魔族
「──はぁ」
自分の岩は砕いたから、みんなが大岩を殴ってるときも休憩できるヤッター! ……とか考えてたら普通に追加の大岩を支給されました。トホホー……。ま、訓練の完了は殆ど約束されたものだって教官から言われたからいいけどさー。
……ナナナの上、いっちゃったなぁ。
「お、ベルハちゃん! 久しぶりだど!」
「どうだ!? 人間たちの中で上手くやれてるか!?」
「いざというときはぶっ殺してやりゃいいんだよ! 『此処』に送ってくれりゃみんなでタコ殴りよッ!」
「今日はあの鎧を着てないニョロね。あのときは大変だったニョロ」
時刻は深夜二時。場所は数度目の『中央』。
「やー、あのときはごめんねー? ボク、みんなの気持ちを考えてなかったよー」
「いいんだいいんだ! 間違いは誰にでもあるッ! 俺たちも最初はお前をぶっ殺そうとしたからな! わははッ!」
「や、それも笑い事で済まさないでよー」
「おっと、わりぃわりぃ、わははッ!」
訓練初日に、『鎧を着装したのは二回』と言ったけど、アレは嘘だ。
ホントは三回で……その三回目は大変だった。
ママが自慢げに着装を勧めるものだからしてみたら、中央はもう大騒ぎだ。
考えてみりゃそりゃそうだ。それまでは魔族が有利だったのにこの鎧のせいで同族が大勢殺されたのだから。
やれ、『こんな中途半端なヤツいらない』だの、『信用できないだの』『魔族殺し』など若干事実が混ざった罵倒をくらった。
着装できなくなった原因は確実にこれだね。
「ベルハちゃん、訓練が始まって疲れてるだど? 今ちょうど料理が出来たところだから、食べてくといいど!」
「ホント? いっただきまーす!」
さて、おさらいしよう。
この気前の良いオークにはガードさんという名前がある。話を聞くと、ママの知り合いのようで、再会した時には大層驚いてた。ガードという名前は自身の魔法である『ダメージの軽減』由来らしい。
「おっ、俺らも一緒に喰っていいか!?」
「いいだろ! 俺らがぶっ殺したゴブリンの肉なんだからよッ!」
「はっはっは! もちろんだど! それじゃ、オデの家に行くどー!」
三メートルもあろうかという程に大きく筋骨隆々なオーガ二人。
比較的無邪気な方がライドさんで、ぶっ殺すが口癖の物騒な方がレブドさん。
二人とも『怪力』魔法の持ち主で、それがキッカケで人間でいう兄弟のような仲になってるらしい……ただでさえ怪力自慢のオーガが更に怪力魔法を使えるなんて、敵に回したくはないね。考えるだけでも恐ろしい。
しかも、これでまだ九歳だと言うんだから……成長したら一体どうなってしまうのか。
「ニョロは野次馬を整理してくるニョロねー……こーら、ベルハちゃんは疲れてるんだニョロ! お話ならあとあとッ!」
この触手の塊はニョロさん。なんというか、見た目と話し方通りだ。使える魔法は『電撃を放つ』というものらしい。種族の特性で地面を潜って移動することも出来る……これはソフィって名乗ってる魔族と一緒だね。
……ボクが魔族だからというのは前提として、『中央』の雰囲気はほのぼのとしてる。
肌感覚としては人間の村の居住区と何ら変わりはない。
まあ、下位種族とはいえ同じ魔族を食べるという物騒さはあるんだけど。
「……お、どうした? 浮かない顔をしてんぞ?」
「え? いやー、やっぱり同族を食べるのはちょっと思うところがあるなぁって」
「構いやしねぇって。モブゴブリンとかゴブリンは『魔法』が使えねぇ奴らだからな! ぶっ殺して食べてやるのが世の道理なんだよッ!」
「道理ねぇ……」
魔族にもそういうものがあるんだ、と改めて思う。荒々しい気もするけど。
……ボクの魔法が『転移魔法』じゃなかったら食べられてたのかな、と思うとかなり怖い。いや、そうなるとこの場には居ないんだけど。
「思うところがあると言えば、人間の食事もそうだどッ! カス野菜にカス獣! あんな栄養の無いものを食べて生きていけるなんて不思議すぎるどッ!」
「はは、人間にとって『魔素』は栄養じゃないからねー」
「そう考えるとアレだよなぁ……なんてーの? 人間の言葉を借りるなら『燃費が良い』な」
人間と魔族は宿敵だ。けど、それ故に相手について興味も湧くらしい。
「そういえばさ、魔族が人間を襲う理由ってなんなの? 別に人間に栄養……『魔素』があるわけじゃないのに」
「そりゃお前、人間に喧嘩を売られたからだよッ! 売られた喧嘩は買うッ! そしてぶっ殺すッ!」
「ドラゴンみたいにとりあえず腹が満たせりゃいいって奴らもいるけどな!」
「ははぁ、なるほど……」
人間側からすると、魔族が人間を襲ってきたからそれに抗ったとされてる。どちらかが嘘を吐いてたり、ドラゴンみたいなヤツらが人間を食べて火種になってたりするんだろうな。
「さ、着いたど! 今用意するからちょっと待っていてほしいど!」
「おじゃましまーす」
木造造りの立派な家だ。木材も魔素が宿る木を使ってるようで、なんだか足の先から元気になってるような感じがする。
「ライドさんとレブドさんは家とか建ててないんだよね?」
「おうっ! 俺らには不要なものだッ! 雨風程度じゃびくともしねぇし! ……それを言っちゃあガードもそうなんだけどなッ!」
「飯もぶっ殺した奴の生肉で十分だッ! ……あっ、もちろんガードの料理は楽しみだがよぉッ!」
「はっはっは、お世辞でも嬉しいどッ! さあ、召し上がれッ! よーく煮込んだゴブリン肉だどッ!」
「わぁ……! 角煮だッ!」
「ほぉ、人間の世界ではそう呼ぶんだなッ! こりゃ美味そうだッ!」
ボクはゴブリンの角煮を手で掴んで食べる。
……うん! よく煮込んでることでゴブリンの嫌な硬さが無くなってジューシーになってる! 味付けもスパイスが効いていて絶妙だッ! 力が湧いてくるし美味しいっ!
「これすっごく美味しいねー! ガードさんって料理上手なんだー!」
「はっはっは! 照れるどーっ! こうやって料理を振舞うのもいいもんだどね! 店でも開いていたらよかったかもしれないど!」
……開いていたら『よかった』。過去形になってることで、角煮を食べるボクの手が無意識に止まった。
「……ねぇ、それさ、やってみたらいいんじゃないかな。ボク達の『作戦』なんかに乗らないで」
「はははっ、なーに言ってんだど! ゼレナさんや旧友たちが繋いだこの作戦に乗らないなんて選択肢はないど! ここで行かなきゃオデは一生後悔することになるッ!」
十七年前の侵攻の目的は、産まれた半魔族であるボクをどこかの国に連れて行って、審議の鎧に選ばせることだった。
そして、機会を窺って国王を暗殺し、審議の鎧への不信感を抱かせるという、ある意味で人間に対するささやかな復讐的な作戦だったんだけど……。
ボクが『転移魔法』使いだったことで話は大きくなり……『中央』のみんなを巻き込む羽目になった。
ママが声高らかにウァナヴェル王国の陥落を宣言した記憶は今も鮮烈に残ってる……や、数日前の事なんだけど、いつまで経っても忘れられないんだろうな。
「そうだぜッ! 人間共に魔族の恐ろしさを思い知らせるまたとない機会じゃねぇか!」
「おうッ、俺はいつか人間をぶっ殺してぇと思ってたッ! 中央生まれだから無理だと諦めていたがよぉ、転移魔法があるなら話は別だぜッ!」
「中央の魔族達は自分たちが生まれた意味について常に思い悩んでいたんだニョロ! けれど、ベルハちゃんがここに来たからこそ、それは過去の話になったんだニョロッ!」
「ニョロさん!? それにみんな!」
玄関からわらわらと入ってきた魔族達がニョロさんの言葉に賛同する。
「ああ! 俺らはこのときのために生まれてきたんだッ! 平凡な生なんて望まねぇッ! 英雄……とまではいかなくてもよぉ、俺は俺の生を納得できる形で全うしてぇッ!」
ライドさんがグッと右腕を振り上げると、みんなも雄叫びをあげる。
もちろん、『中央』の魔族全員がそう思ってるわけじゃないし、賛同しない者だっている。
けれど、窓の外にも見える魔族、魔族、魔族……!
この視界の全てがボクに対して希望を抱いてると思うと、悪い気はしなかった。
……ああ、ボクはきっと、魔族寄りなんだなぁ。
もしかしたら、ただ単に強い力に溺れてるだけなのかもしれないけど。
もう後戻りする気はない。
「……みんなの中には半分人間であるボクを信じ切れないヒトもいるかもしれない! それならボクに付いてこなくてもいいッ! けれど、この半分流れてる魔族の血を信じてくれるならッ! こうしてアンタたちと同じ肉を食べてるボクを信じてくれるならッ! ボクはこの『転移魔法』を以ってアンタたちの期待に応えるよッ!」
ボクは食べかけのゴブリンの角煮を掲げて叫んだ。
湧き上がる魔族達。周囲の温度が上がるのを感じる。
……こんなの、人間に対しても言える話じゃないか。
……もしここで人間側に付けば。多くの魔族を殺せるよね?
けど、人間たちはきっと、魔族の血が流れてるボクを受け入れてくれやしない。ただ殺すだけだから。
それなら、ボク自身が強い力を持ってて、受け入れてくれるヒトがいる魔族側に付こう。




