神法
「──さ、この辺なら大丈夫だろう。やろうか!」
エリザクリスは鞭を構えてボクたちの前に立つ。
天気は曇天。暗く澱む中、アルマ隊長は標的を見つめる。
「……いきますよッ!」
アルマ隊長が駆け出す。相変わらず目で追うのがやっとのスピードだ。
正直、鞭では勝負にもならないだろう。
「ははっ、鞭は広範囲攻撃だけじゃあないよッ!」
エリザクリスは鞭を振るう。その先端がアルマ隊長を捕らえて、転倒させる……!
嘘でしょ? あのスピードについていけるのか!
「超ッ! 範囲攻撃もできるんだッ! 喰らいなぁッ!!」
「ッ!!」
エリザクリスがアルマ隊長の脚に絡みついたままの鞭をぶん回す!
鞭の先端部分になる形となったアルマ隊長と木が激突し、へし折れる!
「はわぁっ! 凄い筋肉っ!!」
そして、それで威力が落ちるわけでもなくアルマ隊長は振り回され、次々と木々に激突するッ! ナナナの言う通り、凄まじい筋肉だし……これは、この国でのセオリー通り初撃で仕留めるつもりだっ!
ベキベキッ! と木々がへし折れる音が山道に響く。
こ、これ、ボクやナナナが勇んで勝負に出てたら死んでた……!
「チッ!!」
アルマ隊長が光の弾で鞭を切断した……けれど、そのままの勢いで吹っ飛んで、数本の木を貫いてぶつかっていく。
ぶつかる勢いも収まったと思えば、アルマ隊長は木を蹴って跳びエリザクリスに斬りかかる! ……ちなみに隊長が蹴った木もへし折れている。ひぇーー!
「ははっ、無傷かい、流石は本物のビキニアーマーだァッ!!」
刀身が頭に辿り着く前にアルマ隊長の腕を拳で薙ぎ払うエリザクリス。
「……ッ!」
その威力はアルマ隊長が大銃剣を手放してしまうほどで……って、そりゃああんな芸当ができるなら素手でも闘えるか。
「その鞭はもう使い物になりません。降参しますか?」
くるりと後方に舞い、大銃剣を虚空から再召喚しながら降参を勧告する。
だけど、きっと……。
「まさかッ! これからが本当の闘いだねぇッ!!」
予想通りそう言うと、エリザクリスは拳を肩上に掲げ、アルマ隊長へと突進する。
「凄まじい気迫……ですが、遠距離攻撃を使います。悪く思わないでくださいッ!」
アルマ隊長が距離を取って光の弾を三発発射する……それでもエリザクリスはッ!!
「あぁ、その攻撃はたしかに効いてるよッ! けれどねッ! アタシは止まらないッ!!」
光の弾が当たった部位を見ると火傷したように肌の色が変化していた。それでも彼女は止まらず……!
「……そうですかッ! それならばこれをッ!!」
アルマ隊長が構えた大銃剣の銃口に光が収束していく……これはっ!?
「……そうかいッ! それが貴女の『全力』かいッ!」
エリザクリスの拳が前へと突き出されると同時にアルマ隊長の大銃剣の銃口から直線状の光が放たれるッ!
「……はわッ!?」
しかし、お互いの攻撃が当たることはなく……。
突如として現れた一体の魔族に当たった。
その魔族の見た目はまるで小柄な人型の内臓……いや、筋肉のようで。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
「──ッ!!」
攻撃を放ったはずの二人が膝をつく……あのアルマ隊長が膝を!?
「は……はっ! 出てきたねぇッ!」
エリザクリスが……いや、エリザクリスさんが白い歯を見せて笑った。
「……なるほど、ワタシ達を対立させておいてタイミングを見計らっていたということですか!」
「ああ、そうだよッ! 対立させておいて何がしたいか……いくつか可能性があったが今一つに絞られたッ! アタシが考えていた中で一番最悪な可能性ッ! ヤツの魔法は『反射』だねッ!!」
「ハ……ハハッ! タオレナイノハ、ヨソウガイダッタケド、ワカッタトコロデ、ドウスルコトモ、デキナイヨッ!」
やけに甲高い声で筋肉魔族が言う。確かに、攻撃を反射するなんて魔法を使う魔族を倒す方法は……。
「はわっ! 単純な『反射』じゃないですよぅッ! この筋肉、ちゃんと『疲弊』してますッ!」
「ゲッ……!」
鎧マニアでもあり筋肉マニアでもあるナナナがいたのがコイツの運の尽きだろう。
単純な外傷は見受けられないけれど、たしかに筋肉は疲弊している……らしい。
……心なしか、膨らんでるような? や、わかんないや。
「なるほど、『自分が受けたダメージを反射する魔法』ですか」
「ハ、ハハッ! ソレデモ、サッキノコウゲキクライナラ、ナンジュッカイデモ、ハンシャデキルゾ!」
「……おいおい、マジかい」
もしもこれがブラフじゃないのなら、あのアルマ隊長が膝をついた攻撃を何十回も繰り返さなければいけないということだ。
……まあ、さっきのアルマ隊長の攻撃が全力だったなら、の話だけど。
「それっぽっちかいッ! 騎士様ッ! 見せてやりなッ! 『本物』の力ってヤツを!」
「……ええ、わかっています。ナナナさん、ベルハさん、下がっていてください。本物の力を見せてあげます。『神法』ッ! 『エクステンド・セイバー』ッ!!」
アルマ隊長が大銃剣を天に掲げると銃口に先ほどの比ではないくらい光が収束していき……解き放たれた光が刀身となるッ!
「ジン、ポウ……! サッキノガ、ソレジャナカッタノカ!? マア、イイ! オノレノチカラデ、シネッ!!」
「死ぬのは……オマエだけだあアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
そう叫んでアルマ隊長は大銃剣を下から振り上げる。
「グ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!」
刀身と化した光が化け物の身体を貫いて。
淀み濁った空に白閃。
空まで達した光はまた此方へと戻ってきて、魔族を喰らうかのようにその身体を何度も何度も貫く。
そして最後には魔族を丸呑みにするかのように光で包んで。
「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
絶叫と共に筋肉魔族の身体が粒子となって消えていく。
ひぇー……あんな風には死にたくないね。
「ふぅ……はぁ……」
アルマ隊長が両膝をつき、両腕で大銃剣を地に突き刺して支えとしている。
……こんなにもアルマ隊長の呼吸が乱れるなんて。
「はわっ! アルマ隊長、大丈夫ですかっ!?」
慌てて駆け寄るボク達に自嘲的な笑みを浮かべる。
「痛みを感じるのは久しぶりですが、そこまで問題ありません……ワタシは神法を一度使うとしばらくは騎力が底を尽きてしまう。情けない事です」
騎力……魔族が使う魔法に対抗すべく女神様がビキニアーマーの騎士に授けるとされる神法と神器を扱うために必要な力。魔族で言うと、体内の魔素、魔力のようなものだ。
「あれだけ凄い技なんだから仕方ないですよー……というか、よく撃てますよねー。あの魔物が受けた分の痛みが返って来るっていうのに」
「あの魔物がワタシよりも高い耐久力を持つわけがない……『世界最弱のビキニアーマー』とはいえ、魔物に遅れを取ることはありませんから」
「ははっ、貴女でさえビキニアーマー最弱なのかいッ! 世界ってのは広いねぇッ」
……まるで天の上の会話を聞いてるみたいだ。
アルマ隊長はビキニアーマーの中でも最弱……?
謙遜で言ってるのかと思ったけど、彼女の表情がソレを否定する。
世界、怖すぎでしょ。
「……それで、知ってることを話していただけるんですよね?」
「ああ、約束だからねぇッ。まあ、こんなところで話すのもなんだし、村に帰ろうじゃないか。今度は睡眠剤を盛っていない料理を作らせるよッ!」
そう言って村の方へと歩き出すエリザクリスさん。ボク達もその後ろを歩く。
「……はわぁ! 料理っ! ごはんっ、ごはんっ!」
わかりやすくナナナのテンションが上がる……そういえば。
「ナナナー、エリザクリスさんの考えがわかってたよねー? だから露骨にアルマ隊長に吹っ掛けたんでしょ?」
「うんっ、エリザクリスさんの鎧ちゃんはね、とっても大事にされてて、まずは良い人だなぁ、と思って。あとは鎧ちゃんの傷が入った箇所を見てね、この人頭が良いなぁって思ったの。なんというか、攻撃の芯を上手くいなしてる感じで! だからきっと、あのときも何かを閃いたんだと思って、それに乗ることにしたんだぁ!」
「ははっ、見事なもんだッ! 騎士団の未来は明るいねぇッ! ……できればアタシもその未来を支えたかったよ」
ナナナ、得意分野の鎧からそんな分析が出来るようになったんだ。ホントに凄いや。
「……エリザクリスさん、アナタは審議の鎧に選ばれなかったんですね」
「……ああ、試験に九回落ちちまってねぇ。どれだけ身体を鍛えても、めげずに受験してもダメだった」
……やっぱり女神様の眼って節穴なんだな。
「……アナタは間違いなく強い。ぜひとも騎士団に欲しい人材です。しかし、それ以上にアナタには人に尊敬され愛される領主の才能がある。それ故に審議の鎧には選ばれなかったのでしょう」
「……はは、そういうことかい。でもいいさ、あの村で用心棒をやりながらアイツらの面倒を見るのも嫌いじゃないからねぇ」
「……今回は模造品のビキニアーマーを着ることを見逃します。しかし、これからは」
「ああ、わかっているよ。もうこの鎧に未練はない。なんせ、本物の実力を間近で見て知ったんだからねぇ。恥ずかしくって着れやしないさ」
「……はわ、でもその鎧ちゃんはずーっと頑張ってたから、今までありがとうって、飾ってあげてくださいっ」
「わっはっは! 大丈夫だよッ! 騎士様! 言われなくともそのつもりだからねぇッ!」
「エリザクリス様―!」
「ああ、どうした、村に何かあったのかい?」
村に帰り着く頃、村人が駆け寄ってきてエリザクリスさんに話しかける。
「いえ、心配で心配で……大丈夫ですかその火傷!?」
「ああ、これは名誉の負傷だよ。さ、村人全員に知らせなッ! 飯の準備だってねッ! 今度睡眠剤を盛るやつがいたらアタシがぶん殴ってやるッ!」
「はいっ、わかりました!」




