表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/152

第六十一話「エリカの必死な想い」


―エリカ視点―


 私は呆然と、タクヤが連れて行かれる姿を見つめていた。

 帝国の兵士たちが、タクヤの腕を掴んで歩いていく。


 タクヤは振り返って、私に何かを言おうとしている。

 でも、兵士たちがそれを許さない。


「待って!」


 私が叫んで追いかけようとすると、別の兵士が私の前に立ちはだかった。


「邪魔をするな」


 兵士が剣の柄に手をかけて威嚇する。


「あの人は無実です」


 私が必死に訴える。


「ただ、落ちてくる商品を受け止めようとしただけで…」

「法律は法律だ」


 兵士が冷たく言い放つ。


「両手を挙げる行為は反逆罪。例外はない」

「そんな…」


 私が絶望する。

 タクヤの姿は、もう遠くに消えてしまっていた。

 私は一人、市場に取り残された。

 周りの人々が、好奇心に満ちた目で私を見つめている。


 でも、私には彼らが見えなかった。

 タクヤのことしか考えられなかった。


「私が…」


 私が自分を責める。


「私が、あの商品を指差したから…」


 そうだ。

 タクヤがあの商品に手を伸ばしたのは、私が指差したからだ。

 私が「面白い形をしてるわね」と言ったから、タクヤが手に取ろうとしたのだ。

 そして、商品が落ちてきた時、タクヤは反射的に両手で受け止めようとした。


 すべて私のせいだ。

 私がタクヤを危険な目に遭わせてしまった。


「タクヤ…」


 私が涙ぐむ。

 どうしよう。

 タクヤを助けるために、私は何ができるだろう。


 まず、情報収集だ。

 タクヤがどこに連れて行かれたのか、どんな処罰を受けるのか。

 それを知らなければ、助ける方法もわからない。


 私は近くにいた商人に話しかけた。


「すみません」


 私が商人に声をかける。


「反逆罪で捕まった人は、どうなるんでしょうか?」

「反逆罪?」


 商人が眉をひそめる。


「それは重罪だな」

「普通は死刑だ」


 私の血の気が引いた。


「死刑…」

「ああ」


 商人が頷く。


「帝国の反逆罪は極刑が基本」

「裁判もほとんど形だけで、すぐに処刑される」


 私は膝が震えた。

 タクヤが死刑になる。

 そんなことは絶対に許せない。


「どこで裁判が行われるんですか?」


 私が尋ねる。


「帝国議会だ」


 商人が答える。


「でも、一般人は入れないぞ」

「厳重に警備されてる」


 私は決意を固めた。

 帝国議会に行く。

 タクヤの無実を訴える。


 必ず、タクヤを助け出してみせる。

 私は急いで宿に戻った。

 荷物をまとめ、ルナライトを腰に帯びる。


 もし必要なら、戦う覚悟だった。

 帝国議会は、帝都の中心部にあった。

 巨大な石造りの建物で、威厳に満ちている。


 でも、私にはそんな威厳など関係ない。

 タクヤを救うことしか考えていなかった。

 議会の正門に近づくと、案の定警備兵が立っていた。

 重装備の兵士が二人、厳しい表情で門を守っている。


「止まれ」


 警備兵の一人が私に命令する。


「ここは帝国議会だ」

「関係者以外立ち入り禁止である」

「お話ししたいことがあります」


 私が丁寧に説明する。


「反逆罪で捕まった男性のことで」

「知らん」


 警備兵が素っ気なく答える。


「帰れ」

「お願いします」


 私が頭を下げる。


「彼は無実なんです」

「ただの事故だったんです」

「事故だろうが何だろうが関係ない」


 もう一人の警備兵が言う。


「法律は法律だ」

「でも…」

「しつこいな」


 最初の警備兵が私を睨みつける。

 そして、不気味な笑みを浮かべた。


「どうしても中に入りたいなら」


 警備兵が私の体を舐めるように見つめる。


「方法がないわけじゃない」

「方法?」


 私が首を傾げる。


「その体で俺たちにご奉仕してくれたら」


 警備兵が下卑た笑いを浮かべる。


「通してやらないこともない」


 私は警備兵の言葉の意味を理解した。

 そして、怒りが爆発した。


「この体は」


 私がルナライトの柄に手をかける。


「タクヤのものよ!」


 私は一瞬でルナライトを抜き放った。

 月光の刃が、美しく輝く。


「なっ…」


 警備兵が驚く間もなく、私は斬撃を放った。

 狙いは警備兵の腕。

 

 殺すつもりはない。

 でも、二度とそんな下劣なことを言えないよう、懲らしめるつもりだった。

 シャキン!

 鋭い音と共に、警備兵の腕が宙に舞った。


「ぎゃあああ!」


 警備兵が絶叫する。

 切断面から血が噴き出す。


「て、手が…俺の手が…」


 もう一人の警備兵が慌てふためく。


「殺人者だ!」

「人殺し!」


 私は自分がやってしまったことに愕然とした。

 確かに腕を切り落としてしまったが、殺すつもりはなかった。

 ただ、懲らしめるつもりだったのに。


「そんな…」


 私が震える。

 でも、後悔はしていない。

 タクヤを侮辱され、私の体を要求されて黙っているわけにはいかなかった。


「警備兵襲撃!」


 もう一人の警備兵が大声で叫ぶ。


「犯人を捕らえろ!」


 周りから、大勢の兵士が駆けつけてくる。

 私は急いでその場を逃れた。

 ルナライトを鞘に納め、人混みに紛れる。


 でも、もう遅かった。

 私の顔は、多くの人に見られてしまった。

 帝国で、私はお尋ね者になってしまったのだ。


 私は裏通りを走った。

 兵士たちの声が後ろから聞こえてくる。


「あの女を探せ!」

「茶髪の女剣士だ!」

「見つけ次第、拘束しろ!」


 私の心臓がバクバクと鳴る。

 タクヤを助けるつもりが、逆に私まで指名手配犯になってしまった。

 これでは、タクヤを助けることはもっと困難になる。


 私は絶望しかけた。

 その時、誰かが私の腕を掴んだ。


「こっちよ」


 振り返ると、若い女性が立っていた。

 庶民的な服を着た、人の良さそうな町娘だ。


「え?」


 私が困惑する。


「あなたは…」

「説明は後」


 その女性が私を引っ張る。


「今は隠れることが先決よ」


 彼女は私を、狭い路地の奥にある小さな家に連れて行った。

 古いが清潔な家で、一人暮らしらしい簡素な内装だった。


「ここなら安全よ」


 彼女が私に椅子を勧める。


「兵士たちは、ここまでは来ないわ」

「あなたは…」


 私が改めて尋ねる。


「なぜ私を助けてくれるんですか?」

「マリアよ」


 彼女が自己紹介する。


「マリア・ブラウン」

「この街で雑貨屋をやってる」

「それで、なぜ?」


「あの警備兵たちのことは知ってる」


 マリアが説明する。


「あいつら、いつも女性にセクハラしてるのよ」

「私も、何度か嫌な思いをした」

「だから、あなたがやったことは正当防衛だと思う」


 マリアの言葉に、私は救われた思いがした。

 理解してくれる人がいる。

 私の行動を認めてくれる人がいる。


「ありがとう」


 私が心から感謝する。


「でも、これで私は指名手配犯になってしまった」

「タクヤを助けることが、もっと困難になった」

「タクヤ?」


 マリアが首を傾げる。


「恋人?」

「夫です」


 私が答える。


「反逆罪の冤罪で捕まったんです」

「両手を上げただけで」

「ひどい話ね」


 マリアが同情してくれる。


「帝国の法律は厳しすぎる」

「庶民のことなんて、何も考えてない」


 私はマリアに、これまでの経緯を説明した。

 タクヤと私の出会い。

 一緒に冒険してきたこと。

 そして今回の事件。


「素敵な恋愛ね」


 マリアが羨ましそうに言う。


「私には、そんな人いないから」

「マリアさんにも、きっといい人が現れますよ」


 私が励ます。


「でも、今はタクヤのことで頭がいっぱいで…」

「当然よ」


 マリアが頷く。


「大切な人が危険な目に遭ってるんだから」

「私にできることがあったら、何でも言って」


 マリアの優しさが身に染みる。

 見知らぬ私を助けてくれて、さらに協力まで申し出てくれる。


「実は」


 私がお願いする。


「この街から出る方法を知りませんか?」

「兵士たちに見つからずに」

「う〜ん」


 マリアが考え込む。


「正規の方法は無理ね」

「城門は厳重に警備されてる」

「それじゃあ…」

「でも、抜け道がないわけじゃない」


 マリアが小声で言う。


「地下水道を使えば、街の外に出られる」

「地下水道?」

「汚いし、危険だけど」


 マリアが説明する。


「兵士たちも、まさかそこを通るとは思わないでしょう」


 確かに、それなら可能かもしれない。


「でも、私一人では道がわからない」


 私が困る。


「地下水道なんて、迷路みたいでしょう?」

「私が案内するわ」


 マリアがあっさりと言う。


「え?」


 私が驚く。


「でも、危険ですよ」

「私も、この街にはうんざりしてたの」


 マリアが笑う。


「どうせなら、冒険してみたいわ」

「あなたみたいに、素敵な恋をしてる人と一緒に」


 私は感動した。

 こんなに親切な人がいるなんて。

 マリアは、私にとって天使のような存在だった。


「ありがとう」


 私が涙ぐみながら言う。


「マリアさんには、一生借りができました」

「そんな大げさな」


 マリアが手を振る。


「友達でしょう?」

「友達は困った時に助け合うものよ」


 友達。

 そうだ、マリアは私の友達になってくれた。

 こんな短時間で、こんなに親しくなれるなんて。

 人と人の出会いは、本当に不思議だ。


 その夜、私たちは地下水道を通って帝都を脱出した

 マリアの案内で、迷うことなく街の外に出ることができた。

 汚くて臭かったが、見つからずに済んだ。


「ここでお別れね」


 街の外れで、マリアが言う。


「私は故郷に帰るわ」

「マリアさん」


 私が彼女の手を握る。


「本当にありがとう」

「あなたのおかげで、私は自由になれました」

「お礼なんていいのよ」


 マリアが微笑む。


「でも、一つお願いがあるの」

「何でも言ってください」

「タクヤさんを助けられたら」


 マリアが真剣な表情で言う。


「二人で幸せになって」

「私の分まで」


 私は涙が止まらなくなった。

 マリアの優しさが、胸に響く。


「必ず」


 私が約束する。


「必ず、タクヤを助けて、幸せになります」

「マリアさんの分まで」


 私たちは抱き合って別れた。

 短い時間だったが、一生忘れられない友情だった。


 その後、私は必死にヴェリア大陸を移動した。

 徒歩で、時には馬車に乗せてもらって。

 タクヤを探し続けた。


 でも、手がかりは見つからない。

 タクヤがどこにいるのか、生きているのかさえわからない。

 私は絶望しかけていた。


 そして、エルフの村に辿り着いた。

 ルナの両親に事情を説明し、助けを求めた。

 でも、私にできることは限られていた。

 ただ待つしかない。


 タクヤが帰ってくるのを。

 そんな時、突然庭に人影が現れた。

 タクヤと、三人の見知らぬ女性。

 タクヤは倒れてしまったが、確かに生きていた。


「タクヤ!」


 私が駆け寄る。

 やっと、やっと帰ってきてくれた。

 私の愛する人が。


 三日間、私はタクヤの看病をした。

 栄養失調で倒れたタクヤを、必死に介護した。

 そして、タクヤが目を覚ました時の喜び。

 あの時の感動は、一生忘れられない。


 私は改めて思った。

 タクヤは私の人生そのものだ。

 タクヤがいない人生なんて、考えられない。


 だから、これからも一緒にいよう。

 どんな困難があっても、二人で乗り越えよう。

 私とタクヤの愛は、どんな試練にも負けはしない。


 そう信じて、私はタクヤの手を握り続けた。

 マリアとの約束を果たすためにも。

 二人で、絶対に幸せになってみせる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ