違う
「……改めまして、二人とも無事で何よりです」
「うひゃあぁっ!?」
「はわわぁっ!?」
いつの間にか目の前にいたアルマセイカ隊長に盛大に驚くボク達。
さっきの光景を目の当たりにしていると驚きも倍増だ。
「そう驚かないでください。取って食べるわけでもありませんから」
先ほどとは打って変わって冷静な口調で微笑む隊長。
……なんだろう。その微笑みもちょっと怖い。
「あのー、隊長、聞こえたドラゴンの鳴き声って四体分だったと思うんですけどー」
「なに……?」
ギロリと周囲を見回す隊長。
……一挙手一投足が怖いよぅ!
なんて怖がってばかりじゃいられない。ボクも慎重に辺りを見回す……けれど、見えるのはドラゴンの死体が三つと騎士の死体がいくつか。
それと、心が折れて痴態を晒して放心状態になっている元騎士たちが十数人。
命があるだけマシだと言えるかもしれないけれど、これからは常にトラウマを抱えて生きていくことになるのだろう。
一歩間違えればあの中にいるのはボクやナナナだったかもしれない。
そう考えるとゴクリと喉が鳴った。
「はわ……鎧ちゃんたちが、たくさん壊れちゃった」
ナナナはあくまで沢山の鎧が壊れたことにショックを受けているようだ。アンタ、そういうところあるよねー……まあ、ボクはもう慣れたけど。
「……それらしい姿は見えませんが」
「おぉーーーーいッ! 誰か生きてっかぁぁーーーー?」
「この声は……ラミル!?」
「はわぁっ! ラミルちゃーーんっ! アタシたちも生きてるよぉーーっ!!」
どこからか聞こえるラミルの声にナナナが大きな声で応える。
「おぉ、そっか! ちょっと待ってろーー!!」
「アイツ、どこに居んのさ……」
ドラゴンが暴れまわるこの区域から上手く逃げ果せたのか?
「……よっ!」
なんて考えてると、ガサゴソと揺れる草木の音と共にラミルがひょっこりと現れた。
……って、え?
「デミルエミル副隊長!?」
顔を出したラミルに気を取られていたのも一瞬のこと。
彼女が第三隊のナンバーツー、デミルエミル副隊長を所謂お姫様だっこの形で抱えていたことに、思わず驚愕の声を上げる。
「デミルエミルさん……?」
「……はわっ、腕が!」
そう、驚愕の声を上げた理由は一つじゃない。
彼女の左肩から先が無くなっていたからだ。
どう考えても、ドラゴンに喰われたとしか思えない。
応急処置はされてるようだけど……もしかして、ラミルが?
「アナタほどの人が腕を失うとは……ラミルさん、何があったのか教えてくれますか?」
本人に直接聞かなかった理由は単純。彼女が気を失っているから。
「ああ……クソドラゴンの内一匹が騎士団員を連れ去って逃げやがってな? デミル様とオレ、あと第三隊の数人で追ったんだよ」
「……って、ラミル! 口調を改めなよ!」
教官に対してもそうだったから嫌な予感はしてたけど……マジで誰に対してもその口調なの!?
羨ましいを通り越して最早怖いよ!
「構いませんよ。続けてください」
「おう……んで、デミル様にいいところを見せようとして先を走っていった団員が三人、ドラゴンの吐く炎に焼かれて死んだ。地面を操る魔法しか警戒していなかったから、予想外の炎魔法に対応できなかったんだな」
……炎を吐いた?
……基本的に、一匹の魔物が使えるのは一つの魔法のみ。
あの地面を操る魔法を見ていたからこそ、別個体の中に炎を吐く魔法を使えるドラゴンがいるということに思い至らなかったんだろう。
「……デミルエミルさんは他者への慈愛で解放段階九に至った方。それ故に仲間の死には心が揺らいでしまう」
「さっすが隊長様! 話が早くて助かるぜ! ……仲間を失いながらも闘ったオレたちだったが不意を突かれてな、デミル様が腕を喰われちまった。普段のこの人なら平気だったかもしんねぇけど」
「炎を吐くドラゴンの牙をワタシも味わったことがあります。熱されたソレは肌を焼き溶かさんとする勢いで……万全な心でなければ受けるのは難しいでしょう」
深く頷く隊長……経験豊富なことで。
「それでも、デミル様は凄かったぜ。片腕でドラゴンの脚をぶった切ったんだからな……ま、結果的には逃げられたわけだが……オレが居たってのに面目ねぇ話だぜ」
「いや、アンタはぺーぺーの新兵だからねっ!? 生きてるだけありがたいって思いなよー?」
ラミルの顔はまだ見えない。大層なことを言うくらいならナナナみたいにパージしててほしいものだね。
「ははっ、それもそうだな!」
「……ラミルさん、ご苦労様でした。デミルエミルさんはドラゴンを逃がしたのではない。退けたのだと、そう言いましょう」
「……ち」
「……!」
突如としてデミルエミル副隊長が口を開く。
「……が、ぅ」
それだけ言って、デミルエミル副隊長は何も言わなくなった。
……違う? 違うって、何が?
「無理して喋んなっての……んで、隊長様、オレたちが居たところに意識不明者が二人いるんだが、運ぶの手伝ってくれねぇか?」
「いいでしょう……と、言いたいところですが、ここにも監視の目は必要ですので」
そこまで言って、隊長の眼がボクたちを捉える。
「ナナナさん、ベルハさん……ラミルさんと共に意識不明者を運んであげてください。ワタシはこの場に残り、城下町へと救援要請を送ります」
「イェスマム!」
「……」
断る理由もないというかそんな権限もない……従うのみだ。
「って、ナナナ? おーい!」
そういえばさっきから黙りこくっているなと思って隣を見てみると、ラミルの鎧をじーっと見つめていた。
「はわっ!?」
「ラミルの鎧を見つめてどうしたのさー? 今更珍しくもないでしょー?」
「えーっ、ベルハちゃん、わかんないのー!?」
「……?」
……何が?
「お話はこんくらいにしとこうぜ。行くぞ」
首を傾げるばかりだったけれど、ラミルの言葉に我に返り、その後を追った。




