チーム会議
リア先生とフィーネ先生とパウラお姉ちゃんとガヴィ。それになぜかユリウスもいて、B-201にある教室はいつもと違う雰囲気。大人組はみんなワクワクしていて、フィーネ先生とガヴィなんて「手ぐすね引いてる」という言葉がぴったりだと思う。
子供組では私とルカ、それにクレアがいる。
昨日のうちにオスカー先生を驚かせることに成功したらしくてご機嫌だったクレアは、この会議になくてはならない頭脳として参加。ルカは特化型の宝玉の直感っていう部分に興味津々で、見学したいんですって。
フィ「では早速会議を始めようではないか!レティ、ハイデマリーさんにはもう話したかい?」
レティ「うん、すごく喜んでた。魔法制御の訓練を別メニューで考えてくれるって」
フィ「ふんふん、ということは我々は全力でレティの知識面とイメージ力の強化をサポートすべきだね」
パウラ「私もそう思うな。レティの世界は光がたくさんあるのよね?自分のイメージとして、どういう世界に構築されそうっていう予感はあるの?」
レティ「う…うーん…いつも修練の時に感じるのは『砂漠』『光』『熱』がありそうってことで…でも砂漠で死ぬっていうイメージはないし、今は光の海で何も見えてないの。砂の中に何かがありそうで期待しちゃうんだけど、なかなか見つけられない感じ」
パウラ「なるほどね、ということは熱処理イメージは問題ないかな。ねえガヴィさん」
ガヴィ「そうねー!石材生成に必要なのは主に熱と圧力ってイメージだから、金属も更なる高熱、次に高圧力ってトコかな?それと合金の知識に研磨する形状の知識ってトコ?下地にそれがあればかなりイイ感じになるんじゃなーい?」
リア「おっけ、知識面は私とクレアでサポートするわ。ま、あとは実際に見たり経験したりってのも重要ね」
ユリ「というわけで、私の出番かな。レティ、『Sword of Soul』の包丁が好きなんだって?」
レティ「うん!厨房で何回も使ったわ、いつか私専用の包丁を誂えるのが夢なの」
ユリ「わ~、こんな可愛いファンがいると知ったら親方は大喜びだな。『Sword of Soul』の鍛冶工房へ、見学に行きたい?」
レティ「 !? い…行きたい…!」
ユリ「あは、レティも素直でかっわいー。じゃあ更に大サービスしちゃおう、セリナに剣舞を教えてもらうってのはどう?」
レティ「セ…セリナお姉さんを知ってるの?ほんとに…教えてもらえるの?」
ユリ「セリナたちは私の友人なんだ、だからほんとだよ?それにレティがすっごいギャラをあげたって聞いてるよー?通信で『イクラを零しちゃったあの可愛い子ね?任せなさいよ~』って言ってたよ」
クレア「レティ…すっごいわ、ライブラリーの映像じゃなくって、本物よ」
ルカ「あー、あのレティが真っ赤になっちゃったお姉さん!よかったねレティ!」
どうしよう、セリナお姉さん…セリナお姉さんとまた会える。あの綺麗な人に会えて、あの綺麗な剣舞を見せてもらえる。あ、違う、教えて、もらえるんだあ…
ユリウス、そういえば鍛冶工房も見せてくれるって…あの『Sword of Soul』よ?パパにもナディヤママにも聞いたことがある。まるでバルお爺ちゃんみたいな声をしていて「ザ・職人!」って感じの人なんだって。鋼を最高の状態へ持って行く、一流の技を持ってる人だって言ってた。
あああああ、どうしよう、どうしよう、嬉しくて考えがまとまらないわ。
でも、そうよ。お礼言わなきゃ。
レティ「ユリウス…ありがとう、すごくうれしいいいい…」
ユリ「どういたしまして。でも私は彼らに少しお願いしただけだよ?後はレティががんばってね」
レティ「ん、絶対がんばる…み、みんなもありがとう、よろしくお願いします…」
フィ「むっほ…レティ、そんなに顔を赤くしてお礼を言ってくれるなんて…君はいつまでたっても凶悪な可愛さでぼくの心を掻き乱すね?あとでちょっとだけぼくと遊ばないかい…?」
リア「ハイハイ、フィーネそこまでにしなさいよ。ちょっと、その手!手をわきわきさせてレティへ近づかないッ」
ルカ「クレア、防犯パターンその二だよ」
クレア「了解、変質者への対応マニュアルね」
クレアは私と手を繋ぎ、ルカが私たちを隠すように前へ出る。そして脱出できる扉への最短ルート上へジリジリと移動していった。クレアが小声で「ピーチ、来て」と囁くと、すぐにナニー猫はやってきた。
猫の庭で働くたくさんのぬいぐるみ猫たちは、子供の声を敏感にキャッチする。
どういう仕組みになってるかっていうと「この建物の中なら私の体内同然ですのでねえ、自動的にコンシェルジュへ伝わるんですよ。しかも子供のお守りっていう役割が私自身に染みついてますので、みんなの声には特に敏感なんですよ?」とヨアキムが言ってた。
どういうことなのか説明してもらってもわからなかったので、みんな面倒になって追求をやめ、「不思議現象」だと無理矢理納得している。
なので数秒後には教室へピーチが現れ、私たちの周囲へ結界を張っていた。
そしてフォグ・ディスプレイへ【フィーネ警報発令中!】と真っ赤に点滅する文字を出しながら「フィーネはあと一回やらかしたらお仕置きレーション大人味の刑だってアロイスが言ってたよー?」と警告した。
フィ「な…!もう後一回しか猶予がないのかい!?くそう、アロイスは厳しいな…」
ユリ「ねえフィーネ、私はあまり友人の奥様にガッカリしたくないよ」
リア「あー、無理よユリウス!フィーネのコレは筋金入りだから!」
ガヴィ「ねーねー、お仕置きレーション大人味って何?例のマッズいやつなら、リーが平気で食べてるんだからそんなに酷いお仕置きじゃないんでしょー?」
パウラ「ガヴィさん…ダメです。あれは、ダメなんです…ッ!リーさんが食べてる国軍レーションのプレーン粘土味がおいしく思えるほどの衝撃なんです!」
ガヴィ「ほえ…パウラもお仕置きされたの?」
パウラ「研究熱にヤられすぎてごはんを何食か抜いちゃって…その時アロイスさんが私の口へ、悪魔の粘土をねじ込んだのおおお!研究内容が一気に大気圏外へ離脱するほどの衝撃だった…!」
うん、私も覚えてる。あれを食べさせられた時のパウラお姉ちゃん、顔が青とか赤とか黄土色とか紫とか白とか、たぶん人類じゃないって感じの色になってたもの。
ちなみにパパは大人味のレシピを教えてくれない。子供味はレモンだけの「スッパ油粘土」だけど、パウラお姉ちゃんは「味の暴虐宝石箱や」とか「私のタンが殺される」とかうわ言を繰り返すだけで参考にならなかったし。しかも冷気保管庫の中でパパしか開けられないドクロマークの箱に入れてあるから、私たちは結局何味なのかいまだに知らない。
あれって去年の話だったのに、まだパウラお姉ちゃんにあそこまでキッチリ恐怖を植え付けているなんて。パパってやっぱりすごいわ、尊敬しちゃう。
とりあえずピーチのおかげでフィーネ先生も顔を青ざめさせて落ち着いてくれたみたい。ルカから「警報解除」と言われて、私たちは席へ戻った。そんな私たちを見てユリウスは「さすがちびっ子特殊部隊…警戒の仕方がデミと一味違う」と放心してた。そんなに大きな違いって、あるのかしらね?よく知らないけど。
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【おまけのA-802号室】sideオスカー
―だから、その場合に使用されるのは司法システムのロジックであって
―表面上の判決は司法システムでも、その前段階で倫理回路を経由してるのは同じじゃない
―かと言ってマザーの倫理回路が絶対正義だとはさせないという理念があるから議会というものも存在しているのよ?それなら司法に関しても最終決定はヒトよ
ミッションから帰って来た俺は帰宅の挨拶もそこそこに風呂場へ直行した。
今日はデミの小さいマフィア一個ツブしてきたもんだから、汗だの返り血だので汚れまくってたんだ。
で、風呂から上がると隣のリビングからリアとクレアの声が聞こえる。
…確かに聞こえるんだけどさ、内容がおかしくね?
片方の声はクレアなのに言ってることはリア並み。
おかしくね?
そっとリビングを覗いてみると、それ一冊でクレアが潰されそうな厚みの「司法大全」を目の前にして、リアが一人でくっちゃべってた。
一人??
リア、声色を変える方法でも練習してんのか?
「だからあ、結局ヒューマンジャッジに付き物なのは『感情面を考慮した情状酌量』って部分でしょ?そこがないと機械的にボーダーラインを決めて判決を出しちゃうわけだもの。ここは人間の治める国よ」
「ママはマザーの性能を甘く見てると思うの。ヘルゲ先生が倫理回路を書き換え、立体複合方陣を導入されて以降のマザーは情状酌量も含めて対応できるほどの性能なのよ。それなら完全にマザーへ委託しても問題ないだけのデータは蓄積されたわ」
「そうじゃなくってヒトとしてのプライドの問題も含んでるのよ。全てマザーに任せてしまったら、罪を裁くと言うバランス感覚をヒトが失ってしまう。何よりヘルゲがそうやってこっそり改竄したみたいに、今後誰かが残虐な倫理回路へ書き換えたらどうするの?絶対ないなんて言えないわ、実際にヘルゲがやったんだもの。そしてそうなった時にヒトの司法能力が退化してしまっていたら、この国は滅ぶのよ」
「んー…」
誰だよあれ。司法大全の向こうにチラチラと見えてる小さい頭の持ち主がめっちゃリアに反論してんだけど。あまりの異常な会話の応酬に、俺は夢でも見てるような気になった。
だけど…クレア、だよな?
俺と同じ髪の色。
あの小さな頭。
俺の娘…だよなああ?
思わず透明化して、ほてほてと二人のそばへ近寄った。
そしてやっぱりそこにいるクレアの口から、滑らかに出てくる専門用語の数々。
だ、ダメだ…熱中してる二人には悪いけど、何が起こってるのかわからねえ。
「…なあ、クレアは熱でもあるのかよ?」
「「 ッキャアアァァァァァ! 」」
「あ、悪い」
「オスカー!もっと普通に出てきなさいよっ!」
「パパ…透明化するなんて想定外だったわ…」
「いや…クレア、どうしちゃったんだ?なんかリアとまともに討論してる気がすんだけど」
「んっふふー、クレアは天才だからよ」
「天才って…昨日まで普通だったじゃん」
「パパ、あの…隠しててごめんなさい。私、だいぶ前からこんな感じなの」
「こんな感じ?」
「えっと…こんな子供、薄気味悪いって思われたらイヤだなって思って、隠してました…」
―この子、ニコルと真逆なのにそっくりだ。
咄嗟に思ったことは、それだった。
すげえ小さい頃、ケヤキの大木からおじいちゃんの声が聞こえるって嬉しそうに言うから、同期のやつら数人と連れ立って大木まで行った。行ったけど、当然何も俺たちには聞こえなかった。
ニコルは一生懸命「こう言ってる」「みんなによろしくだって」と説明したけど、誰ももう信じなくて。俺は「うそつきだな、ニコル。そんなこと言ってみんなを騙すなんてダメじゃんか」とニコルを責めた。
その時の俺は正しいことを言ってやりこめたと思って、胸を張っていた。
だがニコルは、泣きながらも「それでもおじいちゃんはやさしいし、いるもん」と意見を曲げなかった。
今なら分かる。
でもその時には分からなかったんだ、あれが守護のことだなんて。
俺はその時の信念を持ったニコルの瞳を見て、何かムズ痒いような感覚を覚えた。それからずっと、ニコルが気になって仕方なくなった訳だけどさ。まあ随分昔の、初恋の話だ。
人と違うっていうことが、理解されないだろうっていうことが、子供をこんなに強くしたり臆病にさせたりする。俺は、それを目の前で見て育った。
だから、クレアの瞳を覗き込んでから、言った。
「すげえな、クレア。俺とリアの娘はすげえ。俺たちには隠すことなかったのに。喜ぶだけだぜ?」
「ほーらクレア、言ったでしょ!オスカーだって喜ぶに決まってるって」
「…ん、ほんとね」
抱き上げたクレアは俺の首っ玉にきゅっとしがみついた後、それは嬉しそうな顔で「ママ、さっきの件だけどね?もう一つ理論に穴があると思うわ」と挑むように言った。
俺もリアも笑ってしまい、リアは「どんと来~い」と俺からクレアを受け取った。
それから俺の家では夜な夜な母親の膝で抱かれながら討論する小さな賢者が見られるようになった。




