知識を知恵に sideレビ
レビでーっす。
俺とクレア姉ちゃんはみんなのブレーン扱いだから、二人でどんな風にルカ兄ちゃんのいない時期を過ごしたか説明しまっす。へへへ、ブレーンだって。照れちゃうなー。
えーっと、まずは俺ね。
俺はクレア姉ちゃんと違って一度にいくつものことを同時に考えたりできないからさ、「着実に一歩ずつ」をモットーにやってるよ。
俺は宝玉組みたいに広大な演算領域はないし、ユニーク保持組みたいに制御が抜群てわけでもない。じゃあ何が得意かって言ったら、マギ言語でのオリジナル方陣作成や、既存方陣の保持、それとマナから様々な情報を貰うってこと。
そこから何を自分の持ち味にしていくかっていうのは、いろんな人に相談したよ。もちろんパパやママ、デボラおばあちゃんがメインだけどね。マギ言語はまだ全部の単語や文法を覚えきったわけじゃない。だからオリジナル方陣を作ってもちゃんとパパに確認してもらってからじゃないと展開しちゃいけないんだ。
でもいくつかパパから許可の出た物もあるんだよ。一番便利なのは「体力回復の方陣(小)」と「外傷治癒の方陣(小)」かな。えっとね、猫の庭って治癒師がいないんだ。だからケガとかすると白縹の村にある治癒院やヴァイス専属の治癒師さんにお願いしてるんだよね。
さすがに大ケガの治療ができるほどの方陣は作れていないけど、転んだ擦り傷くらいならこの方陣で治せるんだ、すごいでしょ。これ作った時はパパが「これは盲点だー、すごいなーレビ!」と褒めてくれて嬉しかったよ。
実はこれね、デミの治癒師のキキ姉ちゃんにヒント貰ったんだよ。キキ姉ちゃんてほんっとすごい人でさあ、ケロッとした顔で大ケガした子を治しちゃうんだ。一度だけママと一緒に「オピオンの詰所」って姉ちゃんが呼んでる場所へ行ったら、ボッコボコに殴られてげちょぐちょの顔になった子が担ぎ込まれてきてね。
あの時のキキ姉ちゃん、かっこよかったなー…
ものすごく繊細なマナのコンチェルトとオーロラだった。たぶん俺じゃ計測できないほど高度な走査方陣を一瞬で展開して、患者の状態を把握。出血箇所を特定して即座に止血し、内臓の治癒も数秒で完了させた。
傷口に何か細い管みたいなものを結界で作って刺した時はびびったけど、次の瞬間にはバケツの中にバシャッと濁った体液や血液が出てきて驚いた。
ケガによる出血が体内に残ってたのを強制排出したんだって。普通は治癒院でドレーンとかいう管を付けてゆっくり負担にならないように排出するんだけど、デミではそんな悠長にやってらんないらしい。
そんな風に一見乱暴にも見えるほどの素早さで内側の治癒を済ませたら、速攻で外傷を治した。そして造血魔法をかけて終了。後は栄養の補給が上手くできれば大丈夫らしいけど、それをなかなかできないのがデミなんだって少し悲しそうだった。
でも俺、感動しちゃってさ。その時のマナが忘れられなくて、ついマナの波に「キキ姉ちゃんみたいな治癒魔法ってできるの?」って聞いちゃったんだ。俺のマナ感度や制御力がキキ姉ちゃんの足元にも及ばないから、出来上がったのはちっちゃいケガを治す方陣だったけど。
体力回復の方陣はユリウスにこっそりかけてるの見たから作れたんだ。キキ姉ちゃんってカワイイんだよー、「ユリウスお疲れ様」って思いながら治癒魔法かけるんだ。―あ、これママに「人の心を簡単に暴いてはいけない」って言われてたんだった…ごめんなさい。
まあこれがマギ言語で方陣を作った成功例の話かな。許可が出なかったのは「からくり傀儡の方陣」とか「自動拡大迷路の方陣」とかかな…ママの傀儡の方陣とかアロイス先生の迷路の方陣の進化版だったんだけど、デボラおばあちゃんが「これは危険だからヤメロ」って青い顔で言ったからお蔵入り。
ママの傀儡の方陣って頭部や四肢の動きにレベル設定するんだけど、俺のは「頭脳レベル」っていうのも設定できる。要するに目的に沿った行動を勝手にできる傀儡ができたんだけど、「ヤバいから」ボツ。
アロイス先生の迷路は目的地にたどり着けないように軽微な心理魔法をかけて翻弄するんだけど、俺のは「引っ掛かった人物の危険度に応じてアリ地獄みたいに迷路が拡大する。もし殺人目的の敵がかかれば一生出て来れないくらいの迷路になる」ってやつ。まあこれも「ヤバいから」ボツ。
まだまだだよねー、俺も。
オリジナル方陣を作る加減がまだわかってないっぽいので、今は図書館で見られる既存の方陣を自分の中に溜めこんでる。俺の心の中ってね、でーっかい結晶の葉っぱがごっそりついてる大木があるんだ。紺色の湖の中に島があって、そこにどーんと生えてます。んで、その青緑の結晶の樹には金色の小鳥がたーくさんいるんだよ。
その葉っぱ一枚一枚へ丁寧に方陣をしまっていくと、自分でも驚くくらい修練でのお片付けがスムーズなんだ。なので図書館にある方陣はなんとか全部整理できたと思うよ。後は自分のマナ錬成量や制御の問題だからさ、使えないのもあるけど方陣を保持してるだけでもいいかなと思って。
でもある時ママに「そう言えばレビは方陣の勉強も熱心にしていたね。君の宝物はどれほど増えたんだい?」なんて聞かれたんだ。だから素直に「保持してるだけなら図書館にあるもの全部保持できたよ。まだ今は制御が甘いから百二十種類くらいしか実際に出せないけど…」と答えた。
未熟さを露呈してるようなもんだから恥ずかしくなって、最後の方は尻すぼみになっちゃってさ。でもママはそれを聞いて「―ぼくの保持量とケタが違う…っ そんな…」と項垂れ、パパに慰められていた。なんかごめんなさい。
*****
次はクレア姉ちゃんね!
もー、俺はほんとにクレア姉ちゃんには敵わないよ。運動神経抜群でいつも姿勢のいい立ち姿で微笑んでるクレア姉ちゃんは、どんだけ知識を詰め込めば気が済むんですかって言うほど大量の本を読む。
俺たちマナ同調者から見るとさ、ほんとにそれが本人のダイブした光景と同じかはわからないけど、「その人の心の景色」が見えることはよくあるんだ。例えばウゲツなんかは色んな温度差がある氷の平原と流氷がたくさんある大海原。あまりに広大で迷子になりそうなんだけど、光が乱反射して眩しいくらい。
アオイも宝玉だからすーっごく広い。乱雑に生えてるようにも見える鬱蒼とした大木の森を乗せた、キラキラ光る雲海に浮かぶ巨大な島。水晶の墳墓がある月白の霧雨台地みたいなんだ。
そういう「自然の体現者」たちの心を見て圧倒された後にクレア姉ちゃんを見ると、俺は一気に自分の心が落ち着くのがわかる。
静謐、という言葉が似合う。
何万、何千万という膨大な蔵書量を誇る巨大なトパーズの書架。
まるで猫の庭の螺旋階段を下から八階まで見上げた時みたいな気持ちになるその書架で、クレア姉ちゃんは静かに移動する。
筋肉マツリで戦術を相談しようとすると、しゅ、と音をさせて「兵法」の書架から知識を取り出す。ニーナ姉ちゃんとノーラ姉ちゃんのユニーク魔法について相談されれば「医術」や「毒物・劇物」の書架へ。
ありえない程長い梯子に腰かけたままでするすると書架を上下左右に移動し、自分の中に知識を取り入れている時にはそこで静かに本を読む。紙をめくる微かな音と、書架へ本を収めるコトンという音。
思考増殖のユニークを発動させていると、その静かな図書館の中で数人のクレア姉ちゃんが落ち着いた声で意見を交わす。
俺はそのマナに触れたいから、クレア姉ちゃんと話すのが大好きなんだ。
少し前までは本人と、三人の「思考増殖」たちの四人で話すのが精いっぱいだったらしいクレア姉ちゃん。でもルカ兄ちゃんが通信で俺たちへ「希望」を伝えてくれた時、俺とクレア姉ちゃんは胸が弾けてしまいそうなほど勇気とやる気を貰っていた。
俺たち二人への「希望」―ううん、「期待」って言ったほうが合ってるかな。それらはとてもシンプルだ。
「可能性の模索」をしてくれ。
わかってもらえるかな、この短い言葉にはあらゆるものが含まれる。俺たち全員がもっと高度なレベルへ到達するために、ルカ兄ちゃんは俺とクレア姉ちゃんに全ての可能性を考え尽くせと言ったに等しい。
一番難易度が高い要求を出されたのは俺たち二人だったんだ、そりゃ燃えるってもんでしょ!
そんでクレア姉ちゃんは、レイノ兄ちゃんの共有がもしすごい進化を遂げたなら、司令塔である自分の「検索速度」が重要になると結論を出した。それまで「思考増殖」で制御できる人数を増やすことに重点を置いていた姉ちゃんはそれを中断し、検索専門の常駐型人格を作り出した。
それが「司書」だ。職業としての図書館司書と言うより、姉ちゃんの知識を即座に取り出すインデックスとしての役割が強い。
もうね…速度がハンパない。質問するとノータイムで回答が出るくらいだよ。それまではクレア姉ちゃんだって人間だ、思い出すまでに少し時間がかかることもあったし、記憶の底に埋もれてしまっていたから思い出せないことだってあった。
それを司書は、埋もれさせずに管理する。必要な情報を、必要な時に、必要な人へ―俺は初めて「目録」というのがこんなに重要なものだと理解した。
ほんとはクレア姉ちゃんがみんなへアドバイスしたことで劇的に変わったとか能力が進化したっていう事例を上げればキリがないんだけどさ。それを語り出すと一晩じゃ済まないから、俺たちのことだけにしとくよ。じゃあねー!




