好都合
「……えっと、アルマ隊長っ」
いそいそと食事を取りに行ったデルタベシアお兄さんの背中をジト目で見つめていると、ナナナがアルマ隊長に話しかける。
「……何か気になることでも?」
「はいっ、もう終わった話なんですけど、アタシたちも睡眠剤が入ったご飯を食べてたら、アルマ隊長、どうしてたのかなって、ちょっと気になっちゃって」
「そのときはワタシ一人で対処していましたよ。万が一……いえ、億が一の事態があれば、アナタたち三人を担いで一時撤退しようとも考えていましたが」
……当然だけど、ボク達は戦力にカウントされていないようだ。
……ん、ちょっと待てよ?
「アルマ隊長、今回は睡眠剤だったからよかったですけど、毒とか盛られてたらどうするつもりだったんですか?」
「ビキニアーマーは心身の異常を受け付けない……だけでなく、自分がどんな異常状態に陥ろうとしていたのか知ることが出来ます。例えば今回なら『強制睡眠』だという具合に」
「はぇー……だから率先して食べてたわけですねー。ラミルはもう沢山食べちゃってましたけど」
「宴会場からベルハさんが起きたあの部屋に向かう前に一口だけコッソリといただいていたんですよ」
「んで、『強制睡眠』だからまあいいかとオレには警告しなかったわけか。ひでー話だな!」
ラミルが笑いながら言う。ボクなら絶対ガチトーンで恨み節を言うだろうけど……おめでたい奴だ。
「はわっ! ラミルちゃん、好き放題食べてたし気持ち良さそうに寝てたよねっ! すっごく自由!」
「ああ、おかげでコンディションは万全だ! この後のオレの活躍、見逃すなよー?」
「いや、だから新兵のアンタに何が出来るんだっての。まあ、ボク達もだけどさー」
コイツ、なんかいやに自信があるんだよなー。空回りしないといいけど。
「……いえ、今回はナナナさんの観察眼に助けられました。アレがなければ慎重な立ち回りを強いられていたでしょうから」
「えっへへー! お役に立てたのなら嬉しいですっ!」
「……新兵だと侮っていたわけではありませんが、アナタたちを頭数にいれていなかったことは事実。反省していますよ」
綺麗な所作で頭を下げるアルマ隊長……隊長が新兵のボク達に!?
「あわわ……頭を上げてくださいよ隊長―。隊長は強いんですから無理もないですってー」
「……」
納得していないような表情をしているアルマ隊長……まあ、彼女がホントにビキニアーマーの中で最弱なら、『強い』という言葉に思うところもあるんだろう。
「あ、そうだ。話を変えましょー? 今回は模造品のビキニアーマーを着てる超人でしたけど、退団した後にビキニアーマーになる人っていないんですかねー? もちろん、非常事態でないと着ちゃいけないのはわかってますけどー」
昨日、レオナマインおばさんが警告されてたように、退団後の着装は基本的に禁じられてる。けれどそれを無視してる人だっているかもしれない。
「ありえません、と断言しましょう。退団後もその辺りは厳しく確認していますし、何より、外見に表れてきますからね」
「ああ……」
審議の鎧を着てる間は女神様の加護で肉体の老化が止まる。
だから、ヤヨイザクラ隊長のように九十歳でも若々しくピンピンとしている人が存在することもあり得るし、ウァナヴェル王国が基本的に成人しか騎士団員として採用しないのもこの理由が主らしい。
そして、退団理由として最も多く挙げられるのが、男性との結婚。
好きな人と同じ時を生きたくて辞める人が多いようだ。
女性同士のカップルで騎士団員として在籍し続ける選択肢もあるけれど、そういう人たちはあまり多くないようで。
……やっぱり、異性同士で付き合う方が自然なのかな。ボクには関係の無い話だけど。
男だ女だなんて、くだらないよ。
「はわっ、退団した人たちは着装しちゃいけないってこと、訓練生時代に何度も聞きましたけど、やっぱりもったいない気がします!」
「アンタは鎧が見たいだけでしょー」
「違うよっ! 見たいしサワサワしたいんだよぅ!」
「や、そういうこと言ってるんじゃなくてー……」
「……退団者は一般人。命を張る理由も、心が壊れるリスクを負う必要もありませんからね」
ボク達のやり取りを微笑ましそうに眺めた後、諭すようにアルマ隊長は言う。
「はぁい……」
「ま、そんなに鎧を着たり見たり触ったりしたきゃ、ベルキアに来ればいいんだよ。ウァナヴェルほど規制は厳しくないからな」
「たしかに……でも、ベルキアはベルキアの血が混じってるか純ベルキア人じゃないと住みづらいって聞くからなぁ。行ったことないけど、噂でさ」
審議の鎧に選ばれる年齢制限もなく、一般人が着装することも基本的に許されてる国、ベルキア。
騎士団もなく、一般人の自警団とビキニアーマーである第一姫、そして王室お抱えの唯一の騎士だけで成り立っているらしい。
すごいもんだ。その代わり、鎧の解放段階はウァナヴェルに比べて低い人が多いみたいだけど。
「まあ、な。そこは改善していかなければいけないところだ。ベルキアがそんな国風だからウァナヴェルが国際色豊かな国になったとも言えるけどな」
「……そういやアンタ、純ベルキア人なのにどうして騎士団に入ったのさ。アンタ、好き放題動くのが好きなタイプなのに」
自警団は規律が厳しいところも緩いところもあると聞く、それに、各地で魔族を殺しながら旅人として放浪するという選択肢もなくはないはずだ。
「へへっ、まあな。けど、少しは規則に縛られてこいっていう義姉様の言いつけでさ。この騎士団に入れてもらったってワケだ」
「や、アンタ全然縛られてないじゃん。規則も振り回されまくって泣いてるよ」
「ははっ、オレは何者にも縛られねぇってことを義姉様に知らしめてやるよ」
「はー、その『ねえさま』も大変だね」
「まあな!」
「自信ありげに言うなってのー!」
ラミルの『ねえさま』、どんなだろう。ちょっとだけ興味あるかも。
「あははっ、ベルハちゃんとラミルちゃんって仲が良いよねっ!」
「ええ、よく会話が弾んでいる印象です」
「や、ボクはコイツに振り回されて悲しきツッコミ生命体になってるだけですからねー? ……それに、まあ、仲間ですから」
「……ええ、そうですね」
仲間。その言葉にアルマ隊長が目を見開く。散々ラミルを疑ってたボクがそんなことを言ったものだから驚いているようだ。しまった。なんかこっ恥ずかしいぞー?
「……ベルハちゃんっ、お刺身食べ終わったならピザ食べよーっ!」
「わわっ、突然なにさー? ありがたくいただくけどさー?」
……待てよ?
今、ボクとラミルが仲が良いって話をしてて、急にナナナがピザを差し出してきた。
……もしかして妬いてる? 妬いてくれてるの? ナナナはホント、可愛いなぁ。
「えへへっ、美味しいねっ、ベルハちゃんっ!」
「うん、美味しいねー!」
ピザを食べてナナナと笑い合う……うん、ホントに美味しいピザだ。出来立てのうちに食べておけばよかった。
「……けどまあ、鎧の解放段階が低くても腐っても騎士団員だ。戦闘のイロハを知るという意味では、ウァナヴェル式の方がいいのかもしれねぇなぁ」
「ん、さっきの話―? アンタが気にしてんの、意外かもー」
「ははっ、オレだって考えるべきことは考えてんだよ」
ソレ、アンタが考えたところで無駄じゃないー? なんて言葉が口から出かけたけど、なんとか堪える。
「……そういえばさ、ベルキアの第三姫って」
代わりに出てきた言葉は、魔族に攫われて精神を病んだとされるベルキア王国第三姫の話だったけど……。
「はわっ、アルマ隊長っ! 退団者の中で……って、被っちゃった! ごめんね、ベルハちゃん!」
「いいよいいよ、ボクらの話は後でするから気にしないでー」
ボクの話は興味本位のそこまで重要でもないものだ。ナナナの興味を優先しよう。
「そう? それじゃ、えっと……退団者の中で解放段階が高い人っていたんですか?」
「……ええ、基本的には解放段階五以下で退団する方々ですが」
アルマ隊長がナナナを見つめながら言う。
「一人だけ、解放段階九で辞めた方がいらっしゃいます。その方は、二十年前にワタシの訓練生時代の教官を務めていました」
「へー……理由はあるんでしょうけど、少しもったいなく感じますね」
「……ええ、ワタシもそう思います」
アルマ隊長が八歳のときの教官……八歳のときから騎士団に入ってるんだ。ウァナヴェルとベルキアのハーフだって言ってたから、ベルキアで鎧に選ばれたんだろうな。それにしても、そんな歳から騎士団に入団するなんて。
……ボクは遠慮したいな。
「ふわぁ……その退団者の話は興味深いが、飯食ったら眠くなっちまったなぁ。ちょっと仮眠を取るとするか」
「アンタ、さっきまで気持ち良さそうに寝てたよねー?」
「眠いもんは眠いんだッ! 寝るッ!」
ノシノシとどこかへと向かうラミルを追いかける。
「はわぁ、ベルハちゃん、ラミルちゃん、アタシはまだここでご飯食べてるねー!」
「ワタシもまた小腹が空いてきたのでデザートでも食べましょうか。ベルハさん、ラミルさんのことは任せましたよ」
アンタ達……特にアルマ隊長はよく食べるなぁ! もしかしたらラミルを押し付けたいだけかもしれないけど!
「はいはーい、それじゃ行ってきますよー!」
まあ、ボクとしてもラミルと二人っきりになるのは好都合だからね。




