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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
自分を知りたい子供たち
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クソコンと、アル sideルカ

今話にはThree Gem - 結晶の景色 -の中でアルノルトが留学中に経験した話がごっそり語られます。

「もう内容忘れたわー、何の話かわからんわー」となったらすみません(´д`)


「宝石の旅路」の章にある299話「カナリアの祝詞」から306話「慟哭」までがアルノルトサイドでのミロスラーヴァさんの話になります。






僕が地下室で生活するようになってから、そろそろ五か月くらい経つ。もうすっかりインビジブルの制御はできるようになってるよ。どんなに細かいものでも、僕が消えろと思ったものしか消えないし、出て来いと思えば即座に解除されて見えるようになる。


制御できるきっかけになったのは、マナをしっかり感じ取ることに意識を向けてからだった。それまで僕は消えてしまった床や、奈落へ続く大穴に向かって「出て来い」なんて言ってたんだけどね。よく考えたら僕が垂れ流しているインビジブルのマナがそこにあるから消えてるんだって気付いたんだよ。


それで消えてしまっている空間にある青紫のマナへ向かって「誰の許可を得てそんな場所にいるんだ。戻れバカ野郎」って凄んでみたんだ。そしたら、その場にあったマナの大半がすーっと戻ってきて、穴の深さは一メートルにも満たないものになった。


そこからは早かった。マナを見つめて命令し、まるで王様にでもなったかのように「僕が僕を支配する」と強く心へ根付かせた。支配し、コントロールし、この不可視のマナの群れを統率するのはこの僕だ。


でも自分自身を消すのにはかなり苦労した。僕の能力はたぶん「人の肉体以外のものを消す」のがデフォルトであって、もしここまで僕自身に「自分も他人も消せるように」という強い意志がなければ、顕現しない能力だったんだと思う。





でも父ちゃんに聞いたんだ。

マリー先生は幻影とは別に秘密の能力である「シャドウ」というのを出せる。ヨアキムの魂を陶器の人形へ固定させて自由に動かすために、マリー先生はそのシャドウを見事に改造したんだ。


その経験があるから、ヴァイスの統括長として忙しいアロイス先生の影武者を作ることだって出来るようになっている。


―レアユニ能力の改造。


それをやるとマリー先生が決めた時、父ちゃんはすごく心配したそうだ。必死な思いで制御に成功した緻密なレアユニ能力は、ひとえに本人の制御能力に全てがかかっている。そのバランスを崩しかねない改造という行為は、マリー先生にもう一度苦しみを与えることになりかねないと思ったって。でも僕は父ちゃんが真剣に心配してくれているとわかっていても、絶対にやってみせると言い放った。


「どうしても自分も他人も消せるようになりたいって願って訓練していたらいけると思うんだ。今現在、僕は制御できるようにバランスを取ろうと四苦八苦している真っ最中なんだから、同じことだよ。でしょ?」


「簡単に言いやがるなァ、ルカ。言っておくが、ハイデマリーは『高度百メートルの綱渡りの達人だったが、その綱を絹糸に変えても渡りきった』っつーくらいのことをしでかしたんだ。お前はそれを『最初から絹糸の綱渡りをしてみせる』って言ってんだぜ?」


父ちゃんは少し顔をヒクつかせながら言った。うん、僕もわかってるつもりだよ。自分がどんなに荒唐無稽なことを言ってるのかもね。でも、それでも、僕は堂々と猫の庭へ帰りたい。あんなに泣かせたみんなへの特大のお土産を持って、凱旋してみせる。だから、やっぱり僕は自信満々に父ちゃんへ言い放つ。


「僕のこと見縊ってないかな、父ちゃん。僕は、コンラートとナディヤの息子だ」


ふんす!とリア先生を真似て鼻息荒く腕組みをして。何か文句でも?何か問題でも?という顔で父ちゃんを睥睨してやった。


「ぶっは!だーっはっはっはっは!おま…お前ぇぇ…いいぞー、マジ出来るようになったら何でもお前のいう事一つ聞いてやらあ!」


「言ったね父ちゃん?僕は『顔面悪即斬・筋肉自慢の乳首スター』を忘れてないよー?」


「おー、どんと来いやー。ちゃんとポージングきめて特大の額縁に納まってやんよー。それとお前、猫の庭に開けた大穴直しとけや。ついでに俺とナディヤの消えちまった服と小物な。この座標にあるからよ、遠隔でできるようになってみせろ。―楽勝でできんだろ?俺らの息子なんだからよ」


「うっは…鬼かよクソコン」


「ぶぅっくっく!んなことわかってただろ、バカ息子が」


父ちゃんは上機嫌で難易度をがつっと上げ、帰っていった。

そんな経緯を経て、僕は遠隔で出したり消したりも集中すればできるようになった。そしてまだ他人を消せるかは分からないけど、自分自身を消すことにも成功した。


あんまりにも嬉しくて、「自分自身を消して、服は消さない」という荒業を繰り出して父ちゃんの度胆も抜いてやったよ。ざまぁ、クソコン!





*****





そろそろ自信を持って猫の庭へ帰れるぞって思ってた六か月目のある夜、ヘッドセットに通信が入った。


『ルカー、今からそっち行くけどいい?』


「アル!いいよ、大丈夫」


アルはデボラおばあちゃんから預かったという虎猫亭の限定大福を持ってやってきた。


「すごいじゃんルカ、めちゃくちゃ緻密なマナになってるよー。波が滑らかな絹みたいだ。あの原始のマナ・・・・・もさらに細かい粒子になっちゃってー」


「原始のマナ?」


「うん、そのことも含めてさ、ルカに伝えようと思うことがあって来たんだ。久しぶりに秘密の満月見にいこ!外に出るの久々だろー?」


僕は確かに半年間も地下にいたから、かなり生白い肌になっている。制御できるようになってからは、天井を一部消して日光浴するようにしてたんだけどさ。たぶん直射日光じゃないからいけないんだと思うけど、イマイチ不健康そうなままなんだよねー。


それにアルと秘密の満月を見に行くのも久々だ。僕は嬉しくなって、アルと一緒にガードへ乗った。


「今日はさー、特別な満月なんだ。ほら」


まだ低い位置にある月は、熟れた果物みたいな赤い月。でかくて、何かを飲み込みそうな月。でも僕はなぜか、昔っから少しも恐ろしく感じないんだ。


「この満月、アルは大好きだよね」


「へっへー。あの月はね、俺がフィーネと同じくらい愛しいと思ってる人の魂を連れていってくれたんだ。だからあの月をみると、すっごい愛しい気持ちが溢れるんだよ」


「フィーネ先生と同じくらい!?だってアルはめちゃくちゃフィーネ先生のこと大好きじゃん、どういうこと!?―でもその人、死んじゃったの?」


「うん、寿命でね。俺がミロスラーヴァさんと過ごせたのはたったの四日間だった。でも、今でも胸を張って言えるよ。俺はその人がフィーネと同じくらい大好きだ」


「ミロスラーヴァさん?寿命…四日間?」


「でさ、俺はいつか絶対に、ルカにはこの記憶を見てもらいたいと思ってたんだ。見てくれるかな?」


「なんかよくわかんないけど…アルの大切な記憶なんでしょ、いいの?」


「あは、俺がルカに見てほしいんだよ。見終わったら、ちゃんと説明する」


そう言うとアルは、僕の手首に簡易リンケージグローブをつけた。それはカミルに接続するものみたいで、共鳴を発動してと言われた。


―たぶんこれは何年も前のこと。アルが出会った金糸雀の最長老様が四日後に死んでしまうとわかって、必死になったアルの記憶。何年も前なのにいまだに色濃く残る、愛する人の、記憶。


胸が締め付けられるほどの切なさと、偉大な人生の終焉と、その人をどんなに好きかというアルの心。小さな望みを叶えるために奮闘したアルは、森で吠えた。それは、僕がみんなの会議を魔石で見た時のような咆哮、だった。


僕はアルに共鳴を切られるまで、絞るように胸のあたりのシャツを握りしめていたのに気付かなかった。泣き顔なんて見せたくなかったけど、これは…切なくて愛しくて、苦しかった。


気が付くと赤い満月はもう高度があがっていて普通の月になっていた。まるで本当に今、昇仙の儀式が終わったかのようだった。


「この人に俺を出会わせてくれたのは、ルカなんだよ?」


「へ?僕、ミロスラーヴァさんのことなんて知らないよ…」


「―ラック・チェインだよ、ルカ」


「はい?占術ユニークの?だってこの時僕ってまだ一歳か…二歳?」


「そーだよ。ルカが俺にラック・チェインをかけたのは、二歳になる直前。その後俺は留学して、トビアスたちやミロスラーヴァさん、インナさん、ダンさん、ユリウスたち…みんなに、出会った。ルカ、俺はね、君に命と、それ以上の宝物を貰ってる。一生かかったってその恩を返せるかどうかわからないほどのものを、ルカから貰ってるんだ。―あのさ、さっき俺、『原始のマナ』って言ったじゃん?」


「うん」


「それはラック・チェインをかける時にルカが無意識に操っていたマナだよ。ルカは大切な人が悲しい思いをしないように、幸せな人生を歩めるようにと願う力がある。そんな力があるなら自分にそれをかけておけば、今回みたいなツラい目になんて遭わずに済んだのにって思うかもしれないけど。それでも俺は言うよ、今回のことはルカに必要なことだった。だって今、ルカはすげーデカい男になってるじゃん。俺の大切な恩人の、かわいい甥っ子のルカは、俺たち猫の庭全員の自慢だ。その強くて優しい心を、未来へ持っていってくれよ」


アルは少し照れながら、「偉そうなこと言ったけど、これだけは絶対ルカに伝えようって思ってたんだ」と言った。そして僕のくしゃくしゃの泣き顔に負けないほどボロボロと泣きながら、「俺って泣き虫だけは直らないんだよなー、かっこつかないよー」と泣き笑いになった。





このことがあってから僕は、あと半月ほど残っていた地下室での生活をラック・チェインのマナを感じることにも費やした。


そして地下室を出る直前に、アルが言っていた「原始のマナ」を少しだけ制御することに成功したのだった。





  

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