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転移魔法

「……ヤヨイザクラ隊長、そろそろ真面目な話を」

「……そうじゃわいのう」


 フッと表情が変わる。その瞬間、光を吸い込むような黒い瞳と対照的な白く長い髪がやけに幻想的に思えて。


「……まずはお疲れさまじゃわいのう。まさかドラゴンが、それも四体出てくるという非常事態でよく生き延びた。よく怪我人を運んでくれた」

「……労いの言葉をありがとうございます」

「ありがとうございますっ!」

「うむ、特にナナナと言ったか。汝は土壇場でパージに成功したと聞く。よく成長したな。それにその眼……女神様の祝福を受けておるな。これからが楽しみじゃわいのう!」


 なんだかナナナ、物語の主人公みたいだなぁ……。きっと順調に育っていけば、素晴らしい騎士になるんだろう。

 嬉しいような、寂しいような……。


「はわっ、ありがとうございますっ! でもでも、ベルハちゃんも凄いんですよぅ! 幼馴染のヒイロちゃんが食べられて、アタシが絶望しそうになった時も必死に正気に戻してくれましたから! ベルハちゃんも辛いはずなのにっ!」


 げっ……恐れ多いからボクの話はしなくていいよナナナー。

 それに、ヒイロが食べられて辛くなかったと言えば噓だけど、少しだけせいせいした気持ちもなくはなかったから。


「……ほぅ、そうかそうか! 戦場でその冷静さは役に立つ! うむっ、汝もきっと成長するであろう!」

「あ、ありがとうございます」


 ナナナのついでのような褒められ方だけど、ありがたく受け取っておこう。


「……では、昨夜の説明の詳細をお伝えします。まずは被害内容から。ワタシ、第三隊長のアルマセイカ・アルトギニアと新兵のナナナネネノ・ルルニヌカ、ベルハデスト・ゼブカ・タリツクス、ラミルエルデ・ルゥアンの四名を除きますと四十六名の負傷者、死者、戦意喪失者、が出ました」

「ふむ、負傷者たちの内訳は?」

「は。負傷者は三名。第三隊副隊長のデミルエミル・クルサー・ベルジェクトが左腕を失い、第三隊所属のクウナベリル・リブ・タジャ・メナが右腕を失い、新兵のセラスフェジル・キジメナが両脚を失いました」

「セラスが……」


 つい声が漏れる。訓練生時代のナンバーファイブで、とても努力家な人間だった。命があったことは幸いだけれど、これから先両脚が無い生活を送るなんて……。


「うむ。其奴らは至急ベルキア王国へ向かわせよ」

「は。既に手筈は整えています」


 ベルキア王国に? なんで?


「うむうむ。では、続いて、死者について聞こう」

「は。死者は二十八名。第三隊のソマリウレノ・リマカイウス──」


 ボクの疑問は特に解消されることなく、死者の名前が唱えられていく。


「──生存者は七名、死者は二十八名か。アルマが吹っ飛ばされている間に随分とやられてしまったものじゃわいのう」

「……返す言葉もありません」


 ドラゴン三体分の地面を操る魔法が合わさった攻撃をくらったのだ。無理もないと言えるだろうけど……そんな言葉じゃこの人たちは納得しないだろう。


「それで、ドラゴンの内訳は、炎を吐く魔法を使う個体が一体と地面を操る魔法を使う個体が三体で合っていたかの?」

「ええ、そう推測されます。何故あの森にドラゴンが現れたのか……」

「えっと、発言してもよろしいですか」

「うむ、よいぞ!」


 思うところあって、ボクは意を決して口を開いた。


「あの森は普段人が通る場所なのでしょうか? 場合によっては魔素が溜まっていて、ドラゴンが自然発生したのかも……」


 魔素。世界各地で自然発生する薄い霧のようなもので、ソレを基に魔族が生まれていると推測されている。魔素が薄い地域では低級魔族しか発生せず、魔素が濃い地域では上級魔族が発生する可能性が高い。

 また、上級の魔族であるほど多量の魔素を放出するという特性があり、魔族が多い場所……例えば『中央』のような場所であれば魔素が濃い場所ということになる。

百年前から『中央』を除く世界各地の魔族が滅ぼされていき、今では下級魔族しか発生しない魔素濃度に落ち着いてきたけれど、魔族が全く排除されない場所があるとすれば、あるいは……。


「ふむ、目の付け所は悪くない。しかし、あの森は行商人もよく使うため、第三隊で魔物の駆除を隅々まで行ってきたんじゃわいのう。それに……」

「ええ、紛らわしくて申し訳ありませんが、ワタシの話はまだ終わっておらず……」

「あっ、えっ、そうなんですか。申し訳ありません。そうとも知らず!」

「構わん構わん。思うことあらば自由に発言すればよいぞ」


 あ、赤っ恥かいたーー!!

 というか、アルマ隊長の話が終わってないことに気づいてたんだったら発言を許可しないでよー!!


「何故あの森にドラゴンが現れたのか……ワタシはあのとき『魔法』が使われたことを察知しました」

「魔法を察知……!?」


 聞いたことがある。解放段階九やビキニアーマーまで達した者は魔法、あるいは魔族が放つ魔素を察知できると。


「その刹那、ドラゴンが現れました。考えられる魔法としては、周辺の魔素と自身の魔素から魔物を強制生成する『召喚魔法』か、『転移魔法』……前者は先ほどヤヨイザクラ隊長が仰られた通り、あの森の魔素が薄いことと、ドラゴン四体分の魔素を宿している魔物ならばワタシが近づくだけでわかるということから除外されます」

「ふむ、そうであるとすると、転移魔法じゃわいのう」

「ええ。そして、転移魔法には種類があります。『「場所A」から「場所B」まで「対象」を移動させる転移魔法』、『「対象A」と「対象B」の位置を入れ替える転移魔法』、『「自身」を「任意の場所」へと移動させる転移魔法』、そして『「対象」を「自身の元」へ転移させる転移魔法』……大きく分けてこの四つ」

「……はわっ。アルマ隊長が察知できたってことは、最後の転移魔法が使われたってことですか!?」

「うむ、可能性としてはソレが一番高い。一番最初の転移魔法は術者が遠くに居たとすれば我らビキニアーマーであったとて察知はできん。三番目の転移魔法はドラゴン共がそれぞれ魔法を使っていたことから考えづらい。そうなると、二番目の転移魔法を森でヒッソリと待機していた魔物が使った可能性と、最後の転移魔法が使われた可能性の二つとなる」

「……もしも最後の転移魔法説が正しいとすれば、騎士団の中に裏切者が居るってことですか!?」


 驚愕の言葉に思わず声が出る。

 ボク達の中に裏切者が居て、転移魔法でドラゴンを呼んだ……!?

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