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③異世界列車の出会いと別れ




「大変だ!」


 彼女達が車両から去ってから、暫くした後、彼女達が向かってのとは反対側の扉が勢い良く開き、向こう側から男が飛び出してきた。

 ミーナット達と交代した者達は一斉にその顔を見て、表情を引き締める。


「何があった?」

「それが……ああ、ちょっと来てくれ」


 人質達が僅かに表情を変えた事を見て取ったベニトミーは、同胞達を呼び、手招きをする。


「……余程らしいな」


 危険を感じ取った者達の内、数人がベニトミーの側まで近づく。

 男は彼らの耳元まで顔を近づけると、絶対に人質には聞こえない様に囁いた。


「俺達が見張ってた所に襲撃が有ったんだ、多分、俺以外は死んだな」


 それを聞いたベニトミーは一気に目を見開き、拳を握り締めた。


「本当か……クソ、今すぐ確認に向かわせるぞ……おい! 頼む!」


 同胞達の中でも探索などに長けた者達を呼ぶと、ベニトミーは彼らの耳元で指示を出す。

 彼らは言葉をしっかりと聞き取ると、頼もしく笑って大きく頷いて見せた。


「了解したよ、ああ、行ってくるさ」

「頼んだ。気をつけて行けよ」

「分かってるさ」


 指示を受けた者達は、素早く部屋から飛び出していく。

 『地球』では様々な探索に優れた役職に就いていた者達だ。その素晴らしい動きは、訓練された者の素早さを感じさせた。


「いや、頼もしい限りだな。流石だ」


 彼らへの賞賛を口にしたベニトミーは、報告をしに来た男へと目を向け、肩を軽く叩く。


「ご苦労だったな、大変だったろ」

「おお……あれ、ミーナットさんは?」


 周囲を見回した男は、車両の中にミーナットが居ない事に気づいて、首を傾げていた。

 たった今彼女と交代したベニトミーは、目の前の男が酷いマゾヒストである事に気づき、目に可哀想な物を見る様な色を宿す。

 尤も、ベニトミーも人の事は言えないのだが。


「はあ、さっき休憩に入った。お前も行くか?」

「へぇぇ……よし、そうさせて貰うさ」


 今までの焦りなど何処に行ったのかと思う程に隠しきれない興奮を宿した男は、急に浮き足立って反対側の扉へ歩き始める。

 何処か気持ち悪い表情に乗客達が怯えたが、誰も気にする事は無い。


「おっと、念の為だ。持っていけよ」


 人質の見張りの一人が、片手に持った軽機関銃を手渡した。

 男は銃を受け取ると、軽やかに銃を振って見せる。


「おお、了解了解、助かるぜ」


 男はだらしなく期待に溢れた笑顔で銃を撫で、不気味な笑い声を響かせながら車両の外へと去っていく。

 入って来た時の剣呑な報告など覚えていないのか、鼻歌すら交えていた。


「相変わらずの変態だな、おい」


 吐きそうな顔をしながら、彼の同胞達はは去っていく背中を眺め続ける。

 その顔には隠しきれない不安が含まれていて、重く呼吸をしていた。


「ふん……計画に支障が無ければ良いけど、さて、どうだろうなぁ……気持ちは分からなくもないがな。全く、俺じゃサイトウさんの代理は荷が重いぜ」


 ベニトミーは人質に聞こえない小声で、自分達の代表者であるサイトウへと半ば助けを求める言葉を口にした。




+




 一方、助け出された女ことケイ・コールマンは、心の中で悩み続けていた。

 何故、彼女は悩むのか。それは、脳裏に浮かぶ言葉に原因が存在する。


――さて、ケイ。君にやって欲しい事は簡単だ。

「あのー? 大丈夫ですか?」


 彼女の頭にサイトウの声が響く。聴覚は別の声を捉えていたのだが、それに反応する余裕は無い。


――我々は地球へ帰る作業をしなければならない。その為には、妨害の可能性は極力避けるべきだ。

「こら、ジェイ! その人は怖い思いをしたんだぞ、暫くそっとしておくんだ」


 少年らしき声が怒りと共に声を荒げる。ケイに対する気遣いが滲み出ていて、声の雰囲気からは優しさが感じられた。

 だからこそ、彼女の心は余裕を失ってしまったのだが。


――君には、弱々しいヒロインを演じて貰いたい。

「ええー? でも……」

「でも、じゃねえ。あんな……辛い気持ちになって当然だろうが」


 小さい子供の不満そうな顔を緩く小突きながら、少年は極力ケイを傷つけない様に言葉を選んだ発言をしていた。


――我々の行動に対して抵抗するヒーローの足枷になって欲しいのだよ。

「そうかな?」

「そうなんだよ」


 脳裏のサイトウの言葉と現実の少年達の声が混ざり合って、ケイは混乱で頭痛すら覚えた。


――何、地球へ到着すれば君も帰る事が出来るんだ。犠牲にする様な真似はしないさ、約束しよう。

「だ、大丈夫ですか!? もしかして、痛みますか?」


 急に頭を押さえた姿を見た少年が心配そうに駆け寄って来て、ケイは全神経を使って笑みを作り上げる。

 作り笑いだが、苦笑に近い。幸せそうな笑みは、返って嘘だと見抜かれてしまうのだ。


「あ、えっと……私は、大丈夫よ?」

「無理しないでください。そんな、辛いなら言って良いんですよ」


 少年が気遣わしげに手を伸ばしてきて、ケイはその手を取るかを迷う。怯えられない様に努力しているのか、暖かく優しげな雰囲気を纏っている。

 だからこそ、ケイは迷った。自分にその手を取る資格が、果たして有るのか、と。


「そ、その……」

「……すいません、怖かったですか。大丈夫、この距離から一歩も近づかないと約束しますから」


 ケイが怯えていると思ったのか、少年は本当に一歩も近づかず、手だけを伸ばしている。


「ちがっ、違うの……ただ、その。今は、辛くて」


 何とかケイが声を絞り出すと、少年は僅かに青くして息を飲んだ。


「っ……」

「違う、違うわ。あなた達の事が怖いんじゃなくて。その……いえ、言いたくないの。ごめんなさい」

「話したくないなら、話さなくても良いですよ。大丈夫、俺達が一緒に居ますから」


 優しさに満ち溢れた表情で少年が言い切り、何とか安心させようとしていた。

 その言葉で何とか涙を止めたケイは、指で涙を拭って、しっかりと笑顔になる。


「ありがとう。あの、近寄って来てくれても、良いわ」

「えっ!? は、はい……」


 一瞬だけ驚きを顔に浮かべた少年だったが、すぐに分かりやすく照れた表情でケイとの距離を近づけた。

 ケイは鈍感な女ではない。それだけで、少年が自分に対して抱いている気持ちを捉えた。


「ねえ、もう少し近づいてくれる?」

「……こう、ですか」


 殆ど肩の触れ合っている状態になって、ケイは満足げに頷く。


「うん、誰かの側に居ないと怖いの」


 嘘偽らざる本音だった。一人で居ると、彼女の感情は罪悪感で押し潰されてしまいそうになっているのだ。

 瞬く間に少年が顔を赤くしている事も分かっていたが、彼女はそれでも離れなかった。


「そう、そうですか。あの、ちょっと、でも……身体が、その……」

「お願い」


 動揺で一杯になった少年に対して、彼女は出来るだけ弱々しく頼み込んだ。

 すると、少年はすぐに顔色を真剣な物へと変えて、頼りになる雰囲気を纏う。


「お願いされました。じゃあ、肩くらいは貸します」

「うん、助かるわ……」


 彼女は弱々しく頷き、自嘲で震えた。それを見た少年が勘違いし、また優しさを増す。

 もしケイの内心の動きまでサイトウが読んでいたのだとしたら、大した目を持っていると言わざるを得ないだろう。

 端から少年と女の姿を眺めていた少年は不思議な雰囲気を漂わせながらも、楽しげに呟いていた。


「あはは、大変だね。フレンさんは。あ、そうそう僕の名前はジェイだよ。覚えておかなくても良いけどね」


 ケイに向かって、子供、ジェイが手を腹部の前に当てて頭を下げ、挨拶をして見せた。

 驚く事に、『地球』の一地方で行われる恭しい挨拶の挙動だ。ケイは動揺したが、悟られない様に返事を口にする。


「ジェイ君ね。あなたも有り難う。本当に助かったわ」

「いえいえ、全部フレンさんが『助けたい』って言ったからですよ」

「こ、こら」

「事実じゃないですか」


 フレンが慌てるが、ジェイは冷静さを崩さない。

 そんな二人の顔が少しおかしく感じられて、ケイの表情に柔らかな笑みが浮かぶ。


「あ、良い笑顔。そっちの方が似合いますよ」

「……確かに」


 二人の指摘を聞いて、彼女は思わず自分の唇に手を置く。そこには、自然が笑顔が浮かんでいた。


「……そう? ふふ、そうかもしれないわね。うん、もう大丈夫よ。離れても良いわ」

「あ、はいっ……」


 笑みを浮かべたままフレンに話しかけると、彼は名残惜しそうな顔になりつつも、すぐに数歩分の距離を取っていた。 

 罪悪感が薄れたケイは軽く息を吐き、ジェイとフレンの二人へと名乗る。


「さてっ、私はケイ・コールマン。見ての通りの女よ」


 二人に向かって精一杯の笑顔を見せたのが効果的だったのか、特にフレンは頬を紅潮させていく。

 ただ、ジェイは殆ど変わらず、ケイの名前を何度も頷きながら呟いていた。


「ケイ、ケイさんですか……うん、カッコいい名前だね」

「ん、ありがとう。カッコいいっていうのは余り言われないから、ちょっと新鮮かな」


 ジェイの楽しげな空気は、場の雰囲気とケイの気分を明るく変える。


「……ケイさんか。うん、何だか素敵な響きに聞こえるかな。こういうの……ドキドキするって言えば良いのか」


 フレンが小さな声を漏らす。それはケイには聞こえなかったが、ジェイは聞き取ったらしく、素早くフレンへと囁きかけた。


「あ、恋は盲目っていう意味だよね」

「茶化すな……」

「ん? どうかしたのかしら?」

「あ、いや。何でもないですよ、はは」


 ニヤニヤと笑うジェイの肩を叩きながら、フレンは明後日の方向を向いて乾いた笑い声をあげていた。


「そ、そうなの? 何でも、そう、何でもないのね」


 何となくフレンの内心を察したケイの心が揺れ動いたが、彼女が次の言葉を告げる前に、フレンが柏手を打って話題を強引に転換する。


「さてっ! 本当に大丈夫なんですね!?」

「え……ええ、そうよ、平気平気」


 急な問いにケイが笑顔で答えると、フレンもまた笑顔になった。


「それは良かった! さ、そろそろ此処から離れませんか? 同じ場所に居ると危険ですからね。あ、ジェイ、案内は頼む」


 話を振られたジェイも同じく笑顔となっていて、至極機嫌の良さそうな雰囲気で二人の手を掴み、引いた。


「よし、こっちだよ。こっち……これでも異世界列車には詳しいんだ、安心して良いからね」


 『とてとて』という擬音の似合う、幼い子供らしい足取りで、ジェイは二人を案内しようとしている。こんな子供に任せるというのに、不思議と不安は抱かない様だ。


――ああもう、凄く、凄く良い子達よね……


 その背中に合わせて歩きながら、ケイは内心で嘆息する。

 彼女は確かにサイトウの指示を受けた。だが、まさか子供が『釣れる』とは思っていなかったのだ。

 大人の単なる『お人好し』や『ヒーロー』なら、彼女も此処まで苦しい気持ちになる事は無かっただろう。だが、現実には『とても優しげな』子供達が、『淡い恋心の様な気持ち』を向けながら、気遣わしげに接してくるのだ。

 ケイでなくとも、居心地の悪い感覚くらいは有るだろう。


――はぁぁ……断れば良かった。乗客に銃を向けるだけなら、私でも出来たのに。


 内心の感情を表に出さない様にしながら、彼女は自嘲する。


――ああ、酷い奴。地球に帰りたいのは皆と一緒なのに。煮えきらない馬鹿な女。はぁ……ミーナットなら、簡単に吹っ切るのに。


 脳裏に浮かぶ、同胞達の中でも『極まっている』と言うべき女。その人物への憧れを抱き、彼女は自己嫌悪をする。

 自分がその様な精神を得る事は、絶対に無理だと諦めながら。


「……その、ごめんなさい」

「あはは、別に良いんですって」

「そうそう! 助けたくて助けたんだから、気にしなくて良いんだよ」


 口を突いて出た謝罪の言葉に対して、彼らは気にしない様子で微笑んだ。

 謝罪の意味が違うのだが、彼らが知る筈も無い。


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