エピローグ
──パァンッッ!!
おそらくベルハデストが海面に叩きつけられた音が響く。
崖下を覗いてみても暗くてよく見えねぇけど。
小石がパラりと落ちて崖下へと落ちていくのを見、思わず一歩下がる。
此処で落ちて死ぬのはごめんだな。
「ベルハちゃ……ベルハちゃんッ!!」
泣いて打ちひしがれるナナナ様を見て、思わずため息が出る。
「ナナナ様、貴女様は頑張ったと思うぜ」
「……ッ!」
「けどよぉ、ベルハデストのやつも性格悪ぃよなぁ。一緒に死んでやらねぇなんて。それにきっと、呪いの言葉を残したんだろ? 愛してるーだとか何とか言ってさ。生きてく方の気持ちになれって話だよなぁ」
「……呪いじゃ、ないよッ!!」
ナナナ様はオレをキッと睨みつける。
まあ、今のはオレの言い方が悪かったな。失ってすぐの相手に言う言葉じゃねぇ。
「……だったら何なのかって言われると、それは、まだちょっとわかんないけど」
「……いいんじゃねえか、それで。後々うまい事言葉にできるかもしれねぇし」
結局、生きろっていう呪いなんだと思い知るかもしんねぇけど。
そのときは生きてるオレがナナナ様のことをフォローしてやるぜ。感謝しろよベルハデスト。
ボクのナナナーなんて地獄からイチイチ騒いでくれんなよ。こえーから。
……まったく、楽になりやがって。羨ましいぞ、このヤロー。
「さ、服を着ようぜ……って、持ってきてねぇよな。着装も、今は厳しいか?」
「……うん」
「しゃあねぇなぁ、んじゃ、エリザ様の村までゆっくり歩いてくか。万が一にも村人にナナナ様の裸を見られたらソイツの記憶はぶん殴って消してく方針で」
「て、手荒な真似はしなくていいよぅ……ッ!!」
─────
「──そうかい。終わったのかい。まさか、ベルハがねぇ……。それにデルタまで。ナナナ、ラミル! 何かあったらまたいつでもこの村に来なッ! 相談事ならいくらでも乗ってやるよッ!」
布の服を着たナナナ様を見ながら、今回の出来事を思い出す。
我ながら良い動きだったと思うぜ。
遠征先の洞窟が無人だったことを確認してから、ヤヨイ様たちにベルハデストが魔法使いであることを報告して。
ベルハデストの家に入り込んで『魔力でしか開けられない移動床』を開けて仲間のフリをして情報を聞き出したり……。
温泉に入りたいというヤヨイ様の要求も聞いて、砂を置いてきたり……いや、これ、いるか? いるか。なんだかんだでヤヨイ様がこっそりこの村を訪れて隊長様と作戦を練る起因になったしな。
あと、常に色んな場面で情報をウァナヴェルに渡してた。これは素直に表彰物の動きだろ。別にされたかねぇけど。
「さ、ゆっくりここで休んでいきなッ!」
「へへっ、ありがとなッ! エリザ様ッ!」
「はわ、ありがとうございます、エリザクリスさん」
オレは遠慮なくその場に横たわって寝ることにした。
「いや、そう意味じゃなくってだねぇ……」
─────
「──うふふっ、アルマっ! 無様ですわねその腕ッ! まあ、どうしてもと頼むなら? 治してあげないでもないですけれど?」
傷一つ付かなかった玉座の間で、義姉様が隊長様を揶揄う。
「……乗り気でないなら、結構です」
「ああ、嘘嘘ッ! 冗談ですわよぅッ! 治してさしあげますって! 神法ッ! 『ヒーリング』ッ!」
義姉様が持つ大槍の先端から光が溢れ出ると、隊長様の腕が瞬きの内に再生する……マジで便利な神法だぜ。
「……ありがとうございます。それでは、国のことで忙しいと存じますので」
「ああんッ! せっかくウァナヴェルに来たんですわッ! ワタクシ、観光したいッ! アルマ、治療の礼に案内してくださいますわよねッ!」
「……礼、ということであれば、致し方ありませんね」
……って、なに茶番みたいなことしてるんだコイツら。
「ラミルー? 何見てるんですの!? 見世物じゃありませんことよッ!」
「へーへー」
「義姉に向かって何ですのその口の利き方ッ! ウァナヴェルの教育制度はどうなっているんですのッ!? ねぇ、アルマ!?」
「ご存知の通り、ラミルさんは元からこうです。事ある毎にワタシに突っかからないでくださいますか?」
「はわ、アルマ隊長、鎧ちゃんと筋肉をサワサワしていいっていう言葉、今鵜呑みにしてもいいですか? ちょっと、寂しくて……」
「……構いませんよ。色々なことがありましたからね」
「……ちょっ!? サワサワ!? なんですのソレ!? ああッ、そんな触り方ッ! 破廉恥ですわーーッ!!」
「わははっ! 混沌とした状況じゃわいのう! いやぁ、愉快愉快っ! 大量の魔物を屠れて気分も良いッ! このまま『中央』の制圧に向かうのも悪くないやもしれぬッ!」
「ははは……」
オレが苦笑いするしかない状況なんてよっぽどだと思うぜ。
……ともあれ。
父様、母様。天から見てるか? オレは元気に楽しく生きてるぜ。
父様母様よりも大切な人なんて未だ見つかんなくて、たまに無性に会いたくなるけどさ。
それでも、オレは生きていくぜ。




