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第七十八話「不安にさせてごめん」


 クロエとのデートから三日が経った。

 俺は魔法大学の自室で、一人悩んでいた。


 クロエの告白。

「三人目の奥さんって、興味ありますか?」


 あの時の彼女の勇気ある言葉が、頭から離れない。

 俺は確かに答えた。


 「君は素晴らしい女性だ」

 「でも、すぐには決められない」


 嘘はついていない。

 クロエは本当に素晴らしい女性だ。

 優しくて、賢くて、一生懸命で。


 でも、俺には既にエリカとルナという大切な妻がいる。

 三人目の妻を迎えるということは、簡単なことじゃない。


 何より、エリカとルナがどう思うかが一番重要だった。


「やっぱり、直接相談しよう」


 俺は決心した。

 瞬間移動でエルフの村に帰って、二人に相談しよう。

 これは俺だけで決められることじゃない。

 家族全員で話し合うべきことだ。

 俺は荷物をまとめて、瞬間移動の準備を始めた。




◇◇◇




 エルフの村の自宅に着いたのは、夕暮れ時だった。

 家の前に立つと、中から賑やかな声が聞こえてくる。

 エリカの笑い声、ルナの優しい声、そしてミミの可愛らしい声。


 懐かしい音に、俺の心も温かくなった。


「ただいま」


 俺が扉を開けて声をかけると、室内が一瞬静まり返った。

 そして次の瞬間。


「タクヤ!」

「タクヤさん!」


 エリカとルナが同時に駆け寄ってきた。

 二人とも、俺に飛び込むように抱きついてくる。


「おかえりなさい」

 エリカが俺の胸に顔を埋める。


「急に帰ってくるなんて、連絡もなしに」

「心配したんですよ」


 ルナも俺の腕に抱きつく。


「魔法大学で何かあったんですか?」

「タクヤにぃー!」


 ミミも嬉しそうに駆け寄ってくる。


「おかえり!会いたかった!」


 俺は三人に囲まれて、改めて家族の温かさを実感した。

 やっぱり、ここが俺の帰る場所なんだ。


「みんなも元気そうで良かった」


 俺が微笑む。

 そして、ベビーベッドで眠っている息子のリオネルを見つめる。


「リオも大きくなったな」

「はい」


 ルナが嬉しそうに答える。


「最近は手足をよく動かすようになって」

「もうすぐハイハイを始めそうです」


 俺はリオネルの寝顔を見つめながら、父親としての実感を改めて感じていた。


 この子の父親として、家族の一員として。

 俺には守るべきものがある。

 そして、その責任がある。


「それで、急にどうしたの?」


 エリカが心配そうに聞く。


「魔法大学で問題でもあった?」

「いや、問題というわけじゃないんだが」


 俺が言いよどむ。


「実は、みんなに相談したいことがある」

「相談?」


 ルナが首を傾げる。


「どんなことですか?」


 俺は一度深呼吸してから、みんなに向き合った。


「実は、魔法大学にクロエっていう女の子がいるんだ」


 俺がクロエについて説明し始める。


 彼女がどんな人物で、どれだけお世話になったか。

 母親の治療のこと、造形魔法を教えてもらったこと。

 そして、彼女がどれだけ素晴らしい人なのかを。


「へー」


 エリカが興味深そうに聞いている。

 でも、その表情には微かな不安が浮かんでいた。


「その子、タクヤのこと好きになっちゃったのね」

「まあ、そういうことだ」


 俺が頷く。


「それで、三日前にデートをした」

「デート!?」


 エリカの声が一オクターブ上がる。

 その瞬間、彼女の顔が青ざめた。


「タクヤ、浮気したの?」

「浮気じゃない」


 俺が慌てて弁解する。


「ちゃんと、みんなに相談してから決めようと思ったんだ」

「それで、その子はタクヤさんに何て言ったんですか?」


 ルナが穏やかに聞く。

 でも、その声には微かな震えがあった。

「三人目の奥さんになりたいって」


 俺が正直に答える。


 すると、部屋が静まり返った。

 エリカとルナ、そしてミミまでもが、俺を見つめている。


 エリカの表情が、みるみるうちに暗くなっていく。

 彼女の心の中で、様々な感情が渦巻いているのが分かった。


「それで、タクヤはどう思ってるの?」


 エリカが真剣な表情で聞く。

 その声は、必死に平静を保とうとしているのが分かった。


「その子のこと、愛してるの?」


 俺は考えた。

 クロエのことを、愛しているのか。

 友達として好きなのは確かだ。

 でも、恋人として、妻として愛せるかどうか。


「正直に言うと、分からない」


 俺が答える。


「でも、クロエは素晴らしい人だ」

「優しくて、賢くて、一生懸命で」

「俺に恩を感じる必要なんてないのに、いつも気を遣ってくれる」

「そんな彼女を、大切にしたいと思う」


 俺が続ける。


「でも、愛情と責任は違う」

「俺が彼女を愛せるかどうかは、まだ分からない」

「だから、みんなに相談したかったんだ」


 ルナが優しく微笑む。


「タクヤさんが正直でいてくれて、嬉しいです」

「もしタクヤさんがクロエさんを愛しているなら」

「私は何も言いません」

「タクヤさんの幸せが、私の幸せですから」


 ルナの寛大さに、俺は感動した。


 でも、エリカの反応は違っていた。

 彼女は俯いたまま、拳を握りしめている。

 その肩が、小刻みに震えていた。


「絶対にダメ」


 エリカがきっぱりと言った。

 顔を上げた時、その目には涙が浮かんでいた。


「私は反対よ」

「えっ?」


 俺が驚く。


「エリカ?」

「だって、考えてみてよ」


 エリカが感情的に続ける。

 その声は、必死に何かを訴えかけているようだった。


「ルナちゃんにはタクヤとの子供がいる」

「でも、私にはまだいない」


 エリカの声が震えている。


「もしクロエっていう女がタクヤとの子供を産んだら」

「私の立場はどうなるの?」


 彼女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「私だけが、タクヤとの子供がいない妻になってしまう」

「そんなの、耐えられない」


 エリカが両手で顔を覆う。


「私、いつも後回しなの」

「最初はルナちゃんが正妻で、私は第二夫人」

「今度はクロエちゃんが来て、また私の立場があやふやになる」

「私って、本当にタクヤの妻なの?」


 エリカの嗚咽が、部屋に響いた。

 俺はエリカの気持ちを理解した。

 確かに、彼女の言う通りだ。


 ルナには既にリオネルがいる。

 もしクロエとも子供ができれば、エリカだけが取り残されてしまう。


 それは、彼女にとって耐え難いことだろう。

 何より、俺はエリカの本音を初めて聞いた気がした。

 彼女がどれだけ我慢してきたのか。

 どれだけ不安を抱えてきたのか。


「エリカ…」


 俺がエリカの肩に手を置く。


「君の気持ち、よく分かる」

「でも」


 エリカが俺を見上げる。

 その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「私、我慢ばかりしてるのかな」

「最初はルナちゃんとの三角関係で我慢」

「今度はクロエちゃんで我慢」

「私だって、タクヤを独占したい時がある」

「私だって、一番に愛されたい時がある」


 エリカが膝をついて、床に手をついた。


「でも、それを言ったらわがままだって思われそうで」

「だから、いつも笑顔で我慢してきた」

「でも、もう限界なの」


 エリカの正直な気持ちが、俺の胸に深く刺さった。

 彼女はいつも明るくて、前向きで。

 俺の決定を受け入れてくれる。

 でも、それは彼女が我慢していたからだったのだ。


「ごめん、エリカ」


 俺がエリカを抱きしめる。


「君に我慢ばかりさせて」

「俺は、君をもっと大切にするべきだった」

「君の気持ちに、もっと気づくべきだった」

「タクヤ…」


 エリカが俺の胸で泣く。


「私、タクヤのことが大好きなの」

「でも、時々不安になる」

「私への愛情が、他の人に分散されて、薄くなってしまうんじゃないかって」

「そして最後には、私なんてどうでもよくなってしまうんじゃないかって」


 俺はエリカをしっかりと抱きしめた。

 彼女の不安を、少しでも和らげたくて。

 彼女の孤独を、少しでも癒したくて。


「そんなことはない」


 俺が断言する。


「君への愛情が薄くなることなんて、絶対にない」

「君がどうでもよくなることなんて、絶対にない」

「愛情は分散するものじゃない」

「増えていくものなんだ」

「本当?」


 エリカが涙声で聞く。


「本当に、私のことも愛してくれる?」

「当たり前だ」


 俺が彼女の頭を撫でる。


「君は俺の大切な妻だ」

「俺の人生に、なくてはならない存在だ」


 しばらく、俺たちは静かに抱き合っていた。

 エリカの涙が、俺の胸を濡らしている。

 ルナもミミも、静かに見守ってくれていた。


 やがて、エリカが顔を上げる。


「分かった」


 エリカが決意を込めて言う。


 涙を拭いながら、強い意志を見せる。


「私も、クロエちゃんを受け入れる」

「でも、条件がある」

「条件?」


 俺が聞く。


「私が妊娠するまで、クロエちゃんとの結婚は待って」


 エリカが真剣な表情で続ける。


「私だって、タクヤとの子供が欲しい」

「ルナちゃんだけじゃなく、私にも子供ができてから」

「その時に、クロエちゃんを家族として迎えましょう」


 俺は少し驚いた。


 でも、エリカの気持ちは理解できる。

 彼女だって、俺との子供が欲しいはずだ。

 それは、当然の願いだ。


「分かった」


 俺が頷く。


「君が妊娠するまで、クロエとの結婚は保留にする」

「本当?」


 エリカが目を輝かせる。


「約束よ」

「約束だ」


 俺が微笑む。

 エリカもほっとしたように微笑み返してくれた。


「それじゃあ、今夜は久しぶりに」


 エリカが恥ずかしそうに言う。


「タクヤと二人で過ごしましょう」

「私にも、タクヤとの子供を作る権利があるのよね」


 俺は正座して、深々と頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」

「君をもっと大切にするべきでした」

「もう、頭上げてよ」


 エリカが苦笑いする。


「そんなに堅くならないで」

「でも、今夜はちゃんと私と向き合ってね」




◇◇◇




 その夜、久しぶりに俺とエリカは二人だけの時間を過ごした。


 ルナとミミには、リオネルの面倒を見てもらって。

 俺たちは寝室で、ゆっくりと語り合った。

 エリカの本当の気持ち、俺の気持ち。

 今まで言葉にできなかった想いを、すべて分かち合った。


「タクヤ」


 エリカが俺の胸に手を当てる。


「私、本当に子供が欲しい」

「タクヤとの子供が」

「君との子供も、俺は欲しい」


 俺がエリカの手を握る。


「君が母親になったら、きっと素晴らしいお母さんになる」

「本当にそう思う?」

「ああ」


 俺が頷く。


「君は優しくて、強くて、愛情深い」

「きっと子供も、君を愛するだろう」


 エリカの頬が赤らんだ。


 そして、俺たちは静かに唇を重ねた。

 長い間我慢していた想いを、込めるように。

 愛を確かめ合うように。

 俺たちは一つになった。


 エリカの温もりを感じながら、俺は彼女への愛情を改めて実感した。

 彼女の肌は柔らかく、温かかった。

 二人だけの特別な時間。

 外界のすべてを忘れて、俺たちは愛し合った。


 新しい命を授かることを願いながら。

 エリカの幸せそうな表情を見ながら、俺は心から満足していた。


 この人と結ばれて、本当に良かった。

 そして、いつかこの人との子供を抱ける日が来ることを、心から願った。




◇◇◇




 それから三週間が過ぎた。

 俺は魔法大学での生活を続けていたが、エルフの村にも頻繁に帰るようにしていた。


 特に、エリカの体調を気遣って。

 そして、その日の朝。

 俺が村に帰ると、エリカの様子がおかしかった。


「おはよう、エリカ」


 俺が声をかけると、エリカは顔を青くして洗面台に駆け込んだ。


「うえ…」


 エリカが吐き気を催している。


「大丈夫か?」


 俺が慌てて背中をさする。


「体調悪いのか?」

「分からない」


 エリカが弱々しく答える。


「なんだか、匂いに敏感になって」

「朝起きると、気分が悪くなる」


 俺とルナは顔を見合わせた。

 これは、もしかして。


「ルナ、エリカを調べてもらえるか?」


 俺がルナに頼む。


「もちろんです」


 ルナが身体魔法を発動する。

 エリカの体に、淡い光が包まれていく。

 その光は、生命力を探る特殊な魔法だった。


 俺は息を呑んで結果を待った。

 エリカも、不安そうに俺の手を握っている。


 そして、数分後。

 ルナの表情が、驚きと喜びに変わった。


「タクヤさん、エリカさん」


 ルナが嬉しそうに報告する。

 その声は感動で震えていた。


「おめでとうございます」

「エリカさん、妊娠されています」


 その瞬間、時が止まったかのような静寂が訪れた。

 そして次の瞬間、エリカの顔が輝いた。

 吐き気も忘れて、飛び上がるように喜ぶ。


「本当?本当なの?」


 エリカが涙声で叫ぶ。


「はい」


 ルナが微笑む。


「間違いありません」

「確かに、新しい命がお腹の中に宿っています」

「やったー!」


 エリカが俺に飛び込んでくる。

 その力で、俺は後ろに倒れそうになった。

「タクヤ、私たちの子供よ!」


 エリカが俺の首に腕を回して、激しく抱きついてくる。

 その目からは、大粒の喜びの涙がこぼれ落ちていた。


「ああ」


 俺もエリカを抱きしめる。

 胸の奥から、熱いものが込み上げてきた。


「良かった、本当に良かった」


 俺は心から嬉しかった。


 エリカとの子供。

 彼女の願いが叶った。

 俺たちの愛の結晶が、彼女のお腹の中に宿っている。


「私、お母さんになるのね」


 エリカが涙を流しながら呟く。


「タクヤの赤ちゃんを産むのね」

「ああ、君は素晴らしい母親になる」


 俺が彼女の頬の涙を拭う。


「俺も、今度はちゃんと父親になりたい」

「リオの時は、まだ父親の実感がなかった」

「でも今度は違う」

「君と一緒に、この子を大切に育てよう」

「うん」


 エリカが力強く頷く。


「私、頑張る」

「絶対に、元気な赤ちゃんを産む」


 その時、ミミが駆け込んできた。


「何があったの?」


 ミミがきょろきょろしている。


「エリカねぇが泣いてるけど」

「嬉しい涙よ」


 エリカがミミに説明する。


「私のお腹に、赤ちゃんができたの」

「えっ!」


 ミミが驚く。


「本当?」

「本当よ」


 エリカがお腹に手を当てる。


「ここに、小さな赤ちゃんがいるの」

「すげー!」


 ミミが目を輝かせる。


「ミミも、お姉ちゃんになれる!」

「そうだな」


 俺がミミの頭を撫でる。


「ミミは、二人の弟か妹のお姉ちゃんになるんだ」

「やったー!」


 ミミが飛び跳ねて喜ぶ。


「今度は、女の子がいいな」

「妹が欲しい!」


 俺は、この温かい家族の輪を見つめていた。

 エリカの妊娠で、俺たちの家族はまた一人増える。

 そして、いずれはクロエも。


 俺たちの家族は、どんどん大きくなっていく。

 それは、とても幸せなことだ。

 でも、同時に責任も大きくなる。

 俺は、この家族全員を守り、幸せにする責任がある。


 そのために、もっと強くならなければいけない。

 魔法大学での学びも、そのためだ。

 俺は決意を新たにした。

 家族のために、もっと成長しよう。


 そして、いつかクロエも、この温かい輪の中に迎えよう。

 それが、俺の新しい目標になった。


「私、すぐにみんなに報告しに行く!」


 エリカが興奮して言う。

「グロムさんやガルドにも!」

「フェリス先生にも!」

「みんなに自慢するんだから!」


 エリカは嬉しそうに、みんなに報告しに走っていった。

 俺は、彼女の嬉しそうな姿を見て、心が温かくなった。


 良かった。

 エリカに、幸せになってもらえた。

 彼女の長い間の願いが、ついに叶った。


「おめでとうございます、タクヤさん」

 ルナが優しく声をかけてくる。


「エリカさんが妊娠されて、私も嬉しいです」

「リオも、お兄ちゃんになりますね」

「ああ」


 俺が頷く。


「これで、君の負担も軽くなる」

「子育てを、エリカと分担できる」

「そうですね」


 ルナが微笑む。


「でも、一番嬉しいのは、エリカさんが幸せそうなことです」

「彼女、ずっと子供が欲しいと思っていたでしょうから」


 俺は、ルナの優しさに改めて感動した。

 彼女はいつも、他の人の幸せを一番に考える。

 本当に、素晴らしい女性だ。


「ルナ」


 俺がルナの手を取る。


「君にも、いつもありがとう」

「君がいてくれるから、俺たちは幸せでいられる」

「そんなことありません」


 ルナが首を振る。


「私たちは、みんなで支え合っているんです」

「それが、家族というものでしょう」




◇◇◇




 夕方、俺はエリカと二人で散歩に出かけた。

 彼女のお腹は、まだ膨らんでいないが、そこには確かに新しい命が宿っている。


「ねえ、タクヤ」


 エリカが俺の腕に寄り添う。


「私たちの子供、どんな子になるかしら」

「君に似れば、きっと元気で明るい子になる」


 俺が答える。


「でも、俺に似たら」

「私は、タクヤに似た子でも嬉しいわ」


 エリカが微笑む。


「優しくて、仲間思いで、一生懸命で」

「タクヤの良いところを全部受け継いでくれたら、最高ね」

「そんなに良いところなんてないよ」


 俺が苦笑いする。


「あるわよ」


 エリカが断言する。


「だから、私はタクヤを愛してるの」


 俺たちは、夕陽を見ながら歩き続けた。

 エリカの手が、お腹に添えられている。

 まだ見ぬ子供への愛情を、込めるように。


「それで、クロエちゃんのことだけど」


 エリカが言う。


「私が安定期に入ったら、一度会ってみたいわ」

「どんな子なのか、知りたいもの」

「本当にいいのか?」


 俺が心配になる。


「嫉妬とかしない?」

「するかもしれないわね」


 エリカが正直に答える。


「でも、私にはタクヤとの子供がいる」

「それが、私の自信になる」

「だから、大丈夫よ」


 エリカの強さに、俺は感動した。

 彼女は本当に成長した。


 最初の頃の、不安定な嫉妬深い彼女とは違う。

 今の彼女は、確かな愛情に支えられて、強くて優しい女性になっていた。


「ありがとう、エリカ」


 俺が彼女を抱きしめる。


「君がいてくれて、本当に良かった」

「私も」

 エリカが俺の胸に顔を埋める。


「タクヤに出会えて、本当に良かった」

「これからも、ずっと一緒よ」


 俺たちは、夕陽の中で抱き合った。

 新しい命を育む喜びと、これから始まる新しい家族の形への期待を胸に。

 俺の心は、穏やかで温かかった。


 クロエへの返事は、もう少し待ってもらうことになる。

 でも、きっと彼女も理解してくれるだろう。


 そして、いつか必ず、彼女も俺たちの家族に迎える。

 その日を楽しみに、俺は今を大切に生きていこうと思った。

 エリカのお腹に宿った新しい命と共に。

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