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① 異世界列車の制圧


 時間は、アーデルが部屋から出た所へ戻る。

 異世界列車は奇妙な列車である。例るならば『異世界』から『異世界』を旅する線路無き列車である事や、車掌などの人物がまず全く見られない事、更に、『明らかに列車の横幅よりも横に広い部屋が有る』事などが挙げられるだろう。

 その『妙に広い部屋』の一つが、普通席の置かれた車両だった。横に並べられた座席の数はそれほど多いとは言えないが、座席の間を通る隙間の広さは常識を遙かに越えている。四人くらいなら、横並びでも簡単に移動出来る程だ。

 そんな大きめの隙間を歩く影が、二つ存在した。


「ここが、丁度真ん中になるかな!」


 車両の中央に立った子供、ジェイが腕を広げ、楽しげに言葉を口にする。

 子供一人が腕を大きく伸ばしたくらいでは座席に届きもせず、迷惑そうな顔をする客は一人も居ない。


「へぇ、ここが……でも普通の車両だな。特に真ん中だからって、だから何? という感じなんだが」

「酷いねフレンさん。こういうのは気分と勢いだよ、気にしないのが良いんだって」

「そうか?」

「そうだよ?」


 背後を歩くフレンの言葉に、ジェイは思い切り頷く。車輪の形をした髪飾りが揺れて、列車が呼応した様に震えている。

 とても機嫌の良さそうなジェイは、その小さな身体を使って何度も周囲を見回した。


「ふふ、今日も乗客の皆さんは沢山だね。それだけ異世界列車が良い所なんだろうけど」

「…………その割には、内装は単なる列車に見えるけどな」


 広さ以外は特に珍しくもない構造の列車を眺めたフレンが小さく声を吐くと、耳聡く聞き取ったジェイが反応する。


「そうかな? じゃあ、外を見たら?」

「よく分からない空間だろ。確かに凄いが、一度見たら飽きるさ」

「えー、そうかなぁ……」


 納得していない様子のジェイが窓の外へと、『なにもない』という不安や虚無感を煽る空間に対して、楽しげな目を向ける。


「結構好きな光景なんだけど、うーん、好みって奴なのかな」

「……」


 「普通は好きにならない」。その言葉を飲み込んで、フレンは座っている乗客の顔へと視線を走らせた。


「……普通、だな」


 この場の客には、少なくとも特徴的な人物は居ない。が、乗客達は『異世界』に向かっているのだ。多少の興味を抱くのも無理はあるまい。


「思ったより、ああ」


 フレンは事前に覚悟していた物とは異なる『異世界列車』の内部に若干の安堵を抱いていた。

 肩の力が抜けたからだろうか、フレンの耳に至極小さな声が届く。


「……あれ?」


 ジェイの物と分かる声だ。それを聞くと、フレンは乗客達から視線を外す。


「ん、どうした?」

「いや、今……ううん、何でもないよ」

「……?」


 何かを言おうとして飲み込んだジェイに疑問を抱き、フレンは窓の方へと顔を向ける。

 窓の外には異常が空間が広がっていて、当然ながら誰も居ない。


「あはは、何でもないって。気にしなくて良いよ」

「ん、そうか……?」


 ジェイが取り繕う様に口にした言葉に従って、フレンは窓から目を逸らす。

 それに合わせたタイミングでジェイがフレンの腕を掴んだ。


「じゃあ、次に行こうよ! あはは、次は列車の……」


 笑い声と共に勢い良く腕を引っ張られて、フレンが僅かによろけた。それでも気づかずに進もうとするジェイに向かって、フレンは何とか止めようとする。


「ちょ、ちょっと待てって……」

「ささ、次!」


 止まる様子も無く、ジェイは殆ど遠慮が感じられない足早な動きで進んでいこうとしていた。

 強引だが、悪気は無いのだろう。フレンは困った様子で腕を振り解くかを悩み、結局は引きずられる様な状態となっている。

 気づいているのか、いないのか。ジェイは陽気な声を上げた。


「あ、次はね。実は僕、この列車の重要な場所も知ってるんだ! そこに行ってみよう!」

「なあ、もう少しゆっくり歩いても列車は逃げないと思……わっ!」


 余りにも勢い良く引っ張られた為か、フレンは盛大に足を滑らせた。

 幅の広い通路の為、座席には衝突しない。フレンの身体は床へと見事に落ちていく。


「…………きゃっ!」


 声が響いた。だが、フレンの声ではなく、もっと高くて艶やかな物だ。


「ん……あ?」


 フレンの耳が、至近距離で聞こえてきた全く聞き慣れない声を確かに捉えていた。

 続いて、彼は自分の身体が床に衝突していない事に気づく。どうやら通行人が支えている様だ。


「……大丈夫?」


 心配そうな、だが上の空に近い言葉をフレンは耳にした。

 とても聞き取りやすい女性の声で、人肌の暖かさがフレンの感覚を包んでいる。そこで自分が何と衝突したのかを理解したフレンは、唐突な事態に半ばパニックを起こした。


――あ、あれ。これ、まさか、おい……! それは駄目だろ……!


 盛大に頭を混乱させたフレンは勢い良く後退して、自分がぶつかったと思わしき相手の姿を見る。

 フレンの予想通り、それは一人の女だった。輝く様な金髪が実に目立ち、可愛らしさと美しさの間にある顔立ちをしている。

 短いタイトスカートと肩だけを露出させた袖の有る服を着込んでいて、隠れていない肌色が妙に刺激的な雰囲気を漂わせていた。


「あ……えっと……」


 年頃の少年には刺激が強かったのか、フレンは顔を赤くして、深く俯いている。

 ただ、支えられていた時に身体を埋める様な状態になった事を思い出し、彼は慌てて謝罪をした。


「あっ、す、すいませんっ」

「いいえ、こちらこそごめんなさい。考え事をしていて、気づかなかったの」


 鷹揚に手を振ると、女は何とも無い様子で少し離れた座席に腰掛けていった。


「あっ……」


 フレンの手が少しだけ持ち上がり、何も掴む事無く下げられる。

 何事も無かったかの様に女は座っていて、フレンの事を見ていない。彼は顔を赤くしたまま、女から背を向けた。


「……」

「僕は知ってるよ。こういうの、ラッキースケベって言うんだっけ?」


 耳元に近づいたジェイが、からかい混じりに囁いていく。


「ふふ、フレンさんってそういう人なんだ。大変だね」

「……」


 ふざけた声音に対してもフレンは返事をしなかった為に、ジェイは更に面白がって言葉を続けた。


「おやおや、一目惚れでもしたのかな?」

「っ……」


 小さな動きだが、分かりやすい反応をフレンは返す。

 その姿を見たジェイは一瞬だけ目を見開き、次の瞬間にはニヤニヤとした嫌な笑い顔になった。


「……ふふ、本気なんだ」

「……うるさい」


 心から楽しんでいる事が分かるジェイの言葉を、フレンは鬱陶しそうに受け流している。胸の奥の辺りが妙に騒いでいる事を彼は自覚していたのだ。


「いいな、いいな。人を好きになるのって素敵な事だよ。ね? そうでしょ?」


 羨ましそうな表情をしたジェイが悪戯っぽく囁くと、フレンは少し顔を上げた。


「別に、好きっていうのじゃない。何か、ああ、何かだよ」

「うん? 随分と抽象的だけど、どういう意味かなー?」


 本当は疑問など欠片も抱いていないジェイの声音を聞いて、フレンは静かに答える。


「お前、本当は分かってるだろ」

「あはは、うん」


 恥ずかしげも無くしゃあしゃあと述べるジェイの言葉を聞いて、フレンは軽く息を吐く。

 それと同時に熱を帯びた両頬を落ち着かせて、彼は完全に冷静さを取り戻した。


「さて、で、先に行くんだろ?」


 特に何の感情も無く放たれた言葉に、ジェイが小首を傾げる。


「あれ、良いの?」

「良いんだよ、別に」

「えー、でもでも、見ていたいんでしょ? あの人の……とか」


 最後の言葉は小さすぎて、フレンの耳にしか届かなかった。

 だが、聞こえ無くともフレンの反応だけで理解出来るだろう。彼は瞬く間にジェイの顔を見つめ、思い切り眉を顰めていた。


「……変態か、お前は」

「そうかも、でも、フレンさんは見たいんだよね?」


 じっと顔を見つめて答えを待つジェイから目を逸らし、フレンは歩き出す。


「しつこい、行くぞ」

「あ、否定はしないんだ……」

「……」


 背中から聞こえてくる声を無視して、フレンは前へ進んだ。一方で、彼の頭の中では生まれて初めての感情に戸惑いを覚えていた。


――これが、一目惚れ、って奴なのかな。はは、まさか。


 少年は今まで、この様な状態になった事が無かったのだ。胸の辺りに来る暖かな感覚と、頭の奥底から湧き出る様な多幸感、そして、今にも転げ回りたくなる様な嬉しい気持ち。それらが入り混ざって、一つの情感を作り上げている。

 これが恋なのかどうかは、フレンには判断出来なかった。だが、どちらにせよ強い感情である事には違いなかった。


――いや、でも……


 フレンには、女に関して一つ気になる事が有った。


――何で、あんなに苦しそうな顔……?



「ん、ねえねえ」


 考え込みながら歩みを進めたフレンの耳に、再びジェイの声が聞こえてくる。

 フレンは軽く息を吐いてから自分の思考を中断し、軽い調子で振り向いた。


「どうした、窓の次は天井か?」

「いや、そうじゃなくて……ほら、あの人達」


 ジェイは自分が見ている方向の先を指さしていて、そこでは何人もの男女交じった人々が入り込んで来ている。

 特に目を引くのが、怯えながら先頭を歩く人々だ。フレンの目には、『無理矢理移動させられている』様に見えた。

 その後ろに居る集団は怪しげである。特に、後方の集団で唯一の女が際だって邪悪だ。首筋に巨大な裂傷が有り、短めの赤毛と背丈の高さ、何よりも化物に見える瞳が異常に目立ってしまう。


「あの人達がどうした?」


 不審な物を感じつつも、フレンは小声でジェイに話しかける。ジェイもまた耳を近づけ、何処か警戒した様子で返事をした。


「何か……凄く、『ヤバそう』なんだけど、どう思う?」

「……同感だ」


 怯えながら先頭を歩く者達の後ろを歩いている集団は揃って異様な気配を纏っていて、凄まじい危険を感じさせる。

 狂信的な熱意と必死さが車両の隅から隅にまで行き渡るかの様だ。


「ちょっと、逃げた方が良いかな?」


 危険を感じたのか、ジェイはすぐに車両の反対側へ目を向ける。

 だが、彼が何かを言う前にフレンが警戒で僅かに腰を低くし、普段より低い声で呟いた。


「残念だが、無理だな」

「あぁ、うん。確かに逃げられないや」


 ジェイとフレンの視界の先、車両の反対側にも同じ様な集団が入り込んでいた。

 二人が諦観の様な物を抱いている間に彼らは車両の途中で止まり、先頭に居た者達だけが車両の中央部分に立たされている。

 彼らは狂ってしまったかの様に怯えて、震えながら声を漏らす。


「た、助っ……」


 助けを求める声を発しようとした瞬間、その人物の頭に軽機関銃が突きつけられた。


「動くな」


 軽機関銃が現れた瞬間、怯えていた者は震えるのも止めて、何も言わなくなった。

 だが、それで終わりではない。銃を持った男はそのまま、騒ぎ始めた乗客達へと銃を向ける。


「お前達も、動くな」


 一瞬でその場の音が消えて、後には怯えと恐怖による静けさだけが残る。


「絶対に動くな」


 男が同じ言葉を二度続けると、背後に居た他の者達の一人、大きな拳銃を握った背の高い女が前に出て、邪悪な笑みを浮かべた。


「おーおーおー、何だか悪いね。コイツの口数がちょっぉぉっとばっかり少なくて、乗客の皆々様方を混乱させたかもしれない。だから、な? ま、教え込まないといけないのさぁ」


 女は言葉を止めると同時に拳銃を天井へ向けて、躊躇無く発砲した。

 銃声が静かな車両へ大きく響き、その殺傷性を殊更に強く演出する。乗客達は半ば息が止まった様子となり、その反応を見た女は銃を降ろした。


「さあて、ま、これで分かったろ? 動いたら、殺す」


 一切の冗談も含まれていない、強烈な言葉だ。本当に殺される事は明らかである。

 人を撃つ事を楽しみにしているのか、女は銃を撫でながらも、獲物を見る様な目で乗客達を見ていた。


「はは、楽にしろよな。息くらいしても良いぞ。それ以上は……くく、実は射的の的が欲しくてな?」


 そんな同胞の恐ろしい言葉を聞くと、隣に居た男は軽機関銃を持ったまま、一言だけ口にする。


「おい、ミーナット」

「はっはは、分かってるって。脅しだよ脅し、さっさと他の所の人質も連れてこないとな? それに……『アレ』も設置しないといけないんだし、射的をやってる暇は無いって事よ」


 ミーナットと呼ばれた女は残虐ながらも目の奥に必死の色を含めて、他の車両へと向かっていった。

 一番危険そうな女が去った事で乗客達の間を漂う空気は少し和らぐ。だが、それを覆す勢いで男が軽機関銃を乗客達へと向けた。

 少し揺らぎかけていた緊張が再び戻って来て、男は無情にも車両の中に声を響かせる。


「お前達には、我々の帰還に付き合って貰う」


 口数の少ない男は言葉の中に強い意志を籠めて、はっきりと宣言をした。


「お前達の命など、我々は保証しない」



+



 一つの車両に人質が集められ始めたのと同じ頃、彼らの同胞でありリーダーでもあるサイトウは、列車の一番先端、中枢部の近くに居た。


「気をつけろ。どんな罠が有るのかも分からん」


 サイトウは拳銃を片手に持って、同胞達と共に周囲を警戒する。

 近辺には幾つか座席が有るが、乗客は一人も居ない。それは彼らの同胞達が計画を成功させて、乗客達を連れ去った事を意味していた。


「よし、計画は成功させているな。これなら……」

「思ったより簡単に帰れそうですね」

「いや、油断はするな。ちょっとしたミスで我々の計画が瓦解する事は避けたい」


 肩の力を抜きかけた同胞にサイトウが忠告をすると、同胞の者達は表情を引き締めた。


「分かってますよ。ただね、ちょっと簡単過ぎて」

「同感だが、そこで気を抜かせて隙を作る罠なのかもしれん、失敗は許されないんだぞ」


 サイトウは一切気を抜かずに進んでいき、切り取った地図の一部とその場を照らし合わせ、頷く。


「そろそろ中枢に近い、一層気を付けろ」

「はい!」


 指示に従って、サイトウの同胞達が銃を軽く握り締める。

 サイトウ達は車両の先へと進んだ。この車両は一番前に位置していて、一番端には扉が無い。本来なら有るべき運転室との繋がりすら確認出来ず、単なる壁だけが見て取れる。

 だが、サイトウは特に戸惑う事も無く、地図を一瞥するだけで同胞達に命令する。


「この先だ。開く方法は……よし、全員、構えろ」


 サイトウの言葉を聞き、同胞達は一斉に銃を壁に向けて構えた。

 全員が引き金に指をかけ、合図を待っている。


「待て」


 一度目を瞑り、サイトウは僅かに息を吸う。そして息を吐く瞬間、彼は同時に合図をした。


「……撃て!」


 合図に従って、同胞達は迷わず銃の引き金を引く。

 軽機関銃は爆発したかの様な大きな音を立てて銃弾を放ち、壁を打ち抜いていく。他の壁とは違い、余り頑丈ではない。


「良いぞ!」


 爆音の中で喜色を広める様にサイトウが騒ぎ立て、それは瞬く間に周囲の同胞達へと伝播した。


「ああ、やった!」

「これで、俺達も……!」


 気を良くした彼らだったが、撃ちすぎない程度の分別は有る。壁が殆ど穴だらけになった頃には、彼らは銃の引き金から指を離していた。


「こんな物か。ああ、十分だ。ご苦労だったな」

「いえいえ、まだまだご苦労の内にも入りませんって」


 サイトウの労いも彼らは軽く受け取って、壊れかけた壁をへ近づく。

 だが、壁はまだ完全に崩れた訳ではなかった。


「おっと、まだ潰れちゃいませんね。サイトウさん、ここはやっぱり」

「ああ。一斉に突撃すれば何とでもなるだろうな」


 サイトウが頷くと、彼ら全員が揃って壁の前に立った。


「ああ、『せえの』で行こう」


 彼らは一列に並んで、一斉に大きく息を吸う。

 そして、彼らの中の一人が叫ぶ様に大きな合図の声を発した。


「行くぞ、せえ……のっ!」


 言葉と同時に、彼らは揃って壁へと体当たりをした。

 銃弾に貫かれた後だからか、脆くなっていた壁は簡単に吹き飛んだ。


「ははっ!」


 壁が壊れた事で一人が思わずガッツポーズを作ると、他の者達も似た様な挙動で喜びをアピールする。


「あははっ、やったぜ畜生! どうだこの野郎!」


 喜んでいる同胞達の姿を見て、サイトウが少し冷めた様子で声をかけた。


「おい、まだ終わってないぞ」

「ははは、分かってますって。一時的な喜びに身を浸していただけですよ」


 ニヤニヤと笑いながらも、彼らは作戦通りに壁の向こう側へと侵攻していく。


「……足を掬われる様な真似は止めるんだ。喜ぶには早いんだからな」


 小さく呟きつつも、サイトウもまた、彼らと共に壁の中へと入り込んだ。

 一歩踏み出すだけで他の車両とは違う異質な空気が広がるも、彼らの足取りは全く変わらない。居心地の悪さで行動を止められる集団ではないのだ。真剣な意地と必死に地球への帰還を目指す姿勢は、とても強い物である。


「さあ、頼むから何事も無く行くんだぞ……!」


 比較的冷静なサイトウですら列車の先へ進む顔は悲壮で、何より凶悪だった。






 破壊された壁の少し先に行くと、そこには機械と思わしき物が設置されていた。

 それは、とてつもない違和感の塊である。外見的には鉄道の要素が強く、特急列車を見てきた地球人であるサイトウ達にとって、『異世界列車』は古くさくも懐かしい雰囲気の列車だ。

 その中にあって、先端部の機械は異様な雰囲気を醸し出していた。サイトウ達から見ても、それは遠未来の技術とすら感じられるのだ。


「……こりゃすげえ」


 彼らの内の一人が思わず漏らした言葉は、サイトウを含めた全員の総意だった。

 あらゆる計器やスイッチの様に見える物は、『地球』や『異世界』の既存の技術とは明らかに違う雰囲気であり、少なくとも技術的な繋がりは感じられない。

 オーパーツ、そう呼ぶのが一番正しいだろうか。


「サイトウさん、ここが?」

「ああ、此処が『異世界列車』の中枢部だろうな。初めて見たが……成る程、異様だ」


 『地球』の物とは違う列車にサイトウが不快げな表情を浮かべ、それに同意した者達が一斉に同じ様な顔をする。


「こんな変な列車、誰が作ったんだろうな。異世界を移動する、だって……吐き気がする」

「同感だが、これを使って『地球』に帰る事が出来るなら、この列車も捨てた物じゃないかもな」


 『地球』の技術以外は一切認めていない彼らは、『地球』の技術を基に複製した軽機関銃を握り締め、列車の中枢部を睨む。


「事が終わったら、さっさと壊そうぜ。地球にこんな技術は持ち込ませねえよ」

「その気持ちは分かるが、今は関係有るまい? 我々がやるべきは、一つだけの筈だぞ? 少なくとも、私は『地球』に帰る以外はどうでも良いのだが?」


 サイトウの熱烈な意志を感じさせる言葉を聞き、彼の同胞達は一斉に信頼の有る微笑みを浮かべた。


「あんたの熱心さには負けるよ。ああ、アンタが必死にやって来たから俺達は安心出来るんだ」

「そうそう、アンタのお陰で、俺達は帰還する事に努力出来るのさ」


 同胞からの賞賛を受けたサイトウは、照れる様に頭を掻いた。


「はは、照れるな。だが、お前達の存在も重要なんだぞ。色々な意味でな……スケープゴートや、肉の壁にもなる」


 最後の言葉だけは誰にも聞こえない様に呟きつつも、彼は列車の先端部から視線を外していない。

 前面の窓が異常かつ言葉に出来ない不快な空間を映し出しているが、サイトウ達は誰も気に留めず、怨敵でも扱う様に機械類を眺めていた。

 そんな中、彼らの後方から困惑した様な声が響いてくる。


「あのー……」


 声に反応したサイトウが振り向き、そこに居た男の顔を見る。


「ん? どうした?」

「あっ、いえ、その。私はどうすれば良いのですか」


 困惑した様子で尋ねているのは、サイトウ達が雇った技術者だ。

 『地球に戻る』という意志の無い完全な部外者だが、列車を移動させるには相応の技術が必要だった為に苦肉の策として呼ばれたのだ。

 そんな部外者を鬱陶しく感じたサイトウだったが、彼は内心を隠して指示だけを口にする。


「作業に取りかかってくれ。相応の報酬は出したからな、結果を出すんだぞ、良いか、結果が全てだ」


 サイトウが言い聞かせる様に告げると、技術者は自信に溢れた様子で胸を叩く。


「いや、任せてください! 異世界列車の技術は知ってるんですよ、はは! ……胸が痛くなりました」

「……」


 自分で胸を叩いて胸に痛みを訴える変人を、その場の全員が冷めた目で見つめる。

 冗談の通じない相手だと悟ったのか、技術者は誤魔化す様に笑った。


「あはは……そんなに怖い顔をしないでくださいよ、俺恐がりなんで、逃げちゃいますよ」

「逃がさないから、安心しろ」

「あ、あはは……」


 サイトウがあえて獰猛な獣の様な顔をすると、技術者は慌てて列車の機器の類へ走っていった。


「もう一度言っておく、結果を出せよ?」

「分かってますって、大船に乗ったつもりで任せておいてください」


 余程自信が有るのか、技術者は脅し紛いの言葉を受けても動揺を見せない。

 サイトウは小さく感嘆の息を吐いて、ただ一言告げた。


「なら、任せる」


 それだけ言うとサイトウは技術者と列車の機械類から背を向けて、銃を握ったまま歩き出す。


「あ、俺達も……」

「いや、お前達は良い」


 同行しようとした同胞達をサイトウが手で制し、技術者には聞こえない様に声を出す。


「私は人質の確認に戻るんだ。君らはあの技術者を見張っていろ」

「分かりました。では、他に何か指示は?」


 同胞達の一人が尋ねると、サイトウは少しの間だけ考えて、思い出した様に残虐な笑みを浮かべる。

 そして、サイトウは彼らから背を向け、歩き出しながら言葉を発した。


「そうだな、一つ言っておく」


 喉の奥から出る様な残酷な笑い声。それを聞いた同胞達は指示の内容をある程度は察した。


「仕事が終われば、用済みだ。異世界人など地球には必要無い」


 それは、異世界への嫌悪感に満ち溢れたサイトウの本心であった。同時に、彼の同胞達と共有している感情の一つでもあったのだ。

 だからこそ、同胞達はサイトウの指示に対して逆らう事は無く、納得した様子で頷いた。



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