過去という名の迷宮(ラビリンス)8
「だーかーら、ボクが男物の制服を着てるのは動きやすいからだよ!何でイオスはそういうとこ、こだわるのかな!!ぶっちゃけここの学校の生徒だとわかればそれでいいじゃん!!」
「またやっていますね・・・」
リックはぎゃあぎゃあと言い争うイオスとヒナタを見てため息をはくと「あの2人、朝からあのテンションで喧嘩して疲れないのでしょうか・・・」と呟いた
「だな、俺もヒナタが転校してくるまでイオスがあんなに感情的な奴だったなんて思いもしなかったぜ・・・やっぱり昨日の【ライバル発言】が原因なのか・・・」
リックの意見に同調し、ぼそりと呟くフウタの言葉を聞いたクラスメイトは興味深げに首を傾げると「何だよ、それ」と聞いてきた
「そういや、お前たちは途中で帰ったから聞いてなかったんだっけ・・・リックも気絶をしていたしな」
フウタの言葉にリックは頷くと「いやあ、昨日は暴走して・・・恥ずかしい」と頬を染める
「で、フウタ!お前は昨日何を見たんだ!?トップ3のお前たちを出し抜こうと昨日先に帰って勉強しようとしたものの、気になって気になって・・・」
クラスメイトの声にフウタは「ああ・・・」と顔を青くすると「思い出すのも恐ろしい」と嘆いた
【過去という名の迷宮8】
「ええ!?あの後、ヒナタくんがイオスくんに決闘を申し込んだ!?何でまたこんなことに・・・」
リックはちらりとイオスの腕の包帯を見て(ああ、なるほど・・・あれはヒナタくんにやられたわけか)と納得する
「あの後ヒナタはイオスに向かって【そういやさっき、ボクのことが気に入らないっていったよね・・・ボクもさっきあんたに言われた言葉のせいで深く傷ついたよ・・・】⇐(ヒナタの声真似をして裏声で)って言ったんだ、そしたらイオスの奴・・・」
「イオス君が?」
フウタはごほんと咳払いをすると、今度は声を低くして
「【お前が紛らわしいから悪い!】と一言いい放ちやがったんだ、それを聞いて爆発したヒナタがイオスと口げんかを始めたあげく、最終的には【表でろや!】と言って中庭へ向かって・・・」
「で、結局どうなったんだよ!?」
ごくりと唾を飲み込み話を夢中になって聞くクラスメイトにフウタは「朝、学校の中庭が工事されてただろ」と苦笑すると、早くもその言葉に反応したリックは顔を青くして、おそるおそる尋ねた
「見ましたよ、中庭の地面が一面えぐれていたり、焦げていたりと大騒ぎでしたよね・・・あれってまさか・・・」
「あんたの察しの通り、ヒナタとイオスがぶつかってああなった・・・騒ぎに気付いた教員達が途中でかけつけなかったらどうなってたか・・・」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「こ、恐ええええッ!俺、工事されてる中庭見た時、隕石とかが落ちてきたのかと思ったし!つか、あれだけのことをしといてのうのうと学校に来てるあいつらがすげーよ!?」
「あいつらやっぱ超人だな、いったい何をすればあんなに地面がえぐれるんだよ!?」
クラスメイトは顔を真っ青にして言うと、フウタは苦笑して「あの時、傍観していた俺も死ぬかとおもったよ・・・やっぱあの2人、人並みはずれてやべーわ!!」と呟く
「そして2人は教務室へ連行されて終わり!2人が取り押さえられた時意外にもイオスが大暴れして、ヒナタに向かってこう言ったんだ・・・
【俺はお前を絶対抜かす!覚えてろ!貴様が笑ってられるのも今のうちだ】てよ、それを聞いたヒナタの方も【またいずれ決着をつけてやるからな!】と叫んで、2人は晴れてライバルになった訳だ・・・」
「うわあ・・・」
フウタの話を聞き、リックだけでなくクラスメイトも顔を引きつらせると「それで朝からあいつらもめてたのか・・・」と納得した
「なるほど、こうなったのはすなわち【イオス君がヒナタくんを気に入らない発言をする】⇒【ルキア君の発言でヒナタ君が女だということを知りイオス君が驚く】⇒【ヒナタ君が怒る】⇒【イオス君が逆切れする】⇒【ヒナタ君が決闘を申し込む】⇒【先生乱入】⇒【イオス君がヒナタ君にライバル発言をする】という過程があってのことなんですね・・・それにしてもまさかイオス君が誰かに「ライバル」発言をするなんて・・・彼、意外に熱い人なんですね」
「リック、お前うんちくが長いぞ・・・」
だらだらと話を続けるリックをフウタはすっぱり切ると、クラスメイトは「ははッ」と苦笑をする
「だが、何故ヒナタがA組に入ってこれたのかわかったような気がするわ・・・それにイオスじゃなきゃあいつは手に負えんだろ」
人ごとのように言うクラスメイトにリックは苦笑し、「確かにそうですね、それにイオス君の方も僕たちじゃ手に負えないだろうし・・・」と呟くと、少し面白くなさそうに2人を眺めるフウタの肩に手を置いた
「そういえば、さっきの話にルキアくんは出てきませんでしたが彼も途中でかえったのですか?」
リックの問いに、フウタは「あー、あのシスコンくん」と言うと「あいつは、俺の弟に連行されたよ」と苦笑した
「あなたの弟にですか?」
「ああ」
フウタはうなづくと「ルキアってやつ、少し大人っぽく見えるが俺の弟と同級生だったみたいだみたいでよ、居残りが嫌でクラスを抜け出したあいつが、学級代表やってる弟に連れ戻された訳だ」
「なるほど・・・学級代表ということは【フウヤ】君の方ですか」
「ああ・・・」
フウタは頷くと「お前が気絶(寝ている)間、いろいろ大変だったんだぜ」と言った
「そうですか・・・」
リックは、未だ火花を散らすイオスとヒナタを見て苦笑するとぼそりと呟く
「確かにあの2人の相性は最悪かもしれませんが、何だかんだいって2人とも上手くやっていきそうな気がしますけどね、僕は」
「あ?リック、今何か言ったか?」
「・・・いえ、何も」
リックはのこりと笑ってフウタを見ると「そろそろ授業が始まるのでフウタ君も席に戻った方がいいのではないですか」と言った
「ああ、そうする」
そう言ってフウタは自分の席へ戻ると後ろの席のヒナタとイオスに「お前ら、仲がいいのは結構だが周りの迷惑を考えろ!クラスメイトが怯えているぞ!」と言うと、声を揃えて
「「仲よくないっ!」」
と返ってきた
「息ぴったりじゃねーか・・・」
フウタは苦笑しながらそう言うと、イオスは苦笑する彼の胸倉を掴み
「あとお前の目は節穴のようだな・・・それに加え状況と空気が読めないときた・・・あわれな奴だ」
と可哀想なものを見る目でフウタを見て言った
「んだと!?なんでお前にそんなこといわれなきゃならねーんだ!?ちょっと表でやがれイオス!!」
「フウタ君、もう授業が始まりますよ!それに表へ出た所で返り討ちにあうのはあなたの方じゃないですか!!」
「うるせえ、リック!イオスの前に先あんたをしばくぞ!?」
その言葉を聞きフウタは顔に青筋を浮かべると、今度はリックにつっかかっていき、それを見たイオスは「はあ・・・」とため息をはいた
その頃の俺は、ヒナタに勝つことが全てで
『おい、ヒナタ!足引っ張るなよ?これは大切な任務なのだからな』
『わかってるよ、イオスこそこの前の時みたいにここぞという所で失敗しないでよね!』
『おい、大きな声を出すな!?』
『誰かそこにいるのか!?』
『こんの馬鹿!貴様が大声を出すから気づかれたではないか!?』
いつもヒナタが俺のライバルとしてたちはばかっていた
『よう、イオス!邪魔してるぜ!』
『おい!貴様、何故ここにいる!?どうやって入った!?』
『お兄ちゃん、ヒナタさんになんてこと言うの!?ヒナタさんは貧血で倒れた私を家まで運んでくれたんだよ!?』
『そうそう、家まで送ったら、夕ご飯でも食べていかないかと誘われてさ!こーんな可愛い子の誘いを断るなんて野暮な真似はできなくてね!で、邪魔させてもらった訳だ♪』
『やだ、ヒナタさん!私別に可愛くなんか・・・』
『なーに謙虚なこといってるの、アリスちゃんは!イオスの妹だと思えない程ちょーーー可愛いって!』
そして、時がたつにつれ俺たちは一緒に過ごす時間が増え
『貴様、いつの間にアリスと仲良くなった!?最近アリスがお前の話ばかり・・・』
『やだ、イオスお兄ちゃん嫉妬!?男の嫉妬はみっともな・・・』
『黙れ!!』
いつの間にかヒナタがパートナーとして俺の隣にいることが当たり前になっていた
『よっしゃあああ!ボクの勝ち!!ふっふっふ、私の実力を思い知ったか小僧』
『くそ・・・まだだ、まだ実技が残っている!』
そうやってヒナタとぶつかりあう毎日を過ごしているうちに季節は過ぎていき・・・
『おーい、イオス!一緒に写真撮ろうよ!』
『なぜあんたと2ショットで取らねばならんのだ!』
『フウタ君もヒナタ君を誘ったらどうですか?』
『お、俺は別に!?』
『あー、もうめんどくさい!皆で撮っちゃえ!!』
パシャッ
『あー、フウタ半目になってる!てゆーか、イオス顔赤いよ!どうしたの?』
『うるさい!暑かったからだ!!それより、お前もうれしいだろう!やっと俺から離れられるんだからな!!』
『まあ、中等部になったらパートナーが変わるからね!そういいつつもまた同じになったりして・・・・・』
『やめろ、縁起でもないッ!?』
あっというまに時間だけが過ぎていった
『姉さん、卒業おめでとう』
『イオスお兄ちゃん、ヒナタさん中等部に入っても頑張ってね』
『ああ』
『ありがとう!ルキア、アリスちゃん!』
『ルキア君、お久しぶりですね』
『ギャッ!?リック先輩!?じゃあ俺はこれで・・・』
『待って下さい、あなたにボタンを渡せていません!さあ、受け取って下さい!!』
『ぎゃああああ、何で俺に渡すんだよ!つか追いかけてくんなああああ!?』
こうしてそれぞれの思いを胸に抱きつつ
『ヒナタ、お前に言って・・・・・いや、何でもねえ!』
『フウタ、いきなり真顔になってどうかしたの?』
『いや、何でもねーよ!あんま人の顔じろじろ見んな!!』
『フウタ君、卒業式くらい素直になったらどうですか?』
『うるせえ!お前いつからそこにいたんだよ、ルキアはどうした!?』
『恥ずかしがって逃げちゃいました!』
俺達は初等部を卒業した・・・