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俺、もう寝取りしません。でもヒロインが止まらない  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第1話 目覚めの衝撃 ― 寝取り役、はじめました!?

――まぶしい。

天井が、やけに白い。

そして……どこか、クラシックな香りがした。


「……ん? ここ、どこ?」


神谷連かみや・れん17歳 

ごく普通の高校生。放課後、保健室で昼寝していたはずが――

起きたら、そこはまるで貴族の屋敷だった。

木製の壁、重厚なカーテン。

ベッドの上には、信じられないほど豪華なシーツ。


ノックの音。

ドアの向こうから現れたのは、黒髪に白エプロンの完璧なメイド。


「お目覚めですか、連様?」

「……れ、連様!? 誰それ、俺のこと!?」

あまりにも滑らかに「様」をつけられて、反射的に聞き返した。


「もちろんです。あなた以外に“この屋敷の主”はいませんから」


いやいや、俺の家は築二十年の木造アパートだ。

ここ、どう見ても貴族の屋敷だろ。


完璧な笑顔――だけど、どこか警戒しているような気配もある。


神谷の頭の中に、???が並ぶ。

メイドの名は――美桜みお

涼やかな顔立ち、淡い唇、仕草まで完璧。

だがその瞳には、どこか――憎しみのようなものが混じっていた。


「……あの、美桜さん? 俺、ここで働いてたっけ?」

「いいえ。働くのは私です。あなたは……ご主人様でしょう?」


「……は?」



ベッドから飛び起きて、部屋の鏡に駆け寄る。


「……うわ、誰コレ!?」


鏡に映るのは、確かに自分――

だが、いつもより二割増しでイケメン。

目元がやけに艶っぽく、声まで少し低い。

そして服装は、白いシャツに黒のベスト、金ボタン付き。

どこからどう見ても「金持ちの御曹司」だ。


「まさか……異世界転生?」

「いえ、転生ではございません。昨日もちゃんと寝室でお休みでしたよ」

「昨日……?」


その瞬間、頭にズキンと痛みが走る。


――断片的な記憶が流れ込む。

ヒロインを奪い、男を壊す、最低の寝取り魔。


「ま、待て待て待て! これ、もしかして――!」



神谷連。

そう、それは自分の名前。


だが今の自分は、“官能小説『愛と裏切りの庭』に登場する男”の方らしい。

恋愛小説界でも賛否両論の問題児。


「……いや、俺そんなキャラじゃねぇから!?」


メイドの少女――美桜が困ったように首を傾げる。

「お加減が悪いのですか?」

「いや、悪いっていうか、色々混乱してて……」


「本日も女性の方々が登校をお待ちですよ」

「女性!?」

「はい。いつも連様を取り合っておりますでしょう?」


「俺そんな青春送ってねぇよ!?」




制服を渡され、仕方なく袖を通す。

黒のブレザーに金糸の刺繍。

どこかで見たような――そう、恋愛ゲームみたいなデザインだ。


屋敷を出ると、青空と花々。

どう見ても現実じゃない。

だけど通学路はあるし、制服姿の学生も見える。

さらには豪奢な車。

行き先は“アカディア学園”――どうやらこの世界の高校らしい。



登校してすぐ、女子の視線が刺さる。


「神谷くん、今日も素敵……♡」

「きゃー、今日もかっこいい!」

「昨日のこと、ちゃんと覚えてるよね?」


「昨日って何!? 俺寝てただけだよ!?」


まるで王子様扱い。

けれどその中には、怯えた瞳も混じっていた。

「(あの子……前、泣いてたって聞いた)」

「近づくと危ないよ」

ざわ……ざわ……


神谷(心の声):

「……人気者ってレベルじゃねぇぞ。これ、“怖がられてる人気”だろ!?」



同時に、頭の奥でフラッシュバックする記憶。

“押し倒されたベッド”“泣きながら拒む少女”“それでも笑う自分”――。


「……やめろ、なんだこの記憶!?」



休み時間、トイレで鏡を覗く。

目の奥に、また断片的な映像が流れた。


――ヒロインを抱きしめ、囁く自分。

「君の体も心も、僕が奪ってあげようか」


「ぎゃーー! 何この最低なセリフ!」

思わず声に出た。

鏡の中の自分が、軽く微笑んだ気がしてゾッとする。


「いやだよ! 俺、もうそんな役やりたくねぇ!!」




放課後、再び屋敷に戻ると、美桜が出迎えた。

「お帰りなさいませ、連様」


「……ねぇ、美桜。俺ってさ、どういうキャラなん?」

「どういう、とは?」

「なんか、みんな俺のこと“寝取り野郎”みたいに言うんだけど……」


美桜がピシッと姿勢を正した。

「また女性関係のトラブルを起こされたとか」

「だから違うって! 俺は何もしてねぇ!」

「“記憶にない”という言葉ほど信用ならないものはありませんね」


(表の声は冷たい。けれど――)


(心の声・美桜)

『……あの夜、あなたが私を無理やり抱いたくせに。

どうして他の女を見るの……? 許せない……』


神谷には、その心の声は届かない。

ただ、美桜の眼差しにわずかな悲しみが浮かぶ。


「連様。寝取りは――人として、最低の行為です」

「……は?」

「女性の心を弄び、他人の恋人を奪う。」

「してねぇってば! 俺は、そんなこと……」

「では証明してみせてください。……二度と、誰も傷つけないと」


神谷(心の声):

「いやいや、俺この世界じゃ寝取り役キャラなんだろ!?

その設定からして詰んでるって!」




部屋に戻り、連は深呼吸した。


(落ち着け、俺。要するに――

 俺は今、“官能小説の寝取り役”の中にいる。)


(でも俺は神谷連、ただの高校生だ。

 もう寝取りなんて絶対にしない!)


鏡の前で拳を握り、叫ぶ。


「俺は、寝取りなんてしないっ!」


その瞬間、窓の外から甲高い声が。


「神谷くん……今日も逢いに来ちゃった♡」


アカディア学園のアイドル的存在・桐生由奈きりゅう ゆな

恋愛小説なら“メインヒロイン”だ。


美桜の眉がピクリと動く。

「……また、あの女ですか」

「いや、違う! 俺は呼んでないから!」

「“呼ばずとも寄ってくる”……それが、あなたの罪業なのです」


神谷:「……俺、どんな設定だよ!!」



ベッドの上で天井を見つめながら、神谷は呟く。

「……くそ。寝取り役なんて、俺の性格じゃねぇ」

「だったら――変えてやる。この世界の“物語”ごと」


心の中の自分が、笑う。

『変えられるものなら、な』


屋敷の外から、ユナの声が響く。

「神谷くーん、キスの続き……しよ?」

「続き!? 何の!?」


美桜の冷たい声が重なる。

「……連様、貴方が変われないなら――私が壊します」



そして彼は知る――

“寝取りをやめた男”ほど、ヒロインに狙われる存在はいないことを。


――学園寝取りラブコメ、ここに開幕。



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