ドラゴン
──なんて、考えてる場合じゃないッ!!
「ナナナッ!!」
ドラゴンに吹っ飛ばされているナナナを見、思わず叫ぶ。
「う、ぐ……!」
幸か不幸か大木にぶつかったナナナがうめき声をあげる……彼女の鎧はまだ壊れていない。よかった。
って、安心してる場合じゃない! すぐに援護に向かわなきゃっ!
「ナナナッ! 待っててッ! ──ッ!!」
剣を構えて駆け出す……が、ドラゴンの尻尾がボクの目前に現れて。
「……ッ!」
前方に転がって何とか避ける。
「とおりゃあああああああああぁぁぁぁッ!」
すかさず剣を振りかざし、ドラゴンの脚を斬りつける……けれど、弾かれる。
「あ、はは……っ! やっぱり気合じゃどうにもならないよねぇ……ぐッ!!」
「ベルハちゃんっ!!」
硬い鱗はボクが気合を入れて振り下ろした剣をも弾き、そしてボクはドラゴンに足蹴にされる。
「はわ……っ!」
蹴られて吹っ飛ばされたボクをナナナが受け止める。その両腕はとても心強く思えたけれど、事態が好転したわけじゃない。
考えている間にも、ドラゴンはまた此方に突っ込んできていて。
「ナナナッ! 避けるよッ!! ボクは左に跳ぶッ!」
「うんッ!」
ボクたちはそれぞれ左右に分かれて跳んだ。
二人で同じ方向へ飛ぶよりもドラゴンの思考を攪乱できるだろうと考えたからだ。
……いや、それだけじゃない。
「……そう来るだろうねッ!」
「ベルハちゃんッ!?」
人語を話せないタイプのドラゴンでも、その意味は理解していると聞いたことがある。
ならば、わざとに『左』を意識させておけばこちらに来る可能性が高くなるだろう。
ナナナに降りかかる災難はできるだけ払っておきたい。
だから、これでいいんだ。
大口を開けて突っ込んできたドラゴンがボクの身体に喰らいつかんとしている。
でも、だからと言ってボクが喰われてもいいと考えてるわけじゃないッ!
「これなら……どうだッ!?」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
ボクはドラゴンの口内に剣を突き立てた。
「ちぃ……っ!!」
剣が突き刺さっていてもドラゴンの突進の勢いは落ちず、強い衝撃を受けてぶっ飛ばされる。
「ベルハちゃんッ!」
ナナナがボクの元へと駆け寄って、ドラゴンとの間に仁王立ちする。
ああ! それじゃ、それじゃダメなんだ!
「ナナナ……! 流石に以心伝心ってわけにはいかなかったかぁ! ボクは──」
「わかってるよッ! ベルハちゃん、アタシのことを逃がそうとしてくれたんでしょ!? キミのことだからこの後の策もあったのかもしれないけど! 見てられないよッ!」
「……はは。さっすがナナナ。ボクのことよくわかってんじゃん」
そう。この後の策もあるにはあって、それはもう出来なくなってしまったけれど……。
それでも、こうやってナナナが逃げずに駆け寄ってくれたことが嬉しくて。
ああ、二人で一緒に死ぬならそれでもいいのかな、なんて考えが過ってしまう。
それじゃダメなのに。
「さあ来いドラゴン! アタシはキミたちを許さないッ! 成長途中のヒイロちゃんや皆を殺して! 沢山の鎧ちゃんを壊してッ!!」
「ナナナ!? まさか真正面から!? 無茶だッ!!」
口内の柔らかいところに突き刺してやっとだったその剣で真っ向勝負なんて自殺志願にも程がある!
「それに何よりッ! ベルハちゃんのことを傷つけたッ! アタシはそれが何よりも許せないッ!!」
「……ッ!」
ナナナを止める声をうまく発せられなかったのは、まさか自分の名前がこんなタイミングで出るとは思えなかったからか。
それとも、彼女の気迫が後ろ姿からでもわかるほどに凄まじいものだったからなのか。
いいや、両方だ。
彼女のそれほどの気迫が、勿論全部ではないけれど自分に起因しているとわかったことに嬉しくて声が出なかったんだ。
「はああああああぁぁぁぁぁッ!!」
さっきのボクの気合ではどうにもならなかった。
けれど、今の彼女の心の強さならば、もしかして。
──パァンッッッッ!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
とてつもない衝撃と、咆哮。
ボクの期待に応えるように、ナナナの剣はドラゴンの頭をかち割って。その下顎からはさっき突き刺してやった剣が突き出ていた。
これは、一度見たことがある……いや、ボクが身を以って体験したことのある力だ。
鎧のパージ……部位が外されるときに体の底から漲るような力が湧き出る現象。
筋力がそこまで無い入りたての訓練生であっても岩をも砕く力。
「……ナナナ、アンタ、パージできなかったらどうするつもりだったのさー?」
「えへへ、今ならできる気がしたんだぁっ」
振り向いて満面の笑みを見せるナナナ。
そう、彼女の兜は外れており。
肩まで伸びる艶やかなピンク色の髪が露わになって、そこに兜のベンテール……従来の鎧であれば上げ下げが出来るあの部分が頭飾りのように乗っているのが見え。
あどけなくて可愛らしい顔と、黄金色の瞳には見慣れない白い十字の線。
聞いたことがある。鎧に選ばれた者の中には女神の祝福を受ける者がおり、特別な『ギフト』を授かると……って!
「ナナナッ! 後ろッ!」
「へっ!? ま、まだ動いてるー!」
「でも、奴なら今は弱ってるッ! 二人なら……って、え?」
慌てて剣を構えたナナナと、武器が無いからとりあえずそれっぽく拳を構えたボク。
勇気を振り絞ったボクらの前、ドラゴンの身体へと光の弾が数発ヒットし、奴を倒した。
「二人とも……特にナナナさん、よく頑張りましたね。必ずや良い騎士となれるでしょう」
光の弾と声の主はすぐにわかった。空の彼方に飛ばされたはずのアルマセイカ隊長だった。
「はわぁ……! あ、ありがとうございます!」
「た、隊長! 御無事で……!」
「ええ。ですが、この状況はワタシの過ちです。せめて、今生き残っている者たちが無事帰れるよう……名誉挽回といきましょう」
アルマセイカ隊長が武器を構える。ソレはただの大剣ではなく……。
分厚い大剣と備え付けられた銃口がセットになった特徴的なものだ。
神器。ビキニアーマーに達した者が天から賜る武器。今まで脱げてきたパーツが基礎となりできているもので。およそ真っ当な武器らしくない見た目をしている。具体的に言うならば、子どもがおもちゃとして模造品を熱烈に欲しがりそうな、そんな感じで。
アルマセイカ隊長の登場に、二匹のドラゴンの視線が集まる。
瞬間、地面が形を変え、隊長目がけて無数の塊として飛んでくる。
「ふんッ!」
隊長は目にも見えぬ速さでその全てを光の弾で撃ち落とした。
「はわっ! す、すごい……ッ!」
「今度はこちらから行きますよッ!」
再び目で追うのがやっとのスピードでドラゴンへと距離を詰める隊長。地形の揺れなどお構いなしといった様子で……って、あぁ!
「……そう来ますかッ!」
突如地面が沈み、盛り上がる。
その勢いで隊長の身体は浮かび上がり、二体のドラゴンが隊長の腕へと喰らいつく。
「……は、はわぁ! だ、だだだ、大丈夫かなぁ!?」
「ドラゴン如きが、この身体を喰い破れるものかあああアアアアアアアァァッッ!!」
ナナナの心配をよそに……。
喰らいつかれたまま、隊長は腕を動かして……ドラゴン同士の頭を打ち付け、地に伏せる。
「ま、マジかぁーー……」
強い強いとは聞いていたが、実際に見ると引くレベルだ。
もしもこの人が飛ばされていなかったら犠牲者は数人で済んだんだろうなぁ……。
「ふんッ!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
ねじ伏せたドラゴンに容赦なく斬りかかる隊長。
あまりにも分厚すぎる刃はドラゴンの鎧をも砕き、その身に傷を与えて。
たまらず叫び声を上げたドラゴンは起き上がるや否や、翼を羽ばたかせる。
コイツ、ボクたちを襲う時はそんなもの使わなかったくせに……!
「逃がすかァッ!!」
当然、隊長がおめおめと飛ばせるわけもなく、翼の風圧も物ともせずにドラゴンの頭をかち割る。
「これでトドメですッ!」
そして、それと同時に隊長が大銃剣に付いているトリガーを引くと、パンッと音を立ててドラゴンの頭が弾け飛んだ。
ひ、ひぇーーーー……。
「はわぁ……! 隊長、カッコいいねぇっ!」
「そ、そだねー」
あまりの光景に肯定の返事が棒読みになる。
だって、だって最早怖いじゃんっ!
なになになに!?
ドラゴンの頭って破裂するものなの!?!?!?
「お前も……逃がすかァッ!!!」
「ひぅっ!!」
隊長の迫力に思わず逃げ出したい気持ちになるけれど、もちろん標的はボクではなく……飛翔に成功したもう一匹のドラゴンだった。
「堕ちろぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォッッッッ!!」
隊長の怒号と共に光の弾が数発放たれ、それが的確にドラゴンの眼と両翼に命中する。
「グオオオオオオオオオオオォォォォ……ッ!!」
力の無い叫び声と共に墜落するドラゴン。
そして、落下地点にはアルマセイカ隊長がいて……。
「死ねえええええええええええええぇぇぇぇぇェェェェッッ!!」
恐ろしい叫びと共にドラゴンを串刺しにして、それをそのまま振り回し、地面に叩きつける……!
ひ、ひぇー……。
本日二回目のひぇーが出た。
やばいって。これほどまでに騎士という立場に感謝したことはないって。
あのドラゴンもう動いてないってッ!
これが……! ビキニアーマーの力……ッ!
「はわぁ! ベルハちゃん、見た見た!? すごいねすごいねっ!」
「……ま、アンタが楽しそうならいっかー」
無邪気に笑うナナナを見てるとつい気が緩んで恐怖心が少し……本当に少しだけだけど薄やいでいく。




