夜来香 sideレティシア
ウゲツが帰ってきてからというもの、ママは興味深そうにウゲツのシャドウと自分のシャドウを見比べていました。そして「なるほどねぇ…ルカもウゲツも天才的だと思うわ、私たちが考えもしなかったほどの緻密な制御をしてる。なのに平然としてるなんてね」と感心しきり。
ふふ、私の弟はすごいに決まってる。だってルカが九歳で発現したことが「早熟もいいところ」と言われていたのに、ウゲツは更に七歳で発現させているんだもの。ルカが落ち込みそうだからそんなこと言わないけど、でも内心私は弟を誇らしく思っていた。
「地下室にいる時にさ、何回か深淵の意志の言葉も聞こえたよ。『焦るなんてバカだねー』とか言われてちょっとイラっとした…」
「えー…なんでそんな挑発的なのかしらね」
「レティの深淵の意志って、ママっぽいんでしょ?」
「ええ、優しくて厳しいっていうか…うん、ママみたいな感じだったわ」
「いいなー、なんか僕のって『軽くワルいこと考えるのが得意』って感じ。まあ責任感は強そうだけど」
「あら…ウゲツと同じじゃない。今回地下室に籠ったのだって、ルカの気持ちを絶対無駄にはしないって思ったんでしょ?」
「…レティ、それみんなにはあんまり言わない…でね…?」
んもー!ウゲツったら赤くなっちゃってかわいい!
「ふふ、もちろんよ。ウゲツの隠れた努力は家族の秘密。ね?」
「うん」
そんなかわいいウゲツと家で仲良くしゃべっていた時だった。
( んふふ、ほんとここの子たちは早熟なのねえ。主との意志疎通が八歳で実現、かぁ )
!? あれ?なんで?ダイブしてるわけでもないのに鮮明に聞こえる…
( 完全ではないけど、ある程度あなたの世界に干渉できるまでになったわ。さすが宝珠の影響力が凄まじい環境ってことね。よろしくね「輝る黄金」、かわいいレティシア。私はあなたの剣、好きな名前で呼んでちょうだい? )
剣…?えっと、あなたはガードみたいに個人の人格を持ってる?元の名前を聞いてもいい?
( そっか、ここには【朱雀】がいるものね。まあいいわ、私の元の名は【夜来香】。後でヘルゲの「ガード」に聞いてごらんなさい、「ライシャ」を知ってるかって )
そう言うとクスクス笑って「ライシャ」の気配は消えた。名前…ライシャって呼んでもいいのかしら。ヘルゲ先生やニコル先生は「ガード」とか「守護」っていう風に職業っぽい名前を付けてるのよねぇ。
でも剣とかソードだなんて呼びたくないな…
彼女のしなやかで強い気配にそぐわない気がする。
うん、ライシャって、私も呼びたいな。
次に会ったらそう呼ばせてってお願いしてみよう。
*****
翌朝、パパとママに深淵の意志とちょっと話せたよって話しておいた。もしかしたら今日の修練でもっと話せるかもしれないし、そうすると教導師であるパパに言うのは当然のこと。でもヘルゲ先生にも話して、ガードにライシャのことを聞きたいって言ったら「うは、僕も行く」と何だか楽しそうだった。
「ヘルゲ、ニコル、おはよー」
「あれ?アロイス兄さん早いね、どしたのー?」
「ちょっと面白そうなことになっててさ。ヘルゲ、以前月白の墳墓で【朱雀】を実体化させたって言ってただろ?」
「おう」
「ちょっとやってくんない?レティが話したいことあるんだってさ」
「 ? まあいいか。―ほら、出したぞレティ」
そう言うとヘルゲ先生の隣には長い赤茶色の髪をポニーテールにして、ちょっとだらしない格好でニヤニヤ笑ってる人が出てきた。
『よ、レティ。何か用かァ?』
「ガ、ガード?」
『おう。どうしたんだよ?』
私が呆気にとられていると、面白そうにガードは私の頭をぐりぐりと撫でた。いけない、ライシャのこと聞かなきゃ。
「あ、あのね。私、まだ不完全だけど深淵の意志とお話できたの。それで、彼女の名前を聞いたらイェライシャンって言ってた。ガードに『ライシャ』を知ってるか聞けって言われて…」
私の言葉を聞いて、ガードはずざーっと後退りして壁に張り付いた。そしてほっぺたをヒクヒクさせながら、脂汗を流している。
『ライシャ…?イェライシャンって言ったか、レティ…』
「うん。ガードは知ってる?」
『い…いやァ?知らねーなぁ…?』
「おいガード。その態度は知ってるけど言いたくないと全身で表してるようなものじゃないか。マスター様に隠し事か?」
『うるせぇ!おいレティ、俺はそのライシャっつうお前の母ちゃんそっくりの女なんて知らないけどな、俺のこと聞かれても【朱雀】って名前をバラすなよ、わかったな?』
「うーわ、テンパってるとガードもひどいねえ。語るに落ちるってやつだよ、思いっきり知ってるじゃん」
『ンだよ輝る水!』
「レティ、ライシャが何て言ったか正確に教えてあげた方がいいよ…ぷふ…」
パパが楽しそうにS丸出しの顔をしてるわぁ…じゃあ教えてあげようっと。
「あのねガード。ライシャは『そっか、ここには【朱雀】がいるものね』って最初から言ってたわ。もう知ってると思うけどぉ」
『あの女豹めぇぇぇ!また俺をイタぶるつもりかあああ!』
ガードは頭を掻き毟りながらのたうちまわっていて、パパは「面白いもの見れた~、満足満足。ありがとねヘルゲ~」って言いながら私を連れて玄関を出た。
ドアが閉まる直前、ヘルゲ先生が「アロイス、ガードが使い物にならんぞ…」と苦い顔をしているのが見えました。
結局ライシャって何者なのかしらね?なんだかちょっぴりガードに悪い事をしたような気分になっちゃった。




