興味ないくせに
「……おーいっ! ノノカさん! カナネさん! セレナさん! ナナナとベルハが帰ってきたぞーっ!」
道中、特に会話が弾むでもなくサウカロ村へと帰ってきたボク達を門番のおじさんが迎え、ママたちを呼ぶ。
「ナナナーっ! おかえりなさい!」
「はわっ! お母さーん! ただいまぁーっ!!」
「ベルハ、おかえりなさい」
「……うん、ただいま。ママ」
ナナナとノノカクラネおばさんが抱き合って再会を喜んでいるのを横目に見た後、ママに微笑む。
「おかえりなさい、ナナナちゃん、ベルハちゃん。ウチのヒイロは元気にして──」
「…………」
ヒイロの母親、レオナマインおばさんが近づいてきて。
重苦しい表情をしたアルマセイカ隊長と目が合った。
「……やめて。聞きたくない」
「……それでも、ご報告しなければなりません。アナタの娘であるヒイロロイン・イナインスクさんは、一昨日、殉職されました」
村人全員が騒めき立って、重苦しい雰囲気が漂う。
「……何があったの?」
「遠征中に四体のドラゴンが現れ……ワタシが不測の事態に対応できず、ヒイロさんはドラゴンに全身を食べられました」
「……貴女という人がついていながら?」
「……返す言葉もありません」
「…………」
絶望に沈んだままレオナマインおばさんがこちらを見る。
思わず肩がピクリと動く。やっぱり恨み言の一つでも吐いてくるのだろうか。
「……ッ」
彼女が此方に腕を伸ばしてくる。ボクは動けないまま……。
「……ベルハちゃんは生きていてよかった」
ボクはレオナマインおばさんに抱きしめられた。
最初は何が起こったのか理解できず、掛けられた声色の優しさに、思わず涙が出てしまう。
「あ……う」
「……よし、よし、怖かったわよね」
おばさんはボクの涙を指で拭ってにっこりと微笑みかけて抱擁を解く。
「……ナナナちゃんも、生きていてよかった」
「……ごめんね。アタシ、何もできなくて」
「貴女達は、悪くないわ」
優しい声色でナナナも抱きしめるレオナマインおばさん。
周囲から聞こえるすすり泣く声。
今はこの村の全てがヒイロの死を悼んでいた。
「……さっ、お葬式ムードは一旦やめましょ? せっかくベルハちゃんたちが無事に帰ってきたんだから、お祝いしないとっ!」
レオナマインおばさんがわざとらしく明るい声を出す。気丈に振舞ってはいるけれど、心がズタボロなのは見てわかる。
そんな彼女のことを気遣いつつも、村人たちはボク達に向けて笑みを向け始めた。
「さあ、まずはウチに帰ろう? ナナナ、ベルハちゃん、セレナさん……アルマちゃんも。今ちょうどパンが焼けたところよ」
「……はぁい! お母さんたちのパン、楽しみだなぁ!」
ポン、と手を叩いて家へと帰るノノカクラネおばさんといつものように明るく振舞おうとしているナナナ。
やっぱりどこか重苦しさは拭えなくて……これを十数回も経験してきたアルマ隊長の心は大丈夫だろうかと余計な心配をしてしまう。
噂では、ビキニアーマーに達した者の心は揺るがないらしいけれど……。
「ほら、行きましょ。ベルハ」
「うん、ママ……」
ママと横並びになってナナナの後ろをついていく。
「──ただいまぁ。ナナナたち、帰ってきたわよー!」
「おかえり、ナナナ! ベルハちゃん! 迎えに行けなくてごめんな! ちょうどパンが焼ける時間だったからさ」
「はわぁ! お父さんただいまぁーっ!」
「……ただいま、カナネベルドおじさん」
ボクたちは漂うパンの香りと共におじさんに迎えられ──
「よっ、おかえり、ナナナ様! ベルハ様っ!」
ちょっと待って? なんか出てきた。
コイツ、なんで我が物顔でパン食ってんの? しかも両手に持ってるしっ!
「はわっ!? ラミルちゃん!?」
「……なにしてんの?」
「なにって……パン食ってんだよ。いやぁ、ここのパン、美味ぇなぁ!」
「あははっ、嬉しいこと言ってくれるわねっ! ねっ、アナタ! セレナさんっ!」
「ははっ、そうだなっ! どんどん食べな!」
「ふふ、そうですね。ベルハとナナナちゃんのお友達ですもの。私がお手伝いしたパン、沢山食べて?」
「パン食ってるのはわかってるつーの! 行方を眩ませたと思ったらどうしてこの村にいるのさっ!」
なんだか和やかな空気だけどボクはツッコミをやめないぞ。
「……観光?」
「いやいや、観光名所とかないから!」
「えぇー、このパン屋だけでも観光名所になると思うけどなぁ、相当美味いぜ? ……まあ、観光ってのは冗談だ。オレも貴女様らみたく玉座の間に呼ばれてな? ヤヨイ様から任務に加わるように言われたんだよ。ほら、偽ビキニアーマーをとっ捕まえろとか、そういうやつ!」
「……とっ捕まえろじゃなくって、納めるべきものを納めさせるだけだからね? てか職務内容を外部に漏らすなー?」
なんかもうツッコミ疲れてきた……コイツをどうにかしてほしい。
まあ、真面目に考えると、やっぱりラミルも疑われていて、アルマ隊長の監視下に置かれたということだろう。
「なるほど……ラミルさん、単独行動は極力控えるようにお願いしますね?」
「ああ、わーってるって」
……本当にわかってるのかコイツ?
「うふふっ、サプライズ、上手くいったみたいね、ラミルちゃん! ベルハちゃんが活き活きとしているわ!」
「おう! ありがとうなノノカ様!」
「……はは」
こんなもんをサプライズにするなー! それにこれは活き活きしてるんじゃなくてイライラしているだけじゃーいっ!
……なんて言えたらよかったけど、出てくるのは乾いた笑い声だけで。
「さあ皆、出来立てのパンを食べなっ!」
「わーいっ! お父さんたちのパンだーっ! いっただきまーすっ!」
「ありがたくいただきます」
「いただくぜー!」
「いや、アンタ、何個食べるつもりなのさー……いただきまーす!」
軽くツッコミを入れながらパンを一口。
小麦の香りが鼻腔を抜けて、ほんのりと優しい味わいが口の中に広がる。
……懐かしくて、落ち着く。
「えっへへ、美味しいねっ、ベルハちゃん!」
「……うん! 美味しいねー!」
さっきまで気まずい雰囲気だったナナナがボクに笑いかける。
そうだ。例え喧嘩をしても、二人でパンを食べれば、いつの間にか仲直りしてて……。
「……ふふ。ベルハはやっぱりナナナちゃんと仲良しね。今日も一緒に寝るの?」
「えっ……とー」
「はわっ、一緒に寝ないの?」
当然のように一緒に寝るものだと思っていたのか、ナナナが意外そうな声を出す。
もう気まずさとか気にしてないみたいだ。
「寝る! 一緒に寝るよー!」
そりゃあ、ボクだってナナナと一緒に寝たいよ。
「あはは、それじゃあベルハちゃんはアタシの家で寝るってことでー!」
「へっ、仲の良いことでっ! んじゃオレはベルハ様ん家で寝るか!」
「ねぇ、アンタはどうしてそうも意味わかんないこと言えるの? 意味わかんないことをしたり言ったりする大会の一位を目指してんのー?」
「あらあら、ベルハの友達なら別にいいわよー?」
「いやぁ、でも……」
ラミルはボクの中で一番の裏切者候補なワケで。そうやすやすと家に入れたくないというか……でもそれを本人の前では言いづらいし!
「……ワタシはどうしましょうか」
「アルマちゃんはゲストハウスで寝ればいいわ……まあ、実際はゲストハウスとは名ばかりの簡易倉庫だから、人が二人寝るには少し狭いけれど」
「ふふ、そうですよね。それじゃあやっぱり、ラミルちゃんはウチで寝かせましょう」
「……ママがそれでいいならいいけどさー」
じーっとママを見つめると、指で作ったオッケーサインが返ってきた。
だ、大丈夫かなぁ……?
「そうだ、ナナナ。さっきは聞き流してしまったが、玉座の間に呼ばれたんだって? 凄いじゃないか! それとも、何かやらかしたのか?」
「はわわっ!? やらかしてないよぅ! ……凄いこともしてないけど」
「へっ、生きてるだけで凄いっての……だから呼ばれたんだぜ?」
……いや、疑われてるから呼ばれただけだったと思うんだけど。
「……そう! 私もさっきからずっと触れたかったの! ベルハ! 凄いわねっ! 完璧よっ!!」
ママが興奮した口調で此方に近寄ってきてボクを抱きしめる。
「ちょっとママー……」
……どうせママはボクのことなんか興味ないくせに。




