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第1話:サレ夫なボクと、なんでも揃うチート要塞のお引越し〜備蓄はたっぷり10年分!〜

この作品は「零戦」さまの「戦国日本軍リメイク」および「戦国日本軍」の一部設定をお借りして執筆されています。

 

零戦様HP https://mypage.syosetu.com/26122/ 

戦国日本軍リメイク https://ncode.syosetu.com/n7441hl/

戦国日本軍 https://ncode.syosetu.com/n2674cj/

昭和二十年八月十四日


 遠州・相良の深い谷間には、特有の吐き気を催すような匂いが常に澱んでいる 。


 地下一五〇〇メートルから汲み上げられる揮発性の高い原油の甘だるい匂い 。腐食防止の鉛張り設備を備えた接触法硫酸プラントから漏れ出す、鼻腔を焼く亜硫酸ガス 。そして、七百頭の軍馬の糞尿を発酵させる硝石丘しょうせききゅうから立ち上る、猛烈なアンモニア臭だ 。


「大佐殿。来ます」


 連隊副官の乾宗谷いぬいそうや中尉が、双眼鏡から目を離さずに言った 。

 常に無表情で事務的な能吏であり「氷の副官」と称される男である 。私は無言で頷き、軍衣の胸ポケットから恩賜おんしの煙草を一本引き抜いた 。マッチは擦らない 。この谷間では、時と場合により静電気ひとつが命取りになるからだ 。火のついていない煙草を口にくわえ、上空を見上げる 。


 夏の陽炎が立ち込める谷底の、幅員だけは広い未舗装の直線道路 。両脇の茶畑に偽装された防空網が左右に引き払われ、むき出しになった長さ約四百メートル、幅は滑走路としては異様に狭い、わずか15メートルの代用滑走路に向けて、三つの機影が進入してくるのが見えた 。


 先頭を下るのは、ずんぐりとした高翼単葉の機体、三式指揮連絡機だ 。フラップを限界まで下げ、まるで空中に静止しているかのような異様な低速で滑り込んでくる 。かつて陸軍が空母『あきつ丸』で運用していたという変態的な短距離離着陸性能は伊達ではない 。接地したかと思うと、数十メートルも転がらないうちに土煙を上げて停止した 。


 それに続くように、固定脚の九八式直接協同偵察機(九八直協)が二機、これもまた急降下爆撃機さながらの無茶な角度で突っ込み、見事な三点着陸を決めた 。


 くわえた煙草を噛み潰しながら、私は乾いた笑いを漏らした 。


「やはりベテランは違うな。見事な腕だ。あれで性格さえ普通なら、今頃は特攻隊で綺麗な散華さんげを遂げていただろうにな」


 つい先月、この守備隊に配属される予定だった同じ九八直協二機は、折からの突風に煽られ着陸に失敗。操縦員一名が戦死。残りの三名も重傷を負ってここの衛戍(えいじゅ)病院に入院中だ。学徒出陣で特操(陸軍特別操縦見習士官)での短期教育を受け操縦員資格を取ったばかりの若者たちだった。

 その二ケ月前にはグラマンに追われ穴だらけになった四式戦(四式戦闘機)が緊急着陸に失敗し横転大破、操縦員は死亡。調べた機体は一発も射撃していなかった。いや、させてさえもらえなかったのかしれない。操縦員はやはり特操出身の若者だった。


それと比べるのは彼らに失礼か、それとも若者たちが哀れか。


 それ以外にこの滑走路に降りてきた機体は、油圧異常で緊急着陸となり、ベテランの操縦だったおかげもあり機体は大破全損となるも乗員は全員無傷だった一式双練(一式双発高等練習機)。四式戦と同じくグラマンの銃撃を受けて墜落寸前で降りてきたが、ここでは修理不能とされ残骸扱いになり、操縦員はウチが自動貨車で原隊に送ってやった一式戦(一式戦闘機/隼)。

 無事に降りてきたのは、つい先日、おそらく原隊から追い出されたのであろう操縦員を乗せた「赤とんぼ」(九五式一型練習機)と先のとは別の一式双練ぐらいだ。





 降りてきた機体を曳いて、崖をくり抜いて構築された真新しい掩体壕えんたいごうへと、機体を押し込む整備兵たちの姿が見える 。彼らもつい1時間ほど前に、自動貨車いっぱいに積まれた予備部品の山と共にこの衛戍地へ来たばかりだ。


 機体から降り立ったのは、陸軍航空隊の鼻つまみ者たちだ 。


 九八直協から降り立ったのは、所属部隊での毒ガス使用計画を批判して殴り込みをかけ、左遷された如月響きさらぎ ひびき大尉 。僚機の操縦員は、上官への暴行事件を繰り返す札付きの操縦員、赤星剛あかぼし ごう曹長 。それに続く三式指揮連絡機の操縦員と、偵察席に乗った控えの操縦員は、どちらも支那戦線帰りベテランで、基地司令の特攻の指示を悪態をついて拒否した経緯を持つ反骨ものの山形友吉(やまがた ともきち)特務少尉と福島明彦(ふくしま あきひこ)准尉だ。


 彼らを迎え入れているのは、整備不良の特攻機をどうせ死ぬ奴が乗る機体だと言い放った若手エリート参謀をモンキーレンチで殴り殺そうとしたという逸話をもち、スパナ一本で堕ちた機体も飛ばすと言われる、整備の神様、鳶沢源太とびさわ げんた特務曹長だ。彼の配下の整備隊には野整備隊出身者や航空整備学校の助教を務めた奴らがゴロゴロいる。とびきりの腕利きたちだ。

 その後ろには、先日、一式双練(一式双発練習機)から追い払われる様に降りてきた風間中尉をはじめとする予備操縦員が数人、顔見知りなのだろうか手を振って迎えている。


 皆、筋金入りの狂犬と職人たちである 。




「ようこそ、大日本帝国陸軍最大の姥捨山へ」


 掩体壕に歩み寄り、油まみれの飛行服を着た彼らに向かって私は声をかけた 。


「私は第三三四独立混成連隊長、櫻井五郎さくらい ごろう大佐だ 。貴様らが原隊でどんな問題を起こしたかは知らん 。だが、この相良では一つだけ絶対のルールがある 。タバコを吸いたければ指定の場所に行け 。それ以外で火を使えば、貴様らだけでなく、この谷全体が消し飛ぶぞ」


 鳶沢特務曹長が、いぶかしげに周囲を見渡した 。


「大佐殿…ここは一体、何なんです?  我々は『燃料の心配だけはしなくていい場所に送る』とだけ言われて押し込まれたんですが」


「言葉通りの場所だよ。あそこを見ろ」


 私が顎でしゃくった先、茶畑の斜面が不自然に隆起している場所がある 。先月、工兵隊がダイナマイトと鶴嘴つるはしで掘り抜き、完成させたばかりの大深度地下タンク群だ 。防爆処理が施された多重殻構造の中に、一〇〇〇キロリットル級のタンクが三基、計三〇〇〇トンの燃料が眠っている 。その奥には、シーソー式石油汲上機(ポンピングジャック)が単調な金属音を響かせながら上下運動を繰り返し、高さ十五メートルの精留塔が蜃気楼の中に黒々とそびえ立っていた 。


「ここには、貴様らの機体を百年飛ばし続けてもお釣りが来るほどの航空揮発油が地下で眠っている 。水よりガソリンの方が手に入りやすい、イカれた箱庭だ」


 驚愕に目を見開く航空隊の連中を残し、私は踵を返した 。





 相良守備隊または私の名前を取って櫻井支隊と呼ばれるこの独立混成連隊は、どこか歪んだ精鋭部隊だ。戦車や砲兵を大隊規模で複数かかえ、衛戍地の後方部隊を実質的に丸呑みし、総人員五千人を超える連隊は、…そう、連隊なのである。


 もちろん、本来であれば混成旅団と呼ばれるべき規模だ。しかし、昭和20年の帝国陸軍は、規定通りの美しい編制など組める状況にはなかった。この相良油田という「帝国最後の生命線」を死守するため、軍上層部が書類上は「1個連隊」の枠組みのまま、かき集めた戦車部隊や重砲部隊を「配属」「増強」という名目で次々と押し込んだ結果、「名前は連隊だが、実態は旅団以上の火力を誇る化け物部隊」が誕生した。ここには兵器や車両の修理工場や大量の弾薬を保管し、戊辰の戦いから現役までの火器を維持管理する兵器補給廠の出張施設から衛戍病院、飼料と燃油の補助の為の農園、しまいには航空隊まで派遣されている。


 まあ、何という贅沢な精鋭部隊だろうか。燃料や病院まで用意し、本土決戦を死ぬまで支える自供自足の遊撃部隊。その最高位の指揮官である事を、私は心から誇りに思っている。本当に。





 その日の夕刻。木造平屋の連隊本部庁舎に戻った私を待っていたのは、軍管区司令部からの暗号電報だった 。


『明十五日正午、畏クモ天皇陛下ノ重大ナル放送アリ。全将兵ハ各所ニテ謹聴スベシ』


 紙面を睨みつけたまま、私は小さく息を吐いた 。重大なる放送。陛下自らの玉音 。それが何を意味するのか、陸軍大学校を恩賜の軍刀で卒業した頭脳を使わずとも理解できた 。


終わるのだ 。


この馬鹿げた戦争が 。





 夜。私は自室の執務机で、軍用コップに注いだ酒保の安酒を煽っていた 。


 私は今年で四十五歳になる 。四十三歳で大佐に昇進し、同期の中では紛れもなくトップエリートを走っていた「上がり目」の将校だった 。少なくとも、五年前のあの日までは 。


 四十歳の誕生日の翌朝、私は妻が自宅のベッドで、真っ白な海軍の第二種軍装を脱ぎ捨てた若い大尉と肌を重ねているのを目撃した 。刃傷沙汰にする気すら起きなかった 。ただ冷え切った声で離縁状を叩きつけ、それ以来、私の出世コースは微妙に歯車が狂い始めた 。


 そして昨年末、唯一の希望であった十九歳の息子がフィリピン沖で特攻により戦死した 。息子を笑顔で送り出した自分自身の欺瞞と、私生活を壊した海軍への憎悪、そして国体という機構そのものに対するシニカルな冷笑が、腹の底にこびりついて離れない 。



 窓の外からは、夜間も稼働し続ける製油所の微かな重低音が響いてくる 。この相良に五千名は、大日本帝国の矛盾をそのまま煮詰めたような存在だった 。


 最新鋭の三式中戦車や一式半装軌装甲兵車を並べながら、原油の組成からガソリンは腐るほどあるのに軽油が足りないため、兵士たちは二十ヘクタールの農園で栽培したトウゴマから絞ったひまし油を灯油に混ぜて無理やりエンジンを回している 。その横では、上半身裸の兵士たちが七百頭の軍馬の糞で作った硝石と木炭を石臼で挽き、京都帝国大学出身の学徒出陣の将校の指揮のもと、予備砲である幕末の青銅砲の四斤山砲よんきんさんぽう用の黒色火薬を作っているのだ 。


 他部隊の人間が松の根を掘って油を絞り、飢えに苦しんでいるというのに、ここの兵士たちは重質油で沸かした大浴場に毎日浸かり、酒保でふかし芋をかじり、余るほどの弾薬と燃料に囲まれて暮らしている 。外部からの補給がなくても最低十年間は戦えるこの完全自給の要塞は、同時に、兵士たちの血肉をすり潰して稼働する巨大な箱庭でもあった 。


 先週も、潤滑油精製プラントの硫酸洗浄槽のバルブが吹き飛び、作業員三名が頭から濃硫酸を被って溶けた 。彼らの遺体は谷の奥にひっそりと埋められ、書類上の「損耗」として処理された 。危険棟で黙々と雷酸水銀を扱う寡婦のような、死による贖罪を求める者たちの血と汗が、この狂った油田要塞を回しているのだ 。


「…終わるのか。すべてが」


 コップの底に残った酒を飲み干す 。


「国体護持」「一億玉砕」を本気で信じ、竹槍でも戦車に勝てるとわめく皇道派の残党のような将校たちは、明日の昼、放送を聞いてどう狂うだろうか 。割腹自殺か、それとも徹底抗戦を叫んでこの要塞に立て籠もるか 。どちらにせよ、私の仕事は彼らを犬死にさせず、この泥と油の城を無事に進駐軍に明け渡すことだ 。アメリカの査察団は、この時代錯誤な自給自足要塞を見て腹を抱えて笑うだろう 。





そして、夜が明けた 。


昭和二十年八月十五日、午前十一時三十分 。


 雲一つない灼熱の夏空の下、相良要塞の練兵場や各兵舎の前には、第三三四独立混成連隊の全将兵が整列していた 。軍服に汗を滲ませ、誰もが押し黙っている 。広場の中央、木箱の上に据えられた大型の受信機の前に、私と幕僚たちが立っていた 。


 時計の針が、十一時五十分を回る 。兵士たちの間には異様な緊張感が漂っていた 。敵本土上陸に備えた最後の号令だと信じて目を血走らせている者、どこか諦観したような顔をしている者 。遠くで、最新鋭の戦車に備え付けられた空冷ディーゼル機関が、ひまし油混じりの不完全な排気ガスを吐き出しながらアイドリングを続けている 。コンビナートの心臓部からは、変わらず規則正しいポンピングジャックの稼働音が響いていた 。



午前十一時五十八分 。


 真田慧さなだ けい大尉率いる通信兵が受信機のダイヤルを微調整し、JOAK(東京放送局)の周波数に合わせた 。ザザッ、というノイズの向こうに、時報を待つ微かな気配が混じる 。


「…総員、気をつけ」


 私の低く通る声に、五千の軍靴が同時に鳴った 。



午前十一時五十九分 。


 その瞬間だった 。


 ラジオのノイズが、唐突に「消えた」


 電源が落ちたのではない 。空間から「音」という概念そのものが吸い取られたような、絶対的な無音 。谷底に響き渡っていたはずの戦車のエンジン音も、製油所の重低音も、七百頭の馬のいななきも、夏の蝉時雨すらも、鼓膜の奥から完全に消失した 。


 私が空を見上げたとき、太陽の光が、不自然なほど赤く歪んでいた 。


(何かが、根本的に狂った)


 玉音放送が流れるはずだったその日の正午 。大日本帝国の最も狂った独立王国は、その巨大な質量もろとも、歴史の表舞台からも裏舞台からも、完全に「蒸発」した 。



第1話了

やあ (´・ω・`)


ようこそ、血と鐵のバーボンハウスへ。

このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。


うん、タイトル詐欺なんだ。済まない。

でも嘘は書いてないよ。

勘違いさせたのは悪いと思っているけどさ。


謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この後書きを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。


殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい

そう思って、この後書きを作ったんだ。


じゃあ、注文を聞こうか。

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