第六十七話「魔法大学への道」
レオナルドの力加減問題を解決するため、俺は新しいアプローチを考えていた。
もしかすると、魔法を使えば細かい作業ができるかもしれない。
魔法なら、物理的な力に頼らずに形を作ることができるはずだ。
そこで俺は、ルナに相談することにした。
エルフの村に戻ると、ルナは相変わらずリオネルの世話をしていた。
生後7ヶ月になった息子は、だいぶしっかりしてきている。
眠っているようだが、笑っているように見える。
「タクヤさん、お帰りなさい」
ルナが微笑んで迎えてくれる。
「レオナルドさんの指導はいかがでしたか?」
「それが問題なんだ」
俺が事情を説明する。
レオナルドの力が強すぎて、細かい作業ができないこと。
何か解決策がないか考えていること。
「なるほど」
ルナが考え込む。
「それなら、造形魔法を使ってみてはいかがでしょうか?」
「造形魔法?」
「はい」
ルナが説明する。
「魔力を使って、物の形を変える魔法です」
「粘土のような柔らかい素材なら、魔法で細かく成形できるはずです」
「それは素晴らしいアイデアだ」
俺が興奮する。
「教えてもらえるか?」
「申し訳ありません」
ルナが困った表情を見せる。
「私は造形魔法の専門ではないんです」
「戦闘魔法や治癒魔法は得意ですが、造形となると基礎程度しか」
「基礎でも構わない」
俺が食い下がる。
「何かヒントになることがあれば」
「そうですね…」
ルナが考える。
「もし本格的に造形魔法を学びたいのであれば」
「帝都の隣にあるマギスク王国に、魔法専門学校があります」
「魔法専門学校?」
「はい、正式には『王立魔法大学』といいます」
ルナが詳しく説明してくれる。
「基礎から応用まで、あらゆる魔法を学べる教育機関です」
「造形魔法の専門課程もあるはずです」
「それは面白そうだ」
俺が興味を示す。
「でも、どのくらい時間がかかるんだ?」
「通常は三年間のカリキュラムです」
ルナが答える。
「でも、タクヤさんなら編入試験を受けて、途中から入学することも可能だと思います」
「編入か」
俺が考える。
「でも、そこまで行くのに時間がかかるんじゃないか?」
「帝都からは歩いて一週間ほどです」
ルナが地図を広げて説明する。
「エルフの村からだと、一ヶ月はかかるでしょう」
「一ヶ月…」
俺がため息をつく。
「それは遠いな」
「でも、魔法大学は寮制なんです」
ルナが付け加える。
「遠方から来る学生のために、キャンパス内に宿泊施設があります」
「寮か」
俺が悩む。
確かに、魔法を学べるのは魅力的だ。
でも、家族と離れて暮らすのは寂しい。
それに、リオネルもまだ小さい。
父親として、そばにいてやりたい。
「瞬間移動を使えば、毎日通えるんじゃないか?」
俺が提案する。
「朝、魔法大学に移動して、夕方帰ってくる」
「それは…」
ルナが心配そうな表情を見せる。
「タクヤさんの体力的に大丈夫でしょうか?」
「毎日長距離の瞬間移動は、相当な負担になると思います」
確かに、ルナの言う通りだ。
瞬間移動は便利だが、体力を消耗する。
毎日使っていたら、いつか限界が来るだろう。
それに、緊急時に瞬間移動が使えなくなったら困る。
「わかった」
俺が決断する。
「寮生になることにしよう」
「本当ですか?」
ルナが驚く。
「でも、リオネルが…」
「大丈夫だ」
俺がルナの手を握る。
「君とエリカ、それにみんながいるから」
「俺がいなくても、リオネルはちゃんと育つ」
ルナの目に涙が浮かぶ。
「でも、寂しいです」
「俺も寂しい」
俺が正直に言う。
「でも、これも家族のためだ」
「魔法を覚えて、もっと強くなる」
「そうすれば、みんなをもっと守れるようになる」
「わかりました」
ルナが頷く。
「でも、時々は帰ってきてくださいね」
「もちろんだ」
俺がルナを抱きしめる。
「毎週末は帰ってくる」
◇◇◇
翌日、俺はレオナルドに提案した。
「魔法大学に一緒に通わないか?」
「魔法大学?」
レオナルドが興味を示す。
「造形魔法を学べば、君の力加減問題も解決するかもしれない」
「それは素晴らしいアイデアです、師匠」
レオナルドが目を輝かせる。
「ぜひ一緒に行かせてください」
こうして、俺たちは王立魔法大学への入学を決めた。
まずは入学試験を受けなければならない。
試験会場は、マギスク王国の首都にある魔法大学のキャンパスだった。
帝都から一週間かけて到着すると、そこには立派な建物群が建ち並んでいた。
まさに大学という感じの、学術的な雰囲気に満ちている。
「すごいですね」
レオナルドが感嘆する。
「こんな立派な学校があるなんて」
「ああ」
俺も同感だった。
現代日本の大学を思い出させるような、整然とした造りだ。
試験会場に向かうと、多くの受験生が集まっていた。
年齢も様々で、十代から二十代まで幅広い。
中には、明らかに貴族と思われる豪華な服装の者もいる。
「意外に多いな」
俺が呟く。
「魔法大学は人気があるようですね」
レオナルドが答える。
「でも、僕たちなら大丈夫でしょう」
試験は筆記試験のみだった。
実技試験はない。
これは意外だった。
魔法学校なら、魔法の実技があると思っていたのだが。
「基礎知識を重視するのでしょう」
レオナルドが推測する。
「魔法理論や歴史、それに一般教養など」
試験問題を見て、俺は冷や汗をかいた。
魔法理論はともかく、この世界の歴史や文化についての問題が多い。
俺は転移者だから、知識が不足している。
高校時代も、それほど勉強熱心ではなかった。
これはまずいかもしれない。
でも、持てる知識を総動員して、何とか答えを埋めていく。
わからない問題は、勘で答えるしかない。
一方、レオナルドは余裕そうに試験を受けている。
さすがは帝国の貴族の息子だ。
教育レベルが違う。
試験が終わると、結果発表まで三日間待つことになった。
俺たちは近くの宿屋に泊まって、結果を待った。
「師匠は大丈夫でしたか?」
レオナルドが心配そうに尋ねる。
「正直、自信がない」
俺が苦笑いする。
「ギリギリかもしれない」
「でも、師匠ほどの天才なら、きっと大丈夫です」
レオナルドが励ましてくれる。
◇◇◇
三日後、結果発表の日がやってきた。
掲示板に、合格者の受験番号が張り出される。
俺たちは緊張しながら、掲示板の前に向かった。
「あった!」
レオナルドが喜ぶ。
「僕の番号があります」
俺も自分の番号を探す。
下の方に、かろうじて自分の番号を見つけた。
「やった」
俺がほっと息をつく。
「ギリギリ合格だ」
合格者は約五十名。
受験者は二百名ほどいたから、競争率は四倍程度だった。
俺は本当にギリギリだったようだ。
合格発表の後、入学手続きと寮の申し込みを行った。
そして、クラス分けの面接を受けることになった。
「レオナルド・フォン・ヴィンター」
面接官がレオナルドの名前を呼んで、驚いた表情を見せる。
「ヴィンター伯爵家の御子息ですか?」
「はい」
レオナルドが答える。
「それと、こちらは僕の芸術の師匠です」
面接官が俺を見つめる。
「師匠?」
「はい、天才芸術家の先生なんです」
レオナルドが俺を紹介する。
面接官が何やら書類に記入している。
「それでは、お二人は特別編入生として、アドバンスクラスに入っていただきます」
「特別編入生?」
俺が首を傾げる。
「はい」
面接官が説明する。
「通常のカリキュラムではなく、個別の指導を受けることができます」
「レオナルド様のような貴族の方や、特殊な経歴をお持ちの方のためのクラスです」
俺たちは特別クラスに配属されることになった。
クラスメートは全部で六人。
俺とレオナルドを含めて、八人の小さなクラスだった。
「よろしくお願いします」
俺たちが教室に入ると、すでに他のメンバーが座っていた。
まず目を引いたのは、美しい萌黄色の髪の少女だった。
年齢は十六歳くらいだろうか。
知的な雰囲気を漂わせている。
「私はアリシア・ノーマンです」
彼女が自己紹介する。
「魔法理論が専門です」
天才美少女魔法使いという感じだ。
次に紹介されたのは、亜人の青年だった。
猫の耳と尻尾を持つ、獣人族のようだ。
「…クロウ・シャドウテイル」
彼が挨拶する。
「…闇魔法…得意」
最後に紹介されたのは、双子の少女たちだった。
どちらも可愛らしい顔立ちで、髪型も服装も全く同じ。
「オレはルーシーじゃん」
「わたしはリリーかな」
二人が同時に自己紹介する。
「一緒に光魔法を学んでいるじゃん」
個性豊かなメンバーが揃った。
これからの学校生活が楽しみになってきた。
でも、同時に不安もある。
みんな若くて優秀そうだ。
俺みたいな普通の人間が、ついていけるだろうか。
「それでは」
担任の先生が入ってきた。
「今日から、みなさんの指導を担当します」
「私はマリア・スノーホワイト教授です」
美しい白髪の女性だった。
年齢は三十代前半くらいだろうか。
上品で知的な雰囲気を漂わせている。
「まず、それぞれの目標を聞かせてください」
マリア教授が一人ずつ指名していく。
アリシアは魔法研究者を目指し、クロウは魔法騎士を志望している。
双子のルーシーとリリーは、協力魔法の専門家になりたいという。
そして、レオナルドが答える番になった。
「僕は造形魔法を学んで、芸術作品を作りたいです」
「造形魔法ですか」
マリア教授が興味を示す。
「珍しい志望ですね」
「でも、とても素晴らしい目標です」
最後に俺の番がきた。
「私も造形魔法を学びたいです」
俺が答える。
「レオナルドと一緒に、芸術作品を作っていきたいと思います」
「なるほど」
マリア教授が頷く。
「師弟で同じ目標を目指すのですね」
「それでは、みなさんの目標に向けて、精一杯サポートいたします」
こうして、俺たちの魔法大学生活が始まった。
家族と離れるのは寂しいが、新しい仲間たちと学べるのは楽しみだ。
特に、造形魔法を習得できれば、レオナルドの指導にも役立つだろう。
俺は気持ちを新たにして、勉強に取り組むことにした。




