砂
いったいどうしてこんな事に? ボクに魔族の血が流れてると自覚したからだ。
「──ああっ、クソッ! 痛いなぁもうッ!」
「ベルハ!? どうしたよその怪我は!? 凍結系の神法かッ!?」
「回復魔法ッ! 早く回復魔法をかけるどッ!」
審議の鎧を着てることにも構わずに魔族達が近寄って来る。
「さっきのヤツといい、何が起こってやがるッ!? ……いや、説明はいいッ! 俺はただぶっ殺すだけだッ!!」
「今からみんなを転移させるッ! さあ、エリアごとに纏まって! 玉座の間組はそこッ! 城下街組はそこッ!」
ボクは回復魔法が使える魔族に脚を治療されながら指示を出す。回復魔法、便利だけど、治療に時間がかかるし、欠損は治せないんだよね……! 脚が砕けなくてよかったよホントにッ!!
「おうっ、ベルハ! 城下街組は準備万端だッ! いつでもいいぞッ!」
「わかったッ! 行ってらっしゃいッ!」
ボクは城下街組を転移させ……。
「ベルハちゃん! 玉座の間組も準備できたどッ!」
「よしっ! 滅茶苦茶暴れてきてッ!」
続いて、玉座の間組も転移させるッ!
「あのー、ベルハちゃん、ニョロは何で待機なんだニョロ?」
「もうじき雨が降る……そのときがニョロさんが一番輝けるときだから今はそこで待っててッ! 突然転移させるかもだから気をつけてッ!」
「わかったニョロ!」
ニョロさんは指定の位置で待っている。ここは臨機応変に転移させたいところだ。
「……やあ、ベルハ」
「デルタベシアお兄さん……」
「僕も戦場に連れて行ってくれないかな?」
……デルタベシアお兄さんはいつものように微笑んでいた。
「な……っ!?」
「結局、僕も一介の魔族に過ぎなかったみたいだ……人間を斬る感覚を思い出したら、もう、抑えきれなくなって、さ」
……なんでボクはデルタベシアお兄さんがアルマセイカを斬る前に転移させなかったんだろう。
そんなのわかりきってる。保身のためだ。ギリギリまで自分可愛さに転移魔法を使わなかったんだ。
「……ごめんなさいっ、デルタベシアお兄さん! ホントにっ、ごめんなさいっ!」
「ベルハが謝ることじゃないさ。結局、僕がやりたかったのは行商じゃなくて……感じてた幸せはまやかしに過ぎなかったんだよ」
「それは……」
違う、とは言えなかった。本人がそう言う限りは、他者に否定なんて出来ないのだから。
「……だからね、ベルハ、頼むよ」
「……後悔、しませんか?」
「しないさ」
きっとね、と笑うデルタベシアお兄さんの顔はどこか寂し気で。
……そうだ。ボクも、彼も、もう戻れないんだ。
「……じゃあ、お兄さんはそこに立っててください。いつでも人間を斬れるように準備しておいてくださいね!」
「ああ、わかったよ」
「……それじゃ、ボクも行ってくるよ。みんなの様子を見てくるッ!」
「行ってらっしゃいニョロ!」
「……気をつけて」
ボクは頷いた後、玉座の間の扉前へと転移する。
ここを占領出来たならもうボク達の目的は半分叶ったようなものッ! だから人員をより多く割いたッ!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」
「……ッ! ひっ!?」
瞬間、開いた扉から聞こえる悲鳴と鼻腔を貫く血の匂いに思考が歪む。
な、なんだ……!? 中で何が起こってる!?
「……ぅ、わ」
正面を見ると、中は砂嵐が発生していた……室内で砂嵐!?
この砂は……なんだ?
「わっはっはッ! ワーッハッハッハッ!!」
悲鳴をかき消すように子どものような笑い声が聞こえる……これは!
「さあ、桜のように乱れ散れぃッ!!」
目が慣れてきて、その光景が薄らと見えてくる。
宙に浮かぶ幼女を囲む魔族たち……頭を抱えてる者、その場でのたうち回る者、腕を払う素振りを見せる者。それぞれが、叫び声を上げていて。
その叫びは次第に大きくなっていく。
「……ッ!」
砂嵐がだんだん赤黒く染まっていくのが見えた。
それに、魔族たちの身体から次第に血が噴き出していくのも見えた。
この砂が……魔族へ攻撃しているんだッ!
「『自爆』? ふははッ! 砂で囲って不発よッ! 『反射』? 丁度いい針治療じゃわいのうッ! そのまま魔力尽きて死ねぃッ! 『重力』? ふっはははッ! 無意味無意味ッ! 我はこの通り宙を浮いておるぞッ! 『火を噴く魔法』? 噴けるものなら噴いてみせいッ! そのズタボロの口からなぁッ!!」
「こんな砂ッ! 大したことないどッ! 舐めるなどおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!」
見たところ傷がついていなさそうなガードさんが槍を持って幼女……ヤヨイザクラに飛びかかるッ!!
『ダメージを軽減させる魔法』使いのガードさんがピンピンしているということは、砂そのものが与える傷は些細なものだということになる……けど、わかったところでこんなの、一部の魔族以外には対処できないじゃないかッ!
「わはははッ! なかなかタフじゃわいのうッ! しかしッ!」
ヤヨイザクラの楽しそうな笑い声が聞こえた、と思えば。
目の前に、ガードさんの頭が転がっていた。
「…………ッ!!」
声を出すな。声を出すな声を出すな声を出すな……ッ!
このまま転移魔法で逃げ……ッ!
「わッ!? あッ! あぁッ!?」
瞬間、背後から背中をトン、トンと叩かれる。
「戦場でその冷静さは役に立つ。汝はきっと成長するな……人類の敵として。故に、死ぬがよい!」
「ッ!」
ガードさんを殺した何かが来るッ!
ボクは転移魔法を使って城の廊下へと避難する。
ホントは遠くに転移したいところだけど、魔力は温存したい。それに、灯台下暗しなんて言葉もあるくらいだ。逆に効果的かもしれな──。
「ぐえッ!!」
「ふはははッ! 興が乗ったので、軽めに蹴ってやったぞ」
「な、なんで……」
いつの間に背後に!? 蹴られる前の音さえ聞こえなかったッ! 何の能力だッ!?
倒れたボクを見下すヤヨイザクラ。その顔はニヤニヤと笑っていて。
「まだカラクリがわかっておらぬようじゃわいのう? ……あるいは、興が乗ったという言葉に何故と唱えたのであれば、其方も答えよう。ラミルの魔法は見たか?」
「……見た」
油断させて殺す、なんてことは必要の無い実力差だろう。さっきの謎もまだ解けていない。ここは大人しく問いに答えることにする。
「不思議であろう? 人間であるが『魔法』を使うことが出来るなど」
「魔法が使えるのに魔族として殺されない方が不思議だよ。家柄のせいかな? なんせ、ベルキアのお姫様なんだもんね……アイツ、姫って柄じゃないと思うけど」
「ふははははッ! 姫に相応しい優しい心を持ち合わせておるよ」
「どこがッ!? ……や、たしかに面倒見はいいか」
「うむ。我もよく面倒を見られておる。国王挨拶の日も一日中ずっと将棋に付き合ってもらっておったし、温泉にも……おっと、これはヒントになってしまうなぁ?」
「……ヒント?」
てか、ウァナヴェル王が言ってた『一昨日も迷惑かけていた』ってソレの事か! ラミル、気を遣って『寝坊した』なんてフォローもしてくれてるじゃんっ!
「……汝は半分魔物で半分人間なのであろう?」
「……うん」
玉座の間で迎撃されたことから覚悟はしていたけど、こちらの動きや状況が筒抜けになっている。きっとラミルのせいだ。
「……十八年もの間、自身を人間だと思っておったようじゃわいのう。なるほど、審議の鎧にはそのような抜け道があったか。それで、汝は人間に与しようとは思わなんだか?」
「もちろん考えたさ。けど、人間は魔族を殺すでしょ?」
「もちろん殺す。例え半分であっても、魔物の血が流れておれば殺すさ」
「……魔族は半分人間のボクを殺さないでいてくれたよ」
「それだけ汝に利用価値があっただけのこと……物事には例外があるのじゃわいのう」
「例外……」
コイツは、何が言いたい?
「ソレはもちろん、人間にも言える……汝の心が人間のままであったなら、人間を殺さなければ、我を筆頭とする王室は、其方を『利用』しておったじゃろうよ」
「……う、嘘だ。人間が穢れた魔族を受け入れてくれるはずがない」
「受け入れはせん。ただ、魔物を殺すという利害関係が一致するのなら……ナナナの傍に置いてやるくらいのことは出来たやもしれぬのう」
「い、今更ッ! 今更そんな事を言われたってッ!! それに、穢れた血が流れてるボクがナナナの傍に立ってるだなんて、解釈違いも甚だしいッ!!」
「……ふむ、判断基準や心は人間に近そうじゃわいのう」
「……そりゃあ、十八年、人間として生きてきたからねッ!」
「まあ、汝がどちらであれ、数十名の命を奪った事実は変わらぬ……よって、ベルハデスト、汝を罪在りきものとして処すのじゃわいのうッ!!」
「ッ!」
ボクは離れた廊下に転移してヤヨイザクラの攻撃を回避する。
罪……? ボクなんて、生まれたこと自体が罪で、間違ってるような存在じゃないか。
今更そんな言葉で揺らがないぞ。
「まったく、相手にしてみて実感するが、転移魔法というのは厄介じゃわいのう!」
「げぶッ!!」
ボクはさっきよりも強く蹴られ、廊下をぶっ飛ぶ。
……さっきの会話は能力再使用のための時間稼ぎか!?
「うおッ!? ベルハッ!?」
「うわわッ!」
飛ばされた先でレブドさんとぶつかる。彼はたしか玉座の間組だったはず。
「どうせなら王をぶっ殺してみてぇと思ってなッ! 抜け出して探していたワケよッ!」
「そうだったんだ。ある意味運が良かったかもね1」
「そりゃあどういう……って、聞いてる場合じゃねぇ! ぶっ殺すべき王を見つけたはいいんだがッ! 早くどっかに転移してくれッ!」
レブドさんの焦りようは尋常じゃない。ボク達は転移魔法で今朝通った砂浜へと転移した。
「と、とりあえずここで……ッ! 何があったのさ!?」
「王を護っているビキニアーマーがいたッ! 悔しいが、俺よりもデカくて、いや、それだけじゃねぇ! 雰囲気だけで殺されるような気がしてよぉッ! 生きてねぇとぶっ殺せねぇッ! だから俺は戦略的撤退をしたんだッ!」
「シダクエミネ……」
レブドさんよりも大きなビキニアーマーと聞き、この国『最強』の騎士の名前を口にする。
てかレブドさん、戦略的撤退とか言うタイプだったんだ。突っ込んで死ぬタイプだと思ってたよ。
「……お? ベルハ、髪に砂が付いてんぞ」
「え? ……ぐッ!」
『どこかで付着した砂』を払おうとしてくれるレブドさんの姿が映っていた視界が眩む。
また、蹴られたんだ……ッ!
「チッ、やはり蹴りでは……って、なーんーじーッ! 城内の壁を破壊したオーガかッ! 殺すッ!」
レブドさんに向かって叫ぶヤヨイザクラ。ここまで彼女が来れたのは……ッ!
「……あの砂、かッ! レブドさんッ! 時間稼ぎをお願いできるッ!? 殺せなくたっていいッ! 時間を稼いでくれればッ!」
「はッ!? コイツもヤバそうな雰囲気だが……いいぜやってやるッ!」
「『着装解除』ッ!」
「……む、アタリがついたようじゃわいのうッ! では、汝から死ねぃベルハデストッ!」
「──そう来るならッ! レブドさんッ! ボクの背後を思いっきり殴ってッ!」
「はッ!? ……おりゃあああああああぁぁぁぁぁッ!!」
ボクは裸になりながらレブドさんに指示を出す。困惑しながらも彼は思いっきり拳を振るう。
「むッ!? おおぉぉぉぉぉぉぉーーッ!!」
瞬間、ボクの背後にいたヤヨイザクラが吹っ飛んでいく。
おそらく重傷は負ってないだろうけど、この隙に海に飛び込み『砂』を洗い流すッ!
「……よし、『着装』ッ! こっちに来て! レブドさんッ!」
「お? お、おうッ!!」
何が起こったのかよくわかっていない様子のレブドさんと一緒に城下街へと転移ッ!




