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俺、もう寝取りしません。でもヒロインが止まらない  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第28話 文化祭実行委員長

 午後の教室は、陽だまりとチョークの粉の匂いで満ちていた。

 俺――神谷蓮は、机に突っ伏して昼寝中だった。

 特に理由はない。

 授業中、歴史学の先生の長たらしい説明に突入した瞬間、睡魔が襲ってきたのだ。

 心地よい静寂。風がカーテンを揺らす。

 ――最高の睡眠環境。誰が起きるもんか。


 ……のはずだった。


「おい、神谷。起きろ、起きろって!」


「……ん、あと五分……」


「いや、五分どころじゃねぇんだよ! 黒板見ろ!」


 目を開けた瞬間、世界が少しだけ傾いた気がした。

 黒板には、大きく書かれたチョークの文字。


『文化祭実行委員長:神谷蓮』


「……いや、寝てただけなんだけど!?」


「おめでと〜実行委員長〜!」


「神谷くん、頼りになりそうだから!」

「静かで落ち着いてるし!」

「寝てても票集まってたから運命だよ!」


 クラスメイトたちは笑顔で拍手している。

 いやいや、何が運命だ。俺は今、寝てただけだぞ。


「やる気ゼロで任命された実行委員長、ここに爆誕……」


 机に額を打ちつける。

 その瞬間、教室の窓の外で夕陽がきらりと光った。


 ――このときはまだ知らなかった。

 この「寝てただけの選任」が、前世の“地獄”を呼び覚ますなんて。




放課後。

 俺は文化祭実行委員として、生徒会室に足を踏み入れた。

 古びたドアを開けると、独特の空気が流れ出す。


 静かな緊張。整然と並ぶ資料。

 窓際の光に反射する、生徒会の腕章。


「神谷蓮くんね。今日から実行委員よろしく。」

 瞳の奥で冷静な光を宿す――桐生里奈。

 生徒会会長。成績優秀、冷徹な判断で知られる少女。


「それじゃ、次の議題に入りましょう。――文化祭ステージの使用申請について。演劇部からの希望は“メインホール”。」


 その声に続いて、勢いよく手が上がる。


「はいっ、演劇部の朝霧です! 文化祭の劇は《白薔薇の誓い》を上演予定なんです。せっかくだから、一番広い会場でやりたくて……メインホールの使用をお願いしたいんです!」


 ぱっと花が咲いたような笑顔。

 朝霧玲奈。明るく前向きで、誰からも好かれる演劇部の看板娘。


 その後ろには――

 真面目で爽やかな日向勇気(主人公ポジ)。

 クールな日向美月(妹系)。


 ……フルメンバーだ。


(おいおい……まさかの“前世の登場人物”フルコンプ!?)


 頭の中で警報が鳴る。

 俺は前世の官能小説『愛と裏切りの庭』に登場した“寝取り役”の男である神谷蓮。

 ヒロインたちを誘惑し、最終的に全てを壊す――最低最悪の役回り。


 そしてこのメンツ。

 まるで、その小説の登場人物たちが現実に再現されたようだ。


(いやいや、待て待て……なんで俺がこの面子の中にいる!?)


「まあまあ、落ち着いて。確かに去年のデータだと演劇部の観客数は音楽部より多かったしな。……ね、会長?」


 思わず口を挟んでしまった。

 玲奈がぱっと顔を輝かせ、こちらを見る。


「神谷くん、ありがと!」


(やばい、笑顔がまぶしい)


「だからこそ、慎重に決める必要があるわ。人気だけで優先を決めるわけにはいかないの。」


 桐生里奈が冷静に切り返す。

 ――まるで前世のセリフの再現。


(ダメだ、この流れ、完全に『愛と裏切りの庭』の序盤イベントじゃねぇか……!)


 俺は心の中で頭を抱えた。




 翌日、放課後。


「神谷くんにお願いがあるの。」


 2年A組教室の前で、玲奈が待っていた。

 窓から射す光が、彼女の髪を淡く照らしている。


「神谷くんに……“彼氏役”をお願いしたいの。」


「……は?」


「《白薔薇の誓い》の主演。お姫様の恋人役、まだ決まってなくて。神谷くんならぴったりだと思うの!」


「いや、それはちょっと……!」


 全力で首を振る。

 ――なぜなら、この展開を知っているからだ。

 前世の『愛と裏切りの庭』では、文化祭の舞台をきっかけに“玲奈が寝取られる”イベントが発生する。


 俺がその引き金になるわけにはいかない。


「ごめん。俺、舞台とか無理だから。」


「……そっか。ううん、ごめんね。無理言って。」


 玲奈は笑って去っていく。

 その笑顔が、胸に刺さった。


(待てよ……俺が関わらなければ、同じ悲劇が繰り返されるんじゃ……?)


 そう気づいた瞬間、心が決まった。


「――だったら、俺が改変する。」


 脚本を変えればいい。

 俺が舞台に上がれば、運命は変わる。

『愛と裏切りの庭』では神谷蓮は舞台に登壇していない。


 玲奈に伝えた。


「やっぱり、彼氏役……俺にやらせてほしい。」


「……えっ、本当に!?」


 玲奈の瞳が大きく開かれ、次の瞬間、彼女は俺に抱きついてきた。


「ほんとに……ありがとう、神谷くん!」


 その瞬間、確かに感じた。

 ――前世ではあり得なかった“運命のズレ”が、生まれた。



回想終了


 シャッター音が小さく響く。

 カメラ越しに見えるのは、水瀬恵の照れた顔。


「……はい、次、もうちょっと顔傾けて。」


「ちょ、ちょっと近いっ! 変な角度で撮らないでよ!」


 ――現在、俺は水瀬恵の自宅で写真撮影をしている。

 状況説明しよう。

 彼女の彼氏の中川 賢治と俺は水瀬先輩を綺麗に撮る勝負をした。

 俺の勝利。褒美のキス。


その瞬間の写真が学園中に拡散された。


 結果、


『私との関係これ以上拡散されたくなかったら、私の写真撮影に付き合って』




 ……という脅迫を受け、今に至る。


「はい、もう一枚……」


「ま、待って! シャッター早い!」


「モデルが動くからだろ。」


「う、うるさいっ……!」


 ツンとした態度。

 けれど、レンズ越しに見る恵はどこか切なくて。

 夕陽の光が、彼女の髪を柔らかく包む。


(……俺、また“誰かの感情”に踏み込もうとしてるのか?)


 心がざわめく。

 指先が震え、シャッターを切る音が、少しだけ遅れた。



 撮影が終わり、カメラをテーブルに置く。


「……あの舞台、すごかったよね。玲奈ちゃん、綺麗だった。」


 恵が呟いた。

 その笑顔の奥に、ほんの少しの嫉妬が見えた。


「……そうだな。」


 俺はレンズを拭きながら、答えを探すように視線を逸らした。

 舞台を改変したはずなのに。

 “運命”は、また別の形で揺れ始めている。


「ねぇ、神谷くん。」


 恵がカメラを見つめ、柔らかく微笑む。


「次は、私の番だからね。神谷くん。」


 その言葉が、胸に沈んだ。


 ――前世の運命は変えた。

 けれど、今生の恋の歯車は、静かに、確実に回り始めていた。

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