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Precious Orb - 宝珠の庭 -  作者: 赤月はる
自分を知りたい子供たち
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思考増殖 sideクレア

  






アロイス先生と二人でA-202へ移動させた教室に来ました。これからルカがどういう状況なのかを映像記憶で見せてもらうためです。先生にはちょっと時間をもらい、私のユニーク魔法を発動させました。


いま私が脳内で会話できる人数は三人。それ以上も五人までならなんとか出せますが、それでは精度に難ありなのです。まだ未熟なのは否めません。修練のみ、です。とにかく私自身を含めて四人で少々打ち合わせをします。と言っても私自身の思考を増殖させているだけですから、相談も一瞬ですけど。


「皆さん、状況はおわかりですね。これから私はルカの現状を見させてもらいますが、全ての感情を持って臨もうと思っています。ですので、あなた方には冷静に感情を切り捨てて見てほしいんです」


『当然ですね。ルカへの同情は何も解決策を生みません。客観的に見て、何ができるかを機械的とさえ言えるほどの冷静さで判断しなければ』


『ですがルカがどう思うだろうか、と考える共感力が無ければまずいですね。私はそれを備えた上で見ましょう』


『では私は大人たちならどう対応するだろうかという推論と、利用できそうな外部の協力者について考察しましょう』


「ありがとう。ではよろしくお願いします」


アロイス先生へ「お待たせしました」と言うと、一つ頷いてから口頭での説明を始めてくれた。たぶんそれは、さっきレビが言おうとしたけどやめさせた内容。


「ルカは、自分以外のものを全て消している。もしかしたら今後、自分自身も消せるようになるのかもしれないけど、それはわからない。現状だけで言えば、彼は僕らから見て素っ裸で空中に浮いている状態だ」


「あ…!そうか、服も消してしまってるんですね」


「そうだよ。何もかもを消してしまうから、隠しようもない。そして、範囲に入ってしまった人物の服も消して、全裸にしてしまった。今から見せる映像記憶は、全裸になったルカやコンラート、ナディヤも含まれる。一応加工して見られないようにはしたけれど、彼らは全裸だと思ってくれていい」


「―わかりました…」


そして、その映像記憶は始まった。

ルカを起こそうと扉を開けたナディヤママ。大きな、まるでアイスクリームが溶けたかのような大きな穴の上で寝ている全裸のルカ。ナディヤママは叫び、ルカが近づくとあっという間に彼女も全裸になった。コンラートさんの元へ青い顔で戻り…キョトンとしたルカがベッドへ戻る。


コンラートさんは下の階からルカの部屋を見上げた。そこにはポカンとあぐらをかいて呆けているルカ。この状態では彼の局部など丸見えだっただろう。でも彼は全く気付く様子もなく、空中で何かを持って左目にあてていた。たぶんモノクルをかけたのだろう。そして周囲を見て、唇が「うわ」と言っているように見えた。


歪んだ、悲痛な顔でナディヤママがコンラートさんをなじっていた。「ルカを地下室に隔離だなんて!私たちの子供なのよ!?」「落ち着け、ナディヤ」「だめよ、絶対だめ!だったら草原に部屋を一つ作って!私がルカと一緒に暮らすわ!」「ンなことして何になる?ルカが消しちまったら、お前もルカもマッパで草原にいるようにしか見えねえだろが。それに俺たちがそばにいたら、ルカは制御できるようにはならねえ」「それでも…だめ…!離して!」ナディヤママは叫ぶと、コンラートさんの腕を叩いて振り切った。


ナディヤママはルカの部屋へ行き、大穴の上を裸のままじりじりとルカに向かって進んでいく。ガクガクしながら、ルカを見つめて、辿りついた。大泣きしながらルカを愛しそうに抱き締め、もう離さないというようにコンラートさんを睨む。コンラートさんは、苦々しい顔をして「レア・ユニークの制御は誰かに精神的に寄りかかっていてはできない」ということを話して聞かせた。


その後、嫌がるナディヤママを抱えてコンラートさんは出て行こうとして…ルカを振り向いて謝った。その時のルカの、顔。


血の気を失って、まるでデスマスクのようだった。なのに口から出てくる言葉は、優しい、優しい、ナディヤママにありがとうと言う感謝の言葉だった…


「…今の所、ここまでだよクレア。いま、ガヴィが大急ぎで草原に地下室を作ってくれている。運動もできるようにかなり大きな施設になるだろうけど、そこにルカは制御ができるようになるまで一人で隔離される。食事は僕がゲートで渡すけど、ルカも裸を見られたくないだろうから顔は出さないつもりだ。移動魔法で、今後はコンラートだけが行き来することになるだろう」


「―わかり、ました。すみませんがちょっと私も『私』と相談したいので、家へ戻ってもいいでしょうか」


「…送っていくよ。クレアもひどい顔色だ」


「すみません。こんな顔、みんなには見せられませんね」


アロイス先生はゲートで直接私の部屋へ入ってくれた。そして『私』との相談が終わったら、必ず自分を呼んで話を聞かせてくれと言って、出ていった。


「…ルカ…」


情けないです。涙があふれて、止まりません。彼はいま、どれだけ絶望していることか。あんな血の気の無い顔で、ナディヤママをどんな気持ちで見ていたのか。


『気が済みましたか?落ち込んでいるヒマはありませんよ』


『その通りです。もういくつかできそうなことは思いつきましたよ』


『そうです。泣いているヒマがあったら、ルカのためにできることを模索しましょう』


「…その通りですね。すみません、何に気付きました?」


『まず、モノクルの改良をフィーネ先生とヘルゲ先生に依頼しましょう。現状を本人が確認できないのでは、制御しようにもイメージが湧かずに苦労するかもしれません。マナの光を見るモードと、実際他人にはどう見えているかを確認できるモードの切り替えができるようにするのはどうでしょう』


「いいかもしれませんね。すぐに打診しましょう」


『コンラートさん以外にも、ルカの元へ気軽に行ける人がいます』


「 え!? 誰ですか!」


『ヨアキムです。現状、ルカは物理的に存在する物を不可視にしている。でも彼の姿はマリー先生の“シャドウ”により形成される魔法で出来ています。消されるとしたら“器”のみでしょう』


「―そうか、その通りです!ヨアキムなら、裸にされてしまう心配もない。ルカの支えになってもらえます」


『ですが、ルカはそれを良しとするでしょうか…コンラートさんは誰かに頼ってしまったら制御などできないって言いましたよ?ヨアキムに依存してしまっては、かえって彼の邪魔になるのでは』


「なるほど…ではそこはアロイス先生とも相談して、ルカに希望を聞いた方がいいかもしれませんね」


『もう一つ、ヨアキムがルカにとって重要人物である要素があります。彼の叔父はルカと同じ“不可視インビジブル”のレア・ユニークを発現させているはずです。まったく同じ能力なのか、似て非なる能力かはわかりません。ですが何かルカの力になれる情報があるかもしれない』


「なるほど…わかりました。それともう一つ気になるんですけど、ルカをルームに呼ぶことは可能なんでしょうか。修練ならば、物理的なものが何もないんだから…裸になることはないと思うんですけど」


『ルカの心理が乱れている今、それは危険かもしれません。レアユニの力が溢れているイメージそのままにルームへ入り、みんなの心理を揺さぶってルームが崩壊したら?…これは危険です、アロイス先生へ相談要の案件でしょう。これを強行するのは“軽挙妄動”だと思います』


「確かに。わかりました。これからも引き続き考えていきましょう。お願いしますね」


相談を終えた私はアロイス先生の所へ行くため、涙の跡を見られないように顔を念入りに洗ってから家を出ました。





  

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