完熟モンスター
そっと、様子を窺ってみる。
正直言えば、わざわざ「絵本禁止」と言われていることの答えがあの集団の中にあるような気がするから、話してみたい。
でもね、こう、なんて言うのかしら。
人間には防衛本能というのがあると思うの。
それが、さっきから心に警告を発しているの。
だから私たちは、物陰から彼らを覗いていた。
子A「おにーちゃん、ほんと?ほんとなの?」
スザク「お?まあな!」
子B「でもさ、僕がサインもらったこうぎょくは黒い髪だったよ?君の髪の毛は銀色じゃん」
スザク「俺の父ちゃんは黒い髪だぜ?この髪は母ちゃんのニコルの色だかんなー」
子B「だからさあ、お父さんの映像記憶見せてよー」
スザク「それはできん!秘匿だ!」
子B「じゃあ、名前は何て言うの?」
スザク「ヘルゲだ」
子C「おい、それって!ほ、ほんものだぜこの子!」
子B「じゃあこれ、君のお父さんのサインなんだ?」
スザク「んあ?あー、そうだな。なんでヘルゲ、この本に名前書いたんだあ?つかコレ、初代王子の絵か…?」
子B「本物の紅玉にもらったサインだよ。この本、こうぎょくのお話なんだよ?」
スザク「へー?まあ俺が大人になったら俺の本作ってくれよ、サインしてやっから」
子C「やった!約束な?―でもほんとに君らみたいな目の色、みたことないよ」
ライノ「だからさっきから言ってんじゃーん。俺たち白縹だから、目が特殊なんだってば」
子C「ほんとだよなあ、こっちの女の子も双子なんだ。片目ずつ色が違うよー…こんな色、見たことないよー…」
レイノ「でもよ、金糸雀だって喉が特殊なんだろ?すげえよな、インナ先生の歌ってめちゃくちゃキレーな声だもんな」
子B「インナ様の歌、聞いたことある?そうなんだ、長様だから、すげーんだ」
ニーナ「私もお、インナ先生のお歌で踊るのだーいすき!」
子D「ねえねえ、スザク君の目、もっかい見せてー?うわー、綺麗な赤だねー。ねえ、こうぎょくだからだいぼうけんするんでしょ?」
スザク「だいぼうけん?まあ、毎日してるようなモンだけどな!」
子E「マジ!?どんな冒険してんの!」
スザク「いいのかよ、聞いたらお前ら…チビっちゃうぜ?」
全「ええ…?(ゴクリ)」
スザク「あのな、ウチには胸に星マークのついた筋肉モリモリのケルベロスとサイクロプスとミノタウロスがいるんだ。筋肉マツリは日常チャーハン事だな」
全「なんだってええ!?」
ライノ「ばっかスザク、いきなりそこから話すのかよ?初心者にゃキツいぜ…」
レイノ「まあ、俺らミノタウロスの息子だけどな」
全「なにぃぃぃ!?」
スザク「あ、でもさー、誤解のないように言っとくけど!俺まだ未熟モンだからよ、紅玉認定されてねーの。修練して、おっきくなったらヘルゲなんてケチョンケチョンにできる紅玉になるつもりだけどな!」
子E「…てことはさ、スザク君てまだこうぎょくじゃないのに、そんなだいぼうけん…してんの?」
スザク「まあな。いつか俺は未熟モンから完熟モンになって、空も自在に飛んでみせるけどな!」
全「すっげぇぇぇぇ…」
私とクレア、ルカは目を見合わせて深いため息をついた。
チラリと見えたあの絵本の表紙…まさにグラオ王子みたいな絵だった。
そして、その本にサインしちゃったというヘルゲ先生。
つまり「ヘルゲ先生の弱点」があの子の持ってる絵本だったのね…
ルカ「僕、クレアに教えてほしいことができたよ。未熟者が頑張ると熟練者になるんだと思ってたんだけど。完熟者でいいの…?」
クレア「スザクがいいなら、いいんじゃないかしら。きっとお野菜モンスターにでもなりたいのよ」
レティ「スザク…ルームでのお勉強が身についてないのね、恥ずかしい間違いをして。何が日常チャーハン事よ、どれだけおいしい日常を送ってるの?それにスザクは野菜モンスターになりたいのね、赤いから怪人完熟トマトでいいわよね?いつか私専用の包丁を『Sword of Soul』で誂えた暁には、スッパリとみずみずしい切り口で退治してあげるわぁ…」
ルカ「レティ、お願いだから落ち着いて。つか、周りの子もよくチャーハン事で通じるね…」
クレア「スザクの勢いに負けて、フィーリングで理解してるのかしら。興味深い現象ね」
ルカ「ねえ、僕たちってこれ以上ここにいたら巻き込まれる気がする。撤収しよう」
「「 賛成 」」
私たちは少しだけやつれた感じになって、噴水のそばを離れた。
するとニコル先生やアルが「もうすぐ感謝の歌が始まるよ」って教えてくれて、さっきのドッと疲れた気持ちが吹き飛んでいく。
はぁ~、毎年この瞬間がワクワクするう~!
ほんとに一瞬だけ、里から音が無くなる。
すると丘の方からきれいな、インナ先生のお歌が響いてくる。急いでマナ・グラスをかけると、細い金色の光が螺旋を描いてお空へ昇って行くのが見えた。
里のあっちこっちからカナリアさんたちのお歌が聞こえて、みんなお空にありがとうと言っている。
そうよね、お日さまと雨雲がないと、お野菜が育たないし。お月さまがないと潮の満ち引きがなくなっちゃうし。風がないと、タンポポの綿毛は旅ができない。
私もちっちゃく「ありがと」と呟いたら、ド!と里の音が炸裂した。
これこれ!
この一瞬が、ゾクゾクとする快感。
踊らずにはいられなくなる、このショックウェイブ。
強制的に心へ叩き込まれる、楽しい気持ち。
これ、絶対「強制ワクワクマツリ」よ!
私たちは三歳児組と手を繋いで、輪っかになって、強烈に楽しい狂乱に身を任せる。
アオイは「ウキャー!」と叫んじゃうし、レビは「うあー、キラキラすごーい」と涙目で笑ってるし、ウゲツも「あは、あは!」って笑いが止まらなくなってる。
そんな私たちの周囲をユッテ先生たちがすごくかっこいい高度なステップで踊ってて、金糸雀の大人たちを沸かせていた。
え、アル?
もちろん、堂々と跳ねてたわ。




