第七話「能力が招く破滅。」
国王との謁見を終え、俺は宿の自室で一人考え込んでいた。
また新しい称号と報酬を頂いたが、心は晴れない。
むしろ、恐ろしい考えが頭に浮かんでいた。
最初にブラックウルフの群れが倒された時。
俺はてっきり自分が落とした石で偶然一匹倒し、他は逃げたのだと思っていた。
でも、村の人の話を聞いていると…群れ全体が全滅していたのだ。
一匹や二匹ではない。十匹以上のブラックウルフが、全て倒されていた。
そして今回の魔族の死体。
あの惨殺された状態。まるで何か滅多切りにされたような…
もしかして…
「雪菜が倒したのか?」
俺は震える声で呟いた。
考えてみれば、雪菜の異常な身体能力は前から知っていた。
一晩中窓から俺を監視していても平気だし、俺の行動を完璧に把握している追跡能力。
そして、村人を襲った時の包丁さばき…
もしかすると、雪菜は最初から戦闘能力が高かったのかもしれない。
でも、それだけじゃ説明がつかない。
魔王軍の幹部クラスを一人で倒すなんて、普通の人間には不可能だ。
その時、恐ろしい考えが浮かんだ。
「まさか…瞬間移動を使うたびに、雪菜が強くなっているのか?」
あの青白い石。俺に瞬間移動の能力を与えた石。
あの時、雪菜も一緒に異世界に転移した。
もしかすると、俺の能力使用と雪菜の強化が連動しているのかもしれない。
俺が瞬間移動を使えば使うほど、雪菜の力が増していく…
そう考えると、全ての辻褄が合う。
最初の頃、雪菜は包丁一本で村人を脅すだけだった。
でも今では、魔王軍の幹部すら単独で倒してしまう。
つまり、雪菜から逃げるたびに瞬間移動を使えば使うほど、彼女は強くなり、結果的に逃げられなくなる。
最悪の悪循環だった。
「どうすればいいんだ…」
瞬間移動を封印すれば、雪菜の強化は止まるかもしれない。
でも、そうなれば俺に逃げる手段がなくなる。
八方塞がりだった。
その時、部屋の扉がノックされた。
「タクヤ、入るわよ」
エリカの声だ。
「ああ、どうぞ」
エリカが部屋に入ってくる。
でも、なんだか様子がおかしい。
「どうしたの? なんだか考え込んでいるみたいだけど」
「ちょっと…色々と考えることがあって」
俺は苦笑いを浮かべる。
エリカが俺の横に座る。
そして、じっと俺の顔を見つめ始めた。
「…エリカ?」
「ん?」
「どうして俺の顔をそんなに見つめるの?」
エリカの表情が…なんというか、今まで見たことのないような表情だった。
頬が少し赤くて、目がうっとりとしている。
まるで恋する乙女のような…
「えっと…別に」
エリカが慌てたように顔を逸らす。
「何でもないのよ。ただ…」
「ただ?」
「タクヤって、本当にかっこいいなって思って」
え?
「最近、すごい頼りがいがあるし、強いし…」
エリカが恥ずかしそうに呟く。
「でも、時々すごく心配そうな顔をするのよね。それがまた…」
「エリカ?」
「あ、あ、何でもない! 何でもないのよ!」
エリカが慌てて立ち上がる。
「私、ちょっと買い物に行ってくるわね! 夕飯の材料を買わないと!」
「あ、ちょっと…」
エリカはそのまま部屋から出ていってしまった。
俺は一人残される。
「何だったんだろう…」
エリカの様子が明らかに変だった。
あんな表情、今まで見たことがない。
まるで…俺に恋しているかのような表情。
でも、そんなはずない。
エリカは俺のことを勇者として慕っているだけだ。
そう思いたいが、何となく胸がざわついた。
◇◇◇
翌日、俺はエリカに提案した。
「一度、カレン村に戻ってみない?」
「村に? どうして?」
「村長さんと話がしたいんだ。それに俺たちの援助したお金がどう使われているかも確認したい」
「そうね。それはいいアイデアだわ」
エリカが同意してくれる。
俺の本当の目的は違った。
王都にいると、雪菜に見つかる危険性が高い。
村なら、少しは安全かもしれない。
そして、瞬間移動と雪菜の強化の関係性について、村長に相談してみたかった。
あの人は博識だから、何かヒントをくれるかもしれない。
手を繋いでの瞬間移動で、俺たちはカレン村に向かった。
今回は慣れたのか、それほど疲労は感じない。
でも、村に到着した瞬間、俺は目を疑った。
「え…ここ、本当にカレン村?」
エリカも驚いている。
俺たちが知っているカレン村とは、全く違う光景が広がっていた。
まず、村の入り口に立派な門ができている。
『カレン村』と美しい文字で書かれた看板も設置されていた。
そして、村の中を見回すと…
「うわあ、すごい発展している」
以前は小さな家がぽつぽつと建っているだけだったが、今は様々な建物が立ち並んでいる。
雑貨店、パン屋、武器屋、宿屋…
まるで小さな町のような賑わいだった。
「タクヤさん! エリカ!」
エリカのお母さんが俺たちを見つけて駆け寄ってくる。
エリカの瞳が少し光ってる気がした。
エリカのお母さんはエリカを抱きしめた。
「お母さん…久しぶりね」
「元気そうでよかったわ」
二人の目から涙が溢れている。
思わず俺も泣いてしまいそうだった。
後ろから村人の声がした。
「おかえりなさい! 勇者様!」
勇者様…また勇者扱いされる。
「みなさん、元気そうで何よりです」
「はい! おかげさまで、村は大変繁栄しております!」
村人が嬉しそうに説明してくれる。
「タクヤ様からの援助で、様々な施設を建設することができました」
「そんなに発展するなんて…」
「それに、『魔獣討伐の英雄の故郷』として有名になり、多くの商人や冒険者が訪れるようになったのです」
なるほど、それで商業施設が増えたのか。
「村長さんはどこにいますか?」
「村役場におります。新しく建てた立派な建物ですよ」
村人が指差す方向に、確かに立派な石造りの建物があった。
俺たちは村役場に向かった。
道中、多くの村人が俺に声をかけてくる。
「勇者様、お疲れ様です!」
「いつもありがとうございます!」
みんな本当に嬉しそうだった。
村役場に入ると、受付まで設置されていた。
「あ、タクヤ様!」
受付の女性が慌てて立ち上がる。
「村長にお取り次ぎいたします!」
しばらくすると、村長が現れた。
以前より元気そうで、服装も立派になっている。
「おお、タクヤ殿! エリカ殿! よくおいでくださった!」
「村長さん、お元気そうで何よりです」
「はい、おかげさまで! タクヤ殿の援助のおかげで、村は間違えるほど発展いたしました」
村長が嬉しそうに報告してくれる。
「それで…実は、相談があるのです」
「なんなりと。タクヤ殿のためなら、何でもお力になりますぞ」
「ちょっと込み入った話なので…二人だけで話しませんか?」
「もちろんです。こちらの応接室をお使いください」
村長が案内してくれる。
エリカと別れ、俺は村長と二人きりになった。
「それで、どのようなご相談でしょうか?」
「実は…瞬間移動の能力について聞きたいことがあるんです」
「瞬間移動? ああ、あの特殊な能力ですね」
「この能力を使うたびに…何か副作用のようなものはあるのでしょうか?」
俺は慎重に質問する。
「副作用…ですか」
村長が考え込む。
「古い文献によりますと…空間移動の魔法には、確かに特殊な性質があると記されておりますな」
「特殊な性質?」
「はい。空間を移動する際に発生する魔力が、周囲の生物に影響を与える場合があるそうです」
俺の心臓が跳ね上がる。
「影響って…どんな?」
「魔力に敏感な生物の場合、能力が向上したり、変化したりすることがあるとか」
やっぱりだ。
俺の予想は当たっていた。
雪菜は俺の瞬間移動によって強くなっている。
そして、俺が能力を使い続ける限り、彼女はどんどん強くなっていく。
絶望的な真実だった。
朝投稿と夜投稿ってどっちの方が見られるのだろう?




