何人泣かせたよ?
「──ッ!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!」
其処には、正体を現して叫び声を上げているママが居て。
村人たちと、騎士団員、そしてレオナマインおばさんたち元騎士団員が頭を抱えていた。
「この声……脳に響きやがるッ!」
「それだけじゃないわッ! 今はみんなが動けないように広範囲に声を響かせているけれどッ!」
「狭い範囲に対象を絞れば其処を穿つことだってできるッ!!」
叫ぶようにレオナマインおばさんとノノカクラネおばさんが言……。
……え?
ノノカクラネおばさんも元騎士団員らしく着装していたが、その姿は腰の部分以外ビキニアーマーで……もしかして、アルマセイカが言ってた『教官』って!
「……セレナさん。いえ、セレナレイン。残念だわ。こんな結末になるだなんてッ! 魔物との共存も出来るんじゃないかって考えた私が愚かだったッ!」
そうだ。解放段階が九に至れば魔力を感知できる。それでもノノカクラネおばさんはママを見逃してくれてたんだ。
ママの叫び声が一瞬止まるけど、再び叫び始める……そりゃそうだ。口を塞げば殺されてしまうから。
「私たちと過ごした日々は楽しくなかったのねッ!? 全部まやかしだったのねッ!?」」
「アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!」
止むことなく叫び続けるママ。ノノカクラネおばさんの声はたしかに届いてるはずだけど、それでも彼女は……。
「……そう、それなら私も覚悟を決めるッ!」
そう言ってノノカクラネおばさんは走り出して、ママに殴りかかるッ!
「─────────ッ!!」
ママの叫び声が更に高くなり、耐性があるはずのボクでさえ頭が痛くなる。村人や騎士団員の中には耳から血を噴き出している者もいるけど、それでもノノカクラネおばさんは止まらないッ!
──パァアアアァァンッ!!
凄まじい音と共にノノカクラネおばさんの拳がママに届く。
「ぐ……ッ! アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」
吹っ飛んで、家の外壁にぶつかって。それでも、ママは再び叫ぶ。
「……神法ッ! 『プロテクション』ッ!!」
パージをしてビキニアーマーとなったノノカクラネおばさんは大きな盾を握っていて。それを構えながら神法を唱える。
すると、この場に居る人間たちの前に半透明の盾が浮き上がり……!
「な、なんだ! 急に叫び声が平気になったぞッ!」
「ノノカさんの神法だッ! これでタコ殴りにできるッ!」
人間たちはママを囲って各々の道具を彼女に振り上げるッ!
見るに堪えないボクは目を逸らす……けど。
「……貴女が、ヒイロを殺したのね。ドラゴン達を転移させて」
その先にはレオナマインおばさんが居て。
「……うん、騙してごめんね」
「ごめん……? 娘の命を奪っておいて、謝られたって意味ないわよッ!!」
「……そうだよね」
「……ッ!」
レオナマインおばさんが、ヒイロが使っていた剣を構えて此方に寄って来る。
村に帰ったあの日、レオナマインおばさんは優しくボクを抱きしめてくれた。
あの優しさはきっと本物で。だからこそ、彼女になら殺されてもいいか、なんて思ってしまうけど。
「……え?」
「……ごめんなさい」
それ以上に死にたくなくて……視界の端に映るママの姿を見ると死にたくなくなってしまって。やっぱり自分の身は可愛くて。
ボクは、転移魔法でデルタベシアお兄さんを呼んだ。
胴から左腕にかけてシャムシールで切り裂かれるレオナマインおばさん。
宙を舞う左腕。
……ホントなら胴も真っ二つになってるはずだけど、ノノカクラネおばさんの神法に護られたようだ。
「ははっ、まさか貴女を斬ることになるなんて……これは僕への罰かな? ベルハ」
なんて此方に振り向いて問いかけるデルタベシアお兄さんは笑みを浮かべてる。
「……そんなつもりは、ないよ」
ボクじゃおそらく真っ向勝負ではレオナマインおばさんには敵わないだろうから呼んだ。それだけで。
「デルタ、さん……? 貴方」
「まさか、想い人の母親を斬ることになるなんて……でも、どうしてだろう。こんな状況でも、笑いが止まらないんだ。ああ、はは、やっぱり、僕は魔族なんだね」
「…………」
「人間を斬るのが、楽しくてたまらないんだ。だから……ッ!」
絶望した表情で地面にへたり込んでるレオナマインおばさんに向かって、シャムシールを振り上げるデルタベシアお兄さん。
ソレに気づいて止めようとする者たちも来たが、距離的に間に合わないだろう。
「させるかああああああアアアアアアアアァァァァァッ!」
「……くっ!」
「……ッ!!」
光の弾がデルタベシアお兄さんの手に命中し、シャムシールを落とす。
正気を取りもどしたレオナマインおばさんがソレを払い飛ばして。
「みなさん、離れてください。ここはワタシと……ッ!」
アルマセイカが避難指示を出して、デルタベシアお兄さんに大銃剣を向ける。
「アルマちゃんッ!? その腕はッ!?」
「ワタシが弱き故に再びミスを犯しまして。ノノカクラネ教官……今一度、力を貸していただけますか。この魔物の魔法はおそらく『貫通』ですッ!」
「……わかった。私はもう教官じゃないし、魔物を見逃していた大罪人だけどね」
「……ベルハ、キミだけでも逃げるんだ。中央にいけば、どうとでも生きられるだろう!」
「お兄さんを巻き込んだのはボクです。だから……ッ!」
それに、もう中央へ戻るほどの魔力も残ってない。
「セレナさんを、モブゴブリンと同じように捨てさせる気かい?」
「……ッ!」
そうだ、このままだとママの遺体は捨てられるんだ。
それはちょっと、嫌だなぁ。
「ハアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!」
半透明の盾に護られたアルマセイカが突っ込んでくるけど、お兄さんが触手で応戦する。
「……さあ、行くんだ」
「……うん」
ボクはママを此方へと転移させ、もう一度転移魔法を使った。
「…………」
やって来たのは、『絶望の崖』。名前はアレだけど、ここなら海が見えて見晴らしもいい。
……ホントは海に流すことも考えたけど。ボクにとっては人間だった機会が長いママを、人魚として海に帰すことは出来なかった。
「……ベ、ルハ」
「……な、なに?」
ママが口を開くだなんて思いもしなかったボクは、思わず上擦った声を出す。
「ありがとうね、私の夢を叶えてくれて。ここからは貴女の人生よ。その『転移魔法』なら自由になれる……それとね──」
「……」
続く言葉を聞いて、ボクは絶望した。
ママはどこまでも娘を、いや、『娘達』のことを道具としてしか思ってなかったようだ。
「わかった、もういいよ。おやすみ、ママ……」
「…………」
亡骸となったママを埋めるべく、ガントレットで地面を掘り続けて。
ようやく人一人が入るサイズの穴が出来た。
「よぉ、自分の墓穴でも掘ってんのか? ベルハデスト」
「……ラミルエルデ。これはボクのじゃないよ。ママの分」
声の主の方は見ずに、ママを穴に入れて土を掛けていく。
「へっ、そっかそっか。自分の分も掘るってんなら手伝ってやってもいいぜ?」
「別にお願いしてもいいんだけどさー……ボクがアンタを突然『中央』に転移させちゃうかもしれないよー?」
もちろん、そんな魔力はもう無いけど、コイツにとって『中央』はトラウマの場所だろう。いつもの調子のコイツを少しはビビらせてやりたい。
「はっ、オレに魔法は効かねぇよ! 見てただろ? あのキマイラって魔物に攻撃を通したところをさ」
「……え」
なるほど。そういうことか、魔法が効かないから……魔法が効かない!? そんな魔族殺しなことあるッ!?!? でも、嘘ならキマイラはあんなことになってないだろうし!
思わずラミルエルデの方を見た。最後に見たときと同じようにビキニアーマーを着ていたけど、なんか、色と形状が少し違うな? 彼女の肌の色よりも少し暗い……そう、ズマライザの肌に近いような。
「なあ、ベルハデスト、テメェはヒイロたちを殺した事、後悔してっかよ?」
「……後悔はしてないよ。ボクは魔族として生きて、魔族として死ぬって決めたから」
ママを埋め終えて、ボクはラミルを見つめた。
「そうかよ。それじゃ、生温い対応はできねぇ……なぁッ!!」
「……は? え?」
ボクに向かって腕を伸ばすラミルエルデ。何をした?
なんて疑問が思い浮かぶ前に、ボクの脚は勝手に動いてた。
「最期だからな、特別に喋れるようにしてやってるよ」
何をされたのか、ようやく理解できた。ボクは催眠されている!
「それは……ズマライザの魔法でしょ!? なんでアンタが!?」
「お? まだ気づいてなかったのか? オレの鎧は魔物を取り込むことが出来んだよ。んで、取り込んだヤツの魔法が数分だけ使えるってわけだ」
「じゃあ、アンタが氷魔法を使えてたのは、あのとき森に転移させたドラゴンを取り込んだからってことかッ! ……で、その前に炎魔法が使える魔物、おそらくドラゴンを取り込んでたんだッ!」
言ってた魔法と違うものだから、無駄にズマライザを疑うことになっちゃったし、動揺が顔に出ちゃったかもしれない。
「おっ、正解正解。死体とはいえ仲間を焼くのは心が痛んだが、まあ、トウグニシマの方では火葬って文化もあるみてぇだし、魔物の炙り出しに役立つなら本望だろ」
「……アンタも大概イかれてるよ。遺族の気持ちとか考えなかったの?」
言ってる間にもボクの脚は崖の方へと一歩一歩進んでいく。
「その原因が何偉そうなこと言ってんだ。今回の件で何人泣かせたよ?」
「……たしかにね。アンタとボク、何が違うんだって考えてたけど、そういうところなんだろうね」
「いやぁ、オレが純人間ってことも、王族の血を引いてるってことも関係あると思うぜ? それとも何か? テメェの心が人間のままだったならーとか、最初から諦めねぇことが大事なんだーとか語ればいいのか?」
「あはは、そりゃあ確かにお断りだ……そういえばアンタ、どうしてボクがこの場所に居るってわかったのさ?」
「……まあ、どうせ死ぬんだし、言ってもいいか。ナナナ様のギフト関係だ」
「ナナナの……?」
なんだろう? 位置を特定するギフト? てか、そのナナナは?
「なんだ、ナナナ様はどうしたのかって顔をしてやがんな? まだエリザ様の村らへんだろうさ。ビキニアーマ―になったオレの速さには追い付けねぇ……ま、仮にも好きなヤツが死ぬところなんて見せたくねぇし」
「ははっ、好き『だった』じゃなくて? ボクが魔族だって知ったら考えも変わるでしょ」
一歩一歩、進んでいく。もう少しで鉄製の柵だ。
「オレは少しでも魔物の血が流れてるヤツなんてお断りだけどよぉ……ナナナ様は、今でもテメェが好きなんだよ。なんせ、玉座の間で話を聞いた時にはもう犯人がわかってたみてぇだからな。それでも、いつもみたいに接してくれたろ」
「……は? そんなに早く?」
「オレは近くに居たから魔法が使われた瞬間に察知できたが……ナナナ様はテメェの反応や顔色を見て察したらしいぜ。演技が下手なことで!」
「……うるさいなぁ」
それじゃあ、村で告白してくれたのは、ボクが魔族だとわかった上で?
そんなの、そんなの有り得ないだろ……ッ!
「実を言うとよぉ、テメェが気絶したときに隊長様とオレはテメェのことを殺そうとしてたんだぜ? ズマライザを転移させたし気絶したから今のうちに殺っちまうかってな」
「……それをナナナが止めたんだね」
「ああ、テメェ、愛されてんな。魔物如きのためにあんなにも泣いて懇願されるとは思わなかったぜ……!」
苦笑いを浮かべるラミル。その様子はちょっと想像つかないけど……。
今はただ。
「ナナナに……ナナナに会いたいッ!」
「そう言うと思ってたぜ。だからこそコレが罰になる」
「…………ッ!」
鉄の柵を乗り越えようとするボクの身体。
もう少しだけ、もう少しだけ、待ってほしい……ッ!
「テメェはナナナ様に会えねぇまま後悔して死ね、ベルハデスト」
「ぁッ! いや、いやだッ! 最期に、最期にナナナに会わせてッ! お別れの言葉くらい言わせてよぉ……ッ!」
「駄目だ。それで逃げねぇ保証はねぇし、テメェを悔いなく終わらせるものかよ。まあ、ナナナ様には少し悪いとはおもってるけどよぉ」
「いや、嫌だああああああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
鉄の柵を乗り越えて、ボクの脚はまた一歩──。




