過去という名の迷宮(ラビリンス)5
「おはよー!ねえイオスくん、知ってた?納豆ってね、豆が腐って出来てるんだって!凄いよね!!」
(激しくどうでもいい・・・)
朝、俺が登校するなりキラキラと瞳を輝かせながら全くもってどうでもいい話をしてくるヒナタをシカトして、俺は自分の席に座ると、ちらりと包帯で巻かれたヒナタの手を見る
(いつものヒナタだ、昨日のあれは偶然だったのか?それとも・・・)
『イオスくんの言う通り、難しい術だね・・・次使う時は力の配分を考えなきゃ』
イオスの頭の中でヒナタの言葉が何度も繰り返され、小さく舌打ちをすると「きっとそうだ、昨日のあれは偶然に決まっている」と呟いた
【過去という名の迷宮5】
それは俺が放課後、ひとり河原で攻撃魔法の練習をしていた時のことだった・・・
「くそ!何度やっても上手くいかないな・・・形を完成させる為には魔力が足りないのか」
イオスはとめどなく流れる汗をタオルで拭うと「もう一度」と言い、再び手を前にかざす
(造形および攻撃魔法は集中が命・・・今日中に完成させてやる)
そう思いぼんやりと形になってきた呪文を唱えようと口を開いたその時だった・・・
「あ、やっぱりイオスくんだ!ねえ、何やってるの!?」
「うわッ!?」
ボシュッ
突然後ろから話かけられ驚いたのが原因か、せっかく形になりかけていた造形が情けない音をたてて消え去りイオスは顔を引き攣らせると、不機嫌そうに眉間にしわを寄せてゆっくりと振り返る
「貴様・・・時と場合を考えて声をかけろ!俺が何をやってるのか見てわからないのか・・・?」
俺に声をかけた人物、もといヒナタはきょとんとした顔で首をかしげ「うん、わからない」とあっさりと答える
「はあ・・・(こいつの場合、何をしているか答えるまで邪魔をしてきそうだ)」
イオスは自分の教科書をヒナタに見せると「お前が今日授業中に寝ている間に、攻撃呪文の造形を習ったんだ」と説明する
「へぇ・・・」
教科書を見てぴんときたのか、ヒナタは納得したようにうなづくと
「なるほど・・・さっきから必死に何をやってるのかと思ってたのだけど、造形魔法が出来なかったから練習してたんだ!放課後になってもこうやって練習するなんて、熱心だね!!」と関心したようにうなづいた
(お前がなまけているだけだ!)
ヒナタの言葉にイオスははため息をはき
「普段寝てばかりのあんたにはわからないかもしれないが、この術は難しいんだ!集中させてくれ」と皮肉をこめていいはなつ
「はーい」
ヒナタはイオスの隣に座り、邪魔をしないように自分の口にチャックをするとじっとイオスの様子を観察し始めた
「くそ、まだ魔力が足らないか・・・」
「・・・・・・・」
しばらくヒナタはイオスが造形を造っている所を見ていたが「さすがに邪魔しちゃ悪いかな・・・」と言って立ちあがる
「それにしても、攻撃魔法・・・か、一体どんなものなんだろう」
一生懸命造形を完成させようと奮闘するイオスを見てヒナタは興味を持ったのか、再びイオスが置いていた教科書を広げると、造形魔法の基本についてのページを発見する
「攻撃魔法の造形の基本・・・【煉炎の術】と【雷鳴の術】か!何か凄そう!!」
ヒナタは夢中になってイオスの教科書を読むと「ボクにもできるかな・・・」と呟く
(とりあえず授業でやったってイオスくんも言ってたし、ボクもやってみよう!えーっと、イオスくんがやってるのは【雷鳴】の方で・・・)
ヒナタは「ふむふむ」と頷くと、イオスの教科書を脇に挟む
(この本に書いてある通りにすると・・・・こんな感じ?)
ヒナタは本に書いてある通りに手をかざし、手に魔力を集中させると、ぼんやりと掌が熱くなってきた
(お、何かよくわからないけど形になってきた!これでいいのかな?)
ヒナタは更に掌に魔力を注ぐと、バチバチッという音とともに造形が形を成していき、周りに生えていた草が、その風圧でざわざわとなびいていった
(・・・この音!)
イオスは隣からバチバチという音が聞こえちらりと横を見ると、その光景を見て一瞬目を見開いた
(こ、これは【雷鳴】の・・・しかも片手で俺より造形が出来上がっているだと!?)
イオスは一瞬目を疑った
「俺ですら片手・・・いや、両手を使ってもここまで造形を造りあげるのは・・・・・クッ!」
イオスはヒナタの術の放つ風圧に飛ばされそうになり、ぐっと足を踏ん張ったその時だった
「はあッ!!」
ヒナタがそう叫んだ瞬間、辺りに雷がほとばしり俺はまぶしさに目を閉じた瞬間、耳を塞ぎたくなるほどの爆発音が辺りに響いた
(な、何が起きたんだ!?)
辺りが静かになった頃におそるおそる目を開けると、俺は信じられない光景に目を見開くことになる
「な・・・・・(俺たちの身長の2倍ほどある岩が、粉々に!?・・・こいつがやったのか!?)」
イオスはちらりとヒナタを見ると、当の本人はぽかんと口を開けて、その場にへたり込むと、顔を真っ青にして、一言こう言った
「ひええ・・・おっかなねー!」
おそらく魔力の暴走で自分の手を負傷したのだろう
ひりひりと痛む手を川の水につけると、ヒナタは「イオスくんの言う通り、難しい術だね・・・次使う時は力の配分を考えなきゃ」と少し悔しそうに呟いた
(こ、こいつ・・・)
イオスはちらりと粉々になった岩をちらりと見る
(授業中寝てたのに、どうやって!?・・・・・ハッ!)
イオスはヒナタが脇に挟んでいる自分の教科書を見ると、信じられないものを見るかのようにヒナタを見た
(教科書!?まさか読んだだけで!?俺以外全員、形にすらならなかったあの術をだぞ!)
イオスはぼーぜんとヒナタを見ていると、ヒナタ手を水に浸しながら「人が住んでない河原でよかった・・・街中であんな大きな音をたてたら近所迷惑になる所だったよ」とほっとしたようにひとり呟いていた
(それなのにこいつは・・・途中で暴走したとはいえ一発で・・・それにあの破壊力!
俺ですら、造形を形にするまでどれだけ練習したか・・・)
そう思うとイオスは必死に練習をしていた自分をみじめに感じ、ギュッと唇をかみしめると、びしっとヒナタを指さして、宣戦布告をする
「絶対今日中にはこの術を完成させる!お前なんかに遅れをとってたまるものか!」
「え・・・?」
突然ムキになりだしたイオスを見て今度はヒナタが唖然とすると
「ちょ・・・いきなりどうしちゃったの!?イオスくん!?」といって、おろおろし始めた
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「くそっ!」
ヒナタが帰った後もひとり練習を続けていたイオスは、ちらりとヒナタが破壊した岩を見ると「まだまだ!」と拳を握りしめる
偶然とはいえ、ヒナタに出来て俺に出来ないはずがない!!そう、これは単なる【偶然】だ!
途中で暴走が起きるくらいだ、あいつの術も完全ではなかった!
偶然がそう何回も続くと思うなよ!俺は今日中にこの術を完成させてやる!!
自分の中でそう言い聞かせていた俺は1ヶ月後、人生で初めて敗北というものを知ることになる
続く