大岩
「──あらっ、今日は着装できているじゃないっ!」
「オレの助言のおかげだなっ!」
「……まあ、ちょっとは参考になったかも」
「はわっ、ベルハちゃん……!」
明るい顔を見せたナナナだったけど、ほんの一瞬だけその表情が曇った気がした。
何が気になるというんだろう。アンタがボクを助けることは出来ないけど、ボクはアンタを助けることが出来るのに。
「……ははっ、今日は着装しないといけない訓練だったから、ホントによかったよー」
まさか二日目にして着装して集合、なんて訓練があるとは思わなかったから、昨日の夜に覚悟を決めててホントによかった……よかった、のかな?
「うん、うん! よかったわねっ! ……ところで、着装して何をするのかしら?」
「ははっ、見りゃだいたいわかんだろっ、岩以外なーんもねぇ荒地とくりゃ……」
「……まさか、この岩を砕け、だなんて言わないよねー?」
言われなければただの背景に過ぎない大岩に視線が誘導される。ボク達の三倍くらい大きくて奥行きのある岩だ……人間にこんなの壊せるの?
「そのまさかだ。全員、揃っているようだな」
「わひゃ!? いつの間に!?」
「はわ、十秒くらい前からいらっしゃったよー?」
ソマリウレノ教官がいつの間にかボク達の前に立ってた……けど、ナナナは気づいてたようだ。鎧の気配で気づいたとか言いそうで怖いな。
「む、察知できた者が居たか。私も精進せねばな……ともかく、本日の訓練は各自にあてがう岩を拳で割ること。とはいえ、一日でとは言わん。これを訓練期間終了までに砕けた者を訓練完了者として認める要因とする」
……この大岩を割らないと訓練が完了しないだって? ボク達のこと、ちゃんと人間と見做してる?
「へっ、面白れぇじゃねぇか! オレの岩はどこだー?」
「ラミル、お前はあの岩だ。初日から気合十分だったからな。特別に大きい岩を選定しておいたぞ」
「よっしゃ! 腕が鳴るぜッ!!」
ほらー、初日から目立つことをするから倍くらいの岩を見繕われるー……もはやちょっとした山だよ。ま、本人が喜んでるなら、いっか。
「──ベルハ、お前はこの岩だ」
「イェスマム!」
ボクの岩はラミルのヤツに比べると特筆するでもない大きさの岩で……それでも割れる気は微塵もしないけど。
やー、これを割るのかー。無理でしょー? なんて考えながらも岩を殴りつける。
すると、表面がポロポロと零れて……お? 思ったよりいけるのかも? この鎧が凄いのかな?
「シェエエエエエリャオラアアアアアアアアアァツ!」
ズドン、という大きな音と共に遠くの此方まで届く振動。
ボクのソレとは段違いに岩の表面が崩れるのを遠目にでも見てとれた。
……ラミル、三カ月どころか三日もかからず終わるんじゃ? ボクのサイズの岩だと一日で終わってしまいそうなもの凄い怪力だ。
「はわあああぁぁぁーッ!!」
ボクの近くでナナナが岩を殴る……うん、ラミルで麻痺してるけど、良い削りっぷりだ。
ボクも負けてられないなー……とは思わない。ナナナには負けてほしくないから。これは比喩としてだけど、沈まない太陽のように常に上で明るく照らしててほしいから。
……ナナナ。ボクは決心したよ。この身は穢れてるけど、アンタはボクを憎からず想ってくれてるから。
ボクは、アンタに嫌われることにした。三カ月後、アンタに思いっきり嫌われてから死ぬことにした。
そのためには、ヒイロだって、ラミルだって、ソマリウレノ教官だって、訓練生のみんなにまだ見ぬ隊長達だって殺してやる。
そして、ボクを嫌いになったアンタは第二の人生を歩むんだ。少しはボクのことも引き摺ってくれるかもしれないけど、次第に忘れていってさ……。
…………。
そう、それでいいんだ。そうするって決めたから……。
だから、もう、ボクの心は揺らがないッ!
「はああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
──パァンッッ!!
ボクが大岩を殴ると同時にそんな音が聞こえたかと思えば、物凄い衝撃が走って。
大岩は、割れるどころか、砕けた。
……視界がやけに開けて、清々しい。
「べ、ベルハちゃん……!?」
ナナナの驚いた顔がよく見える……岩の破片で怪我してないよね?
「ベ、ルハ……?」
ヒイロが呆然とした表情でボクを見る。その息は上がってて、しんどそうだ。
「ヒューッ! やるじゃねぇかッ!!」
ラミルが此方に駆け寄って来て……おわっ、肩組んできた!
「二日目でパージするとは……訓練生としては最速だな。やるじゃないか、ベルハ」
ソマリウレノ教官が拍手しながら近づいてくる。
……そうか、これがパージ。審議の鎧の真価。
岩を砕いた時の爆発的な力はもう感じないけど、基本的な力が少し上がってる気がする……って、ちょっと待てよ?
ってことはボク、兜が外れてるんだよね? 顔が見えてるんだよね?
ダメじゃん! まだ誤魔化しに慣れてないスパイのボクが……ああ、スパイって考えちゃった! と、とにかく、顔に出すのは避けなきゃッ!!
「あ、ありがとうございまーす。えへへー」
とりあえず笑ってみたけど……なんかぎこちない感じがして怖いぞ!?
「ベルハ……はぁ、おめで、とう!」
自分が想像するソレよりもぎこちない笑みで、ヒイロがボクのことを祝った……かと思えば、その着装が解除されて。
「はわっ、ヒイロちゃん!?」
「喜んでばかりもいられんな。ヒイロ、動けるか?」
「は、はい……」
「そうか。それならばまず服を着ろ。他の者も、限界がきたならば休憩を取るように」
「よっしゃ、オレも休憩するかッ!」
「や、アンタは全然余力あるでしょーが」
今、ボク達に出来ることは何もないので、とりあえずラミルにツッコミを入れた。




