勇者のたおしかた
友人が今はまっているアプリの話を聞いて衝動的に書いてしまいました。反省はしている、後悔はしていなーい…はず。
なんてことはない何処にでもあるようなお話で面目無いのですが、どうやら私は異世界トリップなるものをしてしまったみたいなのです。
何処かの世界の東に位置するフィラフィズ島。この島には、世界中の人達が恐れてやまない魔王の城が建っている。魔王は、それはそれは昔から悪逆非道を繰り返し、立ち向かってくるものには死を、逃げるものには追い打ちを仕掛けるのが日常であった。このままではいけないと国の王達は団結し魔王のもとへ大軍率いて戦いに出るも、所詮は人間。魔王の足元にも及ばず、たった5匹の使い魔だけで返り討ちにされてしまった。
この戦いの結果を聞いた国民達は、それはもう嘆き苦しみいつ自分が殺される番となるのか怯えながらに暮らしていた。
しかしこの魔王と人間との争いについに終止符が打たれようとしていた。そう。勇者が表れたのだ。これまで幻とも言われていた存在だが、あまりの魔王の残虐ぶりにようやく神も動いたのだ。神が自ら世界へ降り、自らの手で植えたとされる一本の始まりの木は7日のうちに小さな苗から大きな大きな大樹へと育った。
始まりの木が大きな成長を遂げた7日目の夜、始まりの木から生まれた始まりの勇者。世界中の国民は勇者を歓迎し大切に扱った。国王は勇者に不動の地位を与える。周りの者は勇者へ、光の剣や、甲冑、馬と、魔王を倒して貰う為に様々なものを差し出した。勇者はそれを大切そうに受け取ると直ぐに旅支度をし魔王の元へ向かった。
長い旅を終えようやくフィラフィズ島へついた勇者は早速魔王の使い魔5匹を倒し魔王のもとへと一歩ずつ進んでいく。しかし腐っても魔王、光の剣を携えた勇者を、まるで赤子の手をひねるように簡単に倒してしまった。
始まりの勇者が魔王に倒された日から翌年、一年ずつ勇者が表れるようになった。勇者は生まれるたびに王や国民から祝福をうけ、魔王を倒すべくやってきた。魔王も負けじと一年ずつやってくる勇者を様々な方法で倒していた。
そんな駆け引きが何百年と続く。勇者はそれこそ一年ごとに生まれてくるが、なんせ魔王は一人だけ。どんなに強い魔力をもっていても、たとえ腕の一振りで大地を抉ることができても、歳には敵うことができなかった。
魔王は考える。このまま負けてしまうのは少し寂しいものだ。魔王は長年の勇者との戦いが少し面白く感じていたのだ。それこそ民へ悪逆を行うことよりも。勇者と戦ううちに民に手を出すことなどなくなっていた。さらに数百年前の民と違い、今の者はかつて魔王に国を恐怖で支配されていたことなど知りもしない。ましてや、現在では勇者と魔王の戦いを見ものにさえされているのだ。
このまま終わるより他のものへ跡を継がせよう、しかし使い魔達に考える能力などなく任せたところで一瞬で終わってしまうだろう。毎日寝ずに考え頭を悩ませていると、1匹の使い魔が言った。
「魔王様、魔王様、異世界から魔王様の代わりを呼べばいいのです」
「余の代わりなど他の世界にいるというのか」
「お言葉ですが魔王様、ワタクシ本で読んだことがあります。異世界にはジョシコーセーというなんとものんきな生き物がいるらしいのです。ジョシコーセーは適応能力も高く、異世界に憧れる年頃です。これほどの適性はこの種族だけでしょう。」
「そうか、ならばそのジョシコーセーという種族を一人、ここへ連れて参れ。そやつに余の席を譲るとしよう。お前達使い魔はそのジョシコーセーを今後、主として使えてゆくのだぞ。」
「はい」
そうと決まれば話は早いもので、魔王と使い魔はあっという間にジョシコーセーもとい女子高生のマオはこのヘンテコな世界へとトリップを果たしたのだった。
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「あー、まじでこれはないわー。」
日が照っていても薄暗い城の最上階、身の丈に合わない大きな一人がけソファーに身を置きながら女子高生のマオは呟いた。
いきなりこの世界に連れて来られてから早10年、驚く間も無くあれよあれよと言っているうちに魔王にさせられ玉座に座らされた。初めは嫌がり泣いていたマオだったが、元魔王に聞くと、勇者を10体倒せば元の世界に帰ることができるらしい。いやいや根拠はどこにあるんだよ、とか、大体勇者を倒した数を誰が覚えとくんだとか、ツッコミどころはあるものの、それしか方法がない今、マオは仕方なく勇者倒しに精を出していた。
勇者倒しと言っても、別に殺してしまうわけではない。勇者というのは普通の人間と何ら変わらない外見で倒し方としても心臓を捉えなければならない。しかしもう一つ、別の方法として堕水というなんとも中二病ちっくな水をかけると光を源としている勇者は消えてしまうそうだ。
まぁ、その堕水を作るにあたってここには書けないようなおどろおどろしいものなのだが、これは使い魔に作ってもらっているので割愛する。
そんなこんなでここ近年は、魔王改めマオは堕水を使い勇者を返り討ちにしていたのだ。
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「あれ、こいつもしかして強いのかしら」
何時ものようにマオは堕水を使って勇者を消そうと励んでいた。しかもいままでよりもやる気は高い。何せ今日の相手である勇者で10体目なので。こいつを倒せば元の世界に戻れるかもしれないのである。いや、戻れる。多分。
とやかく倒してみなきゃ始まらないということでいたぶる間も無く堕水を瓶ごと頭からかけるように使い勇者に指示した。これまで魔王を倒すべくやってきた勇者は、マオが言うのもなんなのだが弱いものだった。生まれてすぐ旅立ったようで人を疑うことをしらず、ある者は使い魔に騙されて堕水を飲み消えてしまった。ある者は見え見えの罠に引っかかって堕水のプールに飛び込んだ。
本当に、マオが手を出すまでの相手でもなかったのだ-----まぁ、かといって戦えるのかといったら出来るわけはないのだが------
そんな10年だったのでびくびくと怯えていたマオも、使い魔ですら油断していたのだった。
「なんとも簡単な城だな」
勇者は言うと回し蹴りで使い魔を倒してしまった。これに驚いたのは使い魔だけではない。残りの使い魔は4匹、うち3匹は驚きのあまりそのまま仲間の仇を取るべく勇者に突っ込んで行きあえなく消え去ってしまった。
それも見ていたマオは焦る。
「ちょ、え、うそ、5匹しかいないのに何してくれるのよ!!ねぇ、使い魔さん、あと堕水はいくつ残っているの?!」
「あと2つです、マオウ様」
「2つ?!何で?いつも沢山作ってたじゃない!」
「あまりに相手が弱いものばかりだったので、ついサボってしまい…結局完成した堕水は先ほどの使い魔が持っていった3本とここにある2本のみです」
「…これは、詰んだわ。」
途方に暮れるマオ、しかしそんなことを言っている間に勇者は刻一刻とマオの元へと近づいてきます。
「こうなったら、使い魔さん、あなたこの堕水を一本もって囮になりなさい。」
「分かりました。マオウ様はどうするのですか?」
「私はそこの影に隠れて勇者の倒すスキを探します。あなたがその堕水を勇者にかけて、勇者が驚いている時に私が後ろから最後の堕水を投げつけます。」
「流石は魔王様です」
「何度も言っているけど、魔王じゃなくてマオよ!」
「はい、マオウ様。マオウ様、もうすぐ勇者がつきます。」
使い魔のその言葉を聞くと慌ててマオは部屋の隅に置いてある大きな大きな縦長の瓶の影へと隠れた。
次の瞬間、バンッと乱暴に扉が開き勇者が入ってきた。
「お前が魔王か?」
「そうです、よくここまで来ましたね、勇者よ。」
「ほう、随分と礼儀ある魔王だな。貴様、玄関で見た使い魔と良く似た背格好をしているが、魔王であるのか?」
「………っ」
勇者の言葉に思わず目を見開き身体をビクつかせたのは使い魔ではなくマオの方だった。マオは慌てて深呼吸すると瓶の壁からそっと勇者の姿を見た。しかしそれがまた、まずかったのだ。
勇者は代々美しいときまっている。なんてったって光から生まれるのだから。そんなのはマオだって知っていたのだ。しかし、目の前の男はいろんな意味で規格外であった。
光を集めて糸にしたのだと言われたって納得してしまうような金の髪はなかなか光の届かないこの城の中でも輝きを放っている。男にしては少し長い髪を一つに束ね、前髪を適当に流している。顔はなんとも言えない素晴らしいものだった。眉はきりりと細く目は綺麗なアーモンド形。その中の瞳はターコイズブルーなのか、角度によって色を変える。整いすぎて目が離せなくなった。まさに神に愛されたような人だった。
マオは悟ってしまった。こんな人に勝てるはずがない。今目の前で戦っている使い魔も油断しまくっていたとはいえ弱くはない。しかし視線だけで使い魔を黙らせてしまったのだ。思わず堕水の入った瓶を握りしめる。
唇を噛み、どうしようかと途方に暮れていると、いつのまにやら自分に影が出来ているじゃないか。冷や汗なんて漫画だけの話だと思っていたマオだが、人間追い詰められたら本当にかくんだなぁ、とのんきに考えてしまうくらいには混乱していたのだ。
「お前が、魔王だな」
「な、なんで、分かって」
「風の噂で聞いたんだ。異世界からきた少女が魔王をしているとな。勇者となってからも魔王倒しなんて興味も無かったが、その噂が本当なら面白そうだったのでな。」
「わ、私に会いに来たの…?そ、それでどうするつもりなの、こ、殺す…の?」
「いや…?」
もはや震えは全身に周り、勇者の顔を見つめることすら出来ず、マオは下を向いて答えていた。だからマオは知らなかった。殺さないといった勇者の顔が、酷く面白いオモチャを見つけたように、黒い笑みを浮かべていたということを。
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それから数年、魔王は世界からいなくなり国民は幸せに暮らしたそうだ。
ちなみに魔王を倒した勇者は、国王から不動の地位と名誉をもらい、どこからさらってきたのか可愛らしい元魔王の娘と結婚し、森の奥に家を建てて2人と使い魔一匹でいつまでも幸せに暮らしたそうな。
結局のところ策士な勇者に適うべくもなく、あれよあれよと話が進んで気がついたら勇者の嫁っていう。マオちゃんは抵抗するも勇者が何枚も上手だったのでしたとさ。