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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
自分を知りたい子供たち
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断罪者 sideレティシア

復元できました… orz

 





「―そういう訳で、現状打てる手は打ったと思います。そしてヨアキムから聞いた様子から察するに、ルカはいま一人になりたいのだと思います」


クレアがルカの状態を聞き、私たちに話せることは全て話してくれた。レビは「やっぱり…」と項垂れ、ライノとレイノは「くそっ」とルームやカウンシルの能力ではかえってルカを追い詰めそうだという見解を聞いて悔しがる。


アオイが「あのね、アニマルセラピーっていう方法があるって図書館で見たの。猫さんが協力してくれると思うんだけどどうかなあ…」と自信なさそうに言うと、クレアは「実はアロイス先生にそれも提案してみました。ですが『ルカを立ち直らせよう』という意図が透けているため、逆に追い詰める結果になりかねないとのことでした」とやんわり却下した。


ニーナとノーラはこういう時に自分たちの能力は効果がないのだと痛感し、いまかなり落ち込んでいる。彼女たちは既に軽微な「睡眠効果」と「麻痺効果」の毒物と、その血清の生成に成功している。ルカがよく眠れていなくて目の下に真っ黒なクマを作っていたということを聞いて、睡眠効果をかけるのはどうかと提案したけどルカ自身から拒否されたのがショックなんだろうと思う。


そして私とウゲツ、スザクとアオイの宝玉組は、何もできることが見つからずに悶々とする日々だった。


「皆さん、私はいまから酷いことを言います。―ルカのことを、頭から追い出してください。彼はいま、必死に自分と闘わざるを得ない状況になっています。私たちが彼を心配するのは当然です。でも心配で何も手に付かないまま、何も進歩なしに立ち直った後の彼と向き合えますか?ルカは絶対立ち直ってインビジブルを制御し、私たちの元へ戻ってくる。なのに私たちは『ルカが立ち直れないのではないか』なんて彼を見縊るんですか?こんな状況を乗り越えて帰って来る私たちの兄の前に、しょぼくれて何もできなかった自分をさらけ出すなど、私は恥ずかしくてできません」


私たちは、ルカの現状を見てもなお自分を見失わなかったクレアを見つめた。その姿勢は凛として、明るいイエローの瞳がまっすぐみんなを見ている。それを見て、私たちは「ルカのいない日常生活」を送ることを、決心した。





*****




それから数日経って、治癒院からナディヤママが退院してきた。憔悴してこけた頬、泣きすぎて目の周囲が赤くなっている。集まって来たみんなに、「心配をかけて、取り乱して本当にごめんなさい…」と深く腰を折って謝った。


フィーネ先生が「…さあ、座ろう」と促すと、ソファに座ってから「…コンラートはお仕事かしら」と周囲を見た。


実はナディヤママはコンラートさんを見ると「ルカを返して」と半狂乱になっていたため、治癒院へ行くのは女性陣だけだったの。たぶん入院してから一回もコンラートさんに会っていないんだと思う。


するとママが「ナディヤ、あなたコンラートとルカにどんな仕打ちをしたかわかってるのかしらぁ?」と冷たい声で言い放った。ナディヤママはびくっとすると、ゆっくりママを見た。


「…わかってるつもりよ、マリー」


「いいえ、わかってないわ。あなたは回避できるはずだった『レア・ユニークの苦しみ』を、わざわざルカに作り出して差し上げたのよ。あなたの素晴らしい母性はナニーとして最上級のものよ。それはここの子供たちを見ていればわかる。でもね、レア・ユニーク能力保持者を伴侶に持つのならば、その苦しみを外側からではなくて内側から理解しなくてどうするの?あなたの夫は透明化の能力をモノにした時、どれだけ精神力を削ってその力を制御したと思っているの?ルカを返せですって?ルカはあなたのものじゃない、ルカ自身のものよ!」


「…ええ、その通りよマリー。私はルカ可愛さに、あの子の気持ちではなくて自分の気持ち優先で動いた酷い母親なの。あの子の目に真っ暗な未来のビジョンが視えただけで恐慌状態になって、いらぬ重荷を背負わせた。だから私は、ルカが帰って来るまで一切接触しないわ。二度と…あんな泣き方はしない」


「―そう。それがわかっていればいいわ。それとコンラートはしばらくヴァイスの宿舎で寝泊まりするそうよ。あなたが帰って来ると聞いて、自分の姿が目に入ったら感情の揺れが激しくなるだろうよって平然としていたわ」


「…わかったわ。マリー、私はこれから今まで通りの生活をしていくわ。コンラートとルカが安心して帰ってこれると思ったら、彼らに伝えてくれるかしら。あなたに判断してほしいの」


「あなたが間違った優しさを発揮しないように自制心を得るのと、ルカが魔法制御に成功するのと…どっちが早いか見ものね?言っておくけれど私はあなたを厳しく見させてもらうわナディヤ。レア・ユニークの苦しみを知る者としては…許せないのよ、あなたの甘さが」


ナディヤママは目を逸らさず、静かに「ええ」と言った。ママはふっと目を伏せ、「じゃあね」と部屋へ戻っていった。


―ママはいま、ここにいる全員の前でナディヤママをなじった。ミッションに出ている人も半分くらいいたけど、フィーネ先生もリア先生もユッテ先生もいる。そしてパパとオスカー先生も。私たちも全員いて、この恐ろしい一幕を見ていた。


クレアはパパへ「アロイス先生、ルームで話したいです」と言い、ユッテ先生が守護を出してくれることになった。パパは家へ行ったので、ママと話すんだと思う。


「―レティ、マリー先生はどうしてあの場であんなことを言ったんだと思いますか?」


クレアは静かにルームの中で切り出した。アオイは「こわかった…」と半泣きになっていて、ニーナとノーラに慰められている。私は、思ったことを率直に話すことにした。


「…ママを庇うつもりで言ってるんじゃないとわかってほしいんだけど、ナディヤママの罪悪感を軽くするためだと思うわ」


私の言葉を聞いて、ウゲツも顔を上げた。


「僕もそう思う。ママは…あれは『強いハイデマリー』だった。ママは必要だと思えばああいう風に言える人なんだ」


クレアはこくんと頷くと、にっこり笑った。


「私も同意見です。アオイ、よく聞いてくださいね。ナディヤママは冷静になってみて、とても血の気が引いたと思うんです。マリー先生は『レア・ユニークのことを内側から知れ』と言いましたが、ナディヤママはちゃんと知っていたと思います。なのにルカが可哀相で、真っ暗なビジョンが視えて、恐慌状態になってしまった。それらを全て冷静に思い返した彼女は、罪悪感で潰れそうになっている。そこで周囲に何とも言えない表情で慰められたら、罪悪感は増すばかりです」


「…そっか、ルカを追い詰めたのは自分だってわかっちゃってるんだもんね。加害者なのに被害者みたいに気遣いされたら辛いね」


「そうです。だからマリー先生は強制的に『断罪者』の名乗りを上げたんですよ。そんなこと、誰もしたくないでしょう。でもレア・ユニーク保持者の自分しかこの役はできないと、そう決心してみんなの前であの場を設けたんです」


クレアは全員を見渡し、理解できたかを確認するように黙った。すると、スザクが納得した表情で話し出した。


「じゃあさ、ナディヤが俺たちに甘いこと言ったらお仕置きしよーぜ!俺たちのワガママを聞いちゃいそうなそぶりを見せたら『甘やかすんじゃねえよ、ダメ人間になっちゃうだろ!』って言って笑ってやりゃいーんだ」


全員、ポカーンとスザクを見た。彼は「どうよ、いい考えだろ?ルカの代わりに叱ってやりゃいいんだ」と胸を張る。私たちは順繰りに顔を見合わせた後、ぶは!と吹きだした。


「お、おま…だはは、そ、そだな、ルカの代わりにナディヤを叱ってやろうぜ」とライノがお腹を抱えて転げまわる。レイノも「そりゃそうだ、ルカがナディヤにお仕置きなんて考え付くわけねえな」と、きれいにライノと対称の姿勢になって笑う。


ニーナとノーラが「スザクひどーい、でもそれが一番かもねえ」と笑い、アオイもぷすくすと笑い出した。


レビは「俺とクレア姉ちゃんだと話が深刻になっちゃうんだよねー、スザク兄ちゃんさいこー」とケラケラ笑ってる。


私たちがこんな風に心の底から笑えたのは、久しぶりのことだった。






  

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