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襲撃

 「先代様」

 「うわっ!? いつの間に!?」


 魔物について無い頭を振り絞って考えていたら、いつの間にかギヴァがアリアさんの隣に立っていた。

 驚き叫んだ私を横目で見てから無視すると、ギヴァはアリアさんに言った。


 「ここは危険ですから、安全な場所に避難してください。護衛にはアイツらをつけますから」


 ギヴァが指差した先には、豆粒ほどの大きさの影がゆらゆらしていた。

 しばらく見守っていると、だんだんと視認できる大きさになってくる。そいつらは宮の守衛だった。

 どこから走ってきたのかは知らないけど、私たちの傍で止まった守衛たちは立っているのも辛そうなほど疲れきっていた。滴り落ちるほどの汗と、聞いてる方が苦しくなるような呼吸音。それでも守衛たちはアリアさんの無事な姿を見て、心底安心したように微笑んだ。


 「じゃ。頼んだよ」

 「は! 身命をとして!」

 「では私はこの方たちと行きますね。ノエル、充分に気をつけて」

 「アリアさんたちも」


 守衛に囲まれてアリアさんは消えていった。

 その姿を見送る私の後ろでは、いつの間に始まったのか、勇者二人の聞く人間の神経をゴリゴリ削るような口論が交わされていた。

 ……振り向きたくない。


 「え? 分からなかったんですか?」

 「なにそれ嫌味? そう言ってるでしょ」

 「いえいえまさかそんな。嫌味なんて言うわけないじゃないですか、嫌だなぁ」

 「言っとくけど、俺はアンタみたいにサボったり、面倒臭がって手を抜いたりしてないから」

 「分かってますよ。しかし、そうなると魔物の方がギヴァよりも格が上ということになりますが」

 「喧嘩売ってんの? お望みなら買ってやるけど」


 どんどんヒートアップする二人の口論に口を挟めるほど怖いもの知らずじゃない私は、二人を視界に入れないように明後日の方向を見続けるという苦行を強いられていた。

 私を支えるのは、ここで下手を打って巻き込まれてはたまらない、という思いだけだ。

 口論しながらもギヴァは剣で、エリオナイトは術で魔物を殺し続けているのに、やっぱり数は減っていない。

 ギヴァに体を真っ二つにされた魔物の死体に近づく。

 魔物の死体は、内蔵とか生きるのに必要な器官はなにも備わっていなくて、真っ黒な断面から緑色の血を流しているだけだ。

 あまりにも現実感がなさすぎて、これが今まで動き回っていたなんて到底信じられるものではない。

 っていうか、マジでどやって動いてるんだろう、コレ。

 死体になってもしばらくすると溶けるみたいに消えちゃうし、本当に不思議だ。

 指先でつついてみた魔物の死体は水を吸った海綿みたいな感触で、あんな猛獣じみた動きができるとは到底おもえなかった。


 「あ。危ないですよ」

 「え」


 ぶよん!


 効果音をつけるならそんな感じだろうか。

 いきなり柔らかくて弾力のあるものに体当たりされて、吹っ飛ばされた。

 ぶつかってきたものがとても柔らかかったおかげか、衝撃はそれなりにあったけど、痛みはなかった。


 「ーーえ? なに?」

 「ちょっとエリオット。乱暴」

 「仕方ないじゃないですか。私たちから離れて、あんなところで魔物の死体を弄くっている当代が悪いですよ」

 「まあ、そうだけど」


 え? っていうか、なに?

 仰向けになったままじっとしていると、ジワジワと状況が飲み込めてきた。

 多分、私が魔物に襲われそうになっていたところを、エリオナイトが奇跡で助けてくれたんだろう。

 その方法にもの申したい気持ちはあるものの、助けてもらって文句は言えない。助けてもらえただけマシだったと思うことにしておこう。

 私は自分にそう納得させ、ごろっと体を反転させてうつ伏せになる。


 「……ん?」


 地面に限りなく近づいた視界。そこに、見慣れないものを発見した。

 なんだか茶こけた海藻みたいなものが、ぶるぶるモゾモゾ微妙に動いている。

 なにあれ、果てしなくキモい。

 ギヴァとエリオナイトはそれに気づいていないようだ。それどころじゃないだろうから当然だろうけれど。

 それに、その物体の色は完全に地面に擬態していて、上から見ただけじゃ分かりにくいのかもしれない。

 見慣れぬその物体をジッと見つめていると、そいつは目を疑うような動きを見せた。

 ぶるん! と震えた体からポロッとこぼれ落ちた肉片。それがむくむくと大きくなって、なんと魔物になったではないか!

 ええ、ちょま!? どおりで魔物の数が減らないわけですよ。

 ぶるんぶるんする度に魔物が生まれてるんじゃ、殺しても殺しても追い付かないはずだ。納得。

 なにしろ奴のぶるぶるさといったら、見ている限りでは高級ゼリーに勝るとも劣らない。ちょっと休憩してまたぶるぶるの繰り返し。

 魔物を生むのにちょっとタイムラグがあるとはいえ、これではいたちごっこもいいところである。

 私は慎重且つ迅速に立ち上がった。

 そして二人の元へ向かおうと一歩を踏み出してーーその足の裏に妙な感触を感じた。


 例えるなら、そう。ちょっと固めの果実入りゼリーに足を突っ込んだ。みたいな。


 「ひえええぇぇぁ」


 気の抜けた悲鳴が勝手に口から漏れる。

 私の足が踏み抜いたのは、ゼリー型の魔物だった。

 いつの間に移動したのかと思ったけど、よく見てみると体の色がちょっと違う。どうやら、別個体のようだ。

 思いっきり踏みつけてしまった魔物ゼリーはしばらく抵抗するようにプルプルしていたけど、やがて力を失ったように液体化してしまった。

 ……死んだ?

 そうっと足を上げてみる。反応なし。やっぱり死んでしまったようだ。

 魔物というものはこんな簡単に死んでしまうものなのか。

 これが聖女としての力なのか、それとも単純にこの魔物ゼリーが弱かっただけなのかは知らないが、一つだけハッキリしていることがある。

 コイツは、私でも倒せるということだ。

 聖女としてや役割云々はぬきにして、私は勇者たちにただ守られているだけでいるつもりはない。

 私にできることがあるなら、私がやるべきだ。

 私は茶こけた勝るともを睨み付けた。

 やってやる、やってやるぜ……!

   


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