剣舞
私は感謝祭の歌が終わった後、クレアを誘ってセリナお姉さんの踊りを見に行った。お姉さんは軽く柔軟をしながら私へウィンクしてくれて、また顔が赤くなっちゃった…
でも今はもうブリヌイも持っていないし、小さく手を振ってお姉さんたちの準備が終わるのをドキドキしながら待っている。お姉さんは後ろを向いていてよくわからないんだけど、何かを隠すように持ちながらピタリと動きを止めた。
アルに教えてもらったんだけど、あの弦楽器はドシュプルール、大きな笛はショールと言うらしい。そしてお姉さんたち三人は、この国じゅうを巡っている有名な旅芸人なのだとも言ってた。
ドシュプルールがかき鳴らされる。
お姉さんは、まだ動かない。
ショールの音が響き渡る。
お姉さんは、まだ動かない。
二つの楽器が、和音を奏でた。
その瞬間、セリナお姉さんは両手に持った美しい剣を天へと掲げ、太陽の光を反射させながら体全部を使った神話を紡いでいった。
剣舞。
曲線の美しいシミターを両手に持ち、戦いの神へ捧げる奉納の舞い。
恐ろしいことにセリナお姉さんは、とても偽物には見えない光を放つ刀剣を両手に持ったまま踊る。胸の前で剣をクロスさせたまま地面に手を突かずに軽やかな側転。地を這うように薙ぎ払い、弧を描いて敵を討つ。
音楽に合わせて踊っているとは、思えなかった。
セリナお姉さんの動きが、音を生み出しているとしか、私には思えなかった。
*****
耳に付けた見えないヘッドセットから、アルの声が聞こえる。
『みんなー、もう夕方になっちゃうからね。遠足は終わりでーす』
口々に『もっと遊びたいよぅ』とか『もーちょっと!もーちょっと!』と言っているのが聞こえるけど、ナディヤママの『あら…じゃあ猫の庭へ帰らないの?淋しくなるわね』という優しい声にただならぬ気配を感じ、全員が速やかに集合したのは言うまでもない。
スザクたちは仲良くなった金糸雀キッズと「泣くな、また会えるって!」と男の暑苦しい…いえ、熱い友情握手会を開催していた。ニーナたちはとても可愛らしいブローチを見つけて、それを作った人と随分デザインについて話していたらしいし、三歳児組はニコル先生たちとずっと踊ってたみたいね。
私は帰り際、セリナさんにもう一度「すごいものを見せてくれてありがとう、セリナお姉さん」と言って集合場所へ来たんだけど。
ルカやクレアに心配されてしまうほど、さっきの剣舞の記憶に心が埋め尽くされていた。
遠足から帰ってきた私たちは、口々に金糸雀の里でのことを大人にしゃべりまくっていた。中でもスザクたちは「金糸雀にたくさん舎弟ができたぜ!」と言い出して、筋肉お父さんたちに尋問を受ける羽目になっている。
カイ「コラァ…お前らなにカマしてきた?まさか泣かして舎弟にしたんじゃねえだろうな…?」
ライノ「カイ、俺らを見損なってもらっちゃ困るって。確かに最後は別れを惜しんで泣かれちまったけどさ」
カミル「んじゃ舎弟ってのは何なんだ?どこのデミ組織だっつの…」
レイノ「そりゃなあ、あいつらが『兄貴についてくぜ』とか言うもんだからさ」
コン「何でそんなに崇拝されてんだァ?カルトかよ」
レイノ「カルトな!それかもしんねえ。『こうぎょく教』の信者みてぇだもんなあ、あいつら」
ヘルゲ「ちょっと待て…!スザク、お前まさか遠足の禁止事項…」
スザク「だーかーらあ、ヘルゲの映像記憶見せろって言われても秘匿だっつーて見せてないって。少しは信用しろよヘルゲ」
ヘルゲ「じゃあ何でこうぎょく教なんぞという話になってるんだ!」
スザク「父ちゃんの名前教えろっていうから教えただけだって。すげえじゃんヘルゲ、自伝にサインするくれえ有名人なんだな。その内俺の冒険の本が出来たらサインしてやるって言っといたぜ」
ヘルゲ「 俺 の 自 伝 じ ゃ な い 」
スザク「マジか。じゃあ俺が大人になったら自伝出るだろうから、俺の勝利確定だな!」
ヘルゲ「お前、自分の本の表紙にどういう挿絵が来るかわからんぞ?ミハイルという男は斜め上の人選をするぞ?」
スザク「あー、ありゃ確かにヘルゲにゃ似てないよな。もしかしてアレ、ガードか?知らんかった、ガードって王子だったんだな」
ヘルゲ「スザク、お前ちょっと黙れ…ガードが最大音量で『俺じゃねえ』と叫んでる」
スザク「えー、じゃあ誰だあれ。アロイス先生か?」
キン☆ ザクゥッ!
スザク「おぅ…イエス、理解した。アロイス先生のわきゃないよな」
スザクの足の間にピンポイントで刺さった氷の剣はキラキラしててとっても綺麗。さすがパパね、こういう話題を予防する手腕はさすがだわ。見習わなくっちゃ。
その後も尋問は続いたけど、結局ヘルゲ先生が大ダメージをもらっただけみたい。パパは気の毒に思ったらしくて、ヘルゲ先生に「オーク殺し」という度数の高いお酒を出してあげていた。元気出してね、ヘルゲ先生。
*****
夜、お風呂から出てパジャマのままマザー端末を見ていた。図書館で調べたいものがあったの。ずっとスクロールしていくと…あった。
『刀剣図鑑』
美しい刀剣がたくさん…ユッテ先生愛用の短刀も綺麗だし、今日セリナお姉さんが使ってたシミターも綺麗。ああ、なんて素敵なの?
きっとクレイモアとか大太刀はカイさんやカミルさんやオスカー先生くらいの筋肉を付けなきゃ扱えないんだろうけど…ツヴァイハンダーやフランベルジュもいいわ。両手剣ってどれくらいの筋力がないといけないのかしら…
やっぱり最初は小型のものがいいわよね。ユッテ先生、教えてくれるといいな…
アロ「…レティ、ずいぶんコアなもの読んでるねえ」
レティ「あ、パパ。よかった、聞きたいことがあったの」
アロ「ん、何だい?」
レティ「パパって水特化の宝玉よね?特化型の魔法ってどう特殊さが出るか決まってるの?私って土特化なんでしょう?」
アロ「ん~、残念ながら特に決まってない…と思う。それに僕は特殊だからね。本来なら宝石級なのに、ヘルゲやニコルにバイパスがあるせいで宝玉認定もらってるようなものだし。参考にならないかもしれないなあ、ごめんね」
レティ「そっかあ…でも決まってないなら、可能性はあるわね。うん、私、勉強したいことが出来てきたわ。明日にでもリア先生に相談しよっと!」
アロ「レティ、偉いな。この年齢の時なんて、僕は遊び呆けてたのに」
レティ「んふん、パパとママの、自慢の娘になれるようにがんばるの」
アロ「うーわ、それめっちゃかわいい!レティ最高、かっわいー!」
パパはむぎゅっと私を抱っこして叫びだしちゃった。
困ったわ、まだ刀剣図鑑見たいのに。
…ごめんなさいね、パパってお家にいるとこんな感じなの。




