【閑話】 敗者罰ゲームの時間
カミルの頭上へ音も無く舞い降りる影が、手刀を繰り出しながら襲い掛かった。
「―…シッ!」
歯の間から漏れ出た小さな音が聞こえる寸前で、カミルはぬるりと動いてその影を絡め取った。そしてそのままスモール・パッケージ・ホールドで押さえ込む。
「レイノ~、お前気配の消し方はお粗末もイイとこじゃねえか?」
「ふんぐぅぅ!」
「うおーい、アルマ!」
「はぁ~い」
「この天井向いてる尻に『惨敗』って書いてくれ」
「わぁお…レイノ、ごめんねぇ。勝負の世界は厳しいね~」
【ビンゴワースト三位レイノ:尻が斬新に惨敗】
*****
カイがソファへ座った瞬間、座面の下から何者かが足首を掴んで引き寄せた。そのまま片足をロックした状態でむこう脛へ手刀が繰り出された。
ゴッ!
決まった!と思った瞬間、カイの足の筋肉がぶるるっと震えるように揺れ、手刀は硬気功で跳ね返された。
「ふんぎゃ!いでー!」
お返しとばかりに足首を掴まれてずるーっとソファの下から引っ張り出されたライノは、いい笑顔のカイに「いやー、お前ちょっとアホな。隠行のオの字もねーわ。そっち方面はアルマとコンラートに習っとけ」と言われて涙目で痛めた手をさすっている。
「おーい、アルマ~!」
「はいはーい?」
「こいつの腹によー、『本日の釣果』って書いてくれ」
「え~?何か今日忙しいなァ!ごめんねライノ~」
ライノを逆さ吊りで片手に持ち、大物カンパチでも釣り上げたかのようなドヤ顔のカイであった。
【ビンゴワースト二位ライノ:釣られ無駄腹筋】
*****
足音を忍ばせて、薄暗い厨房へ忍び込んだ何者かはほくそ笑んでいた。
「へっへ、何もアロイスとナディヤがいる時に危険を冒す必要はねえ。俺様天才」
いつもはきれいに片付いている厨房だが、週末は猫の庭でアフタヌーンティーを楽しみたいという要望が出ることが多い。そこでアロイスがクッキーやケーキ、スコーンを焼いては程よい温度へ冷ますために大理石の作業台に置いておくことがある。
普段は報復が恐ろしいので滅多なことではつまみ食いなど誰もしない。何よりそれをしたが最後、おいしい食事と数日オサラバという割に合わない制裁や、もっと酷いとミニニブルヘイムでガクブル震えながら下半身氷漬けという追加ダメージが加わるのだ。
しかし恐怖を押し殺してでもやって来なければいけない罰を受けたその者は、まともにつまみ食いを敢行してその場で叱られればいいものを、わざわざ「誰がやったかわからないようにしよう」というコスい考えで悪手を打った。
そっと一つのクッキーに手を伸ばし、まだ少し熱いのをがまんしてポリッと噛んだ瞬間だった。
「あははー、一番やっちゃいけないパターンだったねぇスザク~」
「ふんご!?」
フィーネの捕縛方陣によるエビ固め。お仕置きレーション子供味(改)を口内へ追加した後でアルマご推薦強力ガムテープによる口腔封鎖。星型乳首(ピンク)への換装。さらにヘルゲへ接続してガードに考えさせた古代文字で、腹筋へ【完熟阿呆】と油性ペイント方陣で銘打った。もちろんこれらはアロイス一人が各人へリンケージ・グローブで接続しまくって行使している。
ちなみにお仕置きレーション子供味(改)は「スッパしょっぱ油粘土味」へとバージョンアップされ、その絶妙な塩加減が油粘土の風味を引き立たせる名脇役となっていた。
「ごふおぉぉぉ!」
彼はそのままヨアキムの翼で神への供物の如くしずしずと運ばれ、ビンゴ勝者のティータイムへ彩りを添えたのだった。
【ビンゴワースト一位スザク:自爆クリーチャー完熟モン阿呆味】
*****
後日、アルマによって三つの額縁が飾られたが、隣には更に大きな額縁があった。顔面に悪霊退散の勇ましいペイントを施し、左腕に「ナディヤLOVE」、右腕に「全身消しちゃうゾ☆」、胸に古代文字で【焼肉定食】【糞根羅亜屠】という尖ったナイフだか食いしん坊だかわからない内容が書かれ、モストマスキュラーポーズで全ての文字をきれいに見せた透明化のレア・ユニーク保持者の姿があった。
糞根羅亜屠、読めました?(*´ー`)




