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必死の弁解

 兄さんに妙な誤解をされちゃ困る!


 「ぐっ、偶然踏み潰しちゃって! そしたらなんか死んじゃって!」

 「最初は偶然だったにせよ、その後はご自分の意思で行動しているように見えましたが?」


 すかさず余計な口を挟んできたエリオナイトを睨み付ける。


 「もう、黙っててよエリオット! しょうがないじゃん、だって出来ることがあるならやるべきでしょ!」

 「ノエル。危ないことは避けて通れって、あれだけ教えただろう」

 「私にも倒せたからやっただけだよ。手に負えなかったら、ちゃんとアイツらにお願いしたし!」

 「そうですねえ。見事なお手並みでしたよ。見ます?」

 「……は?」


 見ます? ってなんだ。見ます? って。

 エリオナイトがなにを言い出したのか分からずにいる間に、話はどんどん進んでいく。


 「ああ。いいんじゃない、そうすればそこの石頭も納得するでしょ」


 言いながらギヴァが取り出したのは、小さな丸い石だった。ガラスのように透明だけど、中は煙を閉じ込めたみたいにモヤモヤしている。


 「なにそれ」

 「映像記録装置」


 私の疑問に端的に答えたギヴァは、いきなりその石を床に叩きつけた。

 高い澄んだ音がして石が割れると、モクモクと煙が吹き出してくる。

 石の中でけぶっていた煙だろうか。それにしては量が多いような気もするけれど。


 「や、やったーー!!」


 顔の辺りにまで立ち上ってきた煙を手で払っていると、不意に聞き覚えのあるような、ないような声が上がった。

 女の声だ。


 「…………ノエル?」

 「なに? 兄さん」

 「いや、今叫んだだろう」

 「私? 違うよ」

 「いいや。俺がお前の声を聞き間違えるはずがない」

 「深読みすると随分アレな台詞ですねえ。けど正解です。当代、あれを見てください」


 エリオナイトが指差す先。少しだけ薄くなった煙の中に、人影があった。

 私と同じような体型の、白い服を着た女だ。両手を天にかかげて、全力でガッツポーズしている。


 「……あれ?」


 デジャヴ。

 女はしばらくそのままの格好で感動を味わっていたみたいだけど、不意に慌ただしく動き出した。

 キョロキョロ左右を見渡して、目的のものを見つけたのか勢いよく駆け出す。

 その先にはこれまた見覚えのある奴等がーーって


 「ちょ、なに!?」


 どういうことだ。さっぱり分からん。

 そこには、ギヴァとエリオナイトがいた。


 「落ち着いてください当代。これは奇跡の一種ですよ」


 混乱する私をなだめるように、エリオナイトがもう一人の自分に手を伸ばして……その手は触れることなく素通りした。なかなかの衝撃映像である。


 「奇跡? これが?」

 「はい」


 奇跡の汎用性ヤベェ。

 もちろん誰にでも使えるような代物じゃないっていうのは知っているけど、これだけ便利だったら皆が聖人に憧れるのも納得できる。


 「……おい、ちょっと待て」


 それまで映像の私を驚愕の視線で眺めていた兄さんが、突然険しい声を出した。


 「兄さん? どしたの?」

 「ノエル、お前なに当たり前みたいな顔して受け入れてるんだ。なんとも思わないのか?」

 「え? や、奇跡ってすごいなぁと思ったけど……」

 「そうじゃないだろう! なんでこんな映像を残す必要がある!? 勝手にお前の姿を残しているんだぞ!」

 「あ」


 そう言われればそうだ。うっかり奇跡に感動したせいで、そんなことにまと頭が回らなかった。

 ギヴァ達のことだから変な理由からのことではないと思うけど、こゆなものを残す必要があるんだろうか。


 「ホントに余計なことに気づく男だね」

 「苦手な部類のタイプですね?」

 「お前もだろ」

 「否定はしません」

 「おい、答えろ! なんの意図があってウチの妹を盗撮してやがった!?」


 おっと。兄さんよ口調が崩れはじめてきた。これはキレかかってる証拠だ。ヤバいヤバい。

 私は必死で答える気のなさそうな二人に合図を送った。


 「……はぁ。妙な勘違いしないでよね。別に、当代だけに限ったことじゃないんだから」

 「新しい聖女が継承式でどんな行動をとるか残しているんですよ。大体その時の行動で、その聖女の統治の傾向が分かるんですよ」

 「へー。じゃあ、アリアさんも?」

 「勿論です。先代様は襲われそうになっていた都民を身をとして助けていますね」

 「へぇえぇ。さすがアリアさん」


 いかにもアリアさんらしいと思う。

 今までの都民は幸せだったに違いない。あれだか慕われるのも納得というものだ。


 「じゃあさ、私はどうなんだろ」

 「さぁね」

 「さあって……なにそれ」

 「いきなり現れた魔物に向かって行って、尚且つ倒した聖女なんて今までいなかったからね。予測の立てようがないんだよ」


 そう言われてしまうと、自分がいかに無謀なことをしたのかが浮き彫りになって、なんだかいたたまれない気持ちになる。


 「でもまあ、魔物を倒したせいってことで、第一印象はいいみたいだよ」

 「そうなの?」

 「ああ、そういえばヴァルキリーとか呼ばれているらしいねすね」

 「ヴァ、ヴァルキリー!?」


 なにそれ怖い! っていうかイタイ!

 まさか偶然に偶然が重なっただけの結果がこんなことになるとは! うかつなことしなきゃよかった!


 「だから大人しくしてろって言ったでしょ」

 「うぅ」

 「ノエル」

 「ん? なに、兄さん」

 「お前は、聖女になること。受け入れているのか?」

 「んー……」


 はっきりと頷くほど、受け入れられている訳じゃない。

 兄さんちに自由に会えないのは嫌だし、田舎村出身で礼儀のれの字も知らないような私が上手くやっていけるか心配だし。

 けど、最初の頃みたいに絶対に嫌だ! っていう気にはならない。


 「そうか」


 私のまとまらない心中を察したのか、兄さんは少し寂しそうに頷いた。

 そして表情を厳しいものに改めて、ギヴァとエリオナイトに向きなおる。


 「妹を頼む。傷つかないように、守ってやってくれ」

 「アンタに頼まれなくたってそうするよ。それが俺らの役目だからね」


 ギヴァは気のない様子でそう言って、同意するようにエリオナイトが小さく頷く。


 「そうか。……じゃあ、俺はそろそろ帰る」

 「え? もう? もっとゆっくりしてったらいいじゃん!」

 「いや。ジョエルたちが心配だからな。あまり一緒にいると、離れがたくなるし」

 「重症」


 兄さんの言葉を聞いて、ギヴァが耐えかねるといった風に呟いた。

 言葉の意味が気になったけど、今は兄さんの方が大事だ。


 「そうだけどさ、でももうちょたとくらいいいじゃん! 今度はいつ会えるのか分からないし!」

 「すぐに会えるさ。……そうだろう?」


 そう言って、兄さんは挑むような視線を二人に向ける。


 「さぁ」


 ギヴァは素知らぬ顔で言ったけれど、否定はしなかった。


 「……うん、分かった。また、絶対来てね」

 「ああ」


 兄さんは私の頭を撫でてから立ち上がった。帰りを送る係だというギヴァと一緒に部屋を出ていく。

 次に会えるのはいつになるんだろう。

 すぐだったらいいなぁ、なんておもいながら、私は紅茶を飲み干した。




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