オレの名前は
「──この海沿いにある洞窟が、反ベルキアの人達の拠点だよ」
「……ここが?」
着装したボク達四人はデルタベシアお兄さんに連れられて洞窟の近くまでやってきた。
入り口付近は暗く、海に浸かってて、言われなければ中に人がいるとは思えない。
「今は満潮だからね。居住区に着くまでは足首のあたりまで海水に浸かると思うよ。普通の人なら長靴は必須だから、よく売れるんだ」
「へっ、呼吸ができりゃあ関係ねぇや! とっとと行こうぜッ!」
「……ええ」
ボク達三人は鎧を着ているから関係ないし、アルマ隊長も裸足だから大丈……あ、ちょっと嫌そうな顔してる。
デルタベシアお兄さんと謎にテンションが高いラミルの後をついていく。
すると、次第に明かりが見えてきた。
……火じゃなくて暗闇の中で光る石を使ってるみたいだ。まあ、洞窟の中だし、便利な石だもんね。光量は少し足りない気がするけど。
「ちなみにこの石も僕の商……」
「静かに……中にいる連中に察知されたくないので」
「……そうだね。くれぐれも足元には気をつけて」
得意げに紹介しようとするデルタベシアお兄さんを小声で制止するアルマ隊長。
正直、海水を掻き分ける音でバレそうな気もするけど、まあ、不安要素は増やさない方が良いし、ベラベラ話しながら行くものでもないもんね。
「…………待て、一旦ストップだ」
ラミルが腕で制止する。何事だろうと思ったら上り坂になっていて、海水から解放された陸地が見えている。
「ただでさえ音が響く洞窟なんだ。鎧の足音は絶対に目立つぜ?」
「……そうですね。三人とも、着装を解除してください」
「……はわ、ここで裸になるんですか!?」
「流石に人前では……」
デルタベシアお兄さんの方を見ると、彼はニコニコと笑いながら鞄から服を取り出した。
「大丈夫。そう言うと思って布の服を持ってきたよ。今回はサービスだ」
「おう、ありがとな! 着替えを見たら八つ裂きにしてやっから!」
「感謝と一緒に出てくる言葉じゃなくないかな?」
「はわ、デルタベシアお兄さんは覗かないよね……?」
「大丈夫、興味無いから後ろを向いてるよ。今カメラ持ってないし」
「ボク達の写真を売ろうとしないでくださーい」
小声でツッコミを入れる。この人、ホントにやりそうで怖い。
ボクのは百歩……いや、千歩譲っていいとして、ナナナの裸は誰の眼にも触れさせないぞ。
ともあれ、デルタベシアお兄さんから布の服を受け取り、着装を解除して着替える。
「……よし、準備万端だな! 行こうぜ!」
緩やかな坂を上っていくと、一際明るい光が見えてきて。
サウカロ村の居住区と変わらないくらいの空間が目の前に広がる。
思ってたよりずっと広いや。
「……僕の案内はここまで。それじゃ、頑張ってね」
アルマ隊長は頷くや否や居住区のど真ん中まで走っていき、驚く反ベルキア達の脚に光の弾を命中させていく。
「な……ッ! 騎士団員ッ!? ここまで嗅ぎつけてきたかッ!」
「国の犬共め……ぐわっ!!」
「オレたちも続くぞッ! 『着装』ッ!!」
「はわっ、『着装』ッ!」
「続くて言ったってどうするのさー!? 『着装』―!」
まさか脚を斬れとか言わないだろうねー?
「一人一人締めて気絶させてけばいいんだよッ!」
予想は外れたけど言ってることはそんな変わんないや!
言いながら反ベルキアの一人の首を絞めてるし!
でも、一人一人って……ざっと見た感じ五十人以上は居そうだぞ!?
「そうしないと逃げちゃうのはわかるけどさー」
「何暢気に喋ってやがるんだコノヤロー!!」
「わわっと! 危ないなー!」
逃げ惑う輩もいれば立ち向かってくる輩もいる。
「ぐッ!!」
斧を持って襲い掛かってきたヤツの腹を蹴り上げて、屈んだところに回し蹴りをお見舞いしてやる。こっちは普通の鎧とは違うんだ。舐めないでほしいね。
「はわっ! 大人しく捕まってくださーい!!」
ナナナの方をチラリと見ると、倒れた反ベルキアの輩の背中を思いっきり踏みつけてた。
敵となるとなかなか容赦ないもんだねー。怖い怖い。
「チッ、やっぱり騎士団の連中には叶わねぇか!」
「ズマライザ様! やっちゃってくださいッ!」
「ズマライザ……!」
アルマ隊長の視線の先にあのときの魔人が立っていた。
「全く、困りますねぇ。ワタクシが丹精込めて催眠をかけたカモ共を捕まえようだなんて」
「はわ、催眠をかけたってことは、この人たちは元々……」
「そう! 国への反抗心を植え付けられた愛国者共が殆どですよ! あのときの『確認』とは違って深い催眠をかけていますのでねぇ! 一度気絶させたくらいでは元に戻りません! 貴女方はそんな人々を傷つけられるのですか? あははははッ!」
さぞかし面白そうに笑うズマライザ。コイツ、やっぱり腹立つな。
「……でも今はテロリストだよねッ!」
「ああ! 目が覚めるまで何度でも気絶させてやるッ!」
「お気の毒ですがッ!」
しかし、攻撃の手を止めないナナナ達。え、えー……!?
「な、なんだ……? 何故やめない? 人間とは他者に情を抱いて生きている存在でしょう!?」
ほら、なんかズマライザの方が困惑してるじゃん。
……ボクも攻撃した方がいいよね? えいえいっ。
「情を抱いているからこそですよ。望まぬ行為を強いられているのならば、ソレは止めるべきですッ! それに、身体の傷ならば後でどうとでもなりますッ!」
「は、はは……想定外の反応でしたが、まあいいッ! 出てこいッ! キマイラッ!」
乾いた笑い声を発したズマライザが何かを呼び出す。
すると、洞窟の奥から一体の魔族が現れた。
頭は獅子のようで、胴体はドラゴンを彷彿とさせるソレ、手足はデーモンのように太ましく、尻尾には蛇のようなナニカが生えている。
「それがテメェの切り札かよッ!」
「ええ。ドラゴンとは比較にならない強さを誇っていますよ。なんせコイツは……ッ!」
獅子の口から炎が吐き出される。
「『炎魔法』の一つや二つ……ッ!」
アルマ隊長がキマイラの前に立って光の弾を放つ。ソレは炎を搔き分けるように進んでいき、獅子の頭に命中した……が。
「……む、無傷!」
「はわっ、頑丈っ!!」
「……まさか」
「ははっ、頑丈どころか、コイツに『ダメージは通りません』よッ! それにッ!」
キマイラが突進してきたのをアルマ隊長が受けて立つ!
「グガアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」
「舐めるなあああアアァァァッッ!! ──ぐッ!?」
……あのアルマ隊長がぶっ飛ばされて、壁に激突した!?
「あははっ、ソイツの攻撃、あまり受けない方がいいですよ? 『尋常ならざる怪力』を持つだけでなく『ダメージが何倍にも増幅』しますからねぇッ!!」
「少なくとも三つか四つ以上の魔法を使えるってことか!」
ボク達と同じく反ベルキアの一人をとっ捕まえながらラミルが叫ぶ。
「はわっ! でも、そんなに魔法を使うなら、魔力がすぐに無くなるはず……!」
「おっと、痛いところを突きますねぇ、貴女? たしかにその通りですが、ビキニアーマー一人と新兵を倒すには十分ですよッ!」
「……ゼロに何を掛けてもゼロです! 効きま──くっ」
……キマイラの攻撃は確かにアルマ隊長に効いている。まさかこのまま!?
「────ッ!」
「グガアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!」
銃口に光を収束させて解き放つアルマ隊長。しかし、キマイラは意にも介さず壁際のアルマ隊長に再び突進する!
「二度も同じ手は……ッ! ぐぁッ!!」
先ほどのこともあってか、今回は冷静に攻撃を躱すアルマ隊長と壁に激突するキマイラ。
しかし、尻尾の蛇が伸びてアルマ隊長の腕に嚙みついた!
「ふふはははっ、ビキニアーマーでなければ毒も与えられたところですが……この戦果は上々ではありませんか!」
ズマライザが悦に浸った様子で笑う。
「さっすがズマライザ様だぜッ! あのビキニアーマーですら物ともしねえッ!」
「この調子でベルキアも陥落させてやるべッ!」
まだ催眠が解けていないであろう反ベルキアの輩たちがズマライザを称える。
「あ……? なあ、隊長様ッ! そろそろやっちまってもいいよなァッ!?」
その声に強く反応したのは、ラミルだった。
やっちまうって、どういうこと……?
「……致し方ありません。ここは任せましたよ」
あのアルマ隊長が任せるって、どういうことだ……?
「祖国は、ベルキアは、十年前に攫われたオレを助けてくれたッ! 惚れた女のために王子の座を捨てた父様の娘であるこのオレをッ! 瀕死の母様の懇願を聞き入れて助けてくれたッ!」
は? 十年前に攫われたって……それに、王子って?
「ウァナヴェルにだって感謝してるッ! こんなオレのために兵を出してくれたんだからなッ! なぁ、隊長様ッ!」
ラミルがキマイラの前に歩みだす。
理解が、追いつかない。
それじゃ、それじゃあまるで、ラミルが……ッ!
「だからよッ! そんな両国を脅かすヤツらは許せねぇッ!!」
ラミルが反ベルキアだと進言したとき、ヤヨイザクラ隊長が笑ったわけだッ!
何が『心の傷を負って引き籠っている』だよッ! 全然元気じゃないかッ!
「グオガアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!」
キマイラが炎を噴きながら突進するが、ラミルは怯まない!
「オレは……ラミルエルデ・ルゥアン・ベルキアだアアアァッ!!!」
炎を物ともせず、ラミルは拳を突き出す!
その瞬間ッ!
──パァンッ!!
ラミルの鎧が弾け飛ぶ!
アレは……パージ!? いや、でもそんなはずがないッ!
フルアーマーから一気にビキニアーマーになるだなんてッ!! そんなの、有り得ないッ!!




