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ニコニコ

「……はっ!?」

「ベルハちゃんっ! はわぁ……よかったぁ!」


 布の服を着たナナナがボクの顔を覗き込んでさぞ安心したような顔をする。

 ……あれ? ピンク髪ハグエンジェルは?

 ……って、何考えてんだボクは! まだ夢心地なのか!?

それにしても、懐かしくて幸せな夢だった……最後らへんのアレ、ボクの幻聴じゃないよね? それか昨日の告白を受けての──。

 いや、でも、ハグされて鼻血を出して倒れたことは確かに覚えてるぞ?

……もしもあの告白のようなものがボクの勘違いじゃないのだとしたら、あのとき──。

 ……いや、考えても無駄か。


「ナナナ、催眠は解けたみたいだね」

「うんっ! ごめんねっ! あの時はみんなが怖く見えちゃってっ! 攻撃しちゃダメだーってわかってたのに……」


 なるほど、意識はあったってワケか。悪趣味な魔法だ。


「……起きましたか」

「アルマ隊長! ボクはどのくらい寝──いや、そもそもどこですか? ここ」


 ボクは温泉で倒れたはずだ。けれど、今ボクがいるのは間違いなく木造造りの屋内で。


「目的地の村ですよ。意識を失っている者がいる旨を話したら快くこの小屋を貸してくれました……意識を失っていたのは二時間程度ですね」

「なるほど……って、ラミルはどこですか!?」


 またもやアイツの姿が見えない……いい加減にしろーー!!


「今は村の宴会場でご飯を食べていますよ」

「一人にするのってマズくないですか? あの催眠野郎が転移魔法も使えるなら、ラミルと共謀している可能性が高いんじゃ……!」

「……ワタシはあの魔物が転移魔法を使えるとは思っていません。たしかに、魔人であれば、二つ以上の魔法を持つことが稀にありますが」


魔人。あの催眠野郎のように人の姿に似た魔族のこと。大多数の魔族と違い生殖行為が可能で、魔人同士の子は両親の魔法を受け継ぐ可能性があるらしい。


「それなら……!」

「魔物の思考を読む趣味はありませんが……あのとき、言葉では『死ぬつもりはない』と言っていたものの、ヤツは『死んでもいいという眼』をしていました。転移魔法を使えるならもう少し余裕のある違った眼をしていたはずです」


 ……は? 眼?


「……失礼を承知で申し上げますけど、アルマ隊長の勘ってことですか?」

「まあ、証拠はありませんが……」

「……はわ、アルマ隊長の勘が正しいなら、転移魔法を使ったのは別の魔物だってことになりますよね」

「……森のどこかに隠れていた魔物がドラゴンを呼び出した説ですか。今回もどこかに隠れていた、と?」

「……今のワタシはそう考えています」

「……いやー、だからと言ってラミルを野放しにするのは危ないですってー。シンプルにヤバいじゃないですか、アイツ」

「まあ、目に余る行為を続けてはいますが……そんなに不安ならワタシたちも宴会場に行きましょうか」

「はわっ、ちょっとだけ見たけど、美味しそうなご飯が並んでたよっ!」


 くぅ、とお腹が鳴る音……といってもこれはボクのじゃない。

 ……どっちだ? どっちでもいいか。


「ご飯……アイツ、たらふく食べてるんだろうなぁ」

「──おうっ、ベルハ様、やっと起きやがったかっ!」


 はい、予想通りー。両手に焼き丸鶏を持って食べてるー。


「アンタさぁー、それ切り分けて食べるヤツでしょ。一人で二つも食べようとすんなって!」

「いいんですいいんです! この料理は騎士の方に食べてもらうために作ったものですんでっ!」


 村人のおじさんがニコニコと頷く。

 他の村人たちも並んでニコニコと笑ってる。


「さぁさぁ、気絶していた方も目覚めたようですし、御三方も食べてくださいませ!」


 ニコニコ。ニコニコ。ニコニコ。

 ……張り付いたような笑みだ。


「……いただきます」


 アルマ隊長が何かの揚げ物をフォークで刺して口に入れる。


「はわぁ! アタシたちも食べようっ!」


 よだれを垂らして大量の料理を見つめるナナナ。

 ……心苦しいけれど。


「待って、ナナナ」

「はわぁ。どうしたの? ベルハちゃん」

「……どうしたのですか? お腹が空いているでしょう? さあ、食べてください」


 ニコニコと、笑顔を崩さずおじさんは言う。


「あら、好き嫌いがあるのかしら? 海の幸から山の幸まで御用意していますから、さあさ、好きな物を御食べになって?」

「ナナナ様、ベルハ様、どうしたんだ? 山の食いもんも海の食いもんもどれも新鮮で美味―ぜ?」


 貼り付けた笑みのおばさんの横でラミルが笑う……コイツは疑問に思わないのか?


「……ふむ、美味しいですね」


 アルマ隊長も普通に食べてるし!


「はわぁ! 早く食べようよぉ、ベルハちゃんっ!」


よだれを垂らしてボクに訴えかけるナナナ……村人たちが怪しいと言おうにも何も証拠がない。

 どうする? どうしよう……!


「おーい、食わねぇならオレが全部食っちま──」

「はわっ、ラミルちゃん!?」


 ラミルがバタリと倒れた。

ラッキー! と言っていいかはわかんないけど、これでアルマ隊長もナナナも異変に気付いてくれるだろう。


「ありゃ、もう効いちまったか」

「食い過ぎだ、コイツ」

「バレちまったらしょうがねぇ」


 先ほどまでニコニコと笑っていた村人たちが無表情になる。


「アルマ隊長、ヤバいですよ……って、まだ食べてるしっ!」


 さっきのお腹の音、絶対アンタだろ! ナナナもかなりお腹が減ってるみたいだけど!


「はわ……どうしようベルハちゃん!?」


 焦りながらボクを見るナナナと、鎌とか斧を持って武装し始める村人たち。


「やるしかない、か……! 『着装』ッ!」

「うん……『着装』っ!」


 意を決して剣を構える。そっちがその気なら……!


「オメーら、待ちなッ!!」


 野太い女性の声が宴会場に響く。だ、誰だ……!?


「エリザクリス様!」

「アタシが居ない間に何やってんだいッ!」


 紫色の長髪とビキニアーマーが特徴的な筋肉隆々の女性……コイツが件の!


「お、オラたちはエリザクリス様を護るために料理に睡眠剤を盛ったんですぜ!」

「はんっ、どうせ本物のビキニアーマーには効きっこないよッ! それにアタシはオメーらに護られるほどヤワでもないッ!」


……本物のビキニアーマーには効かない? だからあんなにも躊躇なく食べてたのかアルマ隊長!


「……盛大におもてなしいただきありがとうございます。美味しくいただいていますよ」

「ははっ、それならよかったよッ! コイツらの料理の腕と目利きは本物だからねぇッ!……で? 騎士様が何の用だい?」

「ここ三か月分の国に納めるべき金品を納めていただくため参りました」

「……え?」


 村人たちが素っ頓狂な声を上げる。

 ……なんだ? 様子がおかしいぞ?


「なるほどねぇ。コイツらから納めてもらった金品の管理は形式的な村長……アタシの部下に任せていたんだが」

「そうだ! パランセンド村長が管理してただ!」

「……その村長はどこに?」

「わがんね……」

「そういやこのところ姿を見ねぇなぁ」

「……なぁ、騎士様、ちょいとばかし気になることがあるんだが」


 エリザクリスと呼ばれた偽ビキニアーマ―の女が口を開く。


「なんでしょう?」

「そのパランって奴だがねぇ……」

「はわっ、アレはなにっ!?」

「……ッ!?」


 ナナナが指さした先にはヒラヒラと落ちる何かが。

 アレは、紙? 布? ……いや。


「……ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!」


 近寄って手に取った村人が叫び声を上げる。

 ソレは人の形を……正確に言うなら、あの森で死体が見つからなかったソフィニウリ・ファリウスの形をしていた。


「そ、ソフィちゃん……?」

「……ええ、見た目が彼女に似ている」

「こ、これぇ! 人間の『皮』だべ! 気持ち悪いぃぃぃぃぃぃぃ!」

「……どういうことか説明してもらえますか。エリザクリスさん」

「……ふむ」


 エリザクリスは顎に手を当て考える素振りを見せる。


「……回答を」

 アルマ隊長がエリザクリスを睨みつける。

「……それじゃあ、こうしようじゃあないか。アタシが騎士様と闘って負けたら知ってることを全部話してやるよ」


 ……なんだそれ。そっちが実力行使を望むなら!


「……手荒な真似はしたくありませんが、いいでしょう」

「はわっ! アルマ隊長、この人はきっと悪い人ですっ! すごーく悪い人ですっ! 全力で闘ってくださいっ!」

「ナナナっ!?」


 いやいや、何を見て判断したんだ、ナナナは!?


「なーに言ってんだべ! エリザクリス様はな──」

「おや、『顔出し』のヒヨッ子……失礼、審議の鎧に選ばれた騎士様だったねぇ。貴女、見る目があるじゃないか! わっはっは!」


 擁護しようとする村人を腕で制し、豪快に笑うエリザクリス。正直、ボクから見ると快活な善人にしか見えないけど。


「……ふむ、本当に全力でいいんですね?」

「ああ、望むところだッ! それじゃあ、ここからちぃと離れた山道でやろうじゃないか。村に被害は出したくないんでねぇ……ついてきな」

「……いいでしょう。行きますよ、ナナナさん、ベルハさん」


 自分よりも二十センチ程高い筋骨隆々のラミルを担いでアルマ隊長はエリザクリスの後を追う……なんで担げるんだ? ビキニアーマーって凄すぎない?

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