだ、中等と高等の宿舎の担当だよ。何でもわからないことがあったら相談しろよ」
「はい、よろしくお願いしますエルマーさん」
「ふおー…こりゃ驚いた。コナーの息子って言うよりナディヤの息子って言った方がしっくりくるな」
「どーゆー意味だエルマァァ」
「どーゆーも何も…この落ち着き方はナディヤの遺伝子だろ。コナーがこの年齢でやらかした武勇伝でもルカに語ってほしいのか?」
「すんませんっした…」
うおおお…エルマーさんすげええええ!クソコンを一発で黙らせるほどのお宝武勇伝の記憶があるわけですね!これは何とかゲットしたい情報だよ。
「おいルカ…エルマーから聞き出そうなんて思ってねえだろうな」
「何言ってるんだよ父ちゃん。僕は学舎でたくさん勉強して友達を作りに来ただけだよ?」にこっ!
「さすがナディヤにいい教育されてるなルカ!コナーの息子だっつーから身構えてたんだけど、こりゃラクさせてもらえそうだなあ~」
あっはっは!なんてエルマーさんは僕の肩をぽん!と叩きながら豪快に笑った。そして父ちゃんは「ぜってー違うだろこのバカ息子」という顔をしながらも、もう何も言わなかった。
父ちゃんは帰って行き、僕はエルマーさんに連れられて宿舎の一室へ通された。泊まり込みではないけれど、夕方に僕ら三人を誰かが迎えにくるまでの待機用の部屋だ。そこに住んでる僕の「同期生」は二人いて、放課後に遊んだり、一緒に課題をやったりできるようにしてくれたってわけ。
「ルッツ、イザーク!入るぞ~」
エルマーさんがノックして扉を開けると、がっしりした顎と体躯、赤毛に桃色の瞳をした子と、小柄だけど敏捷そうな子。こっちは黒髪に黄緑色の瞳だ。
「一か月ここの学舎へ通うことになったルカだ、仲良くしろよ」
「ルカです、よろしく」
ニッと笑った赤毛の子は右手を出して握手してくれて、「イザークだ、よろしくな!」と言った。小柄な子も「俺、ルッツ。仲よくしよ」と笑ってくれる。楽しくなりそうだなと思って僕も笑うと、エルマーさんは「じゃあな!」と安心した顔で出ていった。
「ルカ、こっちのベッドに座れよ!なあなあ、お前コンラートさんの息子ってほんとか?」
「うん、そうだよ。よく父ちゃんのこと知ってるねイザーク」
「え~…そっか、身近にいると逆にわかんないのかなあ。有名人だよ、君のお父さん」
「…すみません。きっと父ちゃんのことだからろくでもない意味の有名人なんだよね。見込みのありそうな子を運動でがっつりしごいてボロボロにしたとか、面白がって砂浜に埋めて泣かしたりとか…?」
僕が項垂れて二人に謝ると、最初にイザークが大爆笑し始めた。
「ぎゃっはっはっは!コンラートさんってそんなことすんの!?ウケるー、ルカもおもしれぇぇぇぇ!」
「え?え?」
「ぷくすー!ルカぁ、そういう意味じゃないってば!ぷすー!」
ルッツって面白い笑い方するね。いやいやそうじゃなくって。違うの?じゃあなんで有名人?
「だってコンラートさんってレア・ユニークじゃないか~。それに軍部セクトで重要な役職についてる人でしょ、エリートだもん。ぷすすー!その人がろくでもない有名人だなんて…ルカってば~」
…えりーと。
えりーとって何だっけとか、脳のどこかで「理解しちゃダメだ」と警鐘を鳴らされてる気がします。父ちゃんが重要な役職?暗殺担当…筋肉マツリ担当…自爆ネタ提供担当…
「…あ!ヴァイスの渉外長のこと!?」
「そーそー。だって今日から来るのって君以外にも統括長の娘さんと指南役の娘さんもいるって言うじゃん。エリートの子供だって言うんで、どんだけお高くとまってるのが来るんだなんて噂されてたんだぞー?」
ひえええぇぇぇ…
そそそっか、そういえば猫の庭にいるのってヴァイス統括長を筆頭に、男は全員役職ついてるんだよね。
これは逆カルチャーショックだ。あのクソコンが学舎では尊敬されてる…?その息子だって言って、もしや僕って鳴り物入りの入舎…?どーしよおおお!
「ルッツ、イザーク…僕、エリートの息子とかじゃないから…っ お願い、普通に仲良くしてくんないかなあ…?」
「ぎゃっはっは!だーいじょうぶだって!こう見えて俺とルッツは運動の成績上位なんだ。今のところは軍部予定者に一番近いから、俺たちンとこにルカが来たんだぜ?一か月しかねえのはさみしいけどさ、その分がっつり仲良くやる気満々だから安心しろって!」
「そーだよルカ。俺なんて一発でルカのこと気に入った。ルカも俺たちのこと気に入ったら、ずっとこっちの学舎にいたいって思ってくんないかなーとか考えるね」
僕はなんていうか…むぎゅっと心を引っ掴まれたような気持ちになった。今日初めて会ったのに、大切な猫の庭の兄弟ではないのに、もうルッツとイザークが大好きになってきてる。
父ちゃん譲りのサーモメーターが作動したらしく、僕は盛大に照れながら二人にコクコクと頷いた。




