第5話 王太子の宣言
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エレノアの言葉に、リリアは俯いた。
「ご、ごめんなさい……エレノア様。私が、はしたなかったですよね……」
リリアの蜂蜜色の瞳には涙が浮かんでいる。
周囲がざわついた。
「聖女様にそんな言い方……」
「またエレノア嬢が聖女様をいじめてるぞ。」
「殿下が聖女様ばかり構うから、嫉妬していじめてるって噂だぞ。」
次々と、エレノアを糾弾する声が上がる。
エレノアは何も言わなかった。
ただ静かに、唇を噛みしめている。
リリアは涙を浮かべながら言った。
「いいの……私が悪いの……」
その様子を見て、俺は違和感を覚えた。
泣いているリリア。
慰める周囲。
責められるエレノア。
その構図が――あまりにも出来すぎている。
そして、ある一つの可能性に思い至った。
リリアはヒロイン。
エレノアは、このゲームでは悪役令嬢。
だから、エレノアのどんな些細な行動でも、悪く取られてしまうのではないか。
その瞬間――
俺は見てしまった。
リリアの顔が、ほんの一瞬だけ、意地の悪い笑みを浮かべたことを。
確信した。
こいつは――。
その時だった。
「エレノア様、聖女様に謝るべきでは?」
誰かが言った。
エレノアはゆっくりと顔を上げる。
そして毅然と言い放った。
「私が謝る? そんな必要ございませんわ。
私は、ただリリア様に注意しただけですわ。
それに婚約者のいる殿方に馴れ馴れしくなさることこそ、
礼儀に反していることではなくて?」
エレノアの言葉に、ルシアンが口を開いた。
「本当に可愛げのない女だな。
少しはリリアを見習って、女らしくなれよ。」
「ルシアン様、もうおやめください。」
リリアが慌てて言う。
「エレノア様は、至らない私に淑女としてのあり方を教えてくれただけですわ。
でも……私がいつまで経っても至らなくて。
それに私がレオニス、いいえ殿下と親しくしすぎて、
エレノア様のご不興を買ってしまったのですわ。」
リリアは啜り泣いた。
その姿を見て、周囲の男子達がますます騒ぎ出す。
「結局、聖女様に嫉妬しているだけじゃないか。」
「そんなんだから殿下に愛想尽かされるんだよ。」
ルシアンは大いに頷き、アルベルトは困った顔をしている。
カイルは表情には出さないが、なぜだろう。
ものすごく不機嫌なのは伝わってきた。
「嫉妬なんて醜いぞ。謝れ。」
「やめて、みんな。エレノア様は悪くない。悪いのは私だから。」
リリアは一見、周囲を止めているように見える。
だが俺の目には、むしろ煽っているように見えた。
リリアが涙ながらにエレノアを庇えば庇うほど、
周囲はどんどんエレノアを貶めていく。
エレノアはただ、耐えていた。
それが、悪役令嬢エレノアに課された運命というやつか。
俺は悪役令嬢エレノアがどんな末路を辿ったのかは知らない。
だが――
決して良いものではないことだけはわかる。
エレノアの未来が暗いものであることだけは理解できた。
そんなのは、到底受け入れられない。
「やめろ。」
俺は怒鳴った。
「私の婚約者を侮辱するのは許さない。」
「殿下……。」
エレノアが驚いたように俺を見た。
俺は続ける。
「私の婚約者は間違ったことをしたとは思わない。
むしろ、リリア嬢に淑女としての礼節を守るよう忠告しただけだ。」
周囲が静まり返る。
「それを謝る必要が、どこにある?」
誰も答えない。
俺はエレノアを見た。
俯いていた彼女の瞳が、大きく揺れている。
「レオニス?」
リリアが驚いた顔で俺を見る。
涙はもう止まっていた。
俺はリリアの手を振り解いた。
「行こう、エレノア。」
そう言うと――
俺はそのままエレノアを抱き上げた。
「で、殿下!?」
エレノアが真っ赤になる。
教室が一気に騒然となった。
俺はそんな周囲を一瞥して言った。
「俺の婚約者を責める奴とは、付き合う気はない。」
そう言って、俺はその場を後にした。




