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裏切り者

「信じたくはありませんが、そうなります」

「……もしかしてソレ、生存者のボク達が疑われませんか?」

「……そう考えるのが自然と言えよう。しかし、魔物の中には後先顧みん特攻精神を持つ輩もおる。ドラゴンを呼ぶだけ呼んで喰われたという可能性もあれば、完全に喰われたフリをして行方を眩ませたという可能性もある」

「はわ、それなら、鎧ちゃんをずっと着れなかった人の中にいるって考えるのはどうですか? 魔物だからずっと着られなかったとか!」

「……いや、そもそもの話、魔物が『審議の鎧』に選ばれておるなぞあり得ぬ話じゃわいのう」


 入隊試験で審議の鎧に触れるということは、女神様の選別を受けるということ。天におわしめす女神様は鎧に触れた者の心とそれまでの記憶を読み取り、その者に適性があるかを判断するという。魔物が紛れていたとすれば鎧に拒まれるはずだろう。


「……あっ! だとすれば、既に鎧に選ばれていた入隊希望者の中に居るというのは? 本当は鎧に選ばれていなくて、模造品を……!」

「……ふむ、ベルキア王国とジュテイン帝国から来た三人か」


 そうだ、入隊者の中には既に審議の鎧に選ばれた者たちが少数混ざっている。


「……第三隊のテンリマウリ・オボ・エンデイーネンは下半身を食い千切られた状態で死んでいました。そして、新兵のソフィニウリ・ファリウスは死体が見つからず」


 ソフィ……彼女は中くらいの成績で。鎧姿は見たことがあるけれど、そういえば彼女が『着装』しているところは見たことがなかった。


「特攻精神を持っていたとするならテンリさんが。完全に食べられたと見せかけて行方を眩ませたと考えるならソフィが怪しいということですね? たしかに、ソフィが『着装』するところは見たことありませんでしたから」

「……テンリさんが、というのは可能性が低いと思いますがね。彼女は鎧を『着装』できていましたし」


 そして、最後の候補者は、アイツ……。

 ボクの中で嫌な推論が立つ。


「最後の一人はラミル……あまり言いたくはないですけれど、ボクはアイツが一番怪しいと思っています」

「はわ……っ!? ラミルちゃんを疑ってるの!?」

「ほう、しかし彼奴は『着装』が出来ると聞いておるが?」


 ヤヨイザクラ隊長がジロリと此方を見つめる……やっぱりアルマ隊長と同じで怖いっ!


「犯人が一人じゃないと考えるのは……? つまり、ラミルは外部の魔族と共謀していて、遠征の情報等をソイツに流していた。そしてその魔族がタイミングを見計らって何らかの転移魔法を使ってドラゴンを呼び出した……今思えばラミルは単独行動が多かった。話をする機会もあったでしょう」

「人間と魔物が手を組んだと言いたいのか。それは何のために?」

「ラミルが反ベルキアの人間だとしたら……? 危険を承知で魔族と手を組んだ。ベルキア王国を崩壊させるために」

「わーはっはっはっはっはっはっはッ! ……あまりにもぶっ飛んだ推論じゃわいのう! 汝ら、仮にも三カ月を共にした仲間であろう?」

「……ボクだって、信じたくないですし、否定されてほしいですよ、こんな推論」

「……ベルキアの崩壊を狙っているならば、ウァナヴェルの遠征の際にドラゴンを呼び出すのではなく、突然ベルキアに魔物を転移させた方が効果的なのではないか?」


 今まで口を閉ざしていた王様による反論。それはもっともだ。


「……ですが、今回の件でウァナヴェル王国の戦力は低下しました。新兵たちはともかく、デミルエミル副隊長やソマリウレノ教官を失ったのは痛手と言えるでしょう。ウァナヴェルとベルキアは同盟国。いずれ助けに来る国ならばその戦力を削っておけと考えたのでは? ……そもそも、そんなことを考える脳が無かった可能性もありますけど」

「ふむ……ベルキアだけでなくソレに協力するウァナヴェルへの宣戦布告とも捉えられるか。まあ、考えられる候補の一つとして覚えておこう」


 小さく頷くヤヨイザクラ隊長。まあ、暴論とも言えるので候補の一つとして覚えられただけでも言った甲斐があったというものだ……もちろん、信じたくはないけれど。


「……ヤヨイザクラ隊長、ワタシの処分は」

「不測の事態とはいえ、本来であれば隊長職を解任したいくらいの不祥事じゃわいのう。しかし、汝ほどの実力者はなかなか現れん。今回の罰としては、死者の遺族たちへの謝罪で勘弁しよう。彼女らも騎士じゃ。その死は覚悟の上であろうが」

「……は」


 アルマ隊長がヤヨイザクラ隊長に向かって敬礼する。

 あれだけ活躍したのに謝罪なんて……。

 それに、みんながみんな、死を覚悟していたわけでもないだろう。


「そして、謝罪を終え次第、南西の山へと向かってもらう。そこのナナナとベルハと共にな」

「はわっ!?」

「ボクたちもですか!? というか、三人で!?」


 新たな任務、ということだけど、まだ心の準備が出来ていなかった。


「そうじゃわいのう。どうやら、ウァナヴェル領の山奥の村をビキニアーマーを名乗る不届き者が牛耳っておるらしい……まあ、それだけならば捨ておくのじゃが、この三カ月の間、国へ納めるべき金品を納めておらんため、その額の調査と徴収に行ってほしいのじゃわいのう」


「あのー、今回遠征に参加しなかった第三隊の方々はー?」

「第二隊に一時的に加わり、本来行く予定だった反ベルキア共の洞窟に視察に行ってもらう。そのための準備があるため待機させておくのじゃわいのう」

「ボク達もその部隊に加われないのは、やっぱり疑われているからですか?」

「うむ、心苦しいが、アルマの監視下に置かせてもらう」

「……ワタシが裏切り者だという可能性は考えないのですか?」

「そんな恐ろしいことを考えたくはないっ! そうなったらこの国はおしまいじゃわいのうっ! わはははははっ!」

「いや、笑い事じゃないだろう……」


 王様が長い溜息を吐く。

 アルマ隊長が犯人である可能性なんて考えもしなかったけれど……もしそうだったら怖すぎるっ! ボク達終わりじゃんっ!


「……かしこまりました。では、ナナナさん、ベルハさんは寮で待機を。サウカロ村へ向かうことになりましたら呼びに行きますので、明日の昼頃を目安に」

「「イェスマム!」」


 ナナナと口を揃えて敬礼する……明日は山登りかー。


「そうそう、せっかくの帰郷じゃわいのう。一晩くらいゆっくりしてもよいぞ」

「はわっ!? 本当ですか!?」


 そう、サウカロ村はボクとナナナの故郷だ。帰るにしてもアルマ隊長がヒイロのことを謝る時間くらいしか滞在できないなーとか考えてたから思いもよらぬ言葉だった。

 ……ただ、何かの思惑が裏でありそうな気もする。まあ、ボク達だって裏切り者候補だから仕方ないよねー。


「うむっ! ということで、ナナナとベルハは寮に戻るようにっ! 念のため第一隊員二名を監視に置いておくが、普段通り過ごせばよいぞ!」

「「イェスマム!」」


 ボクたちは敬礼をして、部屋を出る。


「……しかし、アルマとデミルとソマリが揃っておって、なぁ。流石に『中央』に行くには無謀であるが、我も安心しきっておったわい。すまんっ!」

「いえ、一重にワタシが未熟だっただけです」


 鉄製の扉を開けるときにそんな会話が聞こえた。

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