病み上がりに追い打ち
上半身を余すことなくキャンバスにされた翌日に、ルカは目覚めた。
丸々二日間眠りっぱなしで、治癒師に点滴を打たれてはいたけど起きた途端に「お腹すいた」と言ったルカは、すぐに食事を摂って元気いっぱいになった。
さすがに病み上がり(病気じゃないけど)にとんかつはダメと言われて残念そうな顔をしたルカは、更にコンラートさんと筋肉デビル二人によって『顔面悪即斬・筋肉自慢の乳首スター』とタイトルのついた額縁をパティオ近くの壁に掲げられて、心が満身創痍だった。
ルカ「ひどい…僕、何か悪いことした…?」
レティ「あの、ルカ、ごめんね?私だけじゃ止められなくて…」
クレア「レティは悪くないわ、悪いのはコンラートさんよ。スザクたちがやらかすと予想して、コラットを取り込んでいたなんて思わなかったの」
ルカ「そ、そう…あの、そんなに悲しそうな顔しないで二人とも。あの額縁は父ちゃんのやったことなんだからさ、諦めるしかないよ…」
ナディ「ふふ…ルカ、大丈夫よ。コンラートは私が叱ってあげるから。ね?いくら何でもあれは酷いわよね…?」
全「ひぃ!!」
ナ、ナディヤママが本気で怒った…
コンラートさん、だからやりすぎだって言ったのに!
どうしよう離婚危機なんてことになったら…
ハラハラして見つめる私とクレアの頬を撫でながら、ナディヤママは本当にきれいな笑顔で優しく言った。
ナディ「ふふ、そんな心配そうな顔はしなくてもいいのよ二人とも。私とコンラートはケンカなんてしないもの…」
クレア「で、でもコンラートさんを叱るって…」
ルカ「あー、ママ。アレやるんだ?」
ナディ「ふふ…どうかしらね?反省が見られなければ、アレかもね…?」
レティ「 ?? 」
後からルカに聞いたところによると、ナディヤママはただ家のリビングでずっと椅子に座っているだけなんですって。いつもかいがいしく動きまわるナディヤママが椅子に座って微動だにしないっていうのはかなり威圧感があるらしくて、それをコンラートさんが発見すると何事かと本気で焦るそうなの。
そこで、あの額縁の件だと気づいて謝ってくればセーフ。
気づかなかったり、原因がわかっても「あれくらいどってことねえだろ?」と開き直ったりしたら…アウト。
即座にナディヤママはポロリと涙を零して「あんなに晒し者にされて…ルカ、可哀相…」と俯き、もうコンラートさんが宥めてもすかしても反応しなくなるらしい。
そこでルカの出番。
「ママ、僕はもう慣れてるからいいんだ。ね、もう寝よう?」と言って夫婦の寝室ではなくてルカの部屋で眠ってしまう。
結果、ナディヤママの涙に世界一弱いコンラートさんは、翌朝に土下座してナディヤママとルカに謝るのだとか。
…なんという壮大な詐欺…ケホンコホン、大げさなお芝居…ゲホンゴホン、えっと、なんという複雑な仕掛けのお仕置きなのかな。
そしてルカのライフを順調にケズっているスザクたちは、額縁を見ながら胸を張って話していた。
スザク「やっぱ星だろ!俺もやろっかなー!」
ライノ「バカ言えスザク。筋肉だろ」
レイノ「悪即斬に敵うかよ。つか俺の顔のペイント、すぐコラットに落とされちゃったんだよなあ…あれでヴァイスへ行けばバル爺ちゃんに自慢できたのによ」
ノーラ「…もっかい、やる?」
レイノ「マジ!? 頼むよ、バル爺ちゃんをこれで威嚇してやりてえ」
スザク「俺もやってくれ!ヘルゲに勝つ!!」
ライノ「俺も頼む!あれさえ描いておけばカイに勝てる気がすんだよ…!」
ニーナ「まかせてぇ~!ほら、みんなそう言うと思ってペイントの魔石持ってきてあるからァ」
プチ三バカ「おおお…気が利くな!」
…またしても三匹の小さな般若は猫の庭をドヤ顔で練り歩き、笑いをこらえて呼吸困難になる大人を量産していた。特にカイさんとユッテ先生は、ソファの背に噛みつきそうな勢いでブルブル震えていた。
目に光がなくなって諦めの薄ら笑いしか浮かべられないルカに、パパが笑いを噛み殺しながら近づいてきた。
…最近のパパって、デリカシーがないと思う…
アロ「ル…ルカ、あのさ、ルームを承認した件って、聞いた?ぶふ…」
ルカ「あ、うん…聞いた。ありがとうアロイス先生。あの、隠し事しててほんとにごめんなさい」
アロ「いやいや、謝らないでよルカ。事情はよくわかったし、誰にもお仕置きなんてする気はないよ。これからは安全にルームでしゃべれるから、安心していいよ」
ルカ「うん…! ありがとう!」
あ…ルカが笑った。
すごい、ルカ。
笑っただけで、私もクレアも心がふわっと軽くなる。
安心して、またみんなで仲良くおしゃべりしよう!なんて、うきうきした気持ちになれる。こんな風にみんなの気持ちを軽くできるのは、ルカだけ。本人は全然わかってないけど、ルカしかこんな空気を出せないの。
自然に笑顔になってしまった私とクレアを見て、パパは複雑そうな顔で笑った。
アロ「罪な男だねー、ルカ」
ルカ「はい?」
…パパ、本当にデリカシーがないと、思う。
キロリと睨むと、パパは「はいはい、ごめんなさい」と言って苦笑しながら厨房へ戻って行った。
私、クレアのこと大好きなんだから。可愛い妹なんだから。クレアを泣かせるようなこと言ったら、いくらパパでもお仕置きなんだからねえ?
ガードに教わった古代語、パパの大事な愛用エプロンにデカデカと書いちゃうんだから。ニコル先生にもらったエプロンだから、汚れたら泣いちゃうもんね?
クレア「レティ、なんか…目が怖い。誰にお仕置き考えてるの…?」
レティ「あら…クレアには隠し事できないわね。パパよ、ちょっと最近娘にデリカシーのないことばっかり言うから。ガードに教わった古代語、エプロンに書いてやろうかと思って」
ルカ「な、何書くの、レティ…」
レティ「んっとお…【給食当番】」
クレア「 !? 」
ルカ「え?僕、それ読めないからわかんないや。何て書いてあるの?」
レティ「私もわからないわ。でもガードがパパにお仕置きしたい時はコレがお勧めって言うから」
クレア「それ…【食神降臨】からもの凄いランクダウンだわ。確かにこれはド級のお仕置きかもしれない」
ルカ「さすがクレア…読めるの、これ」
クレア「え、ええ…意味は分かるんだけど、できれば言わせないで。きっと私、氷漬けになっちゃうから」
レティ「そんなに破壊力あるの、これ」
クレア「破壊力っていうか、降格の仕方がハンパないっていうか…」
ルカ「…知らない方がいいことって、あるよね。じゃあ、僕らは何も知らないってことで」
レティ「ルカ、大人ね…もう諦めることを知ってるなんて、コンラートさんてある意味いい教育してるってことなの…?」
ルカ「僕、その説だけは納得したくないな、レティ…」
ルカの残り少ないライフを削り取ってしまったのは、私だった。




