早熟な私たち sideレティシア
ルカがレア・ユニークを発現してから二年が経った。彼はその後順調に安定した能力を発揮し、筋肉マツリではインビジブルを主軸とした作戦立案がクレアやレビの間では当たり前のようになっている。
しかもレイノの「精神混合」を駆使しての連携攻撃まで加わっているというのに、未だにあの三人を打倒できないというのは実戦経験の差なのだろうか。
もちろん今では最年少の七歳児組もとっくに筋肉マツリへ組み込まれており、私たちはいつでも最大戦力の最大火力(スザクの高火力魔法は制限されているけど)で挑んでいる。
でも進歩した部分もあるのよ。
以前はカイさんもカミルさんもコンラートさんも、「移動魔法は使わない」「リンケージグローブは使わない」「質草を持っている者は基本的に動かない」というハンデをつけて私たちの相手をしていた。
けれど今ではそのハンデのままでは相手しきれないところまで私たちの能力が上がったということで、現在のハンデは「移動魔法を使わない」のみになっている。
まあ、そのハンデがあるうちは私の出すハイカーボン鋼の檻も有効だから助かる。それにしても最近になって知ったけれど、世間ではこんな精密な移動魔法があるなんてまったく知られていない。グラオのメンバーや秘密の守れる人にだけ魔石が渡されていて、マナ固有紋でロックしてあるって言うんだから呆れてしまう。
だって私たちには「お前ら移動魔法を持ってる俺たちみたいなのを相手にするなら、どう戦う気なんだ~?」なんて言って、クレアをウンウン悩ませたのよ?そしたらあの移動魔法はヘルゲ先生が改良した変態技術のたまものだって言うじゃない。
じゃあどんな犯罪者だってそんな移動魔法で逃げる確率はほぼないじゃないの!
まあ後から「デミには制限付きで一回だけ使える精密な移動魔法がある」とわかったけど、それにしたってあれはマーカーとなる魔石を目的地に置いておく必要があるんだもの。グラオの移動魔法みたいな反則性能じゃないのは確かだわ。
そんなわけで、それでも未だに私たちはあの三人に勝てないでいるんだけど…
恐ろしい事にあまりにも筋肉マツリが常態化してしまったので、ユッテ先生もオスカー先生も段々遠慮がなくなってきてるのよ。特にユッテ先生は私の剣舞を見ては「いいねェ…最高だよレティ」と舌なめずりするようになった。
おかげでヒマがあると私はユッテ先生に「マナで剣を操るのではなく、自力で剣を振るう訓練」をされるようになった。セリナさんに教わっている剣舞は、子供である私の身長や手の長さでは難しいこともあって、マナで操っていても容認されている。それが「自分よりも大きな人間相手」の攻撃に有効なものだから、筋肉マツリで多用していたの。
でもユッテ先生は「それもいいけどさ、結局最後は自分の体に覚えさせた技術が大切ってこともあるんよ。レティは剣術に関して才能のカタマリだと思うから、どうせなら両方極めればいいしー」と軽く言った。言われた時はすごく高い目標を作られちゃったわなんて思ったけど、よく考えたらユッテ先生の言うことはもっともだった。
戦場で頼りになるのは、結局自分自身だものね。もし意識が朦朧としていてマナがうまく操れなくなったとしても、咄嗟の時に体が覚えている技術で身を守れるかもしれないんだもの。そう思って、今では本当に真剣にユッテ先生にも教わっている。
*****
そういえば半年ほど前に、ウゲツはレア・ユニークを発現させました。能力はやはり予測されていた通り、ママの能力の発展型とも言える「影」です。ママはシャドウを一体しか出せないのですが、ウゲツは制御力が上がれば上がる程人数を増やし、この半年間だけで三人はシャドウを出せるようになりました。
シャドウはモデルにされた本人とマナの線でリンクを張られ、およそ本人がとるであろう言動を自律的にしてしまう分身です。しかもウゲツのシャドウは「相互リンク」でも繋がることができるので、シャドウの言動をモデル本人が操ることも可能。本物の「影武者」というほどの品質なんです。
えーと、ルカがレアユニを発現させた時の大騒ぎほどの注目度じゃないのはかわいそうじゃないかって思います?でもその、本当にウゲツったら平気な顔をして制御してしまったんです。
ルカのレアユニ発現時のことを経験会議で体験し、コンラートさんの経験を聞き、もちろんママはウゲツの能力が発現した時に自分の経験を事細かに、赤裸々にウゲツへ話して聞かせてあげてました。
それらは全てウゲツが希望して聞いたのですが、やはり何よりルカの存在が大きかったとウゲツは言いました。「彼が身を挺してレア・ユニークを発現するというのがどういうことなのか、それを教えてくれたから僕は大丈夫」と笑顔で言ったウゲツのそばには彼の生首が浮いており、ステレオ放送のようにウゲツと同じ表情で同じ言葉を語る。
ウゲツはその生首と仲良さそうに笑い合い、顔を見合わせて「ね、僕は君のこと受け入れるよ。だからどうしたら君と一緒に強く生きていけるか、考えよう?」と言って、みずから地下室へ入りました。
ウゲツの能力から言って、ちょっと周囲が生首に驚くだけだし、地下室へ籠る必要はなかったはずです。でもウゲツは「ルカと同じように頑張りたいんだ。僕だって負けない能力持ちになってやるよ?」と言って修行のつもりで気楽に地下室へ入りました。
でも結果的にそれで集中力が増したようで、彼は四か月で制御をものにして出てきました。その間ルカのように憔悴することもなく、食事も睡眠もきちんと取り、健康的な状況で意気揚々と戻ってきたんですよね。
パパはほんとに呆れたように「こんなに健やかなレア・ユニーク発現者の例は初めてなんじゃないかな…」と言いました。ウゲツは出てきた時にコンラートさんとママ、ルカへ深々とお辞儀をして「三人のおかげだよ。僕は三人の辛さを踏み台にしてここへ来られたんだ」と真剣な顔をして伝えていた。
コンラートさんは「ハッハー、お前も心配し甲斐のねえ奴だ。強ぇ男は好きだぜー?」と頭をぐりぐり撫でまわし、ママはウゲツに微笑んで「さすがね、私の息子は最高の男じゃなぁい?」と言い、ルカは「約束守ったなーウゲツ。さっすが!」とハイタッチした。
―地下室から戻ってきた日の夜、ウゲツはそっと私の側へ来てぽつぽつと話した。「レティとルカにだけは白状する。ほんとは地下室でけっこう泣いた。あんまりにも高度な制御が必要で、でも負けたくなくて、もどかしくて…シャドウに八つ当たりみたいに喚き散らしたりもしたよ。で、そんなことすると余計に自己嫌悪になるんだ。こんなに恵まれた状況で、何も辛い事なんてないのに、制御できないだけでこんなに荒れてって思って。情けないや」
ウゲツはそれでも死にもの狂いで制御し、たぶんシャドウの人数はこれからも増やせると確信した。それが、二か月目のこと。そしてルカのように高度な目標を掲げて相互リンクできるように改造してから戻ってきたのが四か月後のことだった。
こうして私たちは、後から考えればかなり早熟だったけれど全員が能力を開花させて動き始めていました。
そしてこの年からは大人たちに「自然の体現者ショック」と変な呼び方をされる期間を迎えます。
その第一陣は、もちろん一番年上の私から始まったのでした。
ルカ11歳
レティ10歳
スザク ライノ レイノ ニーナ ノーラ 9歳
クレア8歳
アオイ ウゲツ レビ 7歳




