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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
自分を知りたい子供たち
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帰還 sideレティシア






週末の朝、私たちは水晶の修練ルームへいつものように歩いて集合しようとしていた。朝ごはんはパパのふわふわパンケーキにレタスとハム、チーズを挟んだもの。コーンスープとアオイの育てたオレンジを絞ったフレッシュジュースもおいしかったわぁ。


でもスザクとライノ、レイノは「米…米を食わないときっと俺たち特訓で倒れるぜ?後でやっぱおにぎり作ってもらおう…」と言っていた。そうね~、週末も何だかんだとカイさんたちに扱かれてるから、この三人。


ドヤドヤと修練ルームへ入っていくと、先頭にいたアオイが急に「うわぁぁぁん!」と大声で泣いた。後続のみんながぎょっとして部屋へ走り、その光景に立ち竦んだ。


「ごめんねアオイ、ウゲツ、レビ。ほんと心配かけたよ、ごめん」


記憶にあるよりも随分痩せて青白い肌をしている。コームで前髪を上げて後ろ髪を一つに結わえているルカに、アオイが泣きながら抱きついていた。両隣では泣くのを必死に堪えてぷるぷる震えているウゲツと、泣き笑いしているレビ。


そして入り口で立ち尽くしていた私たちの方へ視線を向けて、二カッとルカは笑った。


「みんな、ただいま。いーっぱい戦術の幅が広がるお土産もってきたよ」


最初に動いたのはスザクとライノとレイノだった。スタスタと歩いていってルカと四人でこぶしをゴンッと突き合った。


「おけーり兄貴。後でカイたちに扱かれに行くんだけど一緒にどーよ」


「ライノ、ずいぶん筋肉質な感じだなー。今からそこまで鍛えたら背が伸びないよ?」


「そこは俺もライノも加減してるさ。中等になってから本格的に筋トレするし。たぶん俺たち、発勁だけならルカの先を行ってるぜ?だからぜってぇ後で一緒にやろう」


「うっは、レイノもすっごいなー。わかった、一緒にやるよ」


「俺さぁ、ちっとやりすぎて魔法の威力強くしすぎちまったんだ。水属性だけなら戦術に組み込めるけどよ、他のはまだ殺しちまうから使用禁止。だから俺もカイたちに教わってんだ」


「…わーお…確かにそれはヤバい。一緒に魔法制御の訓練がんばろうね、スザク…」


三人と話すルカを見て呆然としていた私の手をクレアがきゅっと握り、目を合せてふわりと笑った。私も握り返して「よかった…」と二人で言い合う。私はルカの代わりに「みんなのお姉さん」として、クレアは「みんなの司令塔」としての役割をずっと意識していて、お互い支え合っていたっていう気持ちがあるから。


で、ふっと目の前を見たらニーナとノーラが「ふえぇぇぇ…」と弱々しく泣いていた。二人はルカの為にどうしても何かしたかった。でも私たちのほとんどと同じく、何もできなくて。悔しくてもどかしかった気持ちをルカからの「お願い」に全てぶつけ、たぶん魔法の難易度で言ったらS級とも言えるユニークミックスまで編み出した。だから、堰を切ったように泣くその気持ちがよくわかるわ。


「ニーナ、ノーラ。ルカにがんばったよって言ってらっしゃい、ね?きっとすごく喜ぶから」


「「…ひっく…う、うん」」


ルカはニーナとノーラにおいでと手招きして、二人の頭をくりくりと撫でた。


「二人ともすっごいじゃん。大興奮したフィーネ先生から通信で聞いたよー、ヴェノムとキュアを譲渡できる史上初の方法を二人が編み出したって。僕が想像してた方法より実用的だし、何よりインビジブルとの相性がいい。二人の擲弾兵としての価値が爆発的に上がったじゃん」


「「うん、がんばった…うえぇ…」」


「ルカがいなかった間に相当みんなの状況が変わっていますよ。戦術も幅が広いなんてものではありません。ルカも戻って来たし、来年度五歳児組が筋肉マツリの対象になったらと思うと楽しみになりませんか?」


「ぶは、ほんと!? クレアがそこまで言うなら、もしかして僕ら筋肉マツリで初勝利も夢じゃないんじゃないの?うーわ、僕が速攻でみんなの状況把握しないとヤバいなー。みんな教えてね」


「ルカ兄ちゃん、そこは問題ないよ。ライノ兄ちゃんの『経験会議エクスペリエンス・カウンシル』なら一瞬なんじゃないかな」


「レビ、なにそれ」


「まあまあ、そこはよ、やってみてのお楽しみだって!」


「なんだよライノ~、自信満々な顔だなあ。じゃあそれも頼むよ」


ようやく泣き止んだアオイはえぐえぐ言いながら「アオイもね、猫さんとこよーけいやくした…」と言い、ウゲツは「ルカ、僕も少しだけ進歩したつもりだよ。僕も精霊魔法使いだった」と照れながら申告した。


ルカはうんうんと頷いて二人の話を聞き、私とクレアは手を繋いでルカの方へ歩いていった。


「レティ、調子はどう?」


「ふふ、絶好調だけどぉ?後でハイカーボン鋼の罠を作るから見てくれる?それをインビジブルで消して、コンラートさんを捕獲したいってクレアと話してたの。それさえできれば檻も作れるわ。でも生成に三秒弱かかるから、捕獲することが前提条件よ」


「うわっは!いいねー、さすがレティだ!」


ルカは全員と声を交わし、久しぶりに見る晴れた空みたいな笑顔になった。

ああ、ようやくルカが帰ってきたんだと、全員が思った。





*****




みんなに囲まれて笑うルカを見て、私は心底ホッとしていた。その気持ちに気付いて「まだルカに甘えてるわ、レティ」と自分を戒める。すると私の内側から深淵の意志が囁いた。


( 今くらいはいいんじゃなぁい?素直にルカの帰還を喜ぶ心は弱さじゃないわよ? )


…そっか。そうよね、何でもかんでも「強くなくちゃいけない」だなんて、それは強がりってことよね。本当の強さって、きっと違う。ありがとう。


( ふふ、『ひかる黄金』は素直で素敵。それでいいのよ )


そう言うと、深淵の意志は気配を消した。

最近、ほんとに少しずつ「彼女」と話せることが増えてきたの。

なんとなくママに似た雰囲気の彼女は、私に「強さって何なのか」ということを教えてくれる存在だと思う。私、いつかきっと彼女とは一緒に肩を並べて戦って行ける親友になれそうな気がする。だから今は自分を磨くの。彼女に認めてもらえる自分になるために。


そんなことを考えて、自分の内側へ沈んでいた私と隣にいたクレアのところへルカがやってきた。少し大人びた雰囲気を纏うルカは、通信で見るよりも更に「彼は変わったんだ」と思わせた。


「レティ、ありがとね」


「―私、ルカに何もしてあげられなかったわ」


「ううん、みんなにはたくさん助けてもらったんだよ、本当に。それにレティは僕がいない代わりにクレアとがんばってくれたんでしょ?―わかってるつもりだから。ありがとうレティ」


ルカはこういう所が優しすぎて困るわね。危うく泣くところだったわ。


「ふふ、じゃあルカのインビジブルで今度こそ筋肉デビルに一泡吹かせてくれるわよね?それが一番のギャラだわ」


「もちろん!―クレアも、ありがとう。レビと君には一番大変なお願いしちゃったと思ってる。それにきっとクレアのことだから寝不足になるほど本を読んで叱られたりしなかった?」


「…はぁ、ルカはお見通しですか。ちょっと夜更かしし過ぎたら、ママに次の日は読書も図書館も禁止の罰を受けました。あんなにつらい一日はありませんでしたから、もう夜更かしはしません」


「ぶは!やっぱりぃ~!それにレティもさあ、気持ちを張りつめすぎてマリー先生に注意されたでしょ」


「…もう、ルカはそういうところを見透かすのやめてくれるぅ?私はクレアみたいに一度の注意で直せなくって、何回も叱られたわぁ」


私とクレアは情けない顔でルカに白状させられ、三人で顔を見合わせて吹き出した。


ようやく、「私とクレアのルカ」も帰ってきた。






  

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