B-802 sideノーラ
ニーナに、普段あんまりおしゃべりしないんだからノーラが対応してねって丸投げされた。
だから、がんばる。
ここは、B-802号室。
パパがカミル、ママがアルマ。
私はノーラ。それと双子の姉、ニーナ。
以上です。
―え?
これじゃ短すぎてダメなの…?
ん、わかった、がんばる。
なんでB棟の最上階に私たちの家があるのかっていうのを、たまにチーム緑青のお兄さんたちとかにも聞かれたりするから、教える。
お隣のB-801に住んでるカイさんが言うには「最強の男は最上階。当然」ということだった。
パパが言うには「最高の男は最上階。当然」ということだった。
ママはノーコメントだったけど、マリー先生は「煙と何が高い所へ行きたがるか、調べるといいと思うわあ」ということだった。
いつか、煙の相棒を探そうと思う。
今日は、ニーナがママと一緒に「くりえいてぃぶ」なことをしている。
ママはみんなのお洋服や小物を、すごい速さで作るのが得意。
速いだけじゃなくって、ママのこだわりが詰まった素敵なものを作る。
ニーナはそんなママをすごく尊敬していて、いつか自分も「縫製の方陣」や「接着の方陣」や「ペイントの方陣」などのホビー用方陣を駆使してみせるって言ってる。
ママには野望があって、いつか古代白縹との異文化コラボで一世を風靡してみせるんだって。でも今までのところは全敗。なぜかと言うと、白縹の古代文字を教えてくれるガードがいつもヘンな言葉しか教えてくれないから。
それでもママとニーナはくじけない。
ガードの変な言葉をおとなしく教わって、そのふざけた内容の翻訳をニコル先生の守護に頼み、少しずつ文字の意味を整理していってる。
その内めちゃくちゃカッコイイ何かを作り上げてみせるんだって。
「ニーナ、今日はこの型紙で作るよぉ~」
「了解しましたぁ~!えっとお、これは股上が浅い…腰回りが小さ目。メンズだね~」
「あったりぃ~、もう寸法はそれで合ってるって確認済みだからあ。メイドイン猫の庭のインディゴデニム、モデル『ギィ』とモデル『ジン』でぇ~す」
「え、そのモデルってこの前作らなかったっけぇ?」
「成長期なのぉ~、男の子の伸びをナメてたママのミス!だから今回はロールアップさせちゃう勢いで股下を長くしときましたあ」
「なるほどね~!で、やっぱり古代文字は…ダメなの、ママ?」
「ん~、デミでは目立つからあ…残念だけどナシなの」
デミっていう「すらむ街」でヨアキムと一緒にお仕事している二人のお兄さんと一人のお姉さんがいるらしいんだけど、ママは彼らの成長に合わせてお洋服を作ってる。
デミバージョンのお洋服だとシュピールツォイクっていうおもちゃ屋さんに行けないらしくて、どういう服を選べばいいのかわからない三人に「スタンダードなサンプル」を作ってるって感じ。
だから派手好きなママだけど、なるべく柄物とかは避けてるみたい。
その反動なのか、私たちには派手なものを作りたがる。
正直言って、困る。
ニーナは喜んで大きな花柄のスカートやオレンジやピンクのカットソーを着ているんだけど。私はそういう色よりも寒色系が好き。ママもそれをわかってるから、私には紺色に細かいドット柄だったり、青いギンガムチェックのワンピースを作ってくれる。
でもたまーに…私のカットソーの胸からお腹にかけてドドーンと大きなガーベラの花をプリントしちゃったりするから。そういう日はそのカットソーを見つめて、パジャマのまま固まっちゃう。すると慌てて「ごめえん、ノーラはこういう感じじゃなかったね!」と言って胸元のワンポイントくらいの大きさへすぐに変更してくれる。
ママは、優しい。
あと、パパはかっこいい。
ニーナもパパが大好きだけど、私も大好き。
なんでかって言うと、すっごく黒い感じにかっこいいから。
みんなといる時はすぐにカイさんと一緒にいたずらしちゃうパパだけど、おうちでマッタリしてる時ってあんまり動かない。満足そうな顔でママや私たちを見ていて、飽きないんだって。
「ノーラ、お前はアレ作るのは、やらねえのか」
「ん、私はいいの」
「そんじゃこっち来い。その読んでる本、俺にも見せろよ」
「ん」
「ほー、『薬草・毒草図鑑』か。ヴェノムの能力、使いこなせるように勉強中なんだな?」
「…ん、そうなの」
「偉いぞノーラ。俺もアルマも仕事で毒物扱うからなあ、ノーラが詳しくなってくれりゃあ頼もしいぜ」
「…ほんと?パパたちの役に、立つ?」
「おう、百人力だぜ?今は焦らず、完璧にマナのコントロールが可能になってから毒の種類は増やせばいい。それが一番カッケェぞ」
「ん」
「…お前、クッソかわいいな。ライノの『ルーム』でかなり語彙が増えてるんだろ?なのに無口は変わらねえってのがまたソソるな。将来イイ女になるぞ、お前」
「パパぁ~、ニーナは~?」
「お前の明るいトコはアルマそっくりだ。俺好みになるに決まってんだろ。そーだな、そこから投げキッスでもしてくれりゃあもっと最高だ」
「ママー、投げキッスってどうやるの?」
「えっとねー、こうかな!ん~、ちゅ!」
「お~、甘くてイイのが来たじゃねえか。これでニーナのが来れば完璧なんだがなー」
「おててで『どうぞ』ってやるのぉ!? ニーナ、今飛んでくとこ見えなかった…また未熟者の壁かあ…」
「…ニーナ、とりあえずやってみれば?もしかしたらちっちゃいのがパパに届くかも…」
「そだねー!パパ、いっくよー!んー…っちゅ! 届いた?どお~?」
「…惜しいな、直前で消えたぜ?」
「見えなかったけど、ちゃんと投げれたんだ…ニーナ、私にいい考えがある…」
私はパパの膝から降りて、ニーナの所へ行った。
ママはヴァイスで「薔薇毒のアルマ」って呼ばれてるくらいだから、パパの大好きな「甘い毒」をマナで錬成できるんだと思う。さっき甘いって言ってたし。それをパパに届かせるのも、きっと簡単にできちゃう。それがきっと、投げキッスの正体。
でも私のヴェノムはまだまだだし、パパに毒を送るのは無理がある。ということは、きっとおててで「どうぞ」ってやるくらいじゃ、投げキッスのマナが届かない。未熟な私たちがパパへ投げキッスを送るには、物理的に力で押すしかないと見た。
そう、その名の通り、投げるしかない。
ニーナへそう言うと「なるほど!ノーラあったまいい~」と賛成してくれた。
二人で背中合わせに立った。
ニーナは右利き。
私は左利き。
それぞれの手に「とどけ!とどけ!」と念じながらちゅーをする。
大事なちゅーを手の中へ握り込み、「パパ、いっくよー」と合図。
なぜかパパはほっぺをバチバチ叩いてヘンな顔になりそうなのを堪えてるみたいだけど。
行きます。
腕を頭の上へふりかぶって
片足を上げて
その足が落ちる反動を利用して、上半身をしなるように
投げた!
「いっけぇ~!」
「がふ! イイの、来たぜ…お前ら、最高の女だ…」
「やったぁ~!」
ん、今日もいい工夫をした。
きっとヴェノムへ一歩近づいたはず。
「ママ、パパが苦しそう…投げキッスの威力が強すぎたかなァ?」
「そだねぇ、今のはきっとパパのハートを撃ち抜いたと思うよぉ?そだよねー、カミルぅ」
パパは両手で顔を隠し、耳を赤くしながらプルプルしていた。
おかしいな、あれはパパが爆笑をこらえているポーズのはずなんだけど。
無言でママの方を向き、パパを指さしてみた。
ママは困ったような笑顔で、「嬉しすぎてあの反応なだけだと…思うなぁ」と言った。
そっか、それならいいんだけど。
「…いつか『どうぞ』だけで、パパにヴェノムを届けてみせる」
「「 ファ!? 」」
パパとママに「ヴェノムを投げるのは敵だけにしろ」って言われた…
どういうことかな、混乱する…




